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23 告白

 俺の謝罪の言葉が広場へと消えていく。


「ミーナの気持ちはとてもうれしいよ。たぶん、今が生まれてから今日までで一番うれしい瞬間だったと思う」

「…………ありがとうございます」


 ミーナは笑顔で応えた。

 でも、その笑顔に少し影が見える。


「俺、ミーナに話さなくちゃいけないんだ。俺が何者なのか、まだ何も話していない。話を聞いてほしい」


 俺はミーナに語った。

 この世界の人間ではないこと。意図せぬ形でこの世界にやってきてしまったこと。この世界に来るときに様々な恩恵を受けたこと。そして、マリアやミルの町の神父さんを含めた流浪の民と呼ばれる人間は全員、俺と同じ場所からやってきたこと。

 普通の人間が聞いたらとても信じられない話だが、ミーナは黙って俺の話を聞いてくれた。


「じゃあ……スメラギさんはお兄さんを見つけたら、元の世界に戻るから、私とお付き合いできないということなのでしょうか?」

「いや、そうじゃない。正直、俺はどこか迷ってるんだ。元の世界に戻るか、この世界に残るか……そもそも、元の世界に戻れるかどうかもわからないしな」


 俺は星空を見つめてそう言った。

 日本にいたときは見ることのできない数多の星の煌きがそこにあった。


「さっき言った、流浪の民のボーナス特典の一つにさ――」


 俺はミーナの顔を見て、意を決して言った。 


「ハーレムっていう特典があるんだ」

「ハーレム?」

「あー、もともとの意味はいろいろあるんだけど、一人の男性が多くの女性に愛される状態、みたいなものだと思う」

「……スメラギさん……みたいな状況ですね」

「うん……なんとなくだけどさ、みんな俺のことを大切に思ってくれているのは気付いていたんだ。でも――」


 俺は息を少し吸って、 


「でも、きっとそれは俺のハーレムのボーナス特典のせいだと思う」


 そう告げた。

 俺の自意識過剰じゃなければ、マリアもサーシャもシルフィーも多少なりとも俺に好意を持ってくれていると思う。

 しかも、全員とても可愛い。そんな彼女たちが、ただチートコードのおかげで少し強いだけの俺のことを簡単に好きになるなんてありえない。

 昨日、シルフィーに言われたときに思った。普通、命を少し助けたられた程度でその人のこと好きになるとは思わない。

 吊り橋効果という言葉があるとはいえ、そんなことで好きになるのなら、レスキュー隊の隊員は全員ハーレムを作ることができる。


「スメラギさんは、私がスメラギさんのことを好きなのは、そのはーれむ特典というもののせいだって言ってるんですか?」

「うん、そうだと思う」

「そんなわけないじゃないですか! 私はスメラギさんのことを――」

「そうじゃないって言いきれる? さっき言った通り、ミーナの前で使った力は全部借り物の力だし、顔も悪くはないと思ってるけどミーナと釣り合うほどじゃない」

「………………」


 ミーナはとても哀しい瞳を浮かべ、


「少し歩いてきます……」


 ミーナはそう言うと、ミラーの家とは反対の方向へ歩いていった。

 止めようかとも思ったが、学園の中は魔物もいないし、治安も普通の町とは比べものにならないくらい良い。

 なにより、どのつら下げて彼女を止められるというんだ。


「くそっ……俺は……」


 俺はそう呟き、頭を垂れた。

 もう、元の関係には戻れないだろう。


「何やってるんだよ、タクト」

「サーシャ、どうしてここに?」


 頭をあげると、サーシャだけではなく、シルフィーとナビがそこにいた。


「サーシャさんは、心配だからと後をつけていたんです。音声は全てナビさんが拾ってくれました」

「ナビの集音機能を使えば、三キロ先を歩くフワットラビットの足音も聞こえます」


 シルフィーが蔑む目で俺を見ながら説明し、ナビが無表情でVサインをした。


「そうか、全部聞かれてたのか。今まで黙っていて悪かった。そういうことなんだ」

「何がそういうことだよ……タクト、あんた、ミーナの気持ちも知らずに」

「ミーナの気持ちは聞いたさ。でも、それは俺の――」

「ハーレム? ボーナス特典? 女の気持ちをそんな妙なもので説明しようとするな!」


 サーシャが俺の頬を叩こうとしたが、その前にシルフィーのアッパーが俺の顎を捉えた。


「全く、タクトお兄ちゃんは大馬鹿なお兄ちゃんです。好きになる原因がなんであれ、ミーナさんはタクトお兄ちゃんのことを好きという気持ちをずっと大切に持っていたんですよ。それを偽物だと言われたミーナさんの気持ち、タクトお兄ちゃんにはわからないんですか?」

「わかってるつもりだ」

「わかっていたら、そんなところで落ち込んでいる暇はないとシルフィー思います」

「ぐっ……じゃあ、どうすればいいんだよ!」

「ミーナさんに告白してフラれたらいいと思います」

「なんでそうなるんだよ」

「当たり前です。タクトお兄ちゃんはミーナさんの大切な宝物を傷つけたんです。そういう男はモーズに踏まれて死ぬべきです」

「そうだね。サンライオンに噛まれて出血死するべきだね。そうじゃなければ、タクトはもっと自分の気持ちに素直になるべきだよ」

「素直になれないのなら、ナビがMPを吸ってすっきりさせましょうか?」

「……好き勝手言ってくれるな」


 俺は嘆息をもらし、微笑んだ。


「俺の仲間は全員厳しいな。自分に素直に……か。もしもハーレム特典なんてなかったら、きっと俺の方から告白してたんだろうな」

「ハーレム特典って、タクトくん、そんなものも持ってたのね」


 振り向くと、そこにランプを持って歩いているマリアがいた。

 教授会に参加していると聞いていたから、その帰りだろう。


「えっと、マリア? いつからそこに?」

「タクトくんが素直になって私に告白すると決意したあたりから……?」

「そんなこと言ってない」

「でも、ハーレム特典、あ、私の時は逆ハーレム特典だったんだけどね、あれって本当に期待外れなボーナス特典よね」

 

 マリアが苦笑して言った。


「男性は一人の女性としか結婚できないんだけど、ハーレム特典だと複数の女性と結婚できる、ただそれだけの特典のはずよ。私の時は逆ハーレムって表示だったけどね」

「え? ハーレム特典を持っていたらモテモテになるとかそういうものじゃないのか?」

「私、ボーナス特典についても王都にいたころに研究していたから間違いないわ。ハーレム特典を持っていてもモテない人はモテない……ううん、ハーレム特典を持ってる人のほうがモテていないケースが多いわ」


 その意味を俺は反芻した。

 つまり、ミーナが俺のことを好きなのは、ハーレム特典とか関係ない。

 

「すまない、みんな、俺――」

「あぁ、ミーナを探しておいで……ちょっと私たちも……いろいろと考えるからさ」


 サーシャが顔を真っ赤にして呆れたように言う。

 そして、俺は瞬間移動で飛んだ。

 飛んだはいいが、ハーレム特典が関係なかったとしたら、関係なかったとして、今度はさらにどのつら下げて会えばいいって言うんだ。


   ※※※


『全く、今ならハーレム特典って言われた方が納得できるよ、どうしてこんなやつを好きになったのか』

『シルフィーの読んでいた書物に『恋は病』という言葉があります。タクトお兄ちゃんが病原菌だとするのなら納得ですね』

『ねぇ、タクトくんと何の話をしていたの?』

『人間の感情の問題について議論していました』


   ※※※


 建物の屋上から、暗視スキルを使ってミーナを探した。

 すると、街灯の下のベンチに座っている彼女をすぐに見つけることができた。

 再度、瞬間移動でミーナの前に飛んだ。


「……ミーナ」


 彼女の前に立ったはいいが、俺はなんて言ったらいいのか困った。

 すると、ミーナが立ち上がり、


「その優しいところが好きです。スメラギさんは絶対に探しに来てくれると思っていました。でも早く来てくれてよかったです。夏でも夜は少し冷えますから」


 そう言って俺の前に近づいた。


「宿屋でウサギの肉をくれましたよね。あの時、ウサギのお肉の料理をしてあげたがったのが今でも残念です。お姉ちゃんが盗賊にさらわれたとき、スメラギさん、関係ないはずなのに必死になってお姉ちゃんを助けてくれました。その後、私のことを強引に奴隷にして、でもとても優しくて。スメラギさんがいなくなったとき、私、とっても心配してました。そして、スメラギさんは自分の命と私とを天秤にかけて私を助けようとしてくれました」

「…………」

「私の気持ちです。もっと言いましょうか? スメラギさんはジャージばっかり着ていますが、オシャレな服を着たときのスメラギさん、とってもかっこよかったですよ」

「え? ジャージのほうがいいだろ?」

「ダメです、そこは譲れません」


 ミーナが少し怒って言った。


「俺も素直に言う。ミーナのことが好きだ。正直、宿屋で最初に見たときからかわいい子だと思ってた。お姉さん思いで、しっかりしていて、でもちょっと無茶なことをするところもあって、うれしいことがあったら子供のように喜んでくれて」

「スメラギさん……もう一度言わせてください。私はスメラギさんのことが大好きです」


 彼女は真剣な瞳で俺に告白した。


「ミーナ、ありがとう。とってもうれしいよ。俺もミーナのことが大好きだ」


 俺がそう言うと、彼女の頬に涙が流れた。


「私、いま、とてもうれしいです」


 ミーナはそういって袖で涙をぬぐう。


「さっきはごめん」

「いいんです、スメラギさんはぬけてるところありますから、あの程度で動揺していたらスメラギさんとはおつきあいできません」

「え? 俺、そんなにぬけてる?」

「気付いていなかったんですか?」


 ミーナが笑いながらそう言った、その時だった。

 

――黒い光を帯びた刃が、ミーナの胸を貫いた。


 え? 一体、何が起きた……んだ?


 黒い刃が飛んできた方向を見ると、

 黒い髪に白い肌、黒いドレスを着た――迷宮で一度見かけた女性が、大きな翼をはばたかせて空に佇んでいた。


  -第四章に続く-

第三章が終わりました。


ここで物語全体の半分くらいかと思います。

いろいろと意見がでそうな終わり方ですが、鬱展開にする予定はありません。

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