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5 襲来

 貝拾いを終えた俺はミーナと一緒に森を歩いていた。

 ワンウルフに襲われた道だが、あの時はおっさんが狩りに失敗したのが原因らしいし、今は魔法と武器もあるから問題ないだろう。

 決死の一撃も今日は使えるはずだ。


「スメラギさんのおかげで早く終わりました」

「ううん、俺もいい気晴らしになったよ……あれ?」


 直後、悪寒が走る。

 何かがいる気配だ。兎とは違う、これは――


「何か来る……ワンウルフか」

「本当ですか? この時間はワンウルフは夜行性で朝は寝てるはずなんですが」


 そうなのか、でも昨日のこともあるし、なにより、俺の索敵スキルがびんびんだ。


「たぶん……昨日もこの時間に襲われたから」


 茂みが動いた。直後、牙をもった獣が現れる。間違いない、ワンウルフだ。


「くそっ、ファイヤーボール!」

 俺が叫ぶと、小さな火炎の球が飛び出し、ワンウルフにぶつかる。スキルのレベルアップのメッセージが聞こえたが、意識はそちらには向けていられない。

 だが、倒すまでにはいっていない。


「これでもくらえ」


 己の顔の毛が燃えているにもかかわらず襲い掛かるワンウルフの眉間めがけて、俺は百獣の牙のナイフをつき下ろした。

 深く突き刺さったナイフから手を離すと、狼はすでに絶命したのかそのまま横に倒れた。

 少しして、ワンウルフがカードに変わる。

 今の戦いで、魔法(火炎)スキルを取得し、レベルが2に、獣戦闘レベルが4にあがった。


「ミーナ、大丈夫か?」


 計五枚のカードを拾いながら尋ねた。

 狼肉が三枚と毛皮一枚、250ドルグ一枚、そしてワンウルフのカードが1枚だ。おそらく、フワットラビットのカードと同じように使えばワンウルフが出てくるのだろう。高く売れそうだ。

 ただ、売る時期を考えないと、カード買取所の人に怪しまれるな。


「ミーナ? もしかしてどこか怪我した?」


 返事のないミーナに俺は尋ねた。


「え、あ、はい。大丈夫です。すみません、びっくりして。ワンウルフを見たの、はじめてだったんで」

「スメラギさん、魔法使いだったんですね、驚きました」

「魔法は今朝覚えたばかりなんだ。うまくいってよかったよ」

「今朝覚えた?」


 ミーナが怪訝な顔をしてこちらを見てくる。

 やばい、変なこといったか。でも、ここまできたら正直にいうしかない。


「武器屋のおばちゃんから炎の魔法書を買ってさ、覚えてなかったから」

「そうなんですか……もしかして、ほかにも魔法が使えるんですか?」

「あぁ、回復の魔法とかね」

「凄いです。普通、魔法って一つの属性しか使えない人が多いんですよ」

「そうなのか?」

「そうですよ。火炎と治癒の二種類も使えるなんて、スメラギさんすごいです」


 そのあたりはおばちゃんから教えてもらってなかった。おばちゃんもまさか俺が自分で使うとは思っていなかったのだろう。

 このあたりは、魔法属性全取得可能ボーナスが関係しているのだろう。


「でも、二種類魔法を使ったら、スキルスロットがほとんど使えませんよね。魔法技能に魔法(治癒)に魔法(火炎)に、短剣で全部埋まっちゃってるんですか?」


 え? 今変なことを聞いた気がする。


「すみません、スキルを聞くのは失礼でしたね」

「そうじゃなくて、スキルって4つしかつけれないの?」

「はい。ユニークスキルか才能スキルがあったら別ですが……スメラギさんは違うんですか?」

「い、いや、俺もそうだよ。うん、だから火炎の魔法は封じようかなとか思ってるんだ」

「そうなんですか? でも私の町にはスキルを変更してくれる神官はいませんから、当分変更はできませんね」


 またまた変なことを聞いた。

 つまり、普通の人はスキルは4つしか装備できず、スキルを変更するにもスキル変更技能を持った人に頼まないとしてくれないということか。

 チートコードを入力してよかったと心から思う。

 さらに森の中を進むと、道が左右に分かれていた。左にはログハウスが見える。お世話になったおっさんの家だ。


「そこのログハウスに住んでる人知ってる?」

「いえ、空き家だと思いますが、たまに出入りしている人もいるみたいですね」

「そっか。あと右側の道ってどこに通じてるの?」

「むこうは王都があります。町からなら馬車で六時間くらいですね。毎朝8時に出ていますよ」


 王都か。ていうことは大きな都市なのだろうな。


「ミルの町はもともと王都に向かう旅人が森に入る前に休憩する宿場として発展してきたんですよ」

「そうか、じゃあ宿屋は安泰だな」


 俺がそういうと、ミーナは笑顔で頷いた。

 やっぱりかわいいや。

 その笑顔が失われたのは、森を抜けたときだった。

 町から煙があがっていた。


「町が燃えてる!」


 彼女は拾った貝を落とし、駆け出そうとした。


「まて、ミーナ!」


 俺はミーナの手を掴んだ。


「離してください、お姉ちゃんと店が!」

「わかってる、町で一番安全な場所は?」

「……教会です!」

「よし、わかった」


 そして、俺は魔法を唱えた。


「瞬間移動!」


 世界が変わった。

 突如現れた俺たちに、武器屋のおばちゃんが目を白黒させている。ミーナも同様だ。


「おばちゃん、それにミーナも言いたいことはわかるが、話はあと、何が起こったんだ?」

「あ、あぁ、大変だよ、ミーナちゃん、宿屋とカード買取所が盗賊に襲われて――」


 おばちゃんが言い終わるのを聞かず、ミーナは部屋を飛び出した。

 教会の中には多くの人が避難している。


「ミーナ、待て、盗賊がいるなら外は危険だ」


 制止をかけるが、彼女はとまらない。

 そして、部屋から出た彼女が見たものは――燃えて崩れ落ちた宿だった。


「…………」


 なんて声をかけていいのかわからない。


「すまない、僕たちがついていながら」


 そう声をかけたのは兎狩りの帰りに見た門番の男だ。


「盗賊は?」


 俺が尋ねると、


「七人全員出て行ったよ。それと――」


 男は言いにくそうに口を噤んだ後、


「サーシャちゃんがさらわれた」

「お姉ちゃんがっ!?」


 ミーナが悲鳴のような声をあげる。


「サーシャさんが? なんで?」


 男が首を横に振った。わからないらしい。

 ミーナが何も告げずに、走り出そうとしたのを、俺は再び止める。


「待て、どこにいくんだ」

「お姉ちゃんを助けないと」

「助けるって、場所もわからないだろ」

「盗賊は西にある、今は使われていない坑道にいるって言われています」


 場所はわかっているのか。


「でも、ミーナ一人で助けられるわけないだろ」


 俺は彼女の理性に働きかける。

 ミーナもわかっているはずだ。盗賊は七人、いや、町を襲った盗賊が七人というだけで、アジトにはもっと多くの盗賊がいるかもしれない。

 そんな中、一人で乗り込んで何とかできるわけがない。

 俺の言ってることを理解したミーナは、その場に泣き崩れてしまった。


――ミーナ、君の涙は見たくない。


「俺も行く、ミーナ、案内してくれ」

「でも、会ったばかりのスメラギさんにそんなこと」

「逃げる魔法が使えるってことはミーナも見ただろ」


 さっきの瞬間移動のことだ。


「じゃ、行くぞ」

「おい、二人でいくのか?」

「盗賊を倒すってわけじゃない。隙を見てサーシャを助け出す」


 そう言い、俺はミーナを見つめ、


「……それと、悪いが全てはミーナの安全を優先する。ミーナに何かあったらサーシャさんに殺されそうだ。それでもいいな」


 何か言おうとしたミーナだが、口を閉じて頷いた。


「わかった、馬を用意する。サーシャちゃんを頼む」

「いや、馬はいい」


 俺の言った意味に気付いたらしく、ミーナも何もいわなかった。

 そして、俺は西の門に向かって走り出した。

 東の門から町に入っており、西側の門を利用するのは初めてだが、門番の姿は見えなかった。と思ったら、壁に血のあとが残っている。まだ新しい血だ。


「くっ、ミーナ、飛ぶぞ」


 俺は西の草原の一点を見つめ、その周りの空間をイメージした。


「瞬間移動!」


 そう叫ぶと、世界が変わり、平原の真ん中にいた。東のほうに町が見える。MPはそれほど消費していないらしく、疲れはない。

 やはり、一度行った場所に飛べるんじゃなくて、知ってる場所に飛べるんだ。つまり、視界の範囲内なら飛べることになる。


「ミーナ、坑道はどっちだ?」

「あっちです。あっちの赤色の山です」


 北西の方向を指さす。小さな森があり、その先にはたしかに赤土色の山があっ

た。

 距離にして五キロメートルはありそうだが、


「瞬間移動!」


 一瞬にして、山のふもとにたどり着く。


「すごい……」


 ミーナが呟く。


「坑道はこの山の中腹にあるそうです。以前、旅の方から買い取った地図に書いてました」

「そうか。今のところ敵のいる気配はないが、気を付けていくぞ」


 俺の経験からしたら、きっと索敵スキルとは対になる隠形スキルというものもあるはずだ。それを使われていたら、俺の索敵スキルが通用しない場合がある。

 むしろ、盗賊なら持っていて当然のスキルだ。そもそも、索敵スキルが人間に対して有効かどうかも検証できていない。

 俺の心配が杞憂だったことにはすぐに気付いた。

 もうすぐ坑道というところで、人のいる気配を感じたからだ。


「盗賊がいるな……」

「わかるんですか?」


 岩を曲がったところから何かを感じる。

 確認のために岩陰から顔をのぞかせると、確かに盗賊がいた。しかも二人だ。

 バンダナに毛皮の服を着た、濃い髭面の男と、片方は髭のない若い男。


「よし、こいつを使うか」


 俺は一枚のカードを取り出し、「具現化」と唱える。

 すると、カードがワンウルフに変わった。さっき森で拾ったワンウルフのカードだ。


【魔物使いスキルを覚えた 魔物使いレベルが上がった 魔物使いレベルが上がった】


 またもやスキルを覚えた。これでちょうど20個のはずだ。

 予備をつくるためにメニューを開き、計算スキルと値切りスキルを空きに変更する。


「よし、まずは盗賊に噛みつけ、倒せそうにないならこっちにおびきよせるんだ。いいな」


 俺はそう言うと、ワンウルフは「がう」と頷いて、盗賊めがけて走り出した。


「凄い、魔物使いのスキルも持ってるんですか?」

「あ……うん、まぁ」


 今取りました、とは言わない方がいいのだろうか。


「あれ? でも魔法スキル3つと短剣スキルで、スキルスロットは……」

「ミーナ、話は後だ」


 そうこうしていううちに、盗賊の一人がワンウルフに気付いたらしく、短剣をかまえる。

 ワンウルフは盗賊のナイフをかわし、一人の盗賊の首元にかみついた。


「げっ」


 思わずうめき声をあげる。あれ、即死じゃないか。


【魔物使いレベルがあがった 対人戦闘スキルを覚えた】


 対人スキルとやらを覚えた。人間に対する攻撃力とか関係あるのだろうか。

 もう一人の盗賊が、


「狼が出た! ダイズがやられた!」


 と叫ぶと同時に、ナイフをワンウルフに対して振り下ろそうとするが、ワンウルフはそれを楽々とかわし、再び首元にかみつく。


【対人戦闘レベルがあがった 対人戦闘レベルがあがった】


 一撃だった。なんだ、俺と戦ったときのワンウルフの動きじゃない。

 そうか、そういえばあった。ボーナス項目の一つに、ペット強化。

 あれの効果だろう。それと、魔物使いスキルの効果もあるのかもしれない。

 驚いているミーナの横で、俺は冷静を装っていた。

 戻ってきたワンウルフの頭をなでてやる。牙から血がしたたり落ちてますよ。殺したの、魔物じゃないので血が消えていませんよ。

 殺した……そうか、俺が殺したんだ。

 たとえ、実際に噛みころしたのはワンウルフでも、命じたのは俺なんだ。

 これが――異世界なんだ。

 しばらく待ってみたが、坑道から誰かでてくる様子がない。

 中には男たちの悲鳴が通じなかったのだろう。


「行くか」


 俺はワンウルフに後からついていくように命令すると、


「え? 狼さんに中にいってもらったら」

「間違えてサーシャを襲ったら目も当てられないだろ」


 俺が言うと、その光景を想像したのか、ミーナは顔を青ざめさせて頷いた。

 狼に、女性は襲うなと命じても、ワンウルフに人間の男女の区別がつくかはわからないし、女盗賊とかがいたらみすみすワンウルフを見殺しにしてしまいかねない。

 坑道に入る前に、倒れた盗賊たちを見る。息をしていない。絶命しているとみて間違いないだろう。


「行こう、サーシャを救いたい」


 例えこの行いが間違っていたとしても、例え神にさばかれようと、俺は前に進みたい。

ワンウルフのカードは狩猟犬として狩猟を楽しむ貴族に親しまれ、実はフワットラビットよりも高値で売ることができます。

フワットラビットよりも入手も難しそうですしね。

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