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12 精神

※マリア視点の話です。

 銃声が迷宮の中に響き渡った

 骸骨兵は銀の弾丸に脳天を貫かれ、カードへと姿を変えた。

 硝煙の香りに包まれながら、私は後ろからついてくる一団に声をかけた。


「もうすぐよ、みんな、しっかりついてきて」


 振り返ると、学園都市の学生たちが私の拳銃を見て語り合っていた。


「骸骨兵が一発で……なんて魔法だ」

「魔法じゃない、東大陸の火薬武器だよ」

「まじか? 火薬武器ってハデなだけのこけおどし道具じゃないのか?」

「あとで分解させてもらえないかな」


 生徒が口々とそんなことを言ってくる。

 緊張感のない子供たちね。

 銃の威力は、銃の性能もあるが、私の「銃34」のスキルも大きい。「狙撃32」のおかげで外すこともないだけでなく、急所を捉えて撃てているのもある。

 最初のころは両手で持って撃っていた拳銃も今では片手で撃てているし、反動による体の負担もまるでない。

 銃スキルのレベルアップの恩恵は意外と多い、なんてことを今講釈する暇はない。これは遠足ではないのをあの生徒たちは理解しているのかしら。

 その点、私のすぐ後ろをあるくゴールド教授は違うわね。とても落ち着いている。

 50歳くらいの、拳闘士のような体つきの巨漢の人で、その拳で殴ったら骸骨兵くらい一発で倒せるんじゃないかと思ってしまう。

 まぁ、体つきとスキルレベルは必ずしも比例しないのだから、案外スキルは「打楽器14」とかだったりするのかもしれないが。

 そのゴールド教授は後ろで騒ぐ生徒を一喝すると、私に申し訳なさそうに、


「マリア殿、あとで生徒たちに講義をしてもらえないか?」


 と言ってきた。どいつもこいつも糞くらえだ。

 みんなこの緊急事態を理解していないのかしら。

 学園の歴史を紐解いてもこのような大惨事は記録にないでしょうね。

 

「話は全員の避難が終わってからしましょう」


 私はひきつった笑みでそういうと、前へと進んだ。



 迷宮の中を進むこと30分程度だろうか。目的の場所にたどり着いた。

 骸骨兵の数は少なかった。連日連夜タクトくんが討伐していたからだと思われる。


「ゴールド教授、お願いします」

「うむ、吾輩に任せておれ」


 ゴールド教授は、その身体を比べたら小さすぎる鍵を鍵穴に差し込んだ。

 扉のロックが外れる音が聞こえた。


「私が先に行きます。教授は後からついてきてください」

「うむ、仕方あるまい」


 階段を上がっていくと、トビラの代わりに紙のような何かがあった。

 私はそれを押すと――


「道場?」


 まるで剣道場みたいな場所に出た。

 木張りの床がとても美しい。

 紙のような何かと思っていたのは、巨大な掛け軸だった。

 そして、その紙には「心・技・体」と書かれている。


「うむ、魔法には精神の育成が不可欠。吾輩の生徒たちはいつでもここで瞑想をしておる。マリア殿も今度一緒にどうかね?」

「丁重にお断りします」


 やっぱり拳闘士じゃないかしら。


「本来は土足厳禁としておるのだが、仕方あるまい」

「当然です。先生、玄関はどちらですか?」

「うむ、こちらだ」


 ゴールド教授の案内する方向に進む。

 扉は木製の引き戸だった。

 そして、道場を出ると、松の木が植えられた小さな日本庭園と軒先があり、日本庭園の奥に入口の門がある。

 変な造りの家だと思う。

 庭の砂利は綺麗な波模様を作っていたため、踏み荒らすのがもったいないと言われるかと思った。だが、先にゴールド教授が軒から庭に降りて進んでいく。

 そこは問題ないんですね。


 門の外には骸骨兵の姿は見えなかった。

 それにしても、外観は日本らしさがまるで見られない。内側は白塗りの壁だが、外側はレンガ造りになっている。まぁ、外までも日本風の建物があれば学園都市の街並みから浮きすぎているよね。

 そして、学園から外に出ることのできる大きな門がはっきりと見えた。

 今は開かれている。中の状態を把握した門番が開けたのだろう。

 ダメな門番なら、中にいる骸骨兵が怖くて外から門を閉じてしまいそうだけれども。


「教授たちは早く外へ、私はここで最後の生徒が来るまで待ちます」

「そうはいかん。生徒はあの発表会にいたものだけではない」

「え? 他にいるんですか?」

「うむ、先日から学園中で奇病が蔓延しており、数十人の生徒が寝たきり状態だ」


 そういえば、タクトくんから教えてもらっていた。

 病状は風邪なのに意識を失って入院になっている生徒が大勢いると。


「吾輩は彼らの無事を確認できるまではこのリューラ魔法学園を出ることができない」

「……あぁ、もう。私も行きます」

「しかし、町中を歩くのは危険だぞ」

「……仕方ないじゃないですか」


 私はため息をついて、「全部あの子のせいよ……」と呟いた。

 タクトくんなら絶対に放っておかないわよね。少なくとも、誰かのために頑張ろうとしている人がいたら助けないと。


「そのかわり、無茶はさせませんよ」

「うむ、恩に着る」


 ゴールド教授がそう言うと、私は後ろから来た生徒に向かって叫んだ。


「あなたたちもついてきなさい」


 後ろから来た生徒たち数十人に向かって私が言い放つ。

 事態に気付いて避難してくれていたらいいのだが、病院に留まっている医者や職員の数は限られている。

 患者が寝たきりだというのが事実なら、全員を連れて逃げている可能性はかぎりなく低い。

 となれば、今は人数がいる。患者を連れて外に出るには二人ではきつい。


「なんで俺たちが――」


 不満の声があがったが、

 私は銃を一発、誰もいない方向に向かって撃って、


「あなたたちの安全は私が保証するから、ついてきなさい」


 そう言ったら、彼らの不満の声はなくなった。素直ないい子たちだ。

 私達はゴールド教授とともに、近くの病院へと向かった。

 全員を救うなら遠くの病院から行くべきなのだが、被害を最小限に留めるのなら門の近くから行かなくてはいけない。

 大を救うために小を切るという考え方になるけれど。まずは生徒たちの様子も確認しないといけないし。


 病院はゴールド教授の家から走って五分の場所にあった。

 ここまで骸骨兵の姿は見えない。


「ここだ」


 小さな家のような病院だ。

 私が先に扉を開けて中に入ろうとした……が、鍵がかかっていてあかない。

 ドンドンと叩いて声をかけても、中から応答はなかった。


「今から扉を壊します! 中に誰かいるのなら扉から離れてください」


 そういい、私は銃を一発、トビラの鍵穴近くにぶち込んだ。


 扉を開けてみると――中に人がいた。

 医者と思われる、私とよく似た白衣の男が倒れていた。

 そして、その身体が――淡い光を放っている。

 急いで私が病院の中に入ったが――


「…………!」


 急に力が抜けてきた。これはまさか――


「入っちゃダメ!」


 私はそう言って、私に続いて入ろうとするゴールド教授を制し、私も外に出た。


「この病院に入ると、どういうわけかMPが奪われるようになってるの」

「それは、一体どういうことだ」

「わからない。けど、中に入ったら一分程度でMPの残量が0になって、立っていられなくなるわ」

「……一分……であるな」


 ゴールド教授はそういうと、私の制止を押し切り、中へと入っていった。


「教授、無茶です!」

「生徒が吾輩を待っておるのだ!」


 そう言って、教授が病院の奥へと走っていった。

 三十秒、五十秒、一分待っても教授の姿は現れず、もうダメだと思ったとき、


「魔法は精神がいのちぃぃぃぃっ!」


 なんと、教授は生徒二十人、看護師二人を全員背負って病院の奥から現れ、病院から出てきた。

 限界の力を使ってここまでやったというの? でも……

 病院から出て倒れたゴールド教授はMPの残量が0になり、他の患者と同様動くことができないでいた。


「一度、ここにいる全員を学園の外に運ぶわ。みんな、手を貸して」


 そして、私は最後に入口手前で倒れていた医者を救い出すと、謎の現象が起きている病院を見つめた。

 間違いなく、学園都市全体の騒動と関連しているであろう。

 だが、それを確かめる手段は現在の私には持ち合わせていなかった。

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