表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/112

短編 実食

後編です。

 シメイズマの町。

 その町は一つの奇妙な話がある。

 つまり、ここの女は全員料理が下手だった。

 一番料理上手の女性が食事処で料理を作るのだが、それすら旅人からしたら激マズの料理。

 そのため、ここに来る旅人のほとんどは厨房を借りて自炊するものがほとんどだという。

 男達は思った。いつまでもこんなまずい飯を食わされる気持ちになってみろ!

 そうだ、どうせなら女たちを公の場にだしてその料理がいかにまずいか世間にわからせよう。

 という理由で始まったのがシメイズマ料理大会だったという。

 そのあまりのまずさに、町の外から呼んだ審査員が全員臨死体験をしたという。

 失敗だ、こんな大会なんてしたら町民全員死んでしまう。

 だが、皮肉にもその料理大会は見学していた町の人からしたら喜劇のようで大反響を得た。

 そして、できたのが、このシメイズマ殺人料理大会だ。


「…………これは怒ってもいいんとちゃうかな?」


 マリアがこめかみをぴくぴくと痙攣させながら尋ねる。

 彼女が怒るのはもっともだ。

 つまりは女性の料理下手を笑いものにする大会ということだ。


「優勝賞品は5万ドルグ! ぜひ参加してください。正直、参加者が集まらなくて困っていたのです」


 いや、5万ドルグ程度でマリアは出ないだろ。大金には大金だが、今の俺たちからしたらはした金だ。

 この大会に出るということは公開処刑と一緒じゃないか。


「……いいわ、出てあげる」


 マリアは意外な答えを出した。


「本当ですか?」

「ええ、ただし、私の料理がそこまでまずくないっていうのをわからせるためにね」

「おぉ、ありがとうございます! 大会は明日です、宿はこちらで用意させていただきます」


 これは……なんとも妙なことになった。

 まずは謝らないといけない。


「すまん、マリアに謝りたいことがあるんだ」

「何かしら?」

「さっき、マリアに殺人料理スキルをつけた」


 俺は正直に答えた。


「……理由を先に聞いてもいいかしら?」

「いや、普通の料理大会だと思ったから、万が一マリアが大会に出て料理で人を殺したらまずいと……」

「……そう。いいわ、許してあげる」


 俺はほっと胸をなでおろす。


「その代り、私の作る料理の試食につきあってくれるわね?」

「さて、明日は早いしもう寝るか……」


 歩き出そうとする俺の肩をマリアが掴んだ。

 うん、究極の選択だ。

 走って逃げるか、瞬間移動で逃げるか。

 瞬間移動が使えたらすぐに逃げれる。だが、これは俺にとっては戦闘中も同じ。

 無事に使えるとはかぎらない。

 よし、ならこれだ――


選択:はしってにげる


結果:タクトはまわりこまれた

   タクトは料理をたべた。

   タクトは死亡した。


 そして、気が付いたら俺は座っていた。

 ローマのコロッセウムのような闘技場だ。

 剣闘士でも出てくるのか?


「あ、タクト、気が付いたんだね?」

「ん? サーシャ、ここはどこだ?」

「スメラギさん、ここは殺人料理大会の会場ですよ。今からはじまるところです」


 え? あれ? 俺、昨日何してたんだっけ?

 料理大会の会場に行ってからの記憶がきれいに飛んでいる。

 あ、思い出した。

 マリアが殺人料理大会に出るんだ。

 でも、それ以上は思い出せない。思い出したら――


『スメラギさん! お姉ちゃん、スメラギさんが泡を吹いて倒れた!』

『タクト、気をしっかりもて! 終わったんだ、もう全部終わったんだ』


 ゼンブ……オワッタ……?


 ふっと俺は意識を呼びもどす。

 なんだろ、二人の声が遠くから聞こえていた気がした。

 そうこうしていると、会場に食材と調理台が用意される。

 そして、一人の男が会場に現れた。


「レディースエーンジェントルメン! 皆様、たいへん長らくお待たせしました!

 第七回シメイズマ殺人料理大会がこれよりはじまります!

 ルールは簡単、料理を魔物に食べさせて倒すだけ」


 ルールを聞いたが、それは絶対に簡単なことじゃない。


「ただし、毒物の使用は禁止! 当然です、毒物を使ったらそれは料理じゃない!

 まぁ、私の妻の料理は毒物なんて使わなくても毒々しい色をしていますが」


 会場中の男が大笑い。

 なに? それ、シメイズマジョーク?


「では、まずはシメイズマに生まれ育ち25年、料理によって病院送りにしてきた男はもはや二桁になる勢いの彼女、

 なのに仕事は看護師! まさに死と生を運ぶ料理人カレンだぁ!」


 ショートヘアの女の子が包丁とフライパンを手に会場に現れる。

 彼女は会場につくと、魚を持つ。

 見事な包丁さばきで、魚の鱗と一緒に皮と身を飛ばしていく。残ったのはほとんど内臓だ。

 それを水の中にいれて煮込んでいく。

 そこに目分量で塩と胡椒を大量にいれ、スパイスのにおいをかいで、躊躇なく全部入れた。

 あいつ、全部入れやがった。赤いスパイスを。

 わざとやってるんじゃないか? と思える所業だが、


「あぁ、あれ、うちの女房もよくやるんだ。スパイスの種類を匂いでかぎわけてな。お前は犬かってつっこんだよ」

「目分量もな。味が濃いなら水をたしたらいいなんていいやがって、焼き料理で水を足せるわけないだろ」


 後ろでおっちゃんたちが言っている。どうやら、シメイズマあるあるのようだ。

 恐るべき、シメイズマの料理。


 そうして、魚の内臓で出汁をとって、適当にスパイスを入れたスープが完成した。


「では、魔物の入場です!」


 現れたのは、檻に入った真っ赤な毛のサンライオンだった。

 唸り声を上げている。確かミーナが二刀流を覚えるきっかけになった猛獣のはずだ。

 わざわざこのために捕獲したのだろうか。


「さぁ、実食です!」


 スープがお皿に盛りつけられた。真っ赤なスープだ。知ってるか? あれ、トマトを使ってないんだぜ?

 出されたスープにサンライオンは鼻を近づけ……全く食べようとしなかった。


「おぉっと、これはカレン選手大誤算! 食べなければ魔物を殺せない! 失格だぁ」


 そりゃ、食べないだろ。あんな激辛スープ。


「ただし、ここで作られたメニューを捨てたら奥様方にどやされる!

 そのため、お呼びしましょう、特別ゲスト、料理の完食人!」


 突如、入口からスモークが立ち上った。

 そこから――ポニーテールのジャージを着た天使のような美少女が現れた。


「そう、この人! シルフィーユだぁぁぁ」


 シルフィーユが会場に現れた。

 人見知り属性なんてなんのその、彼女はとことこと椅子に座り、赤いスープを飲んでいく。

 もくもくと……。

 そして、彼女は一杯のスープを飲みほし、


「……魚ですが、シープライギョを使っているようですが、この味付けにはミライタイのほうがいいと思いますよ」

「おぉぉ、完食人シルフィーユ、まさかここにきて材料のダメ出しだぁぁ」


 ほかにもつっこみどころはあっただろうに。

 スープを完食した彼女を見て、会場中から驚きの声があがる。


「まさか、彼女は殺人料理大会に住むという精霊なのか?」


 そんな精霊いてたまるか。


「続いての料理人は肉料理を作らせたら世界一(別の意味で)。トンカツ殺人マシンのランランだぁ!」


 40歳くらいのやせ形の女性が、鍋と包丁を持って現れた。

 彼女は手際よく、カツを作っていく。ただし、小麦粉と砂糖を間違えるのはやめてほしい。

 他にもつっこみどころは多々あったが、さっきよりはマシだと思う。


「見事にできあがりました! では実食です」


 サンライオンは、出されたカツの匂いをかぐ。

 そして、サンライオンはそれを一切れ食べ――声を上げる暇なく倒れてしまった。


「おぉぉ、やりました、ランラン選手! 予選突破……おぉぉぉっと、待った、完食人シルフィーユが異議申し立てをしています」


 シルフィーは残ったカツを持っていき、


「反則です。ギギジュキノコの胞子を入れましたね? 微かですが匂います」

「ふん、言いがかりはよしておくれ。何を証拠に」

「そうですか……ギギジュキノコの胞子は、パウルの実の果汁を入れると強烈に臭いにおいを発しますが、入れてもいいですか?」


 そういい、シルフィーは料理の材料の山の中からリンゴを持ってきた。


「いいですか?」


 シルフィーが再度尋ねると――


「あぁ、使った、認める、私の負けだ」

「おぉぉぉっと、反則、反則です! これはいけません! 反則です……ってえぇぇぇぇっ!」


 実況の男が驚いた。

 猛毒だといっているのに、シルフィーが残ったカツを食べていた。


「何があなたをここまで追い立てたのかはわかりませんが、この千切りされたマルヤサイは見事です。

 きっと、何度も千切りの練習をしたんでしょう。ですから、最後まであきらめないで頑張ってください」


 カツを完食してキャベツをほめるシルフィー。

 だが、ランランさんは感動で涙を浮かべ「はい、次は誰もしなない料理を作ります」と言っていた。

 会場も誰もが涙をしているし、横をみたらミーナ、サーシャがハンカチで涙をぬぐっていた。

 あれ? ここってそんなに感動するところ?


 会場では死んだサンライオンがカードに代わり、別のサンライオンが姿を現す。


「続いて、飛び入り参加のマリア選手! なんと彼女の料理を食べた旅人が発光して発狂して発症したと昨日病院に連絡が!」


 まて、料理を食べた旅人ってなんだ?

 俺の身体に何があったんだ! 何を発症したんだ?

 ダメだ、考えちゃダメだ、考えちゃダメだ、考えちゃダメだ。


 マリアは登場すると、自信満々に卵焼きを焼く。

 ん? 使ってるのは卵だけだ。

 塩も胡椒も使っていない。殻が少し入ったが――

 そうか、マリア、かんがえたな。

 彼女の目的は料理大会で勝つことじゃない、自分の料理はひどくないと証明することだ。

 ならば凝った料理をつくるよりかはシンプルな料理の方がいい。

 卵だけならば、焦げて真っ黒になっても死ぬことはない。


「できたわ」

「これは、見事に黄色の卵焼き! これで本当にサンライオンを倒せるというのだろうか!」

「倒せるわけないでしょ」


 自信満々にそういうと、マリアは卵焼きをサンライオンの前に置く。

 サンライオンは全く警戒の色を見せずに一口、そして、サンライオンはもちろん死ぬことがなく――


――石化していた。


「これは、まさか石化したぁぁぁ、初めて見たぞ! マリア選手、ここで一気に首位に立ちました」

「そんな、なんでよ!」

 

 シルフィーがてくてくと卵焼きを見て、ぱくりと一口。


「……なるほど、これは鶏卵ではなくコカトリリスの卵ですね。混ざっていたんでしょう」

「そんな……」


 マリアはショックで座り込む。

 コカトリスは有名な石化能力を持つ鳥の魔物だが、コカトリリスもその類だろうか。


「コカトリリスの卵だけでは石化能力はないはずですが、どうしてこうなったのかわかりません」


 さらにショックの出来事だ。マリア、当分立ち直れないぞ。


「しんがりをつとめるは、料理であなたの心を(物理的に)鷲掴み、前回優勝の魔女、ジブリアだ!」


 俺の周りの観客が全員立ち上がった。

 立ち上がるほどそんなにすごいのか?


 ただ、現れたのは腰のまがったおばあちゃんだった。

 別におかしい様子は見えない。

 あれ? おかしい、何かがおかしい。

 周りの人間が移動を始めた。

 全員――


「ミーナ、サーシャ、ここは危険だ!」

「え?」

「どうしてですか?」

「ここは……風下だ!」


 そう、全員会場の風上に向かっていたのだ。


 彼女の使った野菜のスープは……あまりにも臭かった。

 風上にいてもこれだ。風下にいる魔物は……すでにカードに変わっていた。


「さすがはジブリア! 舌もふれさせずにサンライオンをノックアウト!」


 まずいな。いくらシルフィーでもこの匂いの食事を食べれるとは思えない。


「ふふふ、お嬢ちゃん、無理はしてはいけないよ。あたしの作った料理を完食したのは今はなき主人だけさ」


 それって、婆さんの料理を食べて死んだんじゃないよな?

 だが、シルフィーはお婆さんを横目に、スープ(?)を飲んでいく。

 あれ? 水とか野菜とか全く使っていないのになんでスープができたんだ?

 そんなことを思ったが――


「おいしいです。お婆さんのお爺さんへの強い愛が料理に出ています」

「…………本当にそう思うかい?」

「ええ。料理は愛情です。愛情がこもった料理がまずいわけありません」

「はは、死んだ主人も同じことを言ってたよ……私の負けさね」


 え? なに? この展開。

 これでマリアが優勝?

 そう思っていた時だった。


「愛が料理に出る」

「料理は……愛情」

「……愛情のこもった料理がまずいわけがない」


 会場にいた女性が一人、また一人と横にいた男性の手を掴み、


『そうよ、料理は愛情よ!』

『愛があればきっと主人も喜んでくれるわ!』

『シルフィーさん! 私達、これから頑張ります!』


 などと言って、男をつれて去っていった。

 さらに、実況をしていた男の横にも美人の女性が現れ、


「あんたも行くわよ! 今度こそ紫色じゃないスープを作ってあげるわ!」


 そう言って去っていき、うやむやのうちに第七回シメイズマ殺人料理大会は幕を閉じたのだった。

 その日、シメイズマの町には男達の悲鳴が響き渡っていた。




 町の食事処でミーナが厨房を借りて料理を作っている。


「料理は愛情、料理は愛情、料理は愛情」


 なにか呪文のように言っているが、それより俺はシルフィーに気になることを尋ねた。


「なにかうれしそうだけど、本当においしかったのか?」


 無表情のシルフィーだが、心なしか喜んでいる気がする。


「いえ、全部おいしくないですよ……ただ、懐かしかったんです」

 

 シルフィーは天を仰ぎ、その理由を告げた。


「私のお母さんも、殺人料理スキルの持ち主でしたから……」

「え? そうなのか?」

「はい。ここだけの話ですが、毒舌スキルの取得条件は、離乳食として殺人料理スキルで作られた料理を食べることだと私は思っています」

「……それは誰にもいうなよ」


 世界中の赤ん坊が殺されることは避けないといけない。

 と同時に、俺の脳裏にある疑問がよぎった。

 たった一人で飛竜を倒した戦士といわれたシルフィーの母親。

 彼女が飛竜を倒した方法は聞いていない。

 それはもしかしたら――


 いや、もう忘れよう。

 これ以上妙な料理につきあうのは勘弁だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ