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16 偽造

 祭りは終わらない。

 魔法陣や壁画の研究を続けたいというエルフ、ドワーフ各々数名を残して俺たちは谷の上へと戻っていった。

 浮上した谷の底は、もはやその姿は聖域というよりかは宴会場だ。

 酒や食べ物を持ち込み、それぞれ思い思いに語り合う。

 今は笑顔で包まれている会場だが、それぞれの思いは複雑なものだろう。

 少なくとも、仲間や家族を戦争で失ったものには。

 本当に二つの種族の間に溝がなくなるのはまだ先のことだ。

 だけれども――


 エルフとドワーフの間でもてなされている、かつて自分の居場所などどこにもないと言った少女を見つめ、

 いつかはきっと――


「はぁ……やっぱりジャージがないと寒いよな」


 シルフィーに預けたジャージは返してもらわないといけない。

 これは急務だ。


「タクト様、ここにいらっしゃいましたか」


 現れたのは見知った顔のエルフだった。

 両手には木のカップに入った飲み物を持っている。


「スレイマンさん」


 エルフの兄ちゃんスレイマンだった。

 スレイマンは俺の前に手を出し、


「このたびは私は非礼をわびるために参りました」

「……いや、いいですよ。謝罪なんて」


 俺はその手をとらずに言う。


「今日はめでたい席なんです。そういうのは無しでいきましょう」


 もう救い主の名を返した俺は丁寧に返す。


「タクト様がそうおっしゃるなら」


 スレイマンは手を引き、今度はカップを一つ前にだした。


「確か、タクト様はお酒が苦手でしたな。果実ジュースです」

「あぁ、覚えてくれていたんですね、ありがとうございます」


 俺はそのカップの中身を見つめた。

 そのカップを口元に運び――


 迷わずその中身をスレイマンにぶちまける。


「ぐほっ、な……」


 顔から果実ジュースは慌てて腰から布袋をはずし――


「く……薬!」


 慌てて腰の布袋から何か粉のようなものを取り出して自分の口に入れた。


「それが解毒剤か」

「貴様、なぜ!」

「あぁ、全く、海賊達がお前のようなやつなら、俺も簡単に捕まることはなかったんだがな」


 索敵レベルが30超えると殺気を感じることができると話していたのに、もう忘れたのか。


「俺がお前を許すわけないだろ。シルフィーを下賤だと罵ったこと、忘れたことはなかったぜ。そもそも、エルフ絶対主義であるあんたが、救い主でもなんでもない俺に頭を下げるわけないだろ!」


 俺がそういうと、スレイマンがこちらを睨みつけ、左手の袖の下に隠していたナイフを取り出す。

 さっき、握手をかわしていたらその時にそのナイフで切りかかるつもりだったのだろう。


「くそっ、死ね! 我らが神のために!」

「だからお前は弱いんだ!」


 俺はそういい、拳をスレイマンの腹に叩き込む。


「自分の命を危険にさらしてまで俺を逃がそうとする女の子の強さをお前はしってるか!」


 俺はそう叫び、拳をスレイマンの顔に叩き込む。


「どこにも居場所がないと言いながら、居場所を求め続けた女の子の涙をお前はしってるか!」 


 俺はそう叫び、拳を……振り下ろすのをやめた。

 わずか二発の攻撃でスレイマンはすでに気を失っていた。


「俺の攻撃なんて彼女の受けてきた痛みには遠く及ばないよ。でも彼女は強く立っている」


 そうして、俺は合図を送るべく、ライトの魔法によって生み出された光の球を空へと放った。

 それを合図でミーナ、サーシャ、マリア、シルフィー、エルフの長老、ドワーフの長老、とダグさんがかけつける


 落ちていたカップを拾い、彼女は指ですくって小さな舌でぺろっとなめる。


「これはマヒアラ樹の樹液を煮詰めて作った毒ですね。猛毒ですよ」

「それをさらっとなめるなよ……一応アンチポイズンかけておくぞ」



 俺が毒消しの回復魔法をシルフィーに使った。


「スレイマン・ジ・オランド……なんとバカなことを。そんなに戦士に選ばれなかったことを」

「長老さん、こいつは神のために俺を殺すって言ったんだ。何か心当たりはあるか?」

「われわれが崇めるのは精霊様のみです……ですが……ふむ、皆、ダグ・ザ・バイヤー、こやつをスキルの聖域へと運ぶぞ」


 長老は何か思いつめたかのようにダグさんにスレイマンを運ばせる。


「あ、俺も手伝うよ」


 スキルの聖域とは、エルフの集落のはずれにある古い魔法陣の中にあった。


「ほう、これがエルフのスキルの聖域……我々のスキルの聖域と似ているのぉ」

「そうなのですか。それはぜひワシも見てみたいものです。ですが……まずは」


 そういい、エルフの長老はスレイマンを魔法陣の中央に置かせると、


「スキル・サーチ!」


 という魔法を唱えた。スキルを調べる魔法だろう。

 ただし、魔法陣の中でしか使えないようだ。

 俺のボーナス特典では自分や仲間のスキルは確認できるが、他の者の確認はできない。


「な……なんと恐ろしい」


 長老は驚き、その場に座り込む。

 そして、そのままこちらを向き、


「タクト様、彼のスキルに一つ……邪神信仰を行っているというスキルが」

「なに、邪神信仰だと!」


 ドワーフの長老もまたスチル・サーチの魔法を唱える。  


「ふむ、確かに……」

「長老さん、邪神信仰っていうのはなんなんだ?」

「ふむ、これは邪神信仰の記録は1200年も前から存在します」


 その信仰とは、世界を作った神は世界の平穏を望んでいない。

 だから、魔物を作り、様々な種族を作り、それぞれを争わせている。

 邪神信仰の信徒は神の意志に従い、平和な世を作ってはいけない。

 そうすれば、平和になった世界を滅ぼすために神が舞い降りる。


「というものです」

「…………その通りだ」


 そう言ったのは、気を失っていたはずのスレイマンだった。


「そしてドワーフとエルフの戦争が終わったとき、神は仰った。スメラギ・タクトを殺せと」

「俺を?」

「あぁ、私も最初は神を疑った。なぜ、救い主の名を騙るシルフィーユ・シルヴィアではなく、こんな人間なのかと」


 そうだ。俺はおとりになるためにあえて一人で行動をしたが、その間にもミーナ、サーシャ、マリア、ダグさんにはシルフィーの護衛を頼んでいた。


「私は神を疑い、さらには貴様を殺しそこねた。だから、これは私への罰だ」


 スレイマンはそういうと、うめき声を漏らし、口から血が流れる。

 それを見てエルフの長老が叫んだ。


「しまった、毒を含んでいたのか」

「くそっ、アンチポイズン! リザレクション」


 解毒と体力回復の魔法を唱える。

 だが、スレイマンの顔色はさらに悪化していった。


「……無駄だ、私はもう死に向かっている。魔法は効かん。最後に覚えておけ、我々はいつでもいる。どこでもいる。必ず――」


 そういい、スレイマンはこと切れた。

 もしかしたら予言に細工を加えたのもその邪神信仰の信徒だったのかもしれない。

 予言の「ぶとうかい」に加えられた濁点と、最後の一文は別のものによって書き加えられたものだとすぐにわかった。

 ボーナス特典「鑑定」には年代鑑定が行える。

 それにより文字の年代を調べたが、100年程度後に付け加えられたものだった。

 マリアも独自の筆跡調査で、やはり付け加えられたものだとのこと。


「我々はいつでもいる。どこでもいる。必ず――」


 彼はこう言おうとしたようだった。


「必ず――俺を殺しに来るのか」

エルフ&ドワーフ編は次回で終わり。

ちなみに、邪心信仰のスキルは信仰(邪神)と見えます。


いよいよシリーズを通しての敵になる相手が現れました。

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