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12 準備

 未来からやってきた猫型ロボットと、出来の悪いと言われる小学生の少年を題材とした国民的アニメがある。そのアニメに出てくるヒロインはいつもお風呂に入っていて、主人公の男の子はいつもその入浴シーンを覗いてしまう。

 そして、その男の子はいつも女の子に「きゃぁ、○○さんのえっち」って言われてお湯をかけられて追い出されてしまう。お約束中のお約束だ。でもまぁ、次の話にいくとその女の子は普通に話しかけてくれるので寛容な心の持ち主だと感心するが。


 つまり、何が言いたいのか? と聞かれたら、間違えて女の子の入浴現場を覗いてしまっても、決してこんなことにはならないということだ。


「大丈夫です、自信もってください」


 シルフィーが俺の肩を叩く。俺の肩におかれた小さな手はおそらく彼女のものだろう。普段毒舌な彼女に励まされているが、絶対、俺に対する嫌がらせだな。

 まぁ、自信がないわけではないが、自信があるわけでもない。



「あの……話すなら外でしませんか? 瞬間移動で安全な場所までいきますから」


 俺はダメ元でそう提案した。

 もうこれ以上は耐えられません。

 男として辛すぎます。


「ダメよ、タクトくん。これは罰なんだから」

「まぁ、タクトにはこれが一番のお仕置きよね」


 予想通りの答えが返される。


「ふふふふ……お風呂は気持ちいいですよね……」


 ミーナはなぜかとても機嫌がいい。俺が入ってきたときに一番最初に悲鳴をあげたのが彼女だったのだが、俺の後から入ってきたシルフィーを見て一気に笑顔になった。

 視線がその顔よりは下の場所を凝視していて、ガッツポーズを取っていた。

 そして、慌てて出ようとする俺を三人が引き止め、一緒にお風呂に入るように命令してきた。提案ではない、口調は優しいが、あれは命令だった。

 タオルを装着することさえ許されず、湯船の中に連れ込まれる。

 その後、俺は目を瞑って暗闇の中、シルフィーの紹介をし、現状を説明した。

 海賊につかまったこと。瞬間移動でエルフの森にいったこと。飛竜を倒したこと。それがもとで救い主と呼ばれるようになったこと。

 そして、武道会に参加するようになったこと。

 その後、マリアが代表して説明する。

 俺を追って北の大陸にきたこと。ドワーフの町にいったこと。途中、サンライオンに襲われ、ミーナが二刀流の才能スキルを覚えたこと。

 それがもとで救い主と呼ばれるようになったこと。そして、マリア、サーシャもまた代表として三人で武道会に出ること。


 まさか、ドワーフにも似たような伝承が残されていたことには驚いた。


「スメラギさんの話が本当だとしたら、ドワーフの長老にも相談して、すぐにそれを見せるべきだわ」

「それなんだが、できるだけ予言に忠実にいきたいと思ってる」

「どういうこと?」


 マリアが尋ねる。

 俺は自分が思っていることを言った。


「良くも悪くもドワーフもエルフも予言を絶対的に信じているだろ? なら、預言の通りに救い主様の導きによって行くべきなんだ」

「それって、私とスメラギさんが導くってことですか?」

「いや、ドワーフとエルフの予言の救い主は、今後のことを考えて同一人物にした方がいいと思ってる」


 できるだけ二つの種族の間に禍根は残しておきたくない。


「俺はそれをシルフィーにやってほしいと思ってる」

「それは無理ね」


 マリアが即答した。


「ドワーフの予言には救い主は【エルフではない】という一節がある。エルフの彼女には救い主にはなれないわ」

「その点は心配ないとシルフィーは思います」


 シルフィーは言い放つ。 


「シルフィーはハーフエルフです。エルフの理から外れた存在ですから」

「そうなの? その体つきならもう一つの問題もクリアしてるけど、二本の翼はどうするの?」


 もう一つの問題? それが何かはわからないが。

 俺は空から降りるために用意していたカードを取り出す。


「あぁ……こいつで降りるのならダメか?」


 俺はカード収納でしまってあったカードを一枚取り出す。


「それだとエルフのほうにもドワーフのほうにもインパクトが薄いわ。何しろ、こっちはサンライオン相手に二刀流とか、飛竜に対して一騎打ちで打ち勝つとか、奇跡を残してるんだから」


 確かに、二刀流は幻とも言われている才能スキル。飛竜も強力な怪物だ。印象でいえば相当なものだろう。

 そうでなければ救い主なんて呼ばれるわけがないか。


「では……こういうのはどうでしょう?」


 シルフィーが思っていたことを提案した。

 なるほど、確かにそれは印象的だ。


「でも、その方法だと落下速度は緩められないわ。パラシュートでも作れたらいいんだけど、何かいい素材はないかしら」

「パラシュートってなんですか?」


 ミーナが尋ねる。まぁ、飛行機もないこの世界ならパラシュートが生活に浸透することはないだろう。


「巨大な布を使って落下速度を緩めるの。研究所では絹を使って作ったことがあったけど」


 絹だと失敗したという話があった。絹は水を含むと開きにくいらしい。

 吸水性が悪い素材が必要ということか。


「……なぁ、これは使えないか?」


 俺は別のカードを取り出す。

 これなら結構な数がそろえられる。


「………………」

「………………」

「………………」


 3人の無言。見えていないだけにこの間が怖い。


「……それはちょっとなぁ」

「うぅん、それで本当に飛べるんですか?」


 ミーナとサーシャには不評のようだ。


「まぁ、アニメなんかじゃよくあるわよね、そういうの。実は、その素材、ナイロンによく似ていて使いやすいのよ。

 でも絹より高価で実験する機会があまりなかったのよね」


 マリアは少し乗り気のようだ。


「……いいですよ、面白そうです」


 まさかのシルフィーの賛同をえられた。

 これは大きい。


「ただし、あなたが先に試してみてからですよ、私が使うのは」

「うっ……わかりました」


 そりゃそうだよな。うん、危ないのは男の仕事だ。言われるまでもないことだ。

 結局、最後の救い主演出は俺の案がそのまま採用された。

 その後は細々な打ち合わせを重ねる。


「私は裁縫道具をもってきます」

「そうね、お願いするわ。私はタクトくんの言ってたことを確かめるため、もう一度エメラルド板を見てくる」

「私は丈夫な紐をもらってくるわ」


 3人はそう言い、浴室から出ていこうとしていた。

 ふぅ、やっと天国のような地獄から解放される。


「一つだけ言っておきますが、3人ともとっくに服を着ていますよ。私が入ってきたときにはすでに着ていました」

「な、騙したのか!」


 俺が目を開いて振り向くと、笑顔で出ていく3人の女性。全員きっちり服を着ていた。

 くそっ、騙された。


「シルフィーもそうならそうと教えてく……ぶぅぅぅ」


 振り向いたとき、俺は思わず湯船の中にあおむけに倒れてしまった。


「私はもう少しお風呂を楽しんでいたいですね」


 シルフィーさん、服を脱いでいたのなら言ってください。

 湯船の中に沈んでいく俺はそう思った。



 その後、俺は手作りパラシュートで3度落下することになった。

 死ぬかと思ったが、実験は見事に成功。


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 ※注意

 手作りパラシュートは大変危険です。

 マリアさんは王立の研究所で多額の資金をもとに研究して理想的な形と材料を編み出していますが素人が作れば失敗することが必然です。

 絶対に真似をしないでください。

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 準備は整った。 

 そして、いよいよ運命の一日が始まる。

 エルフとドワーフの運命を決める予言の一日が。

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