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14 蝙蝠

 卑怯なコウモリという話をマリアという女性が話してくれました。


【鳥と獣が戦争をしていました。

 そして、蝙蝠は鳥の前でいいます。

「私は鳥の仲間です。それを証拠に私には鳥が持っていて獣が持っていない空を飛ぶ翼があります」

 そして、蝙蝠は獣の前でいいます。

「私は獣の仲間です。それを証拠に私には獣が持っていて鳥が持っていない毛、皮、牙があります」

 こうして、蝙蝠は得意の二枚舌で獣、鳥、双方に取り入り、安全に暮らしていました。

 ですが、鳥と獣の戦争が終わると、蝙蝠の話が露見し、蝙蝠の居場所は獣の場所にも鳥の場所にもありませんでした】


 その話を聞いて、シルフィーは思いました。

 まるで、人間にもエルフにも居場所のないシルフィーみたいだと。


 でも、それでもかまいません。

 シルフィーは今から戦争を止めてみせます。



  ※※※


 巨大な閃光が収まったとき、闘技場【谷の底】に立っている影はなかった。

 俺は分身が消え、膝をつき、杖で身体を支えている。

 サーシャ、マリアはうつ伏せに倒れ、かろうじて意識を保っているミーナが起き上がろうと手を石床について上半身を起こそうとしている。

 戦いは激化を極め、次の一撃ですべてが決まる。

 閃光の煌きから視力を回復したドワーフもエルフもどちらも思ったことだろう。

 当然、ただの光の爆発なので……俺も三人も全くダメージを受けていない。


「ぐっ、俺の攻撃を受けてまだ起き上がる力が残っているというのか!」


 起き上がろうとするミーナに、俺はいまいましげに声を上げる。彼女は攻撃を受けていないけど。


「私には、私の勝利を願ってる多くのドワーフさんがいるんです。負けるわけにはいきません。こんなの痛くもかゆくもありません!」


 そういい起き上がったミーナが短剣を両手で二本構えた。実際に痛くもかゆくもないのはわかってるが。

 会場から、音が消えた。

 固唾を呑みその試合を誰もが見守っていた。


 ミーナが一気に跳んだ。大けがをおったりしたとは思えない動きだ。

 ミーナは無傷なので当然だが。


 俺も魔法を唱える。


「ファイヤーフィールド!」


 炎の範囲型魔法が展開され、ミーナの行く手を阻もうとする。

 が、ミーナの二本の刃が俺の魔法の間に道を作った。

 いや、本当は俺がそういう風に調整した(かなり疲れる)のだが。


 二本の短剣と俺の杖とが衝突しようかというそのときだった。

 巨大な影が戦いの舞台に現れた。


 それの正体には皆は気付かなかっただろう。

 だが、空から彼女が舞い降りた。


「何かがソラからオリてくるゾ!」


 エルフの長老が叫んだ。緊張で声が上ずっている。

 影はみるみる大きく鳴り、はっきりと二本の巨大な翼が見えるようになっていた。

 その羽は太陽の光に反射して輝いて見えた。300枚以上もの鳥の羽や巨大鳥の羽を組み合わせ、氷の魔法で凍らせた即席の二本の翼。

 後光のような光景を作り出すのは良い想定外。


「タタカイげきカするとき、ニホんのツバさ! まさカ!」


 こちらは事情説明済みのドワーフの長老。

 セリフ棒読みスキル(未確認)のレベルはエルフ長老の玄人レベルを大きく上回る。


 その影はゆっくり大きくなっていく。

 最初に気付いたのはやはりエルフ、しかも、皮肉なことに一番彼女を嫌っているスレイマンだった。


「あれは、シルフィーユ・シルヴィア! まさか!」


 スレイマンの声を引き金として、エルフが大騒ぎします。


「エルフだと?」

「なんでエルフが――」

「まさか、エルフが救い主様を騙って――」


 ドワーフの面々もシルフィーの姿を見て騒ぎだした。

 そこでシルフィーが上空から言う。


「皆のもの、私はシルフィーユ・シルヴィア! エルフと人との間に生まれしハーフエルフです!」


 その言葉に、ドワーフの長老がいった。


「む、ならばカノジョハえるふデモどわーふデモない!」


 ドワーフの長老が言う。相変わらずの大根役者だ。

 長老は自分の持っていた斧を上空につきあげ、


「そしてカノジョのムネヲミヨ!」


 え? なんで胸?


「本当だ、胸が絶望的にがない」

「本当に絶壁だ」

「彼女は本当に女なのか!」


 なに、この感想?

 わけがわからないが、それにより、ドワーフの間にも彼女が救い主ではないか、という話が流れる。

 威力を最少限に抑えた風魔法によってゆっくりと降下するパラシュート。

 太陽の光とまだ燃えているファイヤーフィールドの炎によって羽の氷が溶けていく。

 それを確認し、俺はようやくファイヤーフィールドの魔法を解除。


 シルフィーユは多くの観衆に見守られる中、舞台の真ん中へと降り立った。

 そして、溶けた二本の翼は、最後に彼女が小声で詠唱した風魔法によって、一枚一枚分離して空へと舞い上がっていった。

 その光景は、さながら地上におりたった天使のようだ。

 彼女につけられていたパラシュートが切り離され、谷の底へと落ちていく。


「ま、あれさえなければ本当にきれいな光景なんだったんだけどさ」


 舞台の端から、おちていくパラシュートを見て、サーシャが苦笑した。

 黒を基調多くの布をはりあわせてつくられたパラシュート。


「でも、あの布はナイロンっていうパラシュートに適した素材に似ているから、素材としては間違えていないのよ。もちろん防水性は言うまでもないわね」


 彼女がそういう。

 その素材のアイテムの名前。


【コウモリ傘】


 井戸の迷宮でコウバットが稀に落とすというレアアイテム。

 だが、俺のボーナス特典の効果によりそのカードの数は150枚を余裕で超えていた。

 そこから金具をすべて外し、布をしっかり組み合わせてパラシュートを作成。

 実際、夜に試してみてもうまくいった。布地がほとんど黒なので夜に行っても人目につかないのも助かった。


「それにぴったりじゃない? 蝙蝠って」


 マリアが笑ってサーシャに言う。


「どうして?」

「あぁ、卑怯なコウモリの話か?」


 俺はマリアの横に座り、そう呟く。

 卑怯なコウモリの話は有名なイソップ童話だ。昨日、マリアがシルフィーに話していたのを聞いて思い出した。


「あんまりシルフィーにぴったりって言ってほしくないんだけどな」

「あら、それはコウモリがその特性を自分の保身のためにつかったからよ、その使い方を変えたら、二つの種族の架け橋になれたって私は思うわ。実際、オーストラリアの似たような伝承だと、そのあと鳥と獣の危機を救って二つの種族から感謝されるとあるのよ」

「それは初耳だな」


 さすがは物語大好きなマリアだ。

 よく知っている。

 そして、シルフィーはエルフとドワーフ、二つの種族の争いを止めるために声をあげた。


「もう一度言う、私はシルフィーユ・シルヴィア! 戦いを止めるため、皆さんをこれから谷の底へと導きます!

 どうか、舞台へと上がってください!」


 彼女の宣言のもと、話をすでに聞いていた両種族の長老が先頭になって全員を舞台の上にあがらせる。

 全員が舞台の上にあがったときだった。


「シルフィーユ・シルヴィア! どういうことだ、貴様が救い主だと! 救い主様の名を騙るとは許されざる行為だ! エルフの掟によって貴様を処罰する!」


 スレイマンが己の剣を抜き、シルフィーユに襲い掛かる。

 だが、俺の索敵レベルはすでに30を超え、相手の殺気を読む技能を身につけている。

 先回りしてスレイマンの剣戟をミスリルロッドで受け止めた。

「ぐっ」


「スレイマン・ジ・オランド、私、シルフィーユ・シルヴィアが救い主であるという証明をいまからお見せします――タクト、例の合図を」

「了解、救い主様」


 俺はスレイマンの剣を払いのけ、残り少ないMPを使ってファイヤーフィールドの魔法を唱えた。

 直後――大地が揺れた。


「何だ!?」

「まさか、“谷の底”が落下を始めてるだと!」


 逃げ出そうとするエルフとドワーフだが、それを長老たちが止める。


「静まれ! 静まらぬか!」

「皆、落ち着くのだ!」


 騒ぎが静まった一瞬をついて、マリアが引き継ぐ。


「この“谷の底”は落下をしているのではありません。これはドワーフとエルフ、双方の今は失われし技術を用いて作られた上下運動をする乗り物です。

 巨大なエレベーターとでも呼びましょうか」


「えれ……べーた?」


 当然エレベータなど知るはずもないか。


「見てください、舞台の周りから風が吹いて、毒ガスを追い出しています」


 マリアの説明に、舞台から下をのぞき込む。

 確かに毒ガスが舞台から遠ざかっていった。


「本当に……谷の底に向かってるというのか」


 ミーナより少し背の高いくらいのドワーフがそう呟いた。


「あぁ、本当さ。そして、そこには戦争を止めるものがある」


 そう、こんな戦争なんてくだらないと思わせるようなものがあるのさ。

 1000年以上も前に作られた、あんたたちのご先祖様からのとっておきのプレゼントがな。

いよいよ谷の底。

コウモリ傘を再び出すことになるとは井戸の迷宮の話を書いている時には本当に思いませんでした。

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