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8 諸手

今回はサーシャ視点ですすみます。


 北の大陸の南東に、二つの山がある。

 その二つの山の間に大きな谷があり、そこはエルフ・ドワーフの聖域と言われてきた。


「間違いありません! 私の勘がいっています! スメラギさんはドワーフの村です」

「そうね、間違いないわ」

「あのタクトだもんな。ドワーフの村に行ってるよ」


 私はミーナとマリアの話に賛同した。

 いや、タクトが北大陸に連れていかれたと知ったときから、私たちはうすうす思っていたんだ。

 そう、すべてのきっかけは――井戸のダンジョン。スチールジェリーが落とした幻のレアアイテム


【オリハルコン】


 神々の金属とも呼ばれる希少なその金属は、まさしくレジェンドドロップアイテムの筆頭ともいえる。

 だが、タクトは最初こそその希少性に驚いたが、すぐに忘れたかのようにその話題をしなくなった。

 でも、ある日のことだ。

 金属を繊維に変える技術をドワーフが持っていると知った日、あいつは砂漠の迷宮でこう言ったんだ。


「ドワーフならオリハルコンを繊維に変えることができるそうだし、北の大陸にいってみないか?」


 私はその耳を疑ったよ。

 でも、だから私たちはすぐに理解できたわけだけどね。


「「「あのジャージバカは絶対にドワーフの村にいる!」」」


 妹までタクトを「バカ」扱いしたことに苦笑しつつ、私はドワーフの村に出ているという定期馬車へ乗り込んだ。

 まぁ、エルフの村にいる可能性はわずかにはあるが、エルフの村はその周囲を迷いの魔法の結界でおおわれていて、人間には立ち入ることの許されない聖域らしい。

 ならば、どちらにせよ探索するならドワーフの村になる。

 ドワーフは背の低い、酒と鍛冶を好むおっさんのような人種で、男は全員長いひげを蓄えている。

 女も背は低いが髭の代わりに長い髪が特徴で、性格も豪快なおばちゃんみたい。

 そして、二人とも褐色の肌だ。


「タクトめぇ、そんな私にキャラ被ってるやつと迷宮でいちゃいちゃしやがってぇぇ。こんなことならあの日の夜に押し倒しておけばよかった」

「お姉ちゃん! あの日の夜って一体何のこと!?」

「あぁ、こっちの話、こっちの話! あははは」


 妹がいたことを忘れて私は困ったように笑った。

 そのとき、御者のスキンヘッドのおっちゃんが私たちに声をかけてきた。


「それにしてもお嬢ちゃんたち全員美人だねぇ。ドワーフの村には観光で?」

「「「そうでぇぇす♪」」」


 私たちは前もって打ち合わせしていたように答えた。

 話の食い違いなどで問題を起こさないように、ドワーフの村へはとりあえず観光名目で訪れる。

 そう言い合わせている。


「そうか、こんな時間に行くなんてお客さんたちくらいだよ。ドワーフの村は宿が少ないからね」


 そう、もう太陽は大きく西に傾き、あと一時間もすれば黄昏時になるはずだ。


「ははは、そうかそうか、ドワーフの村の金細工は結婚指輪にもなるからな、今度来るときに男でもいたらそいつに買わせたらいい」


 御者の男がそんなことを言ってきた。

 け……結婚指輪?

 そっか、そういうのがあるんだ。 


「……って、あぁ、そっちの嬢ちゃんたちはもう人妻か」

「え?」

「だって、左手薬指に指輪してあるだろ?」


 おっちゃんが言ったのは、私たちがパーティーである証、繋がりの指輪だ。

 パーティーを組む冒険者は誰もがつけているが、この人は知らないのだろうか?

 

「繋がりの指輪も結婚指輪としては最適だもんな」


 おっちゃんが豪快に笑った。あ、そうか。普通は繋がりの指輪を左手薬指につけないか。


「じゃあ、そっちのお嬢ちゃんは寂しいねぇ」

「誰が行き遅れの年増女ですってぇぇ‼」


 マリアが怒鳴りつけた。


「タクトくんとは、生年月日だけでは私のほうが後に生まれたはずなのよ」


 意味の分からない文句をつけだした。

 いや、マリアさんのほうが年上ならば生年月日もタクトより前になるはずなんですけど。でも、マリアさんも23歳だもんなぁ。

 やっぱり結婚とか考えてるのか。


「……気配がする」

「魔物?」

「うん、まだ遠いけどこっちに向かってくる」


 マリアの問いに私が頷く。

 索敵レベル26。

 まだまだ相手の殺気を読むまではいかないけれど、魔物の位置はだいたいわかる。


「は? 姉ちゃん、何言ってるんだ? 魔物なんてどこにも――」


 そういって、御者はその目を疑った。


「くそっ、サンライオンじゃねぇか! おい、引き返すぞ!」


 炎の獅子、サンライオン。

 赤いたてがみと橙色の体毛、その姿はまるで太陽のようだということで名づけられた。

 といっても炎というのは見た目だけで、炎による攻撃も炎に対する耐性も持ち合わせえていない。

 己の速さと力を武器とし、北大陸草原の狩人ともいわれる魔物。

 群れで生活し、他の弱い魔物や人間を襲ってはその魔力を手に入れる凶暴な獣だ。

 

「おっちゃんはここで待ってて」


 私は片手剣を手に馬車から飛び降りた。

 後に、ミーナ、サーシャが続く。


「お嬢ちゃんたち、無茶だ! サンライオンは凄腕冒険者でも苦労するような魔物だぞ!」

「私たちも凄腕冒険者よ!」


 そう、だってタクトに鍛えてもらったんだから。


 サンライオンは10匹。

 最初に火花をきったのはマリアの銃声だった。


「弾の予備はタクトくんに渡してるからあんまり使いたくないんだけどね」


 そういい、200メートルは離れているであろう場所からサンライオンを狙撃。

 見事に命中、弾の込められたスロットを回し、再度狙いをつけた。

 一匹が倒れて動けなくなったとき、サンライオンはもう目と鼻の先まできていた。


「でも、遅いっ!」


 こちらに向かって跳躍してきたサンライオンに、私は小さく身をかわし、すれ違いざまに剣で一撃を加える。

 大きく動いたら隙ができる。

 だから、私は小さな動きで最高の攻撃をするだけだ。

 逸る気持ちを抑え、私は別のサンライオンにかけていった。


 圧倒とまではいかないが、そこそこ余裕をもってことにあたっている。

 だが――


「ミーナ、危ない!」


 短剣レベル41とはいえ、ミーナのリーチは短い。しかも獅子は複数いた。

 一頭ではかなわないとみたサンライオンが二頭にわかれてはさみうちをしてきた。

 だめだ、短剣一本だとかわせない、今のミーナなら……ちょっとだけ痛いだろう。

 でも、回復魔法の使えるタクトがいないのだ。だから、怪我をおってほしくない。


 そう思ったときだった、ミーナはあろうことか、左手で使っていなかった百獣の牙を取り出し、


――二本の短剣で戦い始めた。


 まるでそう戦うのが当然というように、百獣の牙と火竜の牙の二本の短刀で。

 通常、二本の武器を扱うとき、片方の武器にはスキル効果が反映されず、むしろ邪魔でしかない。

 別の種類の装備をして二本で戦うときなんて、スキル同志が反発して弱体するはずなのに。

 それでも、左右からせまりくるサンライオンを同時に相手取り、一歩も遅れをとらなかった。


 はは、私の妹つえぇぇぇ


 一度吹っ切れたとはいえ、姉としての自信を失いそうだ。


 才能スキル:二刀流。

 片手剣や短剣などを鍛えたものがたどりつくという片手武器スキルの極みに、私の妹が今たどりついた瞬間だった。


 その間、御者の男はあいた口がずっとふさがっていなかった。



 こうして、サンライオンたちは全滅の憂き目にあい、私たちの馬車は予定通り、ドワーフの村をめがけて走っていた。


「いやはや、驚きました。お嬢ちゃん達みたいなすごい方々がこの世にいたなんて、これはもう伝説ものですよ」

「いえ、私たちはまだまだです」


 マリアが謙遜気味にいう。彼女、後ろから銃を撃ってただけだもんあぁ。

 でも、だいぶと助けられてはいるんだけどさ。


「いやいや、謙遜することはないです。ほら、もうすぐ見えてきますよ」


 そして、見えてきたドワーフの村。

 それは村というよりかは神殿と呼ぶにふさわしい。

 山の中腹に儲けられた洞窟の入り口には白い大理石のような一枚岩にドワーフの絵が彫り込まれ、


「ようこそ、ドワーフの村へ! ぜひお土産はドワーフ観光案内所で!」


 と書かれていた。

 あ、思い出した。ドワーフは酒と鍛冶、そしてなによりお金儲けが大好きなんだと。


 でも、やっと来たんだ、ドワーフの村に。


 きっとタクトはここにいる。

作者:「いません」

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