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15 終結

 舞台“谷の底”はゆっくりと降下する。

 俺はその間に失ったMPを回復するため、その場足ふみ。

 

 いつも思うんだけど、こういう時にその場足ふみってかっこ悪いよな。

 周りからも奇妙なものを見る目で見られてる気がする。


 多くのエルフとドワーフ、そして四人の人間と救い主のハーフエルフを乗せて。

 舞台の本当の仕組みに驚き騒いだ皆も、今では事の成り行きを口を噤んで見守っている。

 しばらく降りると太陽の光すら届かない闇になり、俺および数人のエルフがライトの魔法をとなえる。

 その場足ふみでMPを回復していたのはそのためだ。

 さらに進むと、舞台の穴から風が出なくなった。毒ガスが届かない空間に入ったらしい。


 すぐに谷の底が見えてくる。

 谷の底に、人影が見えた。松明を持って待機している。


「あんなところに人がいるなんて……」


 誰もがその影の正体を見ようと舞台の端へと移動する。


「あれは、ダグ・ザ・バイヤーじゃないか!?」


 気付いたのはエルフの若者だった。

 そこにいたのは三人目のエルフ代表、壮年のエルフのダグさんだった。


「エルフがなぜ谷の底に! もしや、谷の底はエルフの領地だと主張するつもりか!」


 ドワーフから声があがった。

 本来誰も入れないはずの谷の底にエルフのダグさんがいたのだ。そう思っても仕方がないだろう。

 空気が悪くなりそうなので、俺はシルフィーに説明するように促した。


「違います、彼にはここでこの“谷の底”を操作していただいているだけです」

「“谷の底”を操作……?」


 ドワーフから声が上がる。エルフからしても聞いたことのない話だ。

 操作といっても単純なものだ。

 シルフィーの解析によってわかったのだが、ただ魔法陣の上に乗るだけというものだ。


「本来、谷の底は谷の上と底、両方から操作できる魔法陣があったはずなんですが、上にあった陣はすでに存在しません。

 そのため、彼には先にこちらに行っていただき、シルフィーの……私の合図で操作してもらったんです」


「シルフィー、かなり無茶して救い主っぽくふるまってくれているな」

「でもね、タクトくん、あの子が着ているジャージのせいで全て台無しな気がするわよ。サイズもあってないし」

「なんでだ、ジャージほど万能な服はないだろ? 言っておくが、俺は誰かと結婚するときはお色直しに絶対にジャージになるぞ」

「……一芸を極めても何にもならないってことはあるものね」


 マリアが冷やかな目でこちらを見てくる。


「彼はどうやって地下へ?」

「それに合図ってどうやって」


 それらの質問に、シルフィーは不敵な笑みを浮かべ、


「精霊様の奇跡です」


 シルフィーがそういうと、もうそれに反論するものは誰もいない。

 なぜなら、現実に誰も入れないはずのダグさんが操作しているんだから。

 まぁ、実際は瞬間移動によって移動して、ファイヤーフィールドによって合図をしただけなんだけど。


「ライト!」


 俺が最後の光の球の魔法を放った。

 谷の底に“谷の底”が到着する。


「降りても結構ですよ」


 シルフィーが言い、舞台から降りた。

 だが、誰もすぐには舞台から降りようとはしない。

 俺、ミーナ、マリア、長老達がゆっくりと舞台から降りるとそれに倣い、一人、また一人と降りて行った。


「一体、ここに何があるんだ?」

「暗くて何も見えないが」


 ライトの光くらいでは、確かに広い谷の底を全て照らすには不十分だ。


「救い主様、お頼み申し上げます」


 ドワーフの長老がそういう。

 シルフィーが首を縦に振り、例の場所へと進む。

 俺が最初に谷の底にきたときに踏んでしまった魔法陣。

 谷の底を照らし出すための起動装置。

 谷の底、両壁がまばゆい光を放ち――


 誰もがその光景に息をのんだ。


「これは……エルフの古代の魔法技術か……」

「……ドワーフの彫刻の技術がこんなところに……」


 エルフ、ドワーフ、ともに思ったことをいう。

 だが、それを見ても、この谷の底が自分の領土だと主張するものは一人もいない。


 なぜならそこに描かれていた壁画は――


「ははは、なんて楽しそうなんだ」

「これが――聖域の正体なんだな」


 その壁画に映し出されていたのは、楽しそうに踊りを踊るエルフとドワーフのものだったから。

 マリアが言うには、これと同じような彫刻はドワーフの住む洞窟の入り口にもあったという。

 そして、踊りの壁画があるということは、今からするのは一つだ。


「いまから、舞踏会の開始を宣言します!」

「舞踏会?」「舞踏会だって?」「まさか舞踏会だと!」


 その言葉に、誰もが己の耳を疑った。

 あぁ、最悪だよな。俺もこの事実を見たときは最悪の思いだったよ。

 予言の「ぶどうかい」は、濁点が邪魔、本当は「ぶとうかい」だったなんてな。

 そんなことあるわけないと思うよな? 本当にあるわけないが、それが事実なんだ。


「みんな、こっちを見て!」


 マリアが言う。壁画の一部に突起があり、それを押すと壁が奥へと開き、空間が現れる。


「楽器はこの中にあるわ! ドワーフの打楽器も、エルフの得意な横笛や竪琴もね。

 1200年もの年代物だけどこの壁画と同じで特殊な魔法がかけられているみたいだから保存状態は問題ないわ!」


 これを発見したのはドワーフの長老だった。

 昨日来たときに偶然見つけてくれた。


「おぉ、古代の楽器か! これは腕がなるぜ」

「おいおい、バカ力で壊すんじゃないぞ!」

「フルートですか、子供のころ吹いたときは天使の申し子と言われた私の腕をお見せできそうです」

「おぉ、この竪琴の弦は竜の髭じゃないか!」


 楽器に腕の覚えをあるドワーフとエルフが楽器を倉庫から持ち出してくる。

 そして、いよいよダンスは始まった。

 踊りの曲は、昨日のうちにドワーフ、エルフの両長老の間で決められていた。

 祭りの曲、そう呼ばれる音楽のリズム。

 エルフにもドワーフにも伝わっていたという曲だ。

 もしかしたら、1200年前に実際にここで使われていたのかもしれない。



 それはダンスと呼ぶにはあまりにもまとまりのないものだったが、皆がいままでの戦いを忘れ、笑顔で踊った。

 いままでの戦争の悲しみを忘れないように。

 まるで、1200年前の壁画に描かれたご先祖たちの笑顔に負けないように。


「ドワーフ族の長老殿、我々も踊りますかな」

「おぉ、エルフ族の……ですな、今日はめでたい祭りだ」

「ですな。本当に、預言がかなわずに戦いを続けていたら、どちらが滅びようともともに滅びの道を歩んでいたことでしょう」

「違いない、これからは――」

「おっと、長老殿、戦いの終了を宣言するのはまだ早いですぞ」

「おぉ、そうでしたな。その役目は確かに我々ではない」


 長老たちも踊りの輪へと入っていった。

 誰もが輪になり踊りを踊る。


「俺たちも踊らないか?」

「シルフィーがここから退けば光が消えてしまいます」


 シルフィーが、自分の立っている魔法陣へと視線を落とす。


「なら、私が代わります」

「悪いな、ミーナ、じゃあ行こうか」


 俺はシルフィーの手を引き、輪の中へと入っていく。


「強引ですね……シルフィーは踊りなんて知らないから本当は嫌だったんですが」

「俺も初めてだ。こんなのは気持ちの問題だろ」

「……そうですね、下手なあなたと一緒ならシルフィーの踊り下手も少しはマシに見えるでしょう」

「よし、じゃあ踊ろうぜ!」


 エルフもドワーフも人間もハーフエルフも。

 年齢も性別も種族も敵も味方もない、ただ楽しむ時間が終わったとき。


「ただいまをもって、エルフ・ドワーフの戦争を永遠に終結することを宣言します」


 シルフィーの宣言によって、戦争は幕を閉じた。

 一つの悪意によって歪められた予言が、正しい道へと進み、終結を迎えたのだった。


 戦争は終わった。

きっとあったであろう舞踏会に関する話し合い。


タクト「俺の故郷にフォークダンスってのがあってだな。

    舞踏会もその形式で行いたいんだ」

マリア「男の子って好きよね」

ミーナ「どんなダンスなんですか?」

マリア「男の子と女の子がそれぞれ列になって、手をとって踊るダンスよ」

サーシャ「つまり、タクトは私たちの手を握り足りないと?」

ミーナ「タクトさんが望むなら、私はいつでも手を出すんですが……」

タクト「いや、そうじゃなくてだな、それは文化祭で踊るものなんだけど、

    制服では踊りにくいし、短パンの体操服だと寒いだろ?」

ミーナ「文化祭?」

マリア「そうね。11月だものね」

タクト「だから、全員がジャージで踊るんだ。その光景はまさにジャージ舞踏会!

    ぜひ、今回の舞踏会もフォークダンスに!」

女三人「「「却下!」」」


 こうして却下になった、とかありそうだねぇ。

 シルフィーは味方してくれそうだけど。

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