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6 案内

 その女の子は、10歳くらいの女の子の姿をしていた。銀色ボブカットの髪に黒と白のゴスロリ衣装を着ている。シルフィーよりもさらに年下の女の子だ。そして、虚ろな赤い瞳を俺に向けている。

 先ほど呟いた後、全く動こうとしない。


「……人間?」


 後から入ってきたマリアも少女を見つけ、そう呟いた。

 俺は慎重に彼女に近づき、鑑定スキルを使った。


「オートマトン……自律人形?」

「人形なの? 先生! 先生!」


 マリアが大声をあげてミラー先生を呼ぶ。


「どうした? おぉ、これは……」

 

 ミラー先生は興味深そうにその自律人形を見つめて、ほっぺや首筋を触り、スカートの中を覗こうとしてマリアに止められた。

 手足の可動域を確認し、瞳を覗き込み、胸の柔らかさを確かめようとしてマリアに叩かれた。


「ふむ、これは800年前に動いていた自律人形で間違いないようじゃの。坊主、こっちにこい」

 

 ミラー先生は俺を呼ぶと、俺の手を引っ張り、人形の口元にもっていく。

 もうすぐその唇に触れようかというとき、人形の口が大きく開いて俺の人差し指、中指、薬指にかみついてきた。


「いたっ……くないが、力が抜かれてる……」

「我慢せい、こやつは魔力を失われている状態じゃからの、人間の魔力を吸収しているんじゃ」

「……いや、ちょ、まじやばい、MPなくなりそうだ」


 減っていくMPの速度は下がっているが、底につくのも時間の問題だ。

 中腰になってはいるが、俺は急いでその場で駆け足を始める。歩くたびにMP回復、歩くたびにMP回復。

 そのなんともシュールな光景に、マリアが口に手を当てて笑い出し、ミラー先生は遠慮なく爆笑していた。

 そして、MPの消耗がなくなったかと思ったとき、むくりと人形の首が動いた。

 その場駆け足からその場足踏みへと移行していた俺を見つめてくる。


「名称:スメラギ・タクトをマスターと認識」


 彼女は抑揚のない声でそう呟いた。


「俺の名前をなんでわかったんだ?」

「サーチのような魔法が使えるのかもしれないの」

「マスターご命令を」

「マスターって俺のことか?」

「はい、魔力をくれた人がマスターです」


 単純な理由らしい。

 俺は足踏みをやめて頭をぽりぽりとかいた。


「先生、どうします?」


 マリアがミラー先生に尋ねると、


「うむ、とりあえず研究所に連れていくか……」


 ミラー先生が人形の肩に手を回そうとしたとき、彼女は先生を見つめ、


「名称:ミラー・ガーリンを敵性と判断」


 先生の手を払いのけ、


『マスター、ご命令あればすぐにでも殲滅が可能です』

「やめるんだ、ミラー先生はただお前のパンツを見ようとしたり胸をももうとしただけだ」


 俺がそう言って人形を止めると、「それって攻撃するには十分なことよね」とマリアが呟いた。


「そうですか、マスターのご命令とあれば敵性を解除。臨戦モードから警戒モードに移行します」

「警戒モードって……まぁいいや。で、君の名前は?」

「名前はマスターが決めるものです。識別番号は『ああああ』ですが」

「何、それどこの勇者だよ」


 せめて識別番号はアルファベットと数字の組み合わせだろうが。


「マスター、訂正を要求します。私は勇者ではありません」

「わかってるよ」

「勇者など私の足元にも及びません」

「まさかの超職業爆誕?」


 どこまで本当なのかわからない。

 強さを確認しようと、俺はスキル変更技能を使って彼女のスキルを見ようとしたのだが見られない。


「マスター、私にはスキルシステムはありません」


 驚いた。スキルを持っていないことにではない。

 俺がスキル変更技能を使ったことを彼女は見抜いたのだ。


「どうしてわかったんだ?」

「私は初期システムにおいてナビゲーションシステムとして設計されていました。このくらい当然です」

「ナビゲーションシステム……」


 そう言われて思い出すのはボーナス特典のナビゲーション。

 

「一部の流浪の民が聞くことのできる不思議なメッセージのことか」


 ミラー先生が思い出したようにつぶやいた。

 今はオフにしているが、スキルを覚えたとき、スキルレベルが上がったとき、決死の一撃を使ったときに出るメッセージだ。

 それと関係あるのかどうかはわからないが……


「とりあえず、仮の名前でナビでいいか?」 


 俺がそういうと、マリアは「安直すぎるわ」と呆れた様子だったが、少女は顔色を変えず、


「マスター、命名感謝します。固体名および一人称を『ナビ』に変更。次に、ナビの話し方に対して御支持をください」

「しゃべり方?」

「はい、妹、メイド、お姉さん、お嬢様、男勝り、女王様といった様々な口調に設定できます」

「ほう、じゃあわしはその女王様風の話し方がいいのう」


 ミラー先生、これ以上ナビの警戒を高めるような発言はやめてほしい。


「いや、そういうのはいいから! ナビ、今のままでいい」

「了解しました」


 ナビが無表情にそう言う。


「ナビについていろいろ教えてほしいが、とりあえず迷宮から出ようか……先生、本をカード化しますね」

「うむ、助かる」


 俺は隣の部屋にあった山のような本を一冊ずつカード化していく。

 最後の一冊をカードに変え、瞬間移動で帰ろうか、そう思ったときだった。

 俺の索敵スキルが魔物の反応を告げる。

 このまま帰ってもいいが、倒してもいいか。


「先生、魔物が来ました。すぐ終わりますから――」


 俺はそう言って部屋を出ようとしたとき、ナビが俺より先に部屋を出た。

 そして、迫りくる5体の骸骨兵に対し、


「魔法システムを構成、最適魔法、ファイヤーウォールと判断」


 彼女はそう呟くと、無言で手を前にだした。

 そして――


 炎の壁が現れた。


 俺のファイヤーウォールよりも威力は落ちるが確かに現れたファイヤーウォールは骸骨兵を飲み込んでいき、全てがカードに変わった。


「あれ、ナビが倒したのに……カードが多い」


 落ちていたカードの枚数はいつも通り通常の5倍はある。

 しかも、落ちたドルグの金額も5倍はある。


「それは、ナビはマスターの人形扱いになっているからです。マスター、スキルをご確認ください」

「スキル?」


 俺は自分のスキルを見て驚いた。

 空きにしていたはずのスキルに「人形使い」のスキルができていて、もうレベル14になっていた。


「人形は仲間やペット同様、マスターの武器や道具の扱いになります。なので、ナビが倒してもマスターのドロップアイテム5倍等のボーナスは引き継がれます」

「俺がドロップアイテム5倍を持っているってわかるのか?」

「はい、ナビゲーション機能を持つオートマトンですから。次に、裏メニューを開いてください」

「裏メニュー?」


 俺は言われた通り、裏メニューを開く。

 そこには【取得伝説魔法一覧】だけが表示されているはずなのだが、今は違った。


【オートマター状況】


 オートマトンじゃなくてオートマターなんだな。

 そう思いながら、俺はそれを調べた。


【ナビ:MP残量1% 損傷率0%】


 名前とMP残量と損傷率が表示される。


 ナビは無表情の顔のまま、少し間を置き、


「ご存知の通り、MPの残量がなくなりかけています。このままでは待機モードに移行します。補給をお願いします」


 ナビはそういうと、俺の手を取り、指を吸い出した。

 え、MPが吸われていく。

 俺はその場で駆け足をはじめたのだった。

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