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13 殺陣

 武道会のルールはひどくシンプルだ。

 事前に登録された三人の戦士が谷の底と呼ばれる闘技場の上に立ち戦う。

 武器は自由だが、そちらも事前に登録が必要。

 登録されていない武器の持ち込み、および試合開始後に武器の提供を受けるのは禁止。

 三名の戦士が戦闘不能になるか、降参したら負けとなる。

 場外は負けとなる。

 戦いに勝った種族がそれぞれの聖域である谷およびその周辺を己の領土とできる。


 ルールにこそ明記していないが、エルフ、ドワーフともに共通の認識として一つ。

 負けた種族は滅びの道を歩むであろう。 


 そして――武道会の開かれる日の朝。

 エルフの村で事件が起きた。

 大会まで残り1時間。集落の広場に俺は呼び出されていた。


「ダグ・ザ・バイヤーとシルフィーユ・シルヴィア、捜しましたが双方ともに見つかりません」


 長老がそう言って現れた。

 大会の準備室に先に入ったはずの二人が突然姿を消したという。

 村中のエルフで集落だけでなく周辺の森や谷の周辺を捜したが見つからないという。


「くそっ、だから私は反対だったんだ! 今からでも私が出る! 長老、異存はあるまい!」


 そうどなりつけるのは、エルフの兄ちゃんのスレイマン。


「それはまかりならん、スレイマン・ジ・オランド。選手登録はすでに済ませてある。もう変更はできん」

「ですが、三人揃わねば我らの不戦敗になる! これはドワーフのやつらが仕掛けた罠にきまってる! 文句はいわせない!」


 怒鳴りつけるスレイマンに、長老が黙り込む。


「ようは選手登録している人間が三人そろえばいいんだな?」

「そうだが……」

「なら、俺一人で十分だ」


 そして、俺は魔法を唱えた。


「アザーセルフ!」


 その魔法の詠唱によって、俺の分身が一体現れた。


「アザーセルフ!」


 もう一度唱えると、俺の分身がもう一体。


「これでなんとかなるんじゃないか?」

「ルールでは三人で出ないといけない。それと選手登録していない選手は出てはいけない」

「えらいこじつけだが、三人はきっちりそろってるぜ」


 俺が三人になったのを見て、集落に集まっていたエルフは大騒ぎだ。


「おぉ、流石は救い主様、そのような魔法までお使いになるとは!」

「凄い、これならドワーフの戦士なんて目じゃないな」

「あぁ、飛竜をも超える魔法使いが三人いることになるんだ! 負ける道理がない!」


 俺はその歓声を聞き終えると、魔法を解除。

 二体の分身が消え、俺一人が残った。


「おぉぉぉ、やはりあなたは救い主様でした! うむ、確かにルールには違反していない」

「長老、それは――」

「スレイマン、これはわしの一存で決定する。拒否は許さん」


 長老がそういうと、スレイマンが苦虫を噛み潰したような表情で去っていく。去り際に「老害が」と長老には聞こえないように吐き捨てていった。


「……これでよろしいのですかな? 救い主様」

「ああ、上出来だ。でも、二人のときは救い主はやめてくれ、昨日言っただろ?」

「……ですが、この目で見なければいまだに信じられなかったでしょうな……まさか、谷の底にあのような秘密があったとは……」


 エルフの長老はすでに瞬間移動によって谷の底まで案内し、全てを話している。

 もちろんダグさんとシルフィーの行方不明も俺の用意した狂言だ。

 二人には重要な仕事を任せてある。


「わかってると思うが」

「はい、救い主様……スメラギ様から伺ったことは墓場まで持っていきます」

「助かるよ」


 俺の悪巧みは、いよいよ最終局面まで来ていた。

 俺が谷にやってきたときには、武道会場はすでに多くのエルフが円形闘技場へ通じる橋の近くに集まっていた。


「救い主様がこられたぞ!」

「どうか我々をお救いください!」

「ぜひ、エルフに勝利を!」

「キャァァァ、救世主サマァァ」


 若いエルフの声援はちょっと気持ちいい。

 でも、今はにやけている場合じゃないよな。


「救い主様、ワシが付いてこれるのはここまでです」


 橋の手前で長老が言う。


「ああ、あとは任せてくれ」


 俺は鉄製の鉄製の階段を五段あがり、前に進む。

 すでにこの床の下には闇と毒のガスが広がる谷の底。

 落ちたら助からないのは間違いないだろう。


 橋の先には十五センチメートル程度の隙間が空いていて、その先が闘技場だ。


 そこで立つと、谷の向こうがよく見える。

 こちら側と同じように、橋の向こうにドワーフが大勢集まっていた。

 一際大きな歓声とともに、三つの影が現れる。


 一人は三つ編みのおとなしそうな少女。腰には二本の短剣を携えている。伝説のスキル、二刀流を持つという。

 一人は長い髪の褐色肌の少女。俺より少し年上で、片手剣をすでに抜いている。やる気満々だ。居合いとかそういう駆け引きっぽい剣術は彼女には無縁だろう。

 一人は肩のあたりで切りそろえられた髪のお姉さん。白衣を纏い、この世界ではほとんど知名度のない武器、拳銃を所持している。


 まぁ、つまりはミーナ、サーシャ、マリアがいた。


「おかしいねぇ、武道会は三人でやるって聞いてたけど、他の二人は逃げたのかい?」


 サーシャが剣先をこちらに向けて挑発してくる。


「はっ、あんたたちの相手は俺一人……いや、俺三人で十分っていうことさ」


 そういい、俺はアザーセルフの魔法を二度唱える。

 俺Aは魔法を唱えた、俺Bが現れた、俺Cが現れた、のような状態だ。

 


「分身魔法!? そんなの聞いたことないわ」


 マリアが驚愕の声を上げた。


「当然、ルールには違反していない」

「俺たち三人はきっちり参加登録をしている」

「それはそっちにも伝わってるはずだ」


 俺三人が全員ミスリルロッドを構えて言う。


「長老! ドワーフのみなさん! 問題ありません! これだけ強力な魔法です、弱点がないはずがありません! 私に任せてください!」


 ミーナが後ろを向き、応援に来ていたドワーフ全員にそう言った。

 それに応えるようにドワーフたちから歓声があがる。

 しっかり救い主をやってるんだな。


「試合開始のゴングなんてしゃれたものはないらしいよ。六人全員が闘技場に入ったときからもう戦いさ」


 サーシャがいうとおり、この戦いには審判も試合開始の鐘もない。

 ルールがルールだけに審判がいないことが最大の公平な勝負を作り出す。

 強いて言えば、試合を観戦している観客と、俺たち六人が全員審判のようなものだ。

 運命の結末を決める審判だ。


 そして、六人は円形闘技場に入る。

 その時だった、サーシャが跳ねた。


「っていきなりかよっ!」


 俺Bがミスリルロッドでその剣を受け止める。


「お前、手加減とかしてないだろ」

「あぁ、せっかくなんだ、本気のタクトと戦わせてほしい!」

「くそっ、無茶をいいやがって」


 俺Bが次々に繰り出される剣戟をミスリルロッドで受け止めた。一撃一撃が重い。だが、まだ甘い!


「ファイヤーボール!」


 俺Cが繰り出したファイヤーボールが俺Bに迫る。さすがは俺、自分の攻撃を予想して後ろに跳んだ。これで魔法はサーシャに突撃――


「させません!」


 ミーナが前に出た。

 百獣の牙と火竜の牙でファイヤーボールを叩き切る。

 まじかよ、いくら火竜の牙で炎属性を纏っているからって、炎を叩き切るとは。

 百獣の牙の速度UP効果も大きい。

 炎を切り裂いたミーナが俺Cへと攻撃を詰める。


「アイスニードル!」


 氷の槍が迫りくるミーナに迫った。

 と、同時に銃声が三発響き、氷の槍が砕け散った。


「私のことを忘れてもらったら困るわ。そんな攻撃全部撃ち落してあげる」


 そう言ったのは銃口を俺Cに向けるマリア。


「あぁ、忘れてなんていないさ! これでも喰らいやがれ」

 

 俺Aの振り下ろしたミスリルロッドを、マリアが歯ぎしりをして銃身で受け止めた。


「マリアから離れろ!」

「後ろが甘いぞ!」


 俺Aに迫るサーシャに、俺Bがすかさず魔法を放とうとする。


「お姉ちゃん、こっちは私に任せて」


 俺Cに攻撃しようとしたミーナが急に向きを変え、俺Bへと向きを変えた。


「プランA! ライト からの サンダーポイント!」


 俺Cが放ったライトによって生み出された光の弾にサンダーポイントの雷がぶつかり、大きな閃光を作り出した。

 心の中で「天○飯、技を借りるぜ!」と言っている。


「よし、いまだ! まずは二刀使いから!」


 目が見えなくなったミーナに俺Cがミスリルロッドを振り下ろす。だが、それを受け止めたのは目が見えないはずのサーシャだった。


「私の索敵レベルをなめるんじゃないよっ! 目が見えなくたってあんたの攻撃くらいうけとめられる」


 ははは、強いな。

 俺Aは笑いながら、周りを見る。

 エルフもドワーフも大盛り上がり、まぁ、一見派手な攻撃の連続だが、実際は全て念入りに組まれた攻撃だ。サーシャは最初は本気できりかかってきやがったが。


「さて、そろそろ行きますか! 決死の一撃からのライト!」


 俺Aが作り出した光の弾は、まるで太陽のように空へと舞い上がり、


「サンダースパーク!」


 雷の上級魔法によって、その閃光は会場どころか谷の全てを光へと飲み込んでいった。


  ※※※



 まったく、こんなところ高所恐怖症の人がいたら死んでしまいます。


「もう少しですから、頑張ってくださいね」


 ロックコンドルの背中にまたがり、シルフィーは闘技場のはるか上空にいました。

 ごつごつとしたロックコンドルの背は決して気持ちいいものではありませんが、ロックコンドルにはシルフィーを乗せて飛ぶという無茶をさせているので文句を言うことはできません。

 あまりにも上空すぎて、気温はもう氷点下に迫る勢いです。

 こんなところに一人で待たせるなんて、あの人は紳士失格ですね。


「でも――」


 シルフィーはあの人から預かったジャージという服をなでてみます。

 まぁ、暖かいからよしとしましょう。


 その時です、下のほうでまるで大爆発のような光が地上を飲み込みました。

 合図のようですね――


 シルフィーは飛び降りました。


 地上で待ってるあの人の元へと。

武道会です。

活動報告で散々悩んでいたサブタイトルですが、書いているうちに、

「あ、なんだ、こんなことか」

と拍子抜けに決まりました。


あと数話でエルフ&ドワーフ編も終わります。

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