19 腐竜
半身になって左手を前に出し右手を右肩の少し後ろあたりに置き、魔法を唱える。
「セイントアロー!」
そう叫ぶと、左手の中に光の弓が、右手の中に光の弦と矢が現れた。
右手を弦を離すと、光の矢が周りの光を吸収しながら三倍近く大きくなっていき、ドラゴンゾンビめがけて飛んでいく。
光の中級魔法セイントアロー。通常の魔物にはファイヤーボール程度の攻撃力しかないのだが、死霊系、悪魔系の魔物には効果抜群の魔法だ。
何より、ドラゴンゾンビに近づかなくていい。これ以上近づこうものなら、あの匂いに鼻がちぎれそうだ。
ドラゴンゾンビは再生したばかりの右手でそれを受け止めた。と思ったら、ドラゴンゾンビの右腕が光で消し飛ぶ。
よし、これなら行ける!
そう思ったのもつかの間、右腕が瞬時に再生された。
『ぐぐ……が……』
ドラゴンゾンビは言葉になっていない声をあげる。声帯が腐っているのか、脳が腐っているのか、もしくはその両方か。
もう、ハンズは人の言葉を発することはできないのだろう。
ならば、楽にしてやる!
「セイントアロー! セイントアロー!」
そう魔法を唱えると、光の弓と二本の光の矢が現れた。
そして、時間差で光の矢を放つ。
先ほどと同様、ドラゴンゾンビは光の矢を右手で受け止め、同時に右腕から消し飛んだ。
そして、遅れて飛んだ光の矢が、ドラゴンゾンビの首の付け根あたりに命中し、首が消し飛んだ。
顔がぐちゃりと地面に落ちた。
「ふぅ、終わったよな……」
いくら大きな力を持っていようとも、頭がそれについていっていなければ倒すのはたやすい。
ドラゴンゾンビの首から下の身体が煙のように消えていく。
そして、頭は……消えることなく消え去った首のあたりから何かが生えようとしている。
まさか、顔だけでも生きていて、さらに再生をしようとしているのか?
「セイントアロー!」
とどめを刺そうと魔法を唱えた……が、クールタイム中で発動されない。
俺はミスリルの杖をカードにして収納し、破邪の斧のカードを取り出す。
「具現化!」
現れた斧を構えて全力で走る。
手足が再生する前に顔にでかいのを一撃ぶち込んでやる、そう思った。
が、顔だけのドラゴンゾンビが大きく口を開いた。
ドラゴンゾンビの手は付け根のあたりまで再生されているが、まだ動くことはできない。
今ならいけると思い飛びかかったが――ドラゴンゾンビの口から紫色の風が吐かれた。
俺はその風に吹き飛ばされる。息だけでも凄い力だ。
【毒耐性レベルがあがった 毒耐性レベルがあがった】
毒耐性レベルが上がったってことは、あの色からも予想できたが毒の息か。しかもめっちゃ臭い。
匂いはおそらくファイ○ルファンタジーシリーズのモル○ルのくさい息と同レベルだろうが、状態異常ではあっちのほうが上だな。石化とか沈黙とか混乱とかしてないし。
たかが、毒の息だ。ジャージに匂いがついたのはひどく残念だが、脅威となるレベルではない。
体力が失われていく中、クールタイムの時間が過ぎていることを確信し、「アンチポイズン」と解毒魔法を唱えた。身体から毒が消え失せる。
ドラゴンゾンビは遠くからこちらを見つめているが、動く気配はまるでない。
俺は破邪の斧をカード化して収納し、再度ミスリルの杖を具現化させる。
暫く膠着状態と思われる時間が過ぎた。アンチポイズンのクールタイムが終わる。
今度は頭を狙ってやろうと、再度魔法を唱えた。
「セイントアロー! セイントアロー!」
再び光の弓と二本の光の矢が現れた。
そして、放った一本の矢をドラゴンゾンビは受け止め――しっかりと受け止めた。消し飛ばない。そして、遅れて放たれた光の矢がドラゴンゾンビの右腕に突き刺さり、今度は右腕を消し飛ばした。
明らかに光魔法への耐性が上がっている。
「くそっ、セイントアロー!」
遅れて光の矢を放つ。
すでに再生をはじめている右腕で掴もうとするが、指までは再生していなかったようで矢を掴むことができず、俺の放った矢は見事のドラゴンゾンビの右目に命中し、下あごから上部分を消し去った。
効果が絶大なのは確かだが、消し去る範囲も明らかに小さくなっている。そして――
「ダメなのか……」
顔から上が再生を始めた。
ドラゴンゾンビは俺を睨みつけ、背中から生えている翼をおおきく羽ばたかせる。その羽ばたきに翼が耐え切れずに腐り落ち、新たな翼が生えてきた。
そして、新しい翼で飛び上がったドラゴンゾンビが、俺めがけて襲ってきた。
やばい、俺のことを敵と認識している……いや、敵じゃなくて目の前にいたから襲ってきただけかもしれない。
急いでどこかに隠れようとしたが、何もない広場、建物からも大きく離れているうえ、あの巨体なら、建物に入れば建物ごと潰されかねない。
ならば――再度ミスリルの杖をカード化して収納、破邪の斧を取り出して構えた。もうこの動作もなれたもので、一瞬で武器が入れ替わる。
「やられる前にやってやる」
俺は斧を構え、ドラゴンゾンビにとびかかった。
振り下ろした斧が、ドラゴンゾンビに右手に衝突する。爪をよけるには成功した。
と思ったら、ドラゴンゾンビは左腕を大きく振るい、己の右手ごと俺を攻撃した。
右手ごと俺は大きく飛ばされ、遠く離れていたはずの建物に衝突した。
「……がはっ」
一瞬呼吸できなくなるほどの衝撃が身体を襲った。
【全身防御レベルがあがった 全身防御レベルがあがった 全身防御レベルがあがった】
久しぶりに防御スキルレベルアップの大盤振る舞いだ。
それに比例して状況がやばいことも把握している。
魔法のクールタイム中なので、回復魔法もまだ使えない。
ドラゴンゾンビの右手はすでに再生していた。
そして、再度空を飛び、俺にとどめをさすべく飛び上がった。
直後だった。
ドラゴンゾンビめがけて、光の球が飛んできて、大きな音と一緒に爆発を起こした。
一体何があったんだ? と思って球の飛んできた方向を見ると、ミーナとナビが立っていた。
「スメラギさん! これで結界が解けます!」
ミーナが大きな声でそう叫んだ。
結界が解ける?
その意味を理解できないまま、俺はクールタイムが過ぎたであろうと思い、己の身体に回復魔法を唱えた。
そして、俺は見た。上空に飛んでいく光の球を。
※
私は結界を解くために広場に来ました。
そこではスメラギさんが紫色の大きなドラゴンと戦っていました。
そして、スメラギさんの光の魔法がドラゴンの顔を消し去ったとき、私はスメラギさんの勝ちを確信し、声をかけようとしたのですが、直後、ドラゴンの顔が再生されました。
普通の再生力ではありません。おそらく、結界の魔力によるものです。
となれば、私がいますることはスメラギさんと一緒に戦うことではなく、結界の解除。
そのために必要な人はここにはいません。
私は必死にあたりを見回しました。
すると、遠くに動く影が見えました。ボブカットの銀色の髪には見覚えがあります。
スメラギさんからは死角の位置ですが、広場を見ているナビさんです。
「ナビさん」
「名称:ミーナ、どうしてここに?」
「ナビさんこそどうしてここにいるんですか!」
「ナビは名称:ハンズの魔力の流れを探っていました。結果はまだ出ていませんが、彼を倒すには必要な措置です」
「ハンズ……? もしかして、あのドラゴンが?」
「肯定します」
ナビさんが頷いた。
なんということでしょう、人がドラゴンに化けるなんて、それこそおとぎ話のような話です。
「ナビさん! すみません、結界を解くためにナビさんの力が必要なんです。手を貸してください」
私は、事情を簡単に説明しました。
ナビさんはすぐに理解したようで、
「わかりました。急ぎましょう」
そう言って、ナビさんは目的の場所、広場の手前にあるそこまで走り出しました。
「ここです、ナビさん、お願いします」
「これを打ち上げたらいいのですね。はい、ナビさんならできますよね」
「可能です。魔力供給がされていませんが、ナビの魔力を使いましょう」
ナビさんが答えた。
私が案内したのは、ミラー先生の作ったという光の魔法発生装置。
確か、名前は――
「じゃあ、鍵屋を打ち上げてください」
「鍵屋というのですね、この魔法装置の名前は」
「はい。確か、ミラー先生が言っていました」
素晴らしい名前だと私は思いました。
これが、この戦いの鍵を握っているということです。
「この光を合図に、みんなが病院で救出作戦を行います」
「なるほど……わかりました。音と威力をあげるように魔法回路をいじりましょう」
ナビさんがそう言って、何やらぶつぶつと呟き始めます。その内容は全く理解できません。
そうしている間にもスメラギさんは……
私はその光景を見て言葉を失いそうになりました。
ドラゴンにスメラギさんが吹き飛ばされたのです。
「ナビさん! 大変、スメラギさんが、ドラゴンに!」
「現状確認。試し打ちにはちょうどいいです」
ナビさんはそう言うと、光魔法の噴出口が角度を変えました。
そして、そこから光の球がドラゴンめがけて飛んでいき、見事に命中させました。
だが、ドラゴンにはそれほど大きなダメージを与えていないようです。
「この威力なら学園中の人の視界に入るでしょう。いきます」
ナビが言う。
それを聞いて、私はこちらに気付いたスメラギさんに向かって叫びました。
「スメラギさん! これで結界が解けます!」
直後、ナビさんの打ち上げた巨大な光の球は、上空で大きすぎる光の花を咲かせました。




