7 毒舌
本日二度目の更新です。
スキルには四つの種類がある。
・通常スキル
俺の持ってるスキルのほぼ全てがこれだ。武器で戦ったり、魔物を倒したり、もしくは裸足で走ったら覚えるような普段の生活や戦いの中で覚えるスキル。
・上位スキル
俺の全身防御やサーシャの妖艶のような複数のスキルのレベルをあげると覚えられるスキル。
スキルによって必要なスキルの種類・数・レベルが違う。数は少ないが強力なスキルだ。
・才能スキル
特定のスキル一種類を極めると覚えられることがあるスキル。だが、どこまで鍛えても覚えられない人が多く、覚えるには才能が必要と言われている。
しかも、才能スキルを覚えたらスキルスロットが増えるという恩恵まであり、まさに幻のスキルだ。
俺の伝説魔法も才能スキル扱いではないか? とかマリアは言ったが、残念なことにスキルスロットは増えなかった。
スキルスロットMAXだからこれ以上は増えないということか。
そして、最後に――
・ユニークスキル
生まれながら、もしくは生まれた後三才になるまでに覚えるスキル。
ただ、覚えている人は国民全体の1万人に1人と言われ、また三才までに覚える方法も定かではない。
昔、雷に打たれたら魔法(雷光)スキルというユニークスキルが覚えられるという噂が広がり、西の大陸の雷が降り注ぐ山で多くの親子が雷に打たれて死んでしまったという痛ましい事故があった。
その後の研究で魔法(雷光)は魔法(雷)と魔法(光)の上位スキルで普通の人間は覚えることができないと発表され、その悪しき風習も幕を下ろした。
だが、命をかけてまでも、ユニークスキルは覚える価値があるもので、それを覚えたら騎士に取り立ててもらえるとも言われている。
マリアが言うには、かつて東の大陸を一つに纏めた初代国王も【獅子拳】というユニークスキルの持ち主だったとか。
ユニークスキルもまた通常スキルとは異なり、習得しているとスキルスロットが増える特性がある。
「シルフィーのユニークスキルは後天性によるものです。ですが、取得方法は教えるつもりはありません。
それが事実であるとは限りませんし、それを信じた人が死ぬのは心が痛みます」
「あ……うん……わかってるんだけどさ、それって本当に使えるスキルなのか?」
「当然です。このスキルは魔法攻撃に毒を付加させるだけでなく、口から入るものからの状態異常に強い耐性を持つことができます」
「そ……そうなんですか」
でも、それって、スキルなのか?
シルフィーのスキルはユニークスキルがあるので5つ。
通常スキルが4つ。
【魔法技能15・魔法(風)17・杖10・植物戦闘16】
そして、ユニークスキルが1つ。
【毒舌28】
なんだよ、毒舌スキルって。
それを見たときは本当にその目を疑った。
しかも、レベルは一番高いし。
「シルフィーの口の悪さはこのスキルのせいなのか?」
もしかして、毒舌スキルを外したら変わるのか?
試しに外してみたいが、ユニークスキルは外せないようだ。
俺の伝説魔法スキルは取り外し自由なのに。
「シルフィーは自分のことを口が悪いと思ったことはありません。むしろそんなことを言うあなたのほうが口が悪いと思います」
でも、とシルフィーは付け足す。
「違いますよ。スキルが性格に反映されるという事例はありません。それにしてもスキルの聖域内でもないのにシルフィーのスキルを勝手に付け替えるなんて」
「いや、とりあえず料理を杖に変えておかないといけないだろ?」
「勝手に付け替えたことをとがめているのではありません。勝手に付け替える技能があることに驚いているんです」
まぁ、スキルを付け替える技能は確かに一部の日本人のみの特権だから知らない人も多いが。
「スキルの異常な上昇具合といい、魔物の落すカードの多さといい、あなたは本当に謎だらけです」
「あのさ……そのことなんだけど」
「誰にも言うつもりはありませんよ。全く、シルフィーが悪人なら、今頃はあなたを見世物小屋に売り払ってるところです」
実際に海賊につかまって売られそうになったことがある。今では反省している。
「それだけシルフィーを信頼してるってことさ」
「それは信頼の押し付けだとシルフィーは思いますよ」
ぐっ、仰る通りで。
「ですが、シルフィーも毒舌のスキルをあなたなんかに見られるとは不覚の極みです。長老以外は知らなかったのに」
「ああ、お前の爺ちゃんな……。いい爺ちゃんなのか?」
「……お母さんが死んだ時……ずっと泣いてました」
「そうか」
「でも、いい人とは思えません。どこの馬の骨ともわからないあなたにシルフィーを預けるなんて、狂気の沙汰です」
「なぁ、本当に毒舌スキルは関係ないんだよな」
俺とシルフィーはエルフの森の奥にある迷宮にいた。
その迷宮は植物の魔物がいる場所だった。
一番多いのはイバラスネイク。茨の蔦が蛇のような動きをしてくるがそれほど強いとは思えない。
実際、俺の一番弱い魔法のアイスニードルにかすっただけで凍り付き、スキルレベルが1だったシルフィーの杖による攻撃でとどめをさすことができた。
そこそこ強い魔物が金色の幹を持つ樹の魔物、ゴールデンツリー。
長老の言う通り、こいつが経験値が良い。もちろん、スチールジェリーや飛竜レベルではないが、通常魔物の中では最高ランクだ。
かつてマリアが要求したかぐや姫の財宝の一つ、蓬莱の玉の枝を落とすという魔物でもあるが、落とすのはほとんどが金の枝だった。
そのレアモンスターとしてプラチナツリーが出るというが、そいつにはまだ出くわしていない。
それらを倒してレベルを上げることにした。
主に……シルフィーの。
マリアから預かっていた仲間の証の指輪があと二つある。
カード化して収納していたのだが、そのうちの一つをシルフィーに渡した。
シルフィーの指には少し大きいようなので今にも左手中指から落ちてしまいそうだ。
仕方がないのでシルフィーに合ったサイズの別の木製の指輪を長老さんから譲ってもらった。
「これは、シルフィーユ、お前のお母さんが、お前くらいの時に使っていたものだ。きっとお母さんが守ってくれるよ」
長老がそう言ったときのシルフィーの表情は、俺へと力をくれる。
「よし、今週の目標は迷宮制覇、今月の目標は武道会優勝だ!」
「……はぁ、まぁ、やれるだけやってみます」
そういい、現れたイバラスネイクの群れに、風の下級魔法、ウインドソードを打ち出す。
日本ではかまいたちとも呼ばれる風の刃がイバラスネイクに飛んでいき、その体を引き裂いていった。
俺たちの迷宮生活、一日目はこうして進んでいた。
※※※
北の大陸、東の玄関口と言われる港町。
トーロウワという名のその町に、そこに私たちは降り立ちました。
スメラギさんがいなくなってもう六日目です。
北の大陸に来たのはいいのですが、スメラギさんのことは見つかるのでしょうか?
私とお姉ちゃんの隷属魔法解約に時間がかかってこんなに遅くなってしまいました。
「ミーナ、見てみなよ、あっちの木、パウルの果樹園じゃない?」
「もう、お姉ちゃん、私たちは観光に来たんじゃないんだから」
「いいじゃん、私はタクトのことを信用してるんだから、ちょっとくらい羽を伸ばしたって」
「もう、それは信用の押しつけだよ、お姉ちゃん」
私がそう言ったとき、あれ? もしかして私、誰かとキャラがかぶってない?
そういえば――
と思い自分の……大きくはないけど小さくもないと主張する胸を触った。
【下位互換】
不吉な文字がよぎった……気がした。
慌てて首をふってその文字を掻き消した。
何を考えてるんだろう、スメラギさんがいなくなってから私はやっぱり不安でおかしいみたい。
「ミーナ! サーシャ! こっちに来て!」
マリアさんが私達の名を呼び、声を上げる。
私たちがかけよると、港で入国手続きをしているマリアが、管理官と何かを話していた。
「で、話は本当なの?」
「はい……もしもこちらにマリア・ミーナ・サーシャという三人の女性が来たらこれを渡すようにと郵便部より」
「……手紙ですか?」
「はい、もう一通はコモルの町の宿に届けるように言われ、昨日に出た定期船に」
「そう、間違いなさそうね」
「もしかして――」
マリアさんは頷いた。
「ええ、差出人はスメラギ・タクト。タクトくんよ」
そして、手紙にはこう書かれていた。
【心配をかけてすまない。本当にすまないと思ってる。俺は無事だ】
いきなり謝罪のセリフ。そしてやっと自分の安否を告げるメッセージ。
スメラギさんらしいと思った。
俺は無事、その文章だけで私の胸がいっぱいになる。
そして、海賊につかまったこと、瞬間移動で逃げたことも書いてあった。
わけあって、エルフとドワーフの武道会に出ることになったんだ。
二週間後には全て終わる。だから、それまでトーロウワの町かコモルの町で休んでいてくれないか?
わがままを言ってるのはわかってる。だけれども重要なことなんだ】
重要なことが何なのか、私には想像もできません。
でも、スメラギさんを信じて待つ。
私はそう心に決めた。
そして、手紙には最後にこう締めくくられている。
【これからシルフィーという女の子と一緒に迷宮に行く。
強くなって、もう二度とこんな心配をかけるような真似はしないと誓うよ】
「――ねぇ、お姉ちゃん、マリアさん」
「――うん、ミーナ、あんたの言いたいことはわかるわよ」
「――そうね、そうよね。タクトくんったら、おいたをしたらお仕置きされるってわかってないのかしら」
私たちは決意した。
もう、折檻だけじゃ許しませんから!
目指すは……あれ? ドワーフ? エルフ?
どっちのところなんだろう。
強い女の回でした。




