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13 啓示

「まずは、よくぞ見抜いた、と褒めたほうがよいのかの」


 ミラーはあごひげを触りながら、落ち着いた様子でそう言った。

 そして、近くにあった椅子に座り、虚空を見つめてまるで思い出話を語るかのような感じで口を開いた。


「何から話そうかの……」

「全部話せ。教授にもなったんだから説明するのは得意だろ?」


 俺はミスリルの杖をミラーに向け、怒気を含んだ声で言う。


「なかなか痛烈な皮肉じゃの」


 ミラーは軽く笑い、


「まぁ、よい。全ての始まりはマリア嬢ちゃんと会ったときのことじゃ」


 そう言って、マリアと会ったときのことを語りだした。

 マリアが自分は異世界の人間であるということをミラーに語った。召喚魔法で元の世界に戻れないかと聞いてきたそうだ。もちろん、そんな術はなかったが、彼女の持っていた医学の知識を聞き、彼女の言っていることが事実だと知った。


「わしはその時、召喚魔法の実現性を知った。何しろ、実際に召喚されたものがおるのじゃから」


 マリアから多くの話を聞いたミラーだが、彼女が王都に戻った後も研究を続けたいと思い、多くの流浪の民を集めたこと。

 だが、彼らは記憶を失っており、有力な情報はまるで得られなかった。

 そして、ミラーの頭に一つの疑問がよぎった。

 流浪の民は、本当に自分たちと同じ人間なのか? と。

 それを徹底的に調べないといけない。

「それは研究者としての使命だ」とミラーは語った。


「まさか……あんた……」

「最初の一人を解剖したのは……もう一年半も前になるのかの」


 とても簡単に、まるでカエルを解剖した話をするように、ミラーは人を殺した話を始めた。

 もともとホムンクルスを研究していたから、人体の仕組みにはある程度知識があった。ただ、解剖してもおかしな点はほとんどない。

 そして、十人ほど解剖したところで、人体の仕組みには違いがないことを知った。

 次に足を切り落として再生能力の測定、耐魔法属性の研究、脳の研究、痛みの研究、薬物投与による研究……

 気付けば70人もの流浪の民がミラーの手によって殺されていたという。

 最初の数人以外は人売りから買ったものだと言った。

 あの時、木箱から目覚めなければ俺は71人目になっていたということか。


「あんた、それでも教師か」

「わしはただの研究者じゃよ。まぁ、70名殺しておいて何の成果も得られないのだから愚かな研究者じゃったというべきか」

「……狂ってる」

「まぁ、そう言われても仕方がないのぉ」


 ミラーは不敵な笑みを浮かべ、


「わしも、まさかたどりついた先が、邪神信仰だとは思わなんだ」

「邪神信仰!?」


 1200年前から世界中で暗躍しているといわれるカルト集団。

 世界を混沌へと導くことを神は望んでいる。だから、世界の理を守るために世界を混沌へと導くという、矛盾しているようにも思える教義を持つ奴ららしい。

 そして、俺の命を狙っている。

 

「異世界から普通の人間を、しかも特殊な力とともに召喚するものがいるとしたら、それは神の技術を持つものだとワシは思った。しかも、混沌をよしとする邪神であろうとな」


 ミラーの発言に俺は息をのんだ。

 この世界に俺たちを呼んだのが邪神?

 そんなこと考えてもみなかった。だが、ゲームを開始したら異世界にいたなんてものは確かに普通の人間の仕業ではない。

 いや、そんなの考えても今は意味がない。


「そして、坊主たちが訪れる前に、ワシは神の声を聞いたのだ。ワシがこのリューラ魔法学園でするべき啓示が下ったのだ」

「まさか、今回の事件はやっぱりあんたが――」

「ふむ、気付いておったのか?」


 気付いたのはさっき、お茶を飲まされそうになった時だ。

 だが、ハンズが犯人でない可能性があると思っていた。

 何故かといえば、外にいた魔物が全て骸骨兵だったからだ。

 死んだ者を生き返らせて操るのが死霊術だというのなら、骸骨兵だけでなく、他の獣の死体などを操るのが道理だろう。

 それに、崩れ落ちて死んだハンズ。研究の成果をしっかりと見ないまま崩れ落ちるその姿は、死霊術が未完成であることを思わせてしまう。

 とすれば、ハンズに罪を着せたい誰か。

 ナビは言った。


『骨の人形を動かすための魔法結界』


 本当に、あれが骸骨ではなくただの人形だとしたら?

 人形にかりそめの命を吹き込むのは死霊術ではない。

 それは――


「外の骸骨兵もどきにはあんたのホムンクルスの技術が使われてるんだな」


 まぁ、ここに来るまでは可能性としか考えておらず、その裏にミラーが関わっているとは思わなかった。なので、ホムンクルスの研究をしているミラーの助言を聞くためにここに来たわけだが。

 もちろん、そんなことはここでは言わない。


「聞かせろ、どうすれば外の骸骨兵は止まる?」

「ふん、わしが答えると思ったのか?」


 ミラーはそういい、椅子から立ち上がる。


「答えないなら……あんたを殺す」

「好きにせい。わしは茶でも飲んでおるわ。本当は邪神様にはこの混乱の中で坊主を殺すようにいわれておったんじゃがの、こうなっては仕方あるまい」


 そういって、厨房のほうに歩いていこうとした。

 睡眠薬で眠らせてから解剖でもして殺そうとしたのだろう。


『我々はいつでもいる。どこでもいる』


 俺の目の前で息を引き取ったエルフの騎士、スレイマンの言葉を思い出す。

 その言葉の通りになったってことか。

 

「ならば遠慮はしない。あんたを殺せば骸骨兵が止まる可能性も――」

「マスター、待ってください」


 ナビが抑揚のない声で俺を止める。

 わかってる、脅してるだけだ。本当に殺すつもりはいまのところない。


「そこにいる、名称:ミラーは偽物です」

「え?」


 言われて俺は再度ミラーを見る。

 だが、そこにいるのはいつもの食えない爺さんがいるだけだ。


「ふむ、人形を見抜くのは人形か」


 そういうと、ミラーの肉体がまるで泥のように崩れだし、骨だけがそこに残った。ハンズの時と同じだ。


「一つだけ言っておく。ハンズは自らの意志で人形になってくれた。わしらの夢をかなえるためにな」


 骨となったミラーが肩をすくめたように言う。

 自分の意志で人形になった? 夢のためにそんなことをするのか?


「では、これより最後の講義を行おう。町の中心で待っておるぞ」


 ミラーの右腕が肩から崩れ落ちた。

 さらに左腕と崩れ落ちていく。


「来ないのなら、病院で眠っている生徒たちを殺す。全てが終わったら、神から褒美を頂戴できるのでな、遠慮はしない」


 そう言い残すと、骨となったミラーは膝から崩れ落ち、バラバラになった。

 病院で眠る生徒――これもミラーの仕業だったのか。


「明らかに罠ですね」


 ナビが言う。わかっている。


「でも、行かないわけにはいかないだろう。神の御指名を受けたんだからな」


 そういって、俺は玄関へと駆けだした。

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