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1 敗北

第四章スタートです

 空を佇む女性が何者かわからない。そして、ミーナに何をしたのかも全くわからない。

 理解が追いつく前に、俺はカードを取り出していた。


「具現化!」


 俺の投げたカードが骸骨兵へと姿を変えた。

 胸の勲章が輝いている、将軍の地位を勝手に授けた骸骨兵だ。


「頼む、時間を稼いでくれ!」


 俺はそれだけを言うと、ミーナにかけよった。

 黒く光る刃を抜こうと刃をふれたのだが――刃に触れることすらできない。まるで雲を掴もうとしているみたいだ。


「くっ、リカバリー!」


 傷治療回復魔法を唱えた。

 だが、ミーナは眉ひとつ動かさず、動く気配がない。

 すぐさま首に手をあてて脈を確認するが、脈は正常に動いている。彼女の口に手をあてると呼吸も確認できた。

 ミーナは生きている、なら、原因はこの黒い刃に違いない。

 だが、いくら抜こうとしても、刃に手を触れることすらできない。


――そうだ、破邪の斧……あれなら!


 邪を破るという斧、その名が真実なら黒い刃も壊せるんじゃないか。

 そう思い、破邪の斧を取り出して振るった。

 だが――斧は刃をすり抜けるだけで何も起きない。

 


「なんでだよ、なんでだ!」

「そんなことをしても無駄じゃ。妾の闇魔法は1時間は抜けぬ」


 声が――女の声が聞こえた。

 謎の女は俺の数歩手前に降り立っていた。


「…………くそっ、骸骨将軍を瞬殺か……」

「瞬殺? 妾は優しいからのぉ、例え魔物でも無下に殺したりはせぬ」


 女はそう言い、一枚のカードを見せた。

 暗視スキルでそのカードを見ると、そこには「骸骨兵」と書かれたカードがある。カードに描かれた骸骨兵の胸には金色の勲章が輝いていた。


「一度カードになった魔物はカード化できるのは知っておるの? それがたとえ他人の扱う魔物であろうとも可能じゃ」

「そんなのはどうでもいい、ミーナをすぐに治せ」

「どうでもよいじゃと? カード化はそなたたち流浪の民しか使えない秘術のはずじゃ。どうして妾が使えるのか気にならぬのか?」

「もう一度言う、ミーナをすぐに治せ」


 俺はそういい、破邪の斧をカードにして収納、ミスリルの杖のカードを取り出して「具現化」と呟き、装備した。


「ふん、妾と戦おうというのか、人間種の分際で……」


 女はそう言うと、カードをどこからともなく取り出して、具現化した。

 現れたのは巨大な鎌、デスサイズだ。

 彼女はデスサイズを大きく振るう。と同時に風の刃が俺を襲ってきた。

 横に飛んでかわすが、俺の脇をすり抜けた風の刃がジャージとともに俺の肉ごと切り裂いた。


「くそっ、ファイヤーフィールド!」


 痛みに耐えながら、炎の上級魔法を唱えた。

 直後、女の足元から炎の空間が現れる。

 彼女は当然のようにそれを、宙を飛んでかわした。

 だが――

 それも予想通り。


 俺は炎の空間の中に飛び込み、女の死角――つまり足元から大きく飛んだ。

 まさか炎の中に俺がいたと思わなかった女は、思わぬ攻撃に回避行動が遅れた。


「くらいやがれ!」


 炎の中で持ち替えた破邪の斧を彼女向かって振った。

 だが――


「ぐはっ」


 突如、背中に激しいと痛みと衝撃が襲った。

 落ちていくなか、振り返るとそこに――もう一人、全く同じ姿の女がいて、デスサイズで俺に攻撃していた。

 地面にたたきつけられた。


【呪詛耐性スキルを覚えた 呪詛耐性レベルがあがった 呪詛耐性レベルがあがった 呪詛耐性レベルがあがった】


 呪詛耐性? なんだ、それ……。


「伝説魔法、アザーセルフ、分身を作る魔法じゃ」

「空に逃げると同時に唱えておいた。気付かなかったようじゃの」


「ぐっ、ミーナを治せ――」


 痛みにこらえながら、俺は起き上がろうとした。

 だが、体が言うことを聞いてくれない。

 これが……呪詛というやつなのか。


「安心せい、妾の城に連れて帰れば治してやる。急いで戻らぬと娘が目覚めてしまうでの、主は眠っておれ」


 女はそういうと「ダークソード」と魔法を唱え、黒い刃を造り出した。


「全く、妾の主人は厄介な命令を出したものじゃ。こんな小僧、殺せばすぐに帰れたものを――」


 そう言い、女は黒い刃を俺の胸に投げつけた。

 それが突き刺さると同時に、全身から力が抜けていった。



    ※※※



 夢さえ存在しない闇の中から意識を呼び起こしたときには、全てが終わった後だった。

 ベンチの上で俺は寝かせられていたらしい。


「タクトくん、気が付いたの?」


 俺が目を覚ましたことに気付き、マリアが声をかけて来た。


「……あいつはどこに行った」


 身体からは痛みもすでに引いている。

 呪詛の効果もすでにないようだ。


「何があったのか聞かせて。ナビが闇魔法を検知して、私達がここに駆け付けたときにはあなたに闇魔法『ダークソード』が刺さっていたの」

「ミーナがさらわれた」

「ミーナが?! 誰に?」

「迷宮で見たあの女だ。カード化、伝説魔法を使ってた」

「伝説魔法って……あの?」

「あぁ……ボーナス特典の……普通の手段じゃ使えないはずの魔法のはずなのに」


 俺はベンチから立ち上がり、マリアに言った。


「たぶんだが、あの女はもう学園の中にいない」

「どうして? 門には門番がいるわ。タクトくんが襲われたことを知って、すぐに門を閉鎖してもらったの」

「ミーナが目を覚ます前に城に戻ると言っていた。それと、伝説魔法やカード化が使えるなら、瞬間移動が使えたとしてもおかしくない」

「瞬間移動……その可能性は確かに高いわね……」


 マリアがそう言うと、  


「タクトっ!」

「タクトお兄ちゃん」

「……マスター、時間通り目が覚めたみたいですね」


 サーシャ、シルフィー、ナビが駆け付けた。

 俺が目を覚ます時間をナビが予測し、その時間に戻るようにしていたらしい。

 俺は三人に起こったことを説明した。

 三人は黙って俺の話を聞いた。

 全てを語り終えたとき、サーシャが俺の胸倉をつかんだ。


「タクト、あんた、これからどうするつもり?」

「ミーナを助ける。絶対だ」


 俺はそう答えた。

 俺の心は後悔でいっぱいだ。どうしてあの時ミーナを助けられなかったのか。

 だが、落ち込んでいる暇はない。悔やんでいる暇はない。

 奴の目的が何かはしらないが、問答無用で女の子を連れ去るようなやり方を選ぶ相手だ。

 まともな扱いを受けるとは思えない。時間は一刻を争う。


「ミーナがどこに誘拐されたかわかるの?」

「わからない。だが、知る方法はある」

「……人探しの鏡ですね」

 

 シルフィーが言った。

 ドワーフの秘宝、探している人を見つけることのできる鏡。

 それさえ使えたら、ミーナの居場所がわかるはずだ。


「みんな、頼む。一緒に来てくれ」


 俺がそう言うと、全員が無言で頷く。

 それを合図に、俺は瞬間移動を唱えた。



  ※※※



 約一ヶ月ぶりに訪れたドワーフの集落の広場では酒盛りの真っ最中だった。

 ドワーフの長老は突如現れた俺に一瞬驚いたが、すぐに笑顔で出迎えてくれた。


「おぉ、これは救い主様御一行様ではありませんか! どうでしたかな、お探しの人は見つかりましたかな」


 ドワーフの長老が酒を持ったカップを持って俺に声をかけた。


「ミーナが誘拐された。人探しの鏡を貸してくれ」

「……それは大変じゃ! ミーナ様は救い主様とともにドワーフとエルフの救世主。ぜひお使いください」


 長老は、自分もあとから駆け付けるからと、若いドワーフに先に俺達を宝物庫に案内するように命じた。

 

 ドワーフの宝物庫に案内された俺たちは円鏡の前に立った。

 円鏡はまた淡い光を取り戻していた。

 俺は鏡に手をあて、ミーナの姿を思い浮かべた。笑顔のミーナとともに、ダークソードに体を貫かれて意識を失ったミーナの姿が脳裏に浮かび上がる。


「ミーナ!」


 俺は名前を叫んだ。

 だが――鏡には何も映らない。


「タクト様、おそらくですがミーナ様はもう……」


 それが意味することは一つと若いドワーフが告げた。


「まだだ! この鏡は相手が結界の中にいたらわからないんだろ?」

「ええ、それはそうですが、結界なんてそうあるものではありませんし、確認のしようが――」

「人探しの鏡も魔道具だ。ならば――」


 俺は鏡に添えていた手に力を込めた。


【決死の一撃スキル本日使用回数残り0回】


 メッセージが浮かんだ、直後だ。

 鏡に城が映し出された。


「これは――どこだ」

「ひぃ……お待たせしました……タクト様」


 長老が息をきらせながら駆け付けた。


「……おや、まさか……ここは」

「長老さん、わかるのか?」

「はい、おそらくは南大陸……書物の挿絵でしか見たことがありませんが、あの城は魔王城です」

「魔王城?」

「ええ、魔族の王、魔王の城です」


 長老がそう言った直後、人探しの鏡は光を失い、ただの鏡へと戻った。


章題にもありますが、次の舞台は南大陸になります。

南大陸には魔族と魔王が住んでいるというのは神父さんが言っていましたね。


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