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1 円鏡

ここから第三章です。

二章の短編は後日から追加されていきます。

「学校は絶対に行くべきだ」


 兄貴は俺にそう言った。


「なぜなら、学校はネタの宝庫だからな。ゲームを作る時に役立つ」


 兄貴はいつもこうだった。ゲームを作るために切磋琢磨している。だが、決して頑張り屋ではない。

 そう、兄貴は決して頑張っていない。やりたいことをやっているだけだ。

 だから、兄貴は苦しまない。諦めない。自分を曲げない。

 だから、学校で一位の成績をとっても大学進学の道を選ばずにゲーム会社に就職する道を選んだ。

 そのゲーム会社で高卒唯一の就職内定者だと言っていたな。

 周りは全員年上で、やりにくいよと言っていたが、その顔はやりたいことをできているから満足だという顔だった。

 そんな兄貴を、俺は羨ましいと思った。

 やりたいことをやれる兄貴が。

 その実力を持てる兄貴が。

 兄貴のような自信があれば、きっとあんなことにはならなかったんだろうな。

 

   ※※※


 エルフとドワーフの戦争終結から1ヵ月近くが経とうとしていた。

 ドワーフの秘宝「人探しの鏡」の魔力が溜まったという知らせを受け、俺たちはドワーフの集落を訪れた。


「救い主様とそのお連れ様、ようこそお越しくださいました」


 ドワーフの長老が頭を下げて出迎えてくれ、秘宝の間に案内してくれることになった。

 途中、鍛冶工房を覗くとドワーフと一緒に何かを作っているエルフの姿を見かけ、二種族の交流は僅かではあるが進んでいることがうかがえた。

 もともとエルフは植物や竜の髭などから服などを作ることを得意とする、手先の器用さはドワーフ以上だ。きっと、この町にはこれまで以上に素晴らしい細工品や服が並ぶことだろう。


「この間、今は西の大陸で鍛冶をしているワシの孫が6年ぶりにここを訪れましての、戦争が終わったことに非常に喜んでおりました」

「それはよかった」


 確かに、戦争が終わったこの光景を見たらうれしいよな。

 しかも、敗戦ではなく、和解によるものとなれば余計にうれしい。


「ワシの孫はそれはもう目に入れても痛くないくらい――」


 以下、孫の自慢話が続く。全ての話を右耳から左耳へと流していくこと5分。

 ようやく宝物庫の間にたどりつく。


「ちなみに、これが娘が最初にその町で作ったという竜のお守りで、中に飛竜の鱗が……と、おお、もう着きましたな。

 どうです? ここで休憩してもう少し話を――」

「……入れてください」


 シルフィーが言う。彼女が長老の話を聞かなかったのは疲れたから、というよりかはそのお孫さんのためだろう。延々と自慢される孫の気持ちというのは、同じ爺バカを持つシルフィーには痛いほどよくわかるはずだ。うれしい反面、恥ずかしいものだろう。

 長老は残念そうに扉を開ける。


「では、こちらにどうぞ」


 宝物庫といっても、金銀財宝があるというわけではない。そもそも、ドワーフにとって金目のものとは集めるものであって、保存するものであるという考えはないのだという。

 ここにあるのは、古代のドワーフが残した遺物。歴史の証のようなもの。

 下手に触ったらろくなことにはならないので、素直に鏡の前に進む。

 鏡の大きさは直径20センチメートル程度の小さなものだが、今日は淡く光っている。

 どことなくその光は魔力鉱のそれに似ている。魔力が十分に貯まった証だろう。


「では、タクト様。この鏡に、探している人の姿を思い浮かべ、名前を言ってください」

「……わかった」


 俺は鏡に手を翳し、兄の姿を思い浮かべる。


「鏡に向かって人を探すって、まるで白雪姫ね。だとすればタクトくんは悪い女王かしら?」


 マリアが言う。せめてもっといい例えを出してくれ。

 そう思いながら、兄貴の姿が鮮明に浮かんだところで、


「スメラギテイト!」


 俺はその名を呼んだ。

 だが――


 鏡は全く変わらぬ姿でそこにいた。


「反応しませんな」

「……一応、他のも試してみていいか?」

「ええ、反応しない限りは魔力は消費されませんので」


 気を取り直して俺は名前を呼んだ。


「テイト・スメラギ!」   


 神父さんの件もあったので名前を逆にしてみる。

 反応がない。


「テイト」


 名前だけにしても反応はなかった。名字だけにしても反応がない。


「反応がありませんね」


 ミーナが言う。理由としては四つある。

 一つ、これが一番いい理由なのだが、兄貴はこっちの世界に来るハプニングに見舞われなかった。

 二つ、これは一番悪い理由なのだが、兄貴がすでに死んでいる。

 三つ、これが一番可能性の高い理由だ。つまり、兄貴はゲーム用の名前を使っている。

 四つ、鏡の魔力の効果に適さない結界などの中にいる。


 二つ目は考えたくもないな。

 とりあえず、兄貴が他のゲームで使うキャラ名を考えてみる。

 ただ、兄貴って、RPGだとデフォルトの名前しか使わないんだよな。

 製作者の意図がどうたらこうたらで、そこを大事にする。MMOは全部[teito]だし。

 決まった名前のないド○クエシリーズに至っては、すべての名前が「エニクス」だったりする。

 試しに「エニクス」という名前で調べてみても反応はない。


「なぁ、長老さん、この鏡は他に使い道はないか? 条件検索みたいな」

「そんなインターネットの検索システムみたいなものがあるわけないでしょ」


 マリアがじと目で言ってくる。だよな、言ってみただけだ。


「ありますぞ」

「あるの!?」


 マリアが驚いて声を上げた。俺もびっくりだ。

 恐るべし、古代ドワーフの遺産。


「この鏡は強い思いにも反応できます。例えば、タクト様のことを好いていて、タクト様も好いている、運命の赤い糸で結ばれそうな人も調べることができますよ」

「そんな恋愛マシンみたいなのは必要ないんだが……」


 後ろでミーナ、サーシャ、マリアが顔を赤らめて俯いて、なにやら考えているようだ。

 シルフィーはいつものように無表情。こっちも何を考えているのかはわからないが、妙に安心できる。

 検索条件か。

 俺に会いたがっている人、と言って調べたらどうだろうか?

 兄貴は製作者側の人間だ。この世界に来た時に、俺と同じようにデバッグ用のチートコードを使っていて、記憶が残っているかもしれない。

 とすれば、もしかしたら俺のことを探したりしてるんじゃないだろうか?

 家族愛とかで調べるのもいいが、兄貴は俺のことを家族愛対象というよりかは、身近にいるゲームをよくするための研究対象くらいに思ってそうだしな。


「タクトに会いたがっている人、なんて調べたら、ルークあたりが出てきそうだけどね」

「なんでルークさん?」


 ルークとはミルの町の買取所の兄ちゃんだ。

 ユニコーンの角を買い取ってもらったときに600万ドルグをぽんと出してくれた人だ。あの人が会いたいのはむしろサーシャやミーナじゃないだろうか?


「ルークはあんたのことを勇者として尊敬してるからさ、武勇伝とか聞きたいと思うよ」

「それは照れるな。じゃあ……北の大陸にいて俺に会いたがってる人ってのはどうだ?」

「そんなに細かく調べられるの?」

「ふむ、できると思います。検索範囲をこの鏡を中心として大陸全土を覆う距離に設定しましょう。ただし、邪神信仰をしているものを除くという条件を忘れてはいけませんぞ」


 あぁ、信仰も強い思いだから検索対象になるのか。

 そうだよな、邪神がお告げで俺を狙った意図はわからないが、他の邪神信仰をしているやつが俺を探していないとも限らない。

 ほかにも、この大陸に来たときに船を燃やして置き去りにした海賊にも恨まれているだろうからな。

 条件を変えて検索をしないといけない。

 いろいろ頭の中で試行錯誤を重ねる。

 よし、やってみるか。


「北の大陸で俺に会いたがっている人! ただし、悪意や殺意を持って俺を狙ってるやつを除く」


 そう言ったら――浮かび上がった。成功だ。

 そして、その場所は、レンガ造りの高い建物がいくつも並ぶ町だ。大きな塔もあり、その塔には……うそ? 時計と鐘がとりつけられている。

 この世界に時計なんてあったのかよ。よく見ると地上では黒い服を着た若い人が大勢いる。

 制服のようだ。ていうことは、ここは学校か何かか?

 しばらくすると、鏡は光を失い、俺の姿を映すだけのただの鏡になってしまった。


「ここは……リューラ魔法学園ですな。北の大陸の西にある学園都市です」

「……学園都市?」


 学校? 学校に俺に会いたがってる人がいると? 

 兄さんは学校嫌いだったから、そんなところにいるとは思えないんだが。


「私も三年前に行ったことがあるわ。場所も覚えてる」

「そうか、マリアは研究所の所長だったからな、そういうところにも行く用事はあるか」


 忘れがちだが、マリアって研究者なんだよな。

 それにしても、薬品とか調合とかはできるはずなのになんで料理はあんなに壊滅的に下手なんだろうか?

 錬金術師っていったら、適当な食材をぐるぐると釜で煮込んだだけで魔法の料理とか作る職業の定番なのに。


「タクトくん、何か失礼なこと考えてない?」

「いえ、決してそんなことはないです!」


 睨み付けてくるマリアに直立不動で敬礼。

 余計に怪しまれるが、俺の生存本能による命令だったんだ、許してくれ。


「ところで、学園都市って私達でも入れるのかい?」

「そうね、魔法学園だけあって、入学者は魔法の使える貴族とかがほとんどだけど、研究者も多く在籍しているし、私の顔パスでいけるわよ」


 マリアが言う。自慢げに言っているのではなく、当然のように言ってくれるあたり男前な性格だ。

 俺の思考を呼んだのか、マリアがこちらを睨みつけてきた――ような気がした。

 とにかく、次の目的地は決まった。

 リューラ魔法学園。

 そこに誰が待ち構えているのかわからないが、学園生活編のようなギャルゲーストーリーにならないことは確かだと思う。

章のタイトルにもありますが、

ここから学園編がスタートです。

といっても、まぁ、普通の学園ではないので、みなさんの想像している甘いストーリーとかにはならないです。

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