10 結成
おかしな話だ。
「頑張れよー、勇者様ー」
「よ、大穴! 勝ってくれよ!」
「面白い戦いを期待してるぜ」
おかしい。おかしすぎる。
魔族の町で、魔王を退治するための戦いに行く勇者の図のはずだ。
なのに、なぜ魔族から大歓声が浴びせられているんだ?
どれだけ娯楽に飢えているんだよ、魔族。
あと、大穴って言葉が聞こえたな。賭けの対象になっているんだろうな。
と思ったら、そう叫んだ男が兵と思われる男に連行されていった。
やっぱり公式の賭博じゃないのか。うん、ダメだな、闇賭博は。
などと思っていると、
「おい、なんだ、あの服。本当にやる気あるのかよ?」
ピクっ
頬のあたりが痙攣するように震えた。
「本当だ、なんだ? 鎧買う金もないのか? おい、兄ちゃん、俺の皮鎧貸してやろうか」
こめかみに青筋が浮かぶ。
こいつら、何言ってるんだ?
このジャージの凄さがわからないのか?
ダメだ、ここで怒ったら。
この怒りは全部魔王に、それとあの女にぶつけてやる。
(マスター、本当におひとりで戦われるのですか?)
ナビが口を開く。小声、本人が言うにはボリュームを俺の聞こえる最低限の状態にして話す。
(あぁ、ナビはもしもの時に備えてほしい)
(了解しました)
そう言い、ナビは観客たちに手を振る。
サービス精神旺盛の自律人形だな。
そして、俺たちがたどり着いたのは、闘技場だった。
闘技場の入り口は長蛇の列だった。
だが、俺達は関係者入口とやらに案内される。
罠の可能性は……ないか。
ルーシアが言っていた。この戦いは魔族も己の命を天秤に乗せて戦う。
そんな大会で罠を使うようなら、その時は遠慮せずに罠ごと全てをぶち壊す。
「勇者様御一行ですね」
地下で俺達を迎えたのは、頭にターバンを巻いた魔族の女性だった。
「ああ、そんなもんだ」
「闘技場のルールはご存知で?」
「ある程度は。ですが、改めて聞かせてほしい」
俺は尋ねる。
「はい。この大会は5対5の勝ち抜き戦になります。すでに三人いらっしゃってますよ」
「三人?」
誰だ?
三人、人間がここにいるのか?
一体どんな豪傑が、この町に……
「よぉ、先回りさせてもらったぜ」
「なんだ、アイアンか」
俺は嘆息をもらす。
そこにいたのは見知ったスキンヘッドの男、アイアンだった。
「なんだはないだろ! せっかく助太刀にきてやったのによ」
「いや、大丈夫です。応援していてください」
「やめろ、急に敬語になるな! 悲しい目で俺を見るな! 肩に手を置くな!」
「いやぁ、本当に、何で来たんだよ」
「俺もお前のおかげでだいぶ強くなれたからな。それに、仲間だろ?」
そういい、アイアンは繋がりの指輪のはまった指を見せる。
「気持ちはありがたいが……」
はぁ、この様子だと他の二人は期待できないか。
そして、俺は残りの二人が待つという奥の控室に向かった。
「久しぶりだな、坊主」
聞き覚えのある声が俺の耳に届いた。
扉を開け、そこにいたのは、思ってもいない人物だった。
「なんでお前がここにいる!」
俺が叫ぶ。
そいつはこんなところにいる人物ではない。
いや、そもそもどこにもいるはずのない。
「お前は死んだはずだろ!」
見覚えがある。黒髭、黒髪の男。
俺はそいつの名を呼んだ。
「ミラー!」
そこにいたのは、若い姿をしているミラーだった。
リューラ魔法学園をハンズとともに大きな事件へと巻き込んだ邪神信仰の信者。
だが、分身は俺が、本体も骸骨兵が殺したはずだ。
「ふん、分身を一体、学園の外に予備として残してあった。本体が生きていたのは想定外だったが、彼も坊主の骸骨兵に殺されたようだね」
ミラーは学生に説明するように淡々と話していく。
「そもそも、君は気付かなかったのか? 私は学園を滅ぼす理由はない。坊主を倒すのが無理だと分かった以上、邪神様の命令を遂行できないと悟った以上、あそこにいる意味はない」
「じゃあ、なんでお前はここにいる!? 一番危ない場所だぞ」
「邪神様の命令だよ。ミーナという小娘がこのまま捕まっていたらいろいろまずいそうだ」
それはルーシアも言っていた。
魔族と邪神とは敵対関係にあると。真実味が増してきたな。
「ぐっ……だが、どうやってここまで。瞬間移動を使ってもここまで――」
「瞬間移動」
ミラーがそう言う。と同時にその姿が消え、
「これでいいのかね」
「なんで……お前……」
「邪神様から授かった。今度は坊主の力になってほしいそうだ」
「……信じられない。ここは結界の中のはずだ! 瞬間移動は使えないだろ!」
「瞬間移動が使えないのは霧とその周辺だけ。結界の中ではない。ちなみに、私がここに来たのは2日も前だ。何をのんびりしていた」
そうだった、結界の中への瞬間移動が使えないのなら、ミーナを誘拐したあの日、女魔族は一時間でここまで戻るのは不可能だった。
2日も前からここで待っていたのか。
子供たちが俺を見て「勇者か?」と尋ねたのも、ミラーが先に来ていたからかもしれない。「自分の連れが後から訪れる」と言ってあったのだろう。
そうでなければ、チケットの販売といい準備が早すぎる。
「信じないでいい。私はただ、私の仕事をするだけだ。彼もきっとその類だろう」
そういい、ミラーが後ろを向く。
そこにいたのは、黒い鎧を着た騎士だった。
全身鎧を着ているため、顔どころか性別すらわからない。
「話しても無駄だよ。いくら声をかけても全く話そうとしない」
「……俺はお前のしたことを許すつもりはない」
「許されるつもりもない。許してほしいとも思わん。私はただ私のために仕事をするだけだと何度言ったらわかる? 学生だと説教ものだぞ」
そういい、ミラーは剣を腕から生やし、鞘に納める。
動く骨の剣……ソードボーンだ。
「それとも、私の代わりにそちらの魔法人形三体を戦わすのかね?」
「なっ……」
「私は魔法人形研究の第一人者だったのだぞ。そのくらい見ればわかる。安心しろ、君が何をたくらんでいるのかすら私には興味もない」
「ぐっ、わかった。よろしく頼む」
俺が手を前に出すと、
「カード化させて具現化、従わせるつもりか?」
「ばれたか」
分身のミラーはただの人形。カード化できる。
カード化させた魔物は俺に従順になるように、ミラーもカード化したら従わせることができるのではないかと思ったのだが、やはり見抜かれたか。
まぁ、当然か、相手からしても命がかかっているからな、と俺は手をひっこめようとしたところで、ミラーは俺の手を強く握った。
「な、なんで」
「一時とはいえともに戦う身だ、このくらいの信頼関係くらい築いて損はないだろう」
「……ちっ」
俺はそう言い、手を払いのけた。
「まぁ、なんだかわからないが、仲直りはできたみたいだな」
アイアンが空気を読まずに言う。
「それに、安心しろ。あいつらが何を企んでいようが、この戦いでもらえる賞品を決められるのは大将だけだ」
「一人だけってことか」
俺はナビを見る。
ナビは無言で頷いた。
俺の予定だと大将はナビになるな。
「勇者様たち、戦いは30分後。この砂時計が落ちたとき、中央会場までお越しください」
こうして、アイアン、ミラー、謎の男、俺、ナビという変則パーティーが結成された。




