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11 浮力

前半はタクト視点、後半はミーナ視点です。

 朝の山頂に雷鳴が響き渡る。

 例のカードがなかなか出ないことにいら立ちを覚えながら、俺は魔法をさらに使った。

 サンダーポイント、雷の下級魔法。植物の魔物は雷耐性があるためここまでほとんど出番のなかった魔法だが、やはり、俺の覚えてる魔法の中ではサンダーポイントは使い勝手がいい。

 サンダーポイントは一点集中型の雷魔法、次々と狙った魔物を撃ち落していった。

 そして、俺は落ちた魔物に近づき、カードを確認する。


「また鳥の羽ばかりか……いつになったら目的のカードは出るんだ?」


 すでに鳥の羽のカードは300枚を超している。一度につき5枚も出るドロップ率100%アイテムだから仕方がないといえば仕方がないが、このままでは羽毛布団ができあがりそうな勢いだ。

 と思っていたら、また来やがった。

 巨大鷲型の魔物、ロックコンドル! 最初に見たのは飛竜の餌となっているときだった。あの時は可哀そうとか思ったが、やってることは絶対に俺の方がひどいと思う。

 乱獲だもんな。

 すでに60匹はしとめている計算になるが、目的のカードはまだでない。


「……またいた、サンダーポイント!」


 雷の魔法がロックコンドルの脳天に直撃、落下してカードに変わった。

 落としたカードは「鳥の羽」「鳥の羽」「鳥の羽」「鳥の羽」「鳥の羽」「巨大鳥のレア」「岩鳥肉」「岩鳥肉」「715ドルグ」

 そして……


「やっとでやがった……」


 目的のカードが出たことに満足し、俺は山を下る。

 武道会はもう明日にせまっていた。



   ※※※ 


 武道会まで残り四日になりました。

 どうやら、なし崩し的に事件に巻き込まれる属性は、スメラギさんだけの属性ではなかったようです。

 武道会への参加を了承してしまったときにそう思いました。

 だって、仕方ないではありませんか。

 救い主としての私たちがいないとドワーフが滅びてしまう、その予言が正しいかどうかはわかりませんが、マリアさんがそう結論したのですから。


「次の挑戦者は南洞窟で鉄を打ち続けて20年、魔物の出る坑道で採掘を続けて今では槌レベル34のドワーフ戦士、ガザフだ!」


 司会の男がそう絶叫する。

 私はドワーフの仮設闘技場で試合を観戦していました。中央には実際に戦いを行うことになる「谷の底」という闘技場を模した円形の闘技場があります。

 まだ朝だというのにドワーフは一部を除いて仕事を休み、お酒を飲みながら試合を観戦していますが、一番前のかぶりつき席はドワーフの子供の特権です。

 これから戦士になる子供にとって、良い戦いを見せるのが大切なことだというドワーフの掟らしいですね。

 現れた背は低いが腰のあたりまで髭の伸びたドワーフの男を見ながら、嘆息を漏らした。

 彼の持っている強・プラチナハンマーは30年前に現れたレアモンスター・プラチナツリーの通常ドロップアイテム「プラチナ鉱石」から造り出した業物らしい。

 昔の私が見たらその迫力を見ただけで興奮して夜も眠れなくなるか、怖くて夜も眠れなくなるか、それともお姉ちゃんと一緒に大騒ぎして夜も眠れなくなるかのどれかだったでしょう。

 でも、今は興奮してるのはお姉ちゃんだけのようだ。

 観客としてならよかったんだけど。


「さぁ、迎え撃つはその剣で葬ってきたドワーフの数はすでに9人、これに勝てばチャンピオンになり武道会出場をその手に掴むことになる女剣士!」


 あぁ、本当にうれしそうにその女剣士さんは出てきました。


「しかも、彼女は我らが救い主様のお姉さん、その名は――」


 司会のドワーフが一拍を置いて、その名を呼んだ。

 しかも、それに合わせて会場中のドワーフたちもまたその名を呼ぶ。


「「「サーシャァァァァっ!」」」


 お姉ちゃん、もうドワーフたちの人気者です。

 性格も合うのか、マリアさんとドワーフたちが仲良くなったのは、マリアさんが石碑を見に行ってすぐのことでした。


「ドワーフはエルフと違って種族は気にしない。魔法のようなようわからんもんの力は認めないが、その腕の力を持つものを認める」


 私の横でそういったのは、ドワーフの中で一番背の高い――といっても私より少し背の高いくらいのドワーフさん・バンドさんです。


「だが、ドワーフの戦い方は槌か斧が基本。鈍重で一撃必殺のその戦い方に対し、彼女の戦い方はなんとも美しい。

 もちろん、救い主様の戦い方もそうですが、何より、彼女は戦いを楽しんでおられる」


 ですね。お姉ちゃん、とても楽しそうに戦っている。


「それにしても、参ったよ、救い主様のお仲間には。あの剣士様だけではなく、彼女が武道会のきっかけになった火薬使いの女だったとは」


 本当に困ったようにバンドさんは言いました。

 なんでも、この武道会は私たちの大陸で火薬というものを使った武器が開発され、このままでは人間達との間に戦力の差が開いてしまう。

 そうなる前に戦争を終わらせないといけない、という両種族の長老の合意で行われることになったそうです。

 戦争を終わらせるのなら、武道会なんてせずにそのまま休戦調停をしたらいいと思うのですが。

 予言かなわぬ時、ドワーフが滅びる、という予言のため、武道会の実施は絶対だったそうです。

 そして、武道会までもう少しといったところで、予言にあった私が現れた。


「サーシャの鋭い攻撃がガザフの腕に直撃! ガザフ、たまらず槌を落としたぁぁぁ!」

「決まったぁぁぁ、救い主様のお姉さんは強いよ。相性の問題もあるが、それを除いても一級品だ」

「はい、自慢のお姉ちゃんです」

「やれやれ、これで武道会の参加者は全員人間になりそうだな」


 そう、この戦いは武道会の代表選手を決めるための戦いです。

 10連勝を果たしたらお姉ちゃんは武道会出場が決まりました。

 そして、マリアさんもエルフの遠距離魔法に対抗するためにあの拳銃はかかせないものとして、代表入りをすでに決めています。


「そんなことないさ。いっただろ? ドワーフは強いものを認める」

「でも、大切な戦いなんですよね」

「もちろんだよ。ドワーフが滅びるなんていう予言は絶対に止めないといけない」


 バンドさんは一番前で観戦している子供たちを見つめました。とても暖かいまなざしで。


「子供の未来はまだまだこれからなんだ」


 彼がそういうと、会場に一際大きな歓声が響き渡ります。

 この瞬間、栄誉ある武道会の参加者が決まりました。


 それから、私たちはスキルのレベル上げのために戦いや訓練をしたり、武道会に備えての模擬戦をしたりしました。

 そして、武道会前日に、私たちは全員集まって、そこにいました。


 私はもう憂鬱で仕方ありません。


 唯一の救いといえば、この靄でしょうか?

 靄で視界を遮られることで、私の自尊心はあまり傷つけられずに済んでいます。


「初めての経験だけど、ん……きもちいい……」


 お姉ちゃんが少し色っぽい声をあげます。


「私ははじめてってわけじゃないんだけどね……ごぶさたで最近いろいろと溜まっていたから……ん……やっぱり気持ちいいわ」


 マリアさんも満足そうです。お肌がつやつやになっている気がします。


「タクトくんもたぶん、こういうのは大好きなはずよ」


 いまだにこの状況を受け入れられない私に、マリアさんが意地悪そうな顔を浮かべます。


「やっぱり……スメラギさんも……好きなんですか?」

「ええ、こういうの……ちょっと嫌いな男の子もいるらしいけど、基本は好きなはずよ」

「わかりました……私も頑張ってみます!」


 そういい、私は魔蜘蛛糸のドレスを脱ぎ、さらに肌着を脱いで、皆さんの輪に入っていきます。

 やっぱり……恥ずかしいです。

 恥ずかしくて、体がほてってきそうです。


「もう、たかがお風呂で大げさなんだから、ミーナったら」


 マリアさんがそういいますが、私は人前で裸になったことなんてないんだから仕方ないじゃないですか。


「でも、本当に気持ちいいわ。たまっていた疲れと汚れがきれいに落ちていく感じね。本当にタクトくんには申し訳ないわ」


 身体を洗い終えたマリアさんが再度湯船に入っていきます。

 私もそれに倣い……かけ湯……というものをしてからお湯の中にはいっていきます。

 あ……気持ちいい。


「ふぅぅぅ」


 思わず息が漏れます。

 湯船はダブルベッドくらいの広さがあり、足を延ばしても十分くつろげる広さでした。

 鍛冶屋の炉で出た煙の熱を利用して沸かしたお湯を、鉄製の管で通してここまで運んでいます。

 本当に気持ちいい。

 ここは谷の横、武道会場の横にあるお風呂場です。

 なんで聖域の横に? と思いましたが、本来は生まれたばかりの子供を洗うときの産湯としてしか使わない神聖なものらしいです。

 ただ、強い戦士の入ったお湯は子供にも力を与えるという伝統で、祭りの日などに戦士が入ることもあるそうです。

 なので、武道会参加の決まった私たちにぜひ入ってほしいと言われ、このお風呂に入っています。


 ふと、私は視線をずらしました。

 お姉ちゃんは足を大きくあけて大の字になってお風呂につかっています。

 マリアさんはさすがは大人の女性という感じで、姿勢よく座り、手でお湯を救って自分の肩にかけています。頭にタオルを乗せているのはなぜでしょうか?

 二人とも満足そうだし、お風呂っていいものなんだなぁ、スメラギさんも好きなのはちょっとわかりそうです。


 そう思ったときでした。

 私は――恐ろしいものを見てしまったのです。


 お姉ちゃんとマリアさん、二つの胸の塊が……湯船にういていたのです。

 なんということでしょうか? 二人の胸には空気がつまっているというのでしょうか?

 私の胸は……もしかして、そういうことなのでしょうか?


「……はぁぁぁ……ふぅぅぅ……はぁぁぁ……ふぅぅ」

「どうした? ミーナ、急に大きく深呼吸なんてはじめて」

「お姉ちゃんにはミーナの気持ちなんてわからないんです! 放っておいてください」

「え!? なんで急に反抗期!?」


 ス……スメラギさんもやっぱりそういう意味で好きなんですか?

 浮かないと……いけないというんですか?

 教えてください!


 私が願った……その時だった。


「すまん、入らせてもらうぞ! …………え?「え?」「え?」「え?」」


 四人の「え?」が見事にハーモニーを奏でました。

 入ってきたその人は……

 ジャージこそ着ていませんが私達のよく見知った人物でした。


「スメラギさん?」「タクト?」「タクトくん?」

「……みんな、どうしてここに」 


 思わぬ再会に……私達は悲鳴をあげることすらできませんでした。

きっとタクトにはラッキースケベ属性が備わっています。

一番弱いと言われているサーシャですが、

2ヶ月×64倍の10年分の修行は積んでいます。

しかも、瞬間移動による迷宮までの移動時間チートもあるので、かなりの経験値荒稼ぎですね。

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