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11 効能

 生徒の数が十人や二十人なら、瞬間移動で脱出するのが確実だろう。

 だが、小さな範囲の中でしか飛ぶことのできない瞬間移動で避難するには生徒達の数が多すぎた。

 そのため、やはり確実な避難経路を作る必要がある。

 先生が先に地下への鍵をあける。地下倉庫というと埃っぽくて、蜘蛛の巣でも張っているイメージがあるのだが、入ってみるとそうでもない。

 むしろ、空気が乾燥している気がする。書物の保存のためだろうか。

 研究発表会の会場となっている場所の地下は確かに倉庫になっていた。

 金属製の棚に、多くの書類や本が入れられていた。


「ライト」


 光の魔法で照らし出すが、迷宮への入り口らしいものは見当たらない。

 レンガ造りの壁を見つめながら、ボーナス特典の「鑑定」を発動させる。

 隠しボタンの類はないが……年代鑑定によると、ある場所だけ造りが新しい場所があった。


「ここかっ!」


 俺は破邪の斧で壁に一撃を加える。

 一撃目でいくつかのレンガにヒビが入った。


「何をするんですか!」


 傍から見たら俺の気が狂ったように見えるのだろう、一緒にいた先生が声を荒げた。


「黙っていてください! ここに入口があるんです!」


 もう一撃を加える。レンガの一部が壁の向こう側に落ちた。

 正解だ。穴の奥から淡い光が漏れている。

 まさしく、迷宮の魔力鉱の光だ。


「もぉぉいっちょぉぉ!」


 俺は力を込めて斧を壁にたたきつけた。

 今度はがらがらと壁が崩壊し、迷宮への入り口がはっきりと現れた。

 横にいた先生が「まさか、こんなところに」と呆然と呟いている。


「先生、はやく生徒を順番に誘導してください」

「しかし、中には魔物が――」

「私たちが露払いするわ」


 マリアがそう言って拳銃を構え、ミーナ、サーシャ、シルフィーが武器を構える。


「……これ、俺が作った迷宮の地図です。ナビが言うには、ここに通じてるはずです」


 自作の地下迷宮の地図を取り出し、ナビに教えてもらった場所を指さす。

 迷宮の中央だ。


「おそらく、ここにある出口が一番、学園の入口から近いはずです」


 鍵がかかった扉があり、扉に4の数字があった。迷宮の隠し扉とは違う木製の扉。

 それは教授の家に繋がる出口である証であるらしい。


「ここは……」


 先生は学園の案内マップを取り出して、迷宮の地図と照らし合わせる。


「ゴールド教授の家か。ありがとう、すぐにゴールド先生に言って、誘導を開始する」

「お願いします。俺はナビと一緒に一度ミラー先生の家に向かいます」

「ミラー教授の家? どうしてです?」

「たぶんですが、この事件の解決の手がかりをミラー先生が持ってると思うんです」


 あくまでも俺の予想だが、この場所に彼がいない以上、自宅にいる可能性もある。 

 先生とミーナ達に後を頼むといって、いつもの魔法を唱える。


「瞬間移動!」


 そう叫んだ直後、世界が変わ――らなかった。

 戦闘中などに起こる瞬間移動の不発。だが、今は戦闘中ではないのに、どうなってるんだ?


「マスター、学園全体に特殊な結界が張られている痕跡があります。骨の人形を動かすための魔法結界でしょうが、その中にいる限り戦闘中とみなされているようです」


 ナビが説明に、小さな可能性が大きな可能性に変わった。

 だが、今は瞬間移動が使えないのは辛い。


「あぁ、くそっ、肝心な時に……じゃあ、迷宮から行くしかないのか」

「ナビもついていきます」

「いや、ナビは避難誘導を」

「マスターは金属の扉を鍵を使わずに開けることができるのですか?」

「……ナビは開けれるのか?」


 ナビがこくりと頷く。


「わかった。ナビ、ついてきてくれ」


 俺はナビとともに迷宮へと入っていった。

 二週間篭っていた迷宮だ。地図がなくてもミラー先生の家までならすぐに行ける。


「ナビ、さっき言ってたことなんだが――」


 俺は先ほど感じたナビの言葉について尋ねた。

 それにナビはよどみなく答える。

 やはりか――


「急がないといけないな……」


 俺はナビの足の速さにあわせて走り出した。

 途中、骸骨兵が現れたが、俺のファイヤーウォールによって瞬殺され、複数枚のカードへと姿を変えることになった。

 やっぱり、迷宮の中にいるのは普通の魔物のままだな。

 カードをそのまま捨て置き、俺たちはミラー先生の家の入口めがけて走り続けた。




 二十分くらい走っただろうか? ようやく目的の場所にたどり着くと、鉄の扉が俺を待ち構えていた。

 息を整えながらノブを回してみるが、鍵がかかっているらしく引いても押しても開く気配はない。


「ナビ、頼む」


 そう言って俺は一歩退いた。

 ピッキングでもしてくれるのだろうと期待したが、ナビは扉に手を当てて止まった。

 そこから動く気配がまるでない。


「ナビ、何してるんだ?」

「この扉は魔法システムにより開閉することができます。マスターが使っていた鍵は、本来の鍵として施錠を開く物ではなく、魔法アイテムだったんです」

「そうだったのか」


 わかりやすくいえば、ホテルのカードキーによる電子ロックみたいなものか。

 まぁ、間違えて誰かが開けっ放しにしたら危ない場所だからな。

 それならオートロックくらいあってもいい気がするが、それだと迷宮の中で鍵を破損したら目も当てられないか。


「なので、システムを書き換えして、鍵が刺さったときだけロックされるように書き換えています」

「そんなことが可能なのか?」

「ナビとは同じ魔法を動力とした機械同士です。解除できました」


 そういって扉から手を離し、ノブを回した。

 扉はゆっくりと音を立てずに開き、先生の家に続く階段が現れた。


「行くぞ」


 階段をかけあがり、一階の廊下に出る。

 廊下から食堂が見えたが、誰かがいる気配はまるでない。

 外にいるであろう骸骨たちも建物の中には入ってきていないようだ。もしかしたら、会場の周辺に全て集まっているのかもしれない。

 食堂を抜けて二階にあがろうとしたときだった。どこかで嗅いだことのある匂いがしたと思ったら、食堂の影に――彼はいた。


「ミラー先生……」

「坊主か。外は大変じゃったの」

「どうしてここに?」

「何、ここが一番安全だと思っただけじゃよ」


 ミラー先生はあごひげを触りながら、楽しそうに笑った。

 あの骸骨兵のいる中どうやってここまで来れたんだ? という疑問のほうが大きいんだが。


「坊主はわしを助けに来てくれたのかの? できればマリア嬢ちゃんのほうがよかったんじゃが」

「冗談を言わないでください。今、外がそれどころじゃないのはわかってるでしょ」

「ふむ……わかっておる。ハンズめ無茶をしおって……」


 ミラー先生は残念そうに眼を細めて呟いた。

 そして――


「待っておれ、とっておきの秘策を今用意しておる」

「とっておきの秘策?」

「あぁ、少し時間が必要じゃからの、坊主達はそこにあるハーブティーでも飲んで待っておれ。ワシの特性のハーブティーじゃ。魔力UPは間違いなし、これからの戦闘で絶対に役に立つぞ」


 どこかで嗅いだことのある匂いがすると思ったら、紅茶だったのか。 

 ハーブティーのようで、とてもいい香りがする。

 本当に……とても懐かしい香りだ。


「ミラー先生、この香り、俺、一か月前に嗅いだ覚えがあるんですよね」

「ほぉ……それはワシのオリジナルハーブを使っているから、市場には出回っておらんと思うが」


 ミラー先生の言うことを聞きながら、俺はティーポットの蓋をあけて鑑定スキルを使った。

 ハーブティーの効能が次々に脳裏に浮かぶ。

 リラックス効果や利尿作用。


「一か月前、俺、東の大陸で飲んだんです」


 そして、一番大きなハーブティーの効能、それは――


「強烈な睡眠効果のあるお茶なんですよね、これ。具体的には、箱詰めにされて船に乗せられて運ばれても気付かないくらい」


 俺がポットからお茶をそのまま床へと流す。

 床にシミが広がっていった。

 そう、このハーブティーは海賊に飲まされたあのお茶と同じ香りがした。

 俺がそういうと、ミラー先生は困ったような顔をした。


「…………そうか、坊主があの人売りどもを壊滅させた男か……これは失敗じゃったの」


 ミラー先生、いや、ミラーはあごひげをさわりながら俺を睨みつけきた。

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