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4 魔法

 宿屋に戻ったころ、ちょうど太陽が沈んだときだった。


「スメラギさん、お帰りなさい、夕食の準備ができていますよ」

「ありがとう、あとこれ、お土産」


 俺は残りのウサギの肉カードを宿屋の娘さんに渡した。


「明日の夕食にしてくれないかな、残った分は好きにしていいから」

「いいんですか? 私もお姉ちゃんもウサギのお肉大好きなんです。しっかり料理しますから楽しみにしていてくださいね」


 いいなぁー、この会話。

 まるで新婚夫婦の会話みたいでとても耳あたりがいい。

 それとお姉さんがいるのか? 彼女に似て美人なんだろうな。


「そういえば名前を聞いてなかったけど」

「あ、私はミーナと言います」

「ミーナか、いい名前ですね」

「はい、自分でも気に入っています」


 満点をあげたいくらいの笑顔で答えてくれた。かわいいな、こんちくしょー。

 夕食は野菜のスープとパンだった。スプーンは今回は用意されている。

 パンは固くて、お世辞にもおいしいとはいえないが、野菜のスープは心まで温まるうまさだった。

 思わずおかわりと叫びたくなるところだが、さすがにそれは思いとどまった。

 俺が一番だったみたいだが、あとから他の部屋の客が数人やってきて、すぐに満席になった。

 そのため、入れ替わるように俺は食堂を後にしたとき、


「お、あんた、うちの客だったんだね」


 門番のお姉さんが階段の前にいた。


「うちの客? もしかしてミーナさんのお姉さん?」

「そうさ、ミーナは私の妹さ」


 なるほど、肌の色が違うが、美人なのは確かだ。


「兎はとれたのかい?」

「ええ、それなりに。といってもウサギの肉は俺は使いませんから、妹さんに渡しておきましたよ」

「おぉ、ありがとうね。私、あれ大好きなんだよ」


 そういい、彼女は俺の目を見ると、右ほおに――


「これはお礼よ」


 なんて言って、なんて言って――


「あはは、うぶだね。頬にキスなんて挨拶みたいなもんでしょ」


 お姉さんは俺の肩を叩いて食堂に向かった。

 一人残された俺は――


(『異世界サイコ―ーーー』)


 と胸の内で歓喜していた。

 思えば、一週間ろくな生活をしていなかったのは幸いといえる。胃が小さくなっていたため、食事の量を少ないと感じることはなかった。

 もしかしたら、それだけではなく【節約】というボーナス項目の効果が出てきているのかもしれない。違うかもしれないが。

 そしてベッドに横になる。

 蝋燭を使おうかとも思ったが、することもないので休むに限る。


(当たり前だが、異世界……なんだよな)


 することが多かったので、改めて考える暇などなかった。


(ゲームの中……かもしれないが、どちらかといえばゲームの中風にイメージされた異世界だろうか。食事の味はしっかりしているし、歩いたら疲れるし、なにより)


 俺は背中に手をまわした。

 ジャージが破れている。


(あの時の痛みは夢や幻なんかじゃない)


 死を意識した。死と隣り合わせという事実を意識した。

 これは、夢なんかじゃない。ゲームなんかじゃない。


「眠れないな……」


 良眠スキルとかボーナスで貰えなかったのだろうか。

 あ、でもベッドは寝心地いいかも。俺、高校になって一人暮らしをはじめてから布団とか使ってなかったからな。


 眠れないと言いつつも、異世界疲れはあるらしく、意識を手放すのに時間はかからなかった。


 だが、その眠りも簡単に妨げられる。


 教会の鐘の音だ。

 夕食提供終了のお知らせだ。食事中にミーナから聞いたが、町の人はこの音で眠りにつくという。そして、夜明けにもう一度鐘がなり、起きるらしい。

 目が覚めてしまったが、再び寝ることにした。

 再び起きたのは鐘の音ではなく、ミーナの声だった。


「スメラギさん、朝ごはん、置いておきますね。食器は置いてくださればお昼に下げますから」


 その声に目を覚ますと、ミーナが出ていく姿が見えた。扉がしめられたのを確認し、上体を起こす。

 挨拶し損ねたな。

 朝ごはんは昨日の硬いパンと牛乳とサラダだ。

 とりあえず、のどが渇いたので、水道の水を飲もうとしたが、そんなものはないのに気付き、牛乳を飲む。

 そしてパンを食べた。硬い。

 サラダはおいしかった。マヨネーズがあれば最高なんだが。

 メニューを開き、スキルを確認する。

 寝ている間に増えたスキルはなかった。


【採取2・毒耐性3・拳攻撃5・伐採8・棒術2・足防御1・投擲2・逃走2・身体防御4・獣戦闘3・計算2・商売4・信仰2・値切り6・短剣8・索敵2・空き・空き・空き・空き】


 一番レベルが高いのは伐採。次に短剣か。

 数も増えてきたので、そろそろ取捨選択の時期もくるだろう。値切りは使うときだけに装着したらいいか。計算も普段はあまり必要ない。通常の計算ならスキルがなくてもできる。棒術もとうぶん使う予定はない。

 棒術を空きに変更した。

 とりあえず、魔法とか使いたいけど、どうやったら使えるんだ?

「魔法ってどうやったら使えるんですか?」と聞いたら変な目で見られそうだしなぁ。

 特にミーナとは良好な関係を築けているので、「え、スメラギさんそんなことも知らないんですか?」とか言われたくない。

 ミーナのお姉さん(名前を聞きそびれた)も同様だ。

 ならば、あの人に聞こう。

 俺は盾と短剣を持って、部屋を出た。

 ミーナさんの姿は見えなかった。買い物にでもでかけたのだろうか?

 それにしても、盾は持ち運ぶにはちょっと不便だな。カードになれないだろうか。


「カード化ってスキルあったなぁ」


 70ポイントと、意外と高いボーナスだ。

 思い出して、盾に「カード化」と念じてみる。

 すると、盾は縮んでいき、一枚のカードになった。


「お、成功だ……っと、なんか疲れたな……MP消費したのかな」


 とひとりごちていると、


【魔法技能スキルを覚えた。魔法(特殊)スキルを覚えた。魔法(特殊)レベルがあがった。】


 一気に二種類スキルが増えた。

 期せずして魔法スキルを習得した。

 そうだ、もう一つ。

 今度は「カード収納」と念じてみる。すると、持っていた盾のカードが消えた。

 次にカード出てこい、と念じると盾のカードが出てくる。


「これは便利だ」


 三度魔法を使ったことで、先輩の愚痴を三十分くらい聞かされた疲労感があるが、すぐに落ち着く。

 今日は魔法レベルをあげてみよう。


「おばちゃん、魔法の使い方わかります?」


「魔法かい? 魔法書なら回復の魔法書と火の魔法書があるよ。どっちも神殿に奉納されている第一写本から写し取った第二写本だから高いけどね」

「第一写本? 第二写本?」

「魔法書には強大な力をもった原典があってね、教会の本部とか王国の宝物庫とかに奉納されているんだよ」

「それを写したのが第一写本?」

「そうさ。さらにそれを写したのが第二写本さ」

「それを写したら第三写本になるのか。第三より第二写本のほうが高いんですか?」

「そうだよ。たとえば、第二写本をもとに第三写本を作ったとき、元になった第二写本がなんらかの原因で無くなったら、そこから写された第三写本も魔法が使えなくなるのよ」

 なんとなくだが理解した。

 魔法を使うには写本が必要なのか。

「魔法書は常にもっていないといけないんですか?」

「そんなことないよ。一度契約したら、どこかの金庫に保管してもらえばいいのよ」

「そうか……で、値段はいくらです?」

「一冊3000ドルクグだよ」

「じゃあ、2冊で5000ドルグにまけてください」

「いきなりだね」

 おばちゃんは苦笑しつつも了承してくれた。

「あんたにもらったうさぎ肉がおいしかったからね。それに、正直売れなくて困ってたのよ」

「回復魔法とか便利なのに?」

 魔法への憧れの強い俺からしたら意外な話だ。

「魔法を覚えるにはね、魔法技能スキルっていうのが必要なのよ。でも、魔法技能スキルを覚えるには魔法を使えないといけないの」

「あぁ、確かに矛盾がある」

「だからね、魔法を使えるのは、生まれつき魔法技能を持った人か、生まれつき魔法を覚えてる人だけなのさ。確率でいえば三十人に一人だね」


 天才と呼ばれる人ということか。

 つまり、俺もボーナススキルがなかったら一生魔法が使えなかったということか。それとも、他に抜け道があるのだろうか?


「この村では神父様だけだよ。神父様も回復魔法は使えるし、火の魔法は必要ないっていうからさ、売れ残って困ってたのよ。あんたはこれをどうするんだい?」

「あぁ、とりあえず考えてみます」


 そういい、1000ドルグカードを5枚渡した。値切りスキルも1上がっていた。

 

 宿に戻り、鉛筆で魔法書の契約者欄に名前を書く。


【魔法技能レベルがあがった 魔法技能レベルがあがった 魔法技能レベルがあがった 魔法技能レベルがあがった】


 一気に4レベルもあがった。

 契約しただけでもスキルレベルがあがるのか。

 そして、再び魔法書を見る。

 魔法書は難しいことがいろいろ書いているが、


『炎の初級魔法ファイヤーボール 炎の中級魔法ファイヤーウォール 炎の上級魔法ファイヤーフィールド』


 の三種類が使えること、


『傷治療魔法リカバリー 体力回復魔法リザレクション 毒回復魔法アンチポイズン 麻痺回復魔法アンチパラライ 石化回復魔法アンチストーン』


 の五種類が使えるということが書いている。

 さっそく使ってみるか。

「リザレクション!」

 自分に向かってリザレクションの魔法を使ってみる。

 すると、体力が回復した……気がしたが疲労もでてくる。MP消費によるものだろうか。


【魔法(治癒)スキルを覚えた 魔法(治癒)レベルがあがった 魔法(治癒)レベルがあがった】


 次に炎のスキルを使ってみようと思ったが、さすがに危ないだろう。

 魔法書にカード化と念じる。

 魔法書はカードに変わった。次にカード収納を念じる。二枚のカードは虚空へと消え失せた。


「リザレクション」


 体力はこれ以上回復しないのか、変わった気がしない。精神的な疲労感の方が大きい。


【魔法(治癒)レベルがあがった】


 魔法レベルがあがるということは、効果が発動しているのだろう。つまり、魔法書はカード化して収納しても魔法は使えるということだ。とても安心できる。

 それと、もう一つ。試してない魔法があった。

 にやりと笑みを浮かべ、試してみたかった魔法を唱える。


「瞬間移動」


 そう唱えると、突如世界が変わり、俺は海にいた。

 成功だ、俺は今、海にいる!

 もしかして、これで元の世界に戻れるんじゃないか? と思って、自分の汚い部屋を思い浮かべ、


「瞬間移動」


 と小さな声で唱えた。残念だが何も起こらない。そう甘くはない。

 さて、俺がたどり着いたのは異世界に来た時にいた海岸だった。

 ここに来たのには理由がある。

 日本からたどり着いたのがこの場所なら、ここに何か元の世界に戻る手がかりがあるのではないかと思ってのことだ。

 だが、見て回っても、砂をほってみても何もない。

 諦めて、帰ろうか、と思ったが、海に来たんだから帰る前にやることをやっていこう。

 俺は海を向いて、大きく息をすう。

 そして、大声とともに声を上げた。


「うーみだーーーーーーー!!!」

「きゃっ」


 俺の叫び声に対し、岩の向こうから短い悲鳴が聞こえた。


「ミーナさん?」


 そこには宿屋の看板娘、昨日知り合ったばかりのミーナがいた。


「スメラギさん、いつの間に?」

「ごめん、驚かせちゃったかな」

「いえ、ちょっとびっくりしただけですから」

「何してるんですか?」

「ふふふ、ミーナでいいですよ。あと敬語もいりません、スメラギさんのほうが年上なんですから。私はスプスプの実を採りに来たついでに貝を拾おうと思ってきたんです」


 彼女がみせてくれたのは、昨日食べた酸っぱいレモンもどきだ。毒耐性があがるアイテムだ。


「この果汁は水で薄めると酸味がきいていて、肉料理にかけるとさっぱりしておいしいんですよ」


 なるほど、そのまま食べるのはいけないが、水で薄めたらいいのか。


「スメラギさんはどうして? ここ、町から結構遠いんですよ」

「辛いことがあると、海を見たくなるんだ」


 なんて言ってみる。まさか、瞬間移動の実験ですなんて言えない。

 やばいな、変な人とか思われないだろうか。


「わかります……私もお父さんとお母さんが盗賊に殺されたとき、ここで泣いていました」

「え……」

「あはは、三年も前のことなんですけどね。今でも思い出すんですよ。お父さんとお母さん、ここで貝を拾ってる時に盗賊に襲われたって、町長さんが言ってました」

 悲しそうな笑顔だが、涙は見せていない。

 俺と同い年と思うのに、えらい女の子だ。


「でも、お父さんとお母さんが残していった宿があったから頑張れたんです」


 それに、と彼女が付け加える。


「お姉ちゃんがいましたから」

「あぁ、元気なお姉さんだよね。何度かあったけど、名前は聞いてなかったな」

「お姉ちゃんとも知り合いなんですね。名前はサーシャですよ」

「そうか。じゃあ、ミーナさん……ミーナ、貝拾い手伝うよ。昨日儲かったからさ、今日は魔物狩りは休もうと思ってたし」

「いいんですか? 助かります」


 それから、俺は貝拾いを一緒に頑張った。

 採取レベルが1上がった。


魔法も登場し、いよいよファンタジーらしくなってきました。

簡単に魔法を習得していますが、魔法技能を持っていて、魔法書に契約してもすぐに魔法を使えるわけではないです。

スキル簡易取得のおかげです。

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