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2 鍵屋

 リューラ魔法学園。

 北の大陸の西にある学園都市だ。その生徒の大半は留学生で、北の大陸の諸国からだけでなく、東の大陸のほぼ全てを治めるジルビアン王国、西の大陸の都市同盟からも多くの生徒が集まってくる。

 どの国にも属さず、自治権を持つ都市であることも特徴の一つであり、財政のほとんどが各国からの寄付金だけで成り立っているというから驚きだ。

 その理由は、リューラ魔法学園のみが持つという秘薬にある。

 その薬を三才までに飲むと、魔法技能を取得できるというものだ。

 魔法技能スキルがなければ魔法スキルは使えない、魔法が使えなければ魔法技能は覚えられない。

 そのため、生まれ持って魔法技能か魔法スキルをもっていないと魔法は使えないという。

 エルフは全員が生まれながらに魔法技能を持っているが、人間だとそうはいかず、その割合はとても低い。

 だが、この学園都市にある薬を飲めば7割の確率で魔法技能スキルを習得できるという。

 ポケ○ンのワザ○シンみたいだな、という感想を持ったが、10割ではないのが辛いな。

 残りの3割になってしまった子供が憐れだ。一生を左右するだけの事案であって悔やんでも悔やみきれないだろう。

 ちなみに、その薬の成分は世界中の国が調べているが、解明には至っておらず、この魔法学園の寄付金はまだまだ集まりそうだ。

 町全体は大きな壁でおおわれていて、久しぶりに大きな町に来たと思う。

 門は東側に大きなものがあり、そっちが正面入り口。南と西と北にもそれぞれ門があるが、それらは非常用だという。

 東側の入り口にはすでに七組ほどの列があって、入場許可を得て入っていくもの、諦めて元来た道へと戻っていくもの、門の横にある巨大な建物に入っていくものと別れた。

 待つこと20分程度だろうか? 俺たちの番になった。


「ジルビアン王立研究所の元所長、マリアよ。ミラー先生に会いに来たの。入場の許可をいただきたいわ」

「わかりました。では、まずはサーチの魔法を使わせていただきます」


 マリアが名乗ると、門番の男がサーチの魔法をマリアにかけた。

 サーチの魔法は名前と身分をチェックできる魔法だ。

 その後、俺、ミーナ、サーシャ、シルフィーもサーチの魔法をかけられた。


「では、ミラー教授に連絡いたします。そちらの待合所でお待ちください」


 そう言われ、横の家に案内される。


「これが待合所ですか……私の宿屋より大きいです」

「ここは実際に宿屋として使われるのよ。この学園の入学試験の前になると、保護者がここで寝て結果を待つの」


 なるほど、貴族も泊まるから立派というわけか。

 中に入ってみても、フロントのようなところでタキシードを着たたぶんコンシェルジュが立っていた。

 コーヒーや紅茶、お菓子なども売っているらしい。

 他にも奥のロビーには高そうな調度品がおいてあり、触るのが怖い。迂闊に触って壊したらどうしようという貧乏人根性は、いくらチートで金を稼いでも拭い去れるものではない。

 すでに待合所の中には何組かの人がいたので、俺たちは空いてる奥の席に座ることにした。

 椅子はとても高価なものらしく、このまま眠ってしまえそうな柔らかさだ。しかも大きい。

 小柄なシルフィーは深く座りすぎて椅子に飲み込まれそうになって足をバタバタさせていた。

 慌てて座りなおしているが、俺はしっかり見させてもらったよ。

 かわいらしいシルフィーの一面を見られたところで……


「マリア、ミラー教授ってどんな人なんだ?」

「ミラー教授はホムンクルス研究の第一人者よ」


 マリアの説明に、ミーナが首をかしげる。


「ホムンクルス? なんですか、それ?」

「あぁ、なんか聞いたことある。人形だよね」


 サーシャが何かを思い出したようにそう言ったが、それ以上の答えはでないようだ。

 ホムンクルス、錬金術によって生み出された生命だっけか?

 簡単な命令なら言うことを聞くが、ひどく短命。

 そういうイメージを持つ。

 アト○エシリーズのゲームでもよく出てきたっけか。

 確か、ホムンクルスが主役の話もあったはずだ。


「サーシャの言ってることでほぼ正解。動く人形よ」

「動く人形って大ざっぱすぎるな」

「同じ錬金術師ということで面識はあるんだけどね、正直私にも難しすぎて……。

 あ、タクトくん、医学書のカード出してもらえるかしら?」

「ん? あぁ、わかった」


 最初にマリアに会ったときに預かった本だ。

 カード化してしまってあった。

 マリアに渡すと、彼女は「具現化」と唱えると、カードが分厚い本に変わった。


「医学書の知識は大いに役立つから、ここで復習させてもらうわね。全部覚えてるつもりだけど」

「全部? その分厚い本を?」

「ええ。不思議よね、受験の時だとこの十分の一すら覚えられなかったのに、生きるためだと思って必死になったらすぐに覚えたわ」

「……はぁ……マリアが研究所の所長になれた理由に改めて気付いた気がするよ」


 その白衣は伊達じゃないらしい。

 そういえば、と俺は思い出したように小声でマリアに尋ねた。


「俺のボーナス特典に人形三体まで使用可能ってあるんだが」

「ええ、いまだに使い道のわかっていないボーナス特典だけど、もしかしたらホムンクルスと関係があるのかもしれないわ。

 ただ、西の大陸にも人形遣いの伝承が古くから残されているから、そっちかもしれないけど」

「そうか、でも期待はできるな」


 思わぬところで芽を出した。結構高いボーナス特典を使ったから、本来なら期待できるものだと思う。

 それから俺たちはしばらくはフロントで購入したお菓子を食べたり、紅茶を飲んだりして過ごした。

 お菓子はクッキーのような焼き菓子で非常においしく、ミーナの淹れてくれたお茶は絶品だった。

 先に来ていた人達も去り、後から来た人までもが去った後のことだった。


「おぉ、マリア! 会いたかったぞ!」


 白鬚を生やしたお爺さんが現れた。深緑色のとんがり帽子をかぶっていてまるで魔法使いみたいだ。本当に魔法使いかもしれないが。


「ミラー先生、お久しぶりです」

「おぉおぉ、大きくなって」


 ハグを交わして挨拶する。ミラー先生の手はそのままマリアのお尻にまで伸びて、マリアにすかさず手を叩かれた。


「もう、相変わらずえすね、ミラー先生」

「マリアは別嬪さんになったようで。おぉ、そちらもまた可愛い子たちじゃのぉ。ん? 嬢ちゃんはハーフエルフかい?」

「……はい」

「そうかそうか。エルフと同じで魔力の持ち主じゃからの。お主の実力もぜひ見てみたいわ」


 ミラー先生はシルフィーの頭をやさしくぽんと叩くと、


「さて、町に案内しよう。ついておいで」


 ミラー先生を先頭に俺たちは待合所を出ると、外はすでに夜になっていた。

 長い間待たされたらしい。

 門の入り口ではさっきとかわらず門番が二人立っている。


「ミラー教授、失礼します」

「ふむ、かまわんよ」


 ミラー先生がそういうと、門番の男がサーチ魔法をかけた。


「教授なのにサーチ魔法をかけるのか?」

「変装して入ろうとする賊がいるからよ。それだけこの魔法都市は厳重というわけ」


 すぐに本人だと確認されたようで、男たちは敬礼をし、門を開かせる。

 ミラー先生はゆっくりと歩いていくと、中央の広場にたった。

 噴水のような噴出口があるが、水は出ていない。横には何か装置のようなものがある。


「これはマリアくんと一緒に開発した魔法技術じゃ」

「私は炎色反応の基礎理論について語っただけです。ほとんど先生が作ったんじゃないですか」

「マリアくんがいなければ思いもつかなかった魔法装置じゃ」

「先生、まさかこのために私たちを夜まで待たせたんですか?」

「ふぉふぉふぉ、他の客人がおると聞いたのでの」


 ミラー先生がそういい、魔法装置のようなものに魔力を込める。

 すると、噴出口から光の玉が上がり、大きな爆発を起こした。


「綺麗……」

「こんな魔法があったんだ……」

「……お兄ちゃんの閃光魔法とは雲泥の差です」


 その爆発を知らない三人がうっとりとした表情で空を眺める。

 あぁ、わかるよ。とっても綺麗だもんな。


「たーまやぁぁぁ、かーぎやぁぁぁ」


 ミラー先生がそう大声を上げて喜んだ。


「はは、こんなところで夏の風物詩を見られるとは思わなかったよ」


 夜空に咲かせた大輪の花の出迎えに、俺は心の底から感謝した。

 季節はもう春を越して初夏になりつつある。

 そんな一夜の光景だった。

~宣伝~

 この物語は主人公タクトがボーナス特典を全て手に入れたストーリーですが、

 もしもマリアさんみたいに記憶継承しか覚えていない人はどうなるのか?

 そういう物語

「異世界に多重トリップしたら俺だけノーチートで村長として村おこしをすることになりました」

http://ncode.syosetu.com/n5658cp/


を裏で不定期連載しています。本当はこの小説の番外編として書いて、あとで物語にかかわらせる予定でした。ですが、内容があまりにもアレなので、番外編ではなく、同じ設定の別ストーリーとして進んでいます。


まぁ、息抜きに書いている話で、需要もない話ですね。

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