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5 発見

「ファイヤーウォール!」


 ミスリルの杖に集まった魔力が炎の壁となり、骸骨兵士の群れを飲み込んでいく。

 俺たちは魔法学園の地下にある迷宮に来ていた。

 研究の手伝いだと聞いていたのだが、まさか迷宮の探索だとは思わなかった。

 しかも、その迷宮はミラー先生の家の地下に入口がある。先生が言うには、この迷宮の出入口は7ヵ所あり、その全てが学校の学園長や教授の家へと繋がっているという。

 そこの調査がミラー先生の依頼だった。ミーナ、サーシャ、シルフィーはお留守番。

 その理由は3人でしか話せないことがあるからだとミラー先生は語った。


「火炎系の中級魔法ファイヤーウォールか……しかしその威力は……」

「まぁ、いろいろと修羅場をくぐってますので……」


 俺は杖を地面について苦笑いした。流石に魔法学園の講師だ。


「ふむ、その実力ならすぐにでも攻撃系魔法の講師になれると思うぞ。どうだ? ワシが推薦するからなってみんか?」

「ミラー先生、そういうのはやめてくださいって言ったはずですよ」

「そうじゃの、坊主やマリア嬢ちゃんには目的があるからのぉ」


 ミラー先生は、俺とマリアが流浪の民であることを知っている。

 しかも、流浪の民というのが日本という異世界の国の人間だということも。

 三年前、マリアがミラー先生に話したそうだ。ミラー先生はホムンクルスだけでなく古代に実在したと言われる召喚魔法の研究者でもある。

 藁をもすがる気持ちで全てを打ち明けたのだという。


「3年前っていうのはね、多くの流浪の民にもであって、でも誰も日本の記憶を持ってなくて、自暴自棄な時期だったのよね」


 今考えたら、よくそんな荒唐無稽な話を魔法学園の教授に話したな、とマリアは言った。下手したら王立研究所への信用失墜にも繋がりかねないのだと。


「でも、ミラー先生は信じてくれたから……だから頑張ってこれたと思ってます。ありがとうございます」


 マリアはそう言って頭を下げた。


「いやいや、嬢ちゃんの話を聞いて、ワシも失いかけていた召喚魔法の研究に対しての意欲を取り戻せたんじゃ。感謝するのはワシのほうじゃよ。それにしても凄いのぉ」


 ミラー先生はそういうと、落ちているカードを拾いあげる。


「流浪の民の特殊な技能の話は聞いていたし、実際に何人か見たことがあるが、桁が違うの」


 まぁ、カードドロップ率5倍もレアアイテムドロップ率大幅UPも、普通にゲーム開始してたらもらえないボーナス特典だもんな。


「骸骨兵も魔物の中じゃ上級レベル、教授レベルの魔法使いが5人がかりで倒す魔物なんじゃぞ。群れで現れたら逃げるしかないというのに……」


 まぁ、魔法(火炎)レベルが47になっているうえに、魔法系スキルを鍛えまくったからな。全てはエルフ族の試練の迷宮のおかげだ。

 このくらいは余裕だといってもいい。


「ふむ、魔骨がこんなに集まったか……」


 魔骨は骸骨兵士のレアアイテムだ。

 ちなみに、通常ドロップアイテムは「曹長の骨」と「軍曹の骨」。

 一匹の骸骨兵から二種類の通常ドロップが出たとき、お前の階級はどっちが正しいんだ? と気になってしまう。

 見事に骨ばかりのドロップ品だ。

 骨……人骨? そうか、


「ホムンクルスの材料にするんですね?」

「いや、死霊術を研究する教授に高く売るだけじゃ」

「そうですか……」


 こんなことで研究の手伝いになるのだろうか?


 そう思ったときだった――


「何か来るっ!」


 俺の索敵スキルが反応した。敵意は感じられない。だが、確かに何ものかが近付いてくる。

 それは、黒い髪に白い肌、黒いドレスを着た女性だった。

 マリアは彼女を見てミラー先生に尋ねた。


「こんなところに人がいるの?」

「言ったじゃろ、ここは他の教授の部屋からも繋がっておる。おそらく、他の教授に雇われた冒険者じゃろう」

「へぇ……あ、行っちゃったわ。って、タクトくん、どうしたの? 凄い汗よ」


 こちらを一瞥しながらも無視して別方向に歩いていく女の姿を俺は見送るしかできない。

 マリアに声をかけられても、俺はすぐには反応できなかった。

 汗だけじゃない、身体全体が震えてまともに動くことができないでいた。


「あ、あぁ、あの人……おそらく俺よりはるかに強いところにいる人間だと思う」

「……それ本当?」


 マリアが尋ねるのも無理はない。

 魔法レベルは50で伝説級だと言われている。俺の魔法レベルはそこまではいかないが、もう47。しかも他の魔法スキルのおかげで50レベルの魔法使いを超えていると自負していた。

 なのに、あの女は……おそらくはそれ以上。


「本当に……あれは人間か?」


 俺はそう呟き、息をのんだ。


「ふむ……もしやこの迷宮に住む怨霊かもしれんの」

「怨霊?」

「まぁ、噂じゃがの、この迷宮で「まだ来ない」「まだ来ない」と嘆き悲しむ女性の声を聞いたという噂がもう数百年も前からあっての……」


 ミラー先生は話を続けた。

 それは恋の悲しい結末の話。駆け落ちしたお姫様が迷宮の奥で王子様を待っていたが、迷宮の奥に行く途中に王子様が魔物に殺されてしまった。そのため、お姫様は王子様が死んだことに気付かずに、そのまま迷宮の中を彷徨っている。という話だ。

 まぁ、王子様とお姫様の駆け落ち場所に迷宮の奥を使うなんてあるはずはないし、本当にただの都市伝説とか噂話にすぎないのだろう。

 明らかにウソ話だしな。


「だから、マリア、あんまり怖がるなよ」

「だ……だって、うちそんなんにがてやねん」


 マリアはすでに泣きそうになって――いや、泣いていた。

 ちょと意外だ。「幽霊なんて非科学的よ」とかいって鼻で笑うかと思っていた。


「死霊系の魔物は大丈夫だったのに?」

「魔物は別や……」

「俺はむしろ幽霊であってほしいよ。あれが魔物だとしたらヤバすぎる」


 そう言ったときだった。


(……まだ……い)


 声が……聞こえた。


「ひやぁぁぁっ! タクトくん、やめてぇや」

「俺じゃない」

「じゃあ、ミラー先生!」

「わしでもないぞ」


 そもそも、声は明らかに女性の声だ。

 俺やミラー先生に出せるようなものではない。

 耳を澄ませたら、


(……まだ来ない)


 確かに、その声は聞こえた。

 どこからだ。


 声はかなり近いところから聞こえてきている気がする。

 俺は鑑定スキルを使って、壁、床、天井を調べた。

 そして、見つけた。


「ミラー先生、そこに隠しスイッチがある。解除の仕方に順番があるみたいだ。まずずはここを押して」

 

 スイッチは全て七か所ある。しかも、わずかに動く程度で、触ってみてもそれがスイッチだとは気付かないだろう。

 それを順番通りに押さないといけないのだから、今まで誰も発見していないスイッチの可能性が高い。


「このスイッチで最後じゃな」

「あ、待ってください。」


 すぐにスイッチを押そうとするミラー先生に、俺は待ったをかけた。


「隠し部屋って魔物がいっぱいいることが多いんです。魔力鉱によって集められて魔物になったのはいいが、部屋に閉じ込められてしまった魔物が多い」

「うむ、モンスタールームじゃな。わかっておる。坊主、魔法の準備を頼むぞ。ただし、貴重なものがあるかもしれんから、部屋から出てきた魔物から順に倒してほしい」

「わかりました」


 そういい、ミラー先生は俺の教えた、偽装されたボタンを押した。と同時に横に走る。

 俺は杖を構え、魔物が出てくるのを待った……。


 だが――


「魔物はいないのか?」


 しかも、部屋の中は光がない。魔力鉱がないのだ。

 迷宮とどこかの部屋がつながっていたのか。


「ライト!」


 俺は部屋の中に光を放った。

 そして――照らし出されたのは、多くの書物だった。


「ふむ、これは古代文字が書かれておるの……ふぉふぉ、大発見じゃわい」

「おめでとうございます、ミラー先生、召喚魔法の記述があればいいんですが」


 俺はそう言いながら、振り返った。

 マリアが震えてこちらを見ている。


「た、タクトくん、あの声の原因わかったん?」

「あ、そうだ。声だ……って、すごいな」


 最初に驚いたのは、部屋の時計だった。まだ動いている。

 少なくとも数百年は誰にも使われていない部屋のはずなのに、時計が動いているのだ。

 動力はいったい何なのか?

 これならば蓄音機みたいなものがあってもおかしくない……そう思ったのだがそれらしいものは見当たらない。

 あとは奥の部屋か。


 恐る恐る部屋をあけると――


 銀髪の女の子が部屋の中央に鎮座していて、うつろな赤い瞳でこちらを見ていた。


『やっと……来た』


 彼女はそう呟いた。

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