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9 人形

 沈黙が支配する場。

 それを打ち破ったのはナビだった。だが、悪い方向に。


「名称:ミーナの魔力が不安定なのはそれが原因ですか」


 それは、ミーナが神が巫女であることを肯定する発言だ。


「どういうことだ?」

「名称:ミーナが怒りを露わにすると、凄い魔力が溢れ出ました。敵性と判断するほどに」


 それは、ナビにMPを吸われているところをミーナが目撃したときのことを言っているのだろう。ミーナの魔力が上昇したとナビが言った。その時は、最終的にナビがミーナの魔力を吸い取ることで終わったが、あれが前兆だったのか。


「でも、ミーナは正真正銘私の妹だっ! 自慢じゃないが巫女なんて、そんな特別な人間になるような血筋じゃない」

「巫女になるには血筋は関係ないわ。邪神を宿すのに十分な力の有無、そして――」


 ルーシアは俺を見つめた。


「邪神が、一番面白くなりそうだと思うかどうか」

「面白くなりそう……?」

「坊や、邪神に狙われた経験は?」


 尋ねられ、俺は答えた。

 ありすぎる。


「二回。一回目はエルフの騎士に毒を飲まされそうになった。二回目は魔法学園で」

「最初に襲われたきっかけはわかっているかい?」

「……きっかけになるのかはわかりませんが」

 

 俺はエルフの土地で行ったことを語った。

 エルフとドワーフが争っていたこと、それは改竄された予言が原因の一つだったこと、誤解を解くためにシルフィーを救い主に見立てたこと、エルフとドワーフの聖域のこと、そして結果、両種族はともに歩む道に進んだこと。

 そして、結果、スレイマンという邪神信仰のエルフの騎士に殺されかけたこと。

 ただ、もう一つ。神に狙われる可能性もある。

 

「なるほどね。つまり、邪神はあんたのことをメインプレイヤーと決めたということか」

「メインプレイヤー?」

「物語の主人公だね」


 ルーシアは、邪神信仰の教えを語る。


 世界を作った神は世界の平穏を望んでいない。

 だから、魔物を作り、様々な種族を作り、それぞれを争わせている。

 邪神信仰の信徒は神の意志に従い、平和な世を作ってはいけない。

 そうすれば、平和になった世界を滅ぼすために神が舞い降りる。


「ならば、何故邪神は平穏な世界を望まないんだと思う?」

「それは……」


 なぜだ? 管理者の神からしたら平和な世界が理想じゃないのか?

 それとも、競い合うことで種族の成長を願っているのか?

 俺の世界においても、戦争が科学技術を成長させたという人間は未だに多い。

 あながち否定のできない事実だ。

 だが、ルーシアの言う答えはそんなものではなかった。


「退屈だからだよ。平穏は刺激がない。そんな世界を見ても面白くない。だから、邪神は世界に種を撒く。己の手駒を使って、争いの、混乱の、災厄の種を」


 俺はルーシアの言葉を反芻した。


「そして、出た芽を刈り取る人間が出ることを望んだ。それが俺だった……」

「わかってるじゃないか」


 ルーシアの肯定に、サーシャが口を開く。


「じゃあ、ミーナが巫女になるのも――」


 言いかけて、言葉を止めた。

 その結論は、誰もが予想できる。


「俺の大切な人――ミーナが巫女に選ばれた方が、面白そうだからってことか」

「正解よ。あくまでもあたしの予想だけど、間違いないとみていいわ」


 あまりの情報の連続に俺の頭は混乱した。

 ただ、一つわかったことがある。


「つまり、あの魔王は邪神を復活させるためにミーナを攫わせたのか」


 そうに違いない。

 邪神と魔王。おそらく、何らかのつながりがあるとみていい。


「逆だよ。魔王は邪神をこの世界に召喚させないために彼女を誘拐したのさ」

「召喚させないため?」


 予想と180度逆の答えに、俺達は戸惑いを隠せない。


「そもそも、あたしたち魔族と邪神ってのは……と、時間のようね」

「勇者一行だな」


 扉が開き、魔王城の兵士と思われる男3人が入ってきた。

 背中に緑の翼が生えているから、魔族なのだろう。


「違う、と言っても信じてくれないよな」

「魔王様から手紙を預かっている」


 魔族の兵は手紙を脇のテーブルに置き、


「では、確かに渡したぞ! 行くぞっ!」


 男が急に姿勢を落とした。その行為に俺は思わず戦闘態勢をとるが、男達は俺達と逆の方向に走り出した。


「早く行かないとチケットがなくなる」

「くそっ、もう指定席は絶対売り切れてるぞ」

「立見席でもいい、こんな機会めったにないからなっ!」


 一体、なんなんだ?

 そう思いながら、俺は一応手紙を鑑定で見る。

 ただの手紙なのは間違いないようだ。罠の類ではない。


「第19回人魔武道大会のお知らせ」


 そう書かれた手紙を見て、シルフィーは一言、


「今度は踊りとは関係ないでしょうね」 


 そう呟いた。

 そのはずだ。「ぶどうかい」が「ぶとうかい」で「舞踏会」だなんてオチはない。

 十中八九罠とみていいだろうな。


《来るべき魔族生誕1200年……》


 このあたりは飛ばしていいか。

 というか、言い回しがくどくて、内容が濃すぎるな。

 読み流していくと、要約した内容をルーシアが語りだした。


「武道会は、魔族の代表5人に人間の代表、人数は無制限で、戦いを挑むんだよ。勝てば、出来る限りの願いを叶えてくれる。ただ、相手は確実に強い。魔王も出るだろうね」

「……つまり、ミーナを取り戻したければ、これに出てこいってことなのか?」

「あぁ、さっきの奴らは、この武道会のチケットを買いに行ったんだろうね」


 あぁ、子供が目を輝かせて学校が休みになるとか言ったのも、これが原因か。


「ちなみに、19回ということは、過去の戦績は?」

「魔族の17勝1敗だよ」


 魔王達に勝った人間がいるのか。

 なら、魔王は無敵じゃないということか。


「魔族が約束を破る可能性は?」

「絶対ないと言い切ってもいいよ。武道会に出場してる魔族は己の命も賭けの天秤に乗せているからね」


「俺、この大会に一人で出ようと思う」

『タクト(くん)(お兄ちゃん)!?』


 俺の決意に、三人が異口同音で怒りのこもった声をあげた。


「マスター、ナビ達への命令をお願いします」

「あぁ、ナビ達は、俺が武道会に出ている間、魔王城に潜入して、ミーナを探してほしい」

「…………ずいぶん、危険な話だね」


「あんたたちさ、魔族のあたしがいるのにそんな話をしていいのかい?」

「彼女たちは俺達の仲間を助けに行くだけです。これでも、女運はいいらしいんで」


 思えば、アイアンと出会ったのも男運大UPが大きかったな。


「待ちな」


 ルーシアはそう言うと、店の奥に入り、三体の粘土の人形を持ってきた。

 そして、サーシャ、シルフィー、マリアの髪の毛を一本抜く。

 そして、それを粘土の人形に埋め込むと――粘土人形が膨らんでいき、

 それぞれ三人の姿になった。

 ただし、生まれたままの姿で。


「「キャァァァァっ!」」


 サーシャとマリアが悲鳴をあげ、シルフィーが黙って自分のジャージを分身にかける。

 俺はそれを凝視してしまったあと、慌てて後ろを向いた。

 シルフィーの胸が少し成長している気がした。ミーナとそんなに変わらない。


「あと、その自律人形は魔力が特殊だからね。連れて行かない方がいい」

「では、ナビが武道会に御供するということで」

「あの魔法人形は、出る魔力までまねることはできるし、簡単な命令なら聞く。ただ、戦いみたいな高度な真似はできないからね。忘れるんじゃないよ」

「わかりました。何から何までありがとうございます」


 暫くして、着替え終わった人形と、三人が現れた。

 人形が着ているサーシャの服とシルフィーの服、最初に会ったときに着ていた服だ。懐かしいな。あと、マリアの人形は予備の白衣を着ている。


「あたしはアイアンの坊やの様子を見てくるよ」


 ルーシアはそう言って、部屋の奥へと入っていく。


「タクトくん、変なことに使わないでね」

「わかってる。俺とナビは先に武道会にいく。戦いが始まったら三人も行動を開始してくれ。人形達は俺についてこい」


 そう言って、俺とナビ、三体の魔法人形は店を出た。 



  ※※※


 飯屋の奥の部屋。


『なかなか面白そうな子供たちじゃないか。あれがテイトの弟かい』

『な、あいつがテイトの弟ってマジなのか?』

『そう聞いてるよ』

『なら尚更だ。俺があいつらをここに連れて来たのは、こんなばかげた戦いをルーシアさんに止めてほしかったからだぞ』

『……わかってるよ。でも、あたしは今は隠居の身さ。何もできないよ』

『はん、今でも影響力は十分にあるだろうが』


『元魔王のルーシアさんよ』

更新おそくなってすみません。

タクトの自信とはいったい何なのか?

武道会、潜入、元魔王とアイアン、テイト、そしてミーナに謎の女。

様々な伏線を回収できるのか? 無理かも。


あと、すみません。

新規連載をこそっと開始しています。

更新ペースにはできるだけ影響出さないようにしますが、応援してくださったらありがたいです。

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