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14 母校

 ミラーの家を出ると、待ち構えていたのは骨人形の群れだった。

 建物を遠巻きに囲っていて、こちらが動くのを待っているようだ。


「簡単には行かせてくれないか」


 俺はそう呟くと、カードを二十枚を取り出す。

 そして、それを空中に放り投げた。


「具現化!」


 そう叫ぶと、カードが剣を持った骸骨兵へと姿を変えた。

 骸骨兵が落とすカードはドルグ、曹長の骨、軍曹の骨、魔骨、そして、骸骨兵のカードを極稀に落とす。その数は魔骨5枚に対して1枚程度という少なさ。

 レアドロップ率大UPのボーナス特典を持っていたのに2週間で20枚しか取れなかったというのだからその価値は相当なものだ。

 さっき、研究発表会の会場前では生徒たちを混乱させないために使わなかったが、ここでなら使える。

 これで心強い仲間が20体も増えた。


 さて、なんて命令したらいいのか。


 難しい命令は聞いてくれない。敵を倒せと言っても、骸骨兵と骨人形の区別はつかないしな。


「あぁ――、お前らが弱いと思う骸骨兵から倒していけ。骸骨兵以外には攻撃するなよ」


 そう言うと、骸骨兵は骨人形めがけて攻撃を開始した。

 俺のペット強化のボーナス特典により、俺が使役している魔物の力はほぼ2倍程度になるうえ、さらに魔物使いスキルの能力も活きている。

 そして、さすがは上級魔物、相手の力量を読むだけの技量はあるらしく、弱いのは骨人形と見極めたようだ。

 骸骨兵は骨人形の剣を払いのけ、胸に強烈な一撃を加える。

 骨人形達は骸骨兵と骨人形の区別がつかないらしく、すぐに骸骨兵と骨人形の群れは同士討ちを含めた大混乱となった。

 とても危ないために絶対に近付きたくはない。

 

「よし、今のうちに――」


 俺はそう言うと、もう一枚のカードを取り出した。

 そして、放り投げて具現化の魔法を唱える。

 カードは一瞬にして巨大な鷲科の鳥の魔物、ロックコンドルへと姿を変えた。


「乗るぞ、ナビ」

「はい」


 そう言うと、ナビはロックコンドルの足を掴んだ。


「ロックコンドルの特性を考えると、こちらのほうがスピードが出ますよ」

「そ……そうなのか?」

「はい」


 そうなら仕方がない。俺もロックコンドルの足を掴んだ。

 そして、ロックコンドルに空を飛ぶように命じると、ロックコンドルはその巨大な翼を羽ばたかせて空へと飛び上がった。乗り心地は決してよくない。

 絶対に戦いに赴く戦士の姿じゃないよな。

 空から眺めると、遠くの門に、逃げていく生徒の姿を見つけることができた。

 脱出作戦は成功しているらしい。


「ん? あれは……」


 町の南西の方角に人影が見えた。

 逃げ遅れた集団だろうか、と思ったら、一人、見慣れた白衣の女性がいた。

 マリアだ。どうしてあんなところにいるんだ?


「左のほうにいってくれ」


 俺がそう命令すると、ロックコンドルは急旋回して俺の指示した方向に行く。

 途中で中央の広場を横切ったが、誰かがいる気配はない。

 どこかに隠れているのか。


 そして、マリアがいた路地に近づいたとき、


「うわ、魔物がこっちに来たぞ!」


 そんな声が聞こえた。そして、その学生は杖をかまえて魔法を使おうとしている。


「ちょ、待て! 敵じゃない!」


 俺が慌てて叫ぶ。


「大丈夫、あの魔物は味方よ」


 マリアが横にいた生徒にそう言ってくれた。ふぅ、助かった。


「マリア! どうしてここに……彼らは」

「病院に入院していた患者さんよ。ゴールド教授が命がけで助けてくれたの」

「そうだったのか」


 俺はさらにカードを取り出す。

 今度はモーズのカード2枚だ。

 具現化すると、茶色い牛のような魔物が2頭現れた。


「動けない人達をこいつの背に乗せるぞ」

「わかったわ。でもモーズのカードなんていつ手に入れたの?」

「マリアに最初に会ったときに倒したやつだよ」


 飛竜から逃げたモーズを倒したときに手に入れたカードだ。


「モーズ、ここにいる生徒の言うことを聞くんだ。いいな」


 モーズは「モォォ」と鳴いて返事した。了解と思っていいようだ。

 俺はマリアに残るように言い、生徒たちを先に避難させた。


 そして、マリアとナビの三人になったところで、俺はミラーの家であったことを説明した。

 マリアは少なからずもショックを受けたようだったが、冷静に最後まで話を聞いてくれた。

 そして、マリアからも病院で起きている不可思議な現象について聞くことができた。


「その五か所の病院が、学園を囲う結界の供給源とみて間違いないでしょうね」

「生徒の魔力で結界を作ってるっていうのか?」

「生徒たちが眠らされていた二週間の間に、強制的にMPを溜め込むようにされていた可能性が高いです。そのMPを強制的に放出させ、結界を維持しているのだと推測できます」

「ということは、放っておいたら結界は消えるってことか?」

「病院で眠る生徒がMPを吸い尽くされて廃人になれば結界は消えますね。ただ、そうなった場合の治癒は不可能です」


 ナビが淡々と説明した。ロックコンドルの足を掴んだまま。

 MPが0になって気を失うだけじゃないのか。MP0の向こう側。精神的な死。

 つまり、ミラーが言った、俺が行かなければ生徒を殺すといったのは、脅しでも何でもない、事実ということかよ。


「俺は広場に行く」

「待ちなさい、一人でいくなんて無茶よ」

「いまのミラーの狙いは俺だ。ここの生徒は巻き込まれただけだ、放ってはおけないだろ」

「じゃあ、私も一緒に――」

「マリアは他の病院にいる生徒を助ける方法を模索してくれ。残り4ヶ所の病院にいる人全員を助けたら、結界は消えて骨人形は動けなくなっちまうんだから」


 それに、と俺は呟いた。


「無茶といわれるようなことをやってこそのチートってもんだろ?」


 久しぶりに言えた。少しアレンジが加わったが問題ないレベルだな。

 俺の久々の決め台詞に、マリアは―― 


「タクトくん、それ、決め台詞にしてるのは聞いてたけど、絶対流行らないと思うわよ」


 半眼をこちらに向けて、呆れた口調で言う。

 決まったと思ったのに、マリアには不評のようで、少し残念だ。

 まぁ、おかげで緊張感もほぐれたかな。


「……わかったわ。なんとかやってみせる。この学園は私の母校でもあるんだし」


 マリアはそう言い、校門へと向かった生徒たちのほうに駆け出し、


「その代わり、絶対に無事でいなさいよ」


 そう、言い残していった。


「わかってるさ。こんなところで死んでたまるか」

「マスターが死んだら誰が上質なMPをナビに補給するというのですか」


 ナビがロックコンドルの足を掴んだままそう言う。

 俺はお前専用のガソリンスタンドじゃないんだが。ハイオク満タンなんて頼まれても困るぞ。


「ナビ、お前は避難しなくていいのか?」

「名称:マリアの言い方を模倣すれば、この学園はナビが800年も暮らした町ですから」

「オートマトンにも郷土愛ってあるんだな」


 俺が笑って言うと、


「おそらくですが、ナビの大切な記憶データの残滓が……この町に眠っているとナビは思うのです。直感を信じるなど、機械にあるまじき行為ですが」

「いや、それでいいんじゃないか?」


 不確かだけど大切なものを守るためか。

 戦うのには十分な理由だ。


「俺もさ、今更だけど日本の高校生活も悪くなかったなって思えるよ」


 そう言って、俺もまたロックコンドルの足をつかんだ。

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