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2 町中

 三十分ほど街道を歩き続ける。慣れない革靴に、靴擦れとかの心配をしたが、意外と平気だった。足防御スキルのおかげだろうか?

 森を抜けるとすぐに大きな壁が見えた。道の先に入口らしき門が見える。何メートルも高い城壁ではなく、一メートル程度にすぎない壁だ。

 おそらく、人間対策というよりは狼といった魔物対策なのだろう。

 さらに近づくと、門の横に女性が立っていた。

 褐色の肌の俺と同い年か少し年上くらいのお姉さんだ。かなり美人だと思う。

 革の鎧を着ており、その中には薄い肌着を着ていた。腰には剣をさげており、これぞファンタジー衣装という感じだ。

 どうやら見張りというか門番らしい。


「すみません、入りたいんですが」

「どうぞ」


 あっさり通してくれた。

 身分を示せとか、通行許可書を見せろとか言われるのかと思ったが。


「あの、カード買取所ってどこにあるんですか?」

「ここをまっすぐ歩いていくと青色の屋根の建物が右側にあるから、そこよ」

「ありがとうございます」


 丁寧に教えてもらった。女運UPの効果だろうか。

 あっさりと町の中に入ってみると、久しぶりに大勢の人を見た。一週間家の中に引きこもっていたから余計にそう思う。

 大勢といっても、町を行きかう主婦の方がたばかりだ。

 それほど大きな町ではないらしい。ほとんどが平屋の家で、時折二階建ての家がみえる。

 ふと、周りの視線がこちらに向いていることに気付いた……ジャージのせいだろうか? そういえば狼の返り血をあびたんだっけ。

 と思い自分の服を再度見た。

 だが、そこにあったのは土で汚れたジャージだけだ。


(血が消えた?)


 狼を倒したとき、返り血を思いっきり浴びたはずだが、その痕跡はまるで残っていない。

 あのおっさんが洗ってくれたのだろうか?

 とにかく、周りの視線は俺の奇妙な服によるものだと理解できた。

 暫く歩くと、目標の場所が見えた。

 看板にカードの絵が見えるし、ここで間違いないだろう。

 扉は開かれており、中にはカウンターがあり、三十歳手前くらいの男がカウンターの向こうに座っている。笑顔で迎えてくれた。

 店の中に入る。ほかに客はいないようだ。


「すみません、カードの買い取りはこちらでいいですか?」

「はい、こちらですよ」

「これをお願いします」

「高級毛皮ですね、3500ドルグになりますがよろしいですか?」


 思ったより簡単に査定が終わった。ゲームの買い取りだと数分から数十分待たされた気がするが。


「もう少し高くなりませんか? レアアイテムだって聞いたんですが」

「もう春だからねぇ、これから需要が下がるからこれ以上高くはできないよ。保管のできない現物なら半値になっているところだよ」


 なるほど、確かに毛皮は夏にはあまり使わないのかもしれない。


「わかりました。じゃあそれでお願いします」

「まいどあり。ドルグはカードで? それとも硬貨で?」

「どっちがいいんですかね?」


 そう尋ねると、店員の男は嫌な顔を一つせずに答えてくれた。


「カードは持ち運びが便利だが、カードでの取引をしていない店も僅かですがあります。それに、カードは価値が変動するからね」

「変動するんですか? 3500ドルグなんだから3500ドルグの価値じゃないんですか?」

「ここ数十年はなったことがないけど、換金禁止令が出ることがあるんですよ。魔物を討伐しすぎて、カードを換金しすぎ、インフレが起きると予兆されたときにな。俺が子供のころに一度なったときは国中大混乱だったな」

「なるほど……わかりました、とりあえず3000ドルグはカードで、500ドルグは硬貨でもらえますか?」

「まいどありがとうね」


 そういって、1000ドルグカードを3枚と、銀貨を5枚出してきた。どうやら銀貨1枚100ドルグらしい。


【商売スキルを覚えた。商売レベルがあがった】


 町に入って覚えた最初のスキルだ。だが、レベルが上がったらどうなるのか全くわからない。高く買い取ってくれるのだろうか?


「あと、宿はどこにあります?」

「宿かい? 店を出て右にいった三階建ての建物だ。狭い町だからすぐにわかるよ」


 宿の場所は言われたとおりすぐにわかった。

 この町の建物は平屋が多く、三階建ての建物が珍しいからだ。

 一番大きい建物は遠くに見える教会だろう。町に入ったときから目についていた。


「すみません、部屋あいてますか?」


 宿屋に入るなりそう尋ねると、可愛い女の子がそこにいた。茶色い三つ編み髪の少女だ。同い年くらいだろうか? 少し年下かもしれない。

 胸は小さいが、かなり好みのタイプの女の子だ。

 門番の女性は美人タイプのお姉さんだったが、こちらは守ってあげたいタイプの女の子。

 ていうかこの世界、女の子のグレード高すぎるだろ。


「ようこそ、ミルの宿屋へ。何名様でご利用でしょうか?」


 女の子が笑顔で尋ねる。

 どうやら、彼女がこの宿屋の受付らしい。


「一人です」

「では、こちらに記入をお願いします」


 宿帳を出されて、俺は鉛筆を受け取った。


「はい……あっ」


 名前などだろうと思って書こうとしたのだが、ふと気付いた。

 項目は「名前」「住所」「年齢」「職業」の四項目。全て日本語だ。

 便利だからいいが、異世界らしさがない。万年筆ではなく鉛筆で書いてるし。

 とりあえず、名前は「スメラギ・タクト」、住所は空欄で、年齢は17歳、職業は旅人と書いた。


「一泊いくら?」

「150ドルグです。夕食付なら210ドルグ、夕食と朝食付きなら250ドルグ、燭台は無料ですが蝋燭は20ドルグ、井戸は裏口を出てすぐのところにありますから、お泊りの間自由にお使いください。代わりに井戸水を汲むのなら、水瓶いっぱいで30ドルグです」

「わかりました。じゃあ、夕食・朝食付きで8日分。あと蝋燭7本と……火はどうすれば?」

「着火装置が部屋にあります」

「そうか、あと紙と鉛筆をもらいたいんですが」

「紙はこの大きさの紙が2枚で10ドルグ、鉛筆は一本10ドルグです」

「じゃあ、紙を4枚と鉛筆一本、全部で2170ドルグでいいかな?」


 えらいあっさり計算できた。計算スキルのおかげだろうか?


【計算レベルが上がった】


 ついでにスキルもあがった。


「カードでいいかな?」

「はい」


 まるでクレジットカードを使ってるみたいなセリフだが、1000ドルグのカードを2枚と250ドルグのカードを1枚渡す。

 女性は250ドルグのカードを持ち、「具現化」と唱える。すると、カードが銀貨2枚と銅貨5枚に変わった。その銀貨を1枚俺に渡してくれた。


「こちら、おつりの100ドルグになります。あと蝋燭7本と、紙4枚、鉛筆が1本はこちらになります」


 鉛筆は削られた状態のためすぐに使えそうだ。ただ、芯が折れたらどうしたものか。鉛筆削りとかはなさそうだ。


「では、お部屋に御案内いたしますね」


 食堂のような場所の近くの階段をあがり、二階に部屋があった。

 ベッド、テーブル、椅子と棚のみの簡素な部屋だ。髭面のおっさんのログハウスといい勝負だ。

 和式のトイレはあるが、風呂はない。この町に風呂に入る習慣がないのかもしれない。


「夕食は日が沈んでから、教会の鐘がなるまでにおこしください」

「教会の鐘っていつなるの?」

「この時期だと、太陽が沈んでから2時間後くらいでしょうか? 朝食はお部屋にお持ちいたします」

「助かります……と、そうか、これ」


 ポケットの中の銀貨を2枚彼女に渡した。


「ありがとうございます。では御用があればなんなりとお申し付けください」


 感謝はするが特に驚いた様子を見せない。チップの制度はこの世界では当たり前にあるようだ。

 安すぎる、ということはないと思いたい。

 とりあえず、俺は紙をテーブルに置き、鉛筆に書いていく。

 俺の持っているボーナス特典とスキルの確認をしたかった。


 まずはボーナス特典だ。


【腕力大UP 知力大UP 素早さ大UP 防御大UP HP大UP MP大UP 回避大UP 命中大UP 男運大UP 女運大UP】


 このあたりは基礎ステータス。小UP、中UPとの併用は無理らしく、大UPだけ取得した。


【瞬間移動】


……使えるのだろうか? MPが必要かもしれないから、明日試してみよう。


【経験値64倍 モンスタードロップアイテム 取得金額5倍 レアアイテムドロップ率大UP】


 このあたりはチートの定番か。倍数操作。おそらくだが、経験値というのはスキルを上げるもので、一般におけるゲームのレベルはないのだろう。


【記憶継続 進化細胞】


 相変わらずわからない。


【伝説魔法取得可能】


 一番ボーナスポイントを使った項目だが、取得可能というだけなので、今は使えないだろう。


【スキルスロットMAX、スキル変更技術 スキル簡易取得】


 スキルに関連した項目。スキルスロットってことはスキルを装着できる数が決まっているのだろう。

 スキル変更技術というのは、スロットにいれるスキルを選ぶ技術だろうか?


【トリプル魔法 消費MP1/2 魔法属性全取得可能 歩くたびにMP回復】


 このあたりは魔法に関したものか。そもそも魔法をどうやって使えばいいのかわからない。


【ハーレム】


 全く意味がわからない。いや、なんとなく理解してます。すみません、ウソをつきました。


【賞金稼ぎ 人形三体まで利用可能 鑑定 ペット強化 カード収納魔法 カード化魔法】


 このあたりもなんとなく意味はわかるが、それでもはっきりとした使い方はわからない。


【ナビゲーション 裏メニュー】


 これらはわずか1ポイントで手にいれたボーナスだ。


「メニューか……メニューってあれだよな」


 そう思い、頭で「メニュー」と念じる。

 すると、脳裏にはっきりとイメージが浮かび上がった。

 目を開いてもそれは続いている。まるで目とは別の視覚器官をもったようだ。

 メニューの項目には、


【スキル着脱 収納カード一覧 裏メニュー ナビゲーション】


 の四つ。試しにスキル着脱を選択してみると、


【採取2・毒耐性3・拳攻撃5・伐採3・棒術・2・足防御1・投擲2・逃走2・身体防御4・獣戦闘3・計算2・商売2・空き・空き・空き・空き・空き・空き・空き・空き】


 と現れた。取得した順番に、表示されているようだ。

 空きが8あり、覚えているスキルが12ある。どうやらスキルは20まで装着できるようだ。

 試しに、採取を強く念じると、【採取2・外す】の二項目が現れた。外すを選択し、今度は毒耐性を強く念じる。【毒耐性3・採取2・外す】の三択になった。

 毒耐性3を選び、空きを選択し、再び採取2を付ける。

 簡単にスキルを設定できた。

 次に裏メニューを選択する。


【現在は表示する項目がありません】


 使えなかったようだ。

 次にナビゲーションを選択する。


【現在、ナビゲーション機能はオンになっています。ナビゲーション機能をオフにしますか?】


 と出た。オフを選択してみる。しかし何も変わらない。

 再びナビゲーションをオンにしてみる。


【ナビゲーション機能がONになりました】


 と、スキルレベルがあがったときと同じメッセージが頭に響く。

 なるほど、スキルレベルが上がったときのメッセージがナビゲーションなのか。

 とりあえずONにしておくか。


 所持金を確認する。1000ドルグのカードと、銀貨5枚、銅貨7枚。1570ドルグか。


「RPGなんだし、武器を買って魔物狩りがいいかな。まだ昼になったばかりだしな」


 とりあえず、部屋を出ていろいろ実験しよう。

 階段を降りると、食堂でテーブルを拭いているさっきの女の子を見つけた。


「ちょっと出かけてくるんだけど、武器屋ってどこにあるのかな?」

「武器屋なら、教会の中にありますよ」

「教会の中に?」


 イメージができない。

 教会って、右の頬を叩かれたら左の頬を差し出しなさいみたいな、戦うことを禁止していそうな場所なのに。


「武器屋の工房が火事になってしまったんですよ。とりあえず、神父様が店が建て直されるまで、教会の中で宿泊と営業の許可を出してくださったのです」


「へぇ、いい神父さんなんですね」


 融通が利くというか、いい人だ。


「あと、森に魔物って出るんですか?」

「はい、ノーマルモンスターでフワットラビットと、ワンウルフの二種類ですね。あとレアモンスターでキングウルフがいますが、めったに出ませんし、区別はつかないですね」


 さっき倒した狼はどっちだったのだろうか? フワットラビットは弱そうだ。

 ワンウルフ。一匹狼という意味か、犬の鳴き声の狼という意味か。


「ありがとう、助かったよ」


 そういい、チップを取り出そうとしたのだが、


「あ、チップはこれ以上いただけません。先ほどいただいた銀貨は8日分なら十分な額ですから」


 一回分と思ったら、8日分と思ってくれていたようだ。


「じゃあ、また何かあったらよろしくね」


 そう言って、宿を出た。

 教会はすぐにわかった。町で一番大きな建物だ。

 大きいと言っても、宿屋より少し高いところに十字架がある程度で、その下に大きな鐘のぶら下がった鐘楼がある。


(十字架ってイエス・キリストが磔にされた木をシンボルにしてるんだよな? こっちの世界にもそういう逸話があるのだろうか?)


 そう思いながら教会の戸をくぐる。


【信仰(神)スキルを覚えた】


 教会に入っただけでスキルを覚えることができた。甘すぎるだろ、判定基準。

 あと、信仰(神)ということは他の信仰スキルもあるのだろうか? 仏教なら信仰(仏)とか、邪教なら信仰(邪)とか。

 教会のなかはガラス(ステンドグラスではない)から光がさしてそれなりに明るい。

 奥で神父とおばさんが何やら話している。

 扉を閉めると、その音で気付いたのかおばさんがこちらを見てきた。


「おや、旅の方かい? 見たことのない服を着てるね。どこから来たんだい? 若いのに大変だねぇ。宿は決まったのかい? よかったらいいところ紹介するよ、といっても、この町には宿は一軒しかないけどね」


 いきなり質問のマシンガンを喰らった。


「宿はさっきとってきました。武器屋があるって聞いてきたんですか?」

「あぁ、武器屋なら私だよ、こっちに来な」


 おばちゃんはそういって、隣の部屋に入っていこうとする。

 俺はとりあえず神父さんに会釈をし、ついていった。


「ここは本当は応接間なんだけどね、神父さんが貸してくださったのよ。タダで。もちろん、儲けがでたら寄進させていただくつもりさ」

「へぇ、そうなんですか……ところで、武器をみせてほしいんですけど、900ドルグくらいで」

「900ドルグかい? どういう武器がいいんだい? 魔法を使うなら杖、あと剣、弓矢はやめておきな、900ドルグじゃすぐに矢が尽きちまうよ」

「とりあえず、狼狩りに適した武器は何がいいですか?」

「なら、弓矢だね」


 おばちゃんが矛盾したことを言う。さっきはやめておけっていったのに。


「安全だからさ。狼狩りをする冒険者はまだ初心者だから、防御もしっかりと整っていない。なら、遠距離攻撃が一番さね」

「なるほど……他には」

「そうだね、短剣がいいよ」

「短剣? 危険じゃないですか?」

「狼は素早いからね、素早く使える短剣のほうがいいよ。一撃必殺の大剣だと、外したときに危ないだろ?」


 そのあたりは命中大UPがあるから何とかなると思いたいが、確かに短剣でいこうか。


「短剣はどんなものがあります?」

「予算内だとこれだね。疾風のダガー。軽いが威力は確かだよ。870ドルグ。予算をオーバーしてもいいなら、この百獣の牙だね」


 一本はきれいな短剣。一本は刀身を獣の牙を削ったかのようなナイフだ。どちらかといえば疾風のダガーのほうが威力がありそうだが。


「これは、ランニングドラゴンの牙を加工していてね、速度小UPのスキル効果があるのさ」


 竜の牙なのなら、百獣の牙は名前に偽りありじゃないのだろうか?


「なるほど……ちなみにおいくらで?」

「1500ドルグだよ」

「あはは、完全に予算オーバーです」


 本当は1500ドルグくらいなら別にいいと思っているのだが、


「なんとか、1000ドルグになりませんか?」


 と交渉してみる。このおばちゃんは話好きみたいだし、なんとかなりそうな気がした。


「無茶言わないでおくれよ、貴重な牙を使っているんだからさ。1450ドルグでどうだい?」

「そこをなんとか、いい武器を使いたいんですが、薬も買い揃えないといけないので、1200で」

「わかったよ、確かにそんなへんてこな格好をしてたら怪我しそうだし、あんたに死なれたら目覚めが悪いわ。1300でいいわよ」

「ありがとうございます」


 お礼をいい、1000ドルグのカードと銀貨3枚を渡す。


【値切りのスキルを覚えた。値切りレベルが上がった。値切りレベルがあがった。値切りレベルがあがった。値切りレベルがあがった。値切りレベルがあがった】


 いっきに値切りレベルが6まで上がった。

 拳スキルがいままで最高の5だったので、一番レベルをあげたことになる。

 店(というか応接間)を後にしようとしたら、おばちゃんが呼び止めて、


「あと、薬も買っていくんだよね。傷薬なら1個30ドルグだけど、4個で100ドルグでいいよ」

「商売上手で、じゃあ4個ください」


 まけてもらったが、値切りレベルはあがらなかった。

 確かに値切った結果ではなく、おばちゃんが最初から提示した値段だ。


「まいどあり。気を付けるんだよ、狼はめったに出ないけど、凶暴だからね」

「ありがとうございます。まずはナイフスキルを鍛えてみます」

「飽きれた、短剣スキルを持ってなかったのかい。覚えるには100回は対象にあてないといけないよ」


 そんなに大変なのか。でも、そのあたりはボーナスのスキル簡易取得で何とかなると思う。


「大丈夫です、木に向かって練習しますから」


 そう言って、応接間を出た。

 初老の神父様はまだ先ほどの場所にいたので、会釈し、教会を出る。

 先ほどよりも少し人の増えた通りを移動し、門に移動する。

 入口で門番のお姉さんがいた。


「少し出ますね。夕方には戻ります」

「はいよ、夕方に戻らなくても捜索隊は出せないよ」

「了解です」


 物騒なことを言ってくる。

 お姉さんが見えなくなったあたりで、森に入る前に手頃な木を見つけた。

 百獣の牙という名のナイフを鞘から取り出し、自分なりに構えてみる。

 木に一回ナイフを叩きつけると、


【短剣スキルを覚えた。短剣レベルがあがった】


 やはり、簡単に覚えて簡単に成長する。

 何回か木に向かってナイフをふるうと、一気に短剣レベルは6にまであがった。値切りと同じレベルだ。

 それとともに、木にできる傷も深くなっていく。


「よし、短剣スキル7になった」


 さすがにレベル6から7になるのには時間がかかった。150回くらい木にナイフを振った気がする。

 通常なら1万回は必要という計算になるから驚かされる。

 おそらく、魔物退治をしたほうがスキルは成長しやすいのだろう。


「じゃあ、最後に試してみるか」


 俺は全力でナイフを木にたたきつける。

 深くめり込むが、ナイフは木を真っ二つにするまでにはいかなかった。


「ま、無理だよな」


 木からナイフを抜き、鞘に戻した。



  ※※※


 タクトが去った後から、伐採ギルドの一団がやってくる。


『さぁ、今日も伐採するべぇ』

『おうよ、俺も斧レベル17になったって神父様に言われたからよ、そろそろ試しの木に挑戦してみるぞ』

『無理だって、あの硬い木は誰にも傷つけられないって。なにしろ名前がダイヤモンドツリーだからな』

『ま、試してみるだ……間違えたかな? これ、ダイヤモンドツリーじゃないよな』

『何言ってるんだべ? ダイヤモンドツリーに決まって……るわけないべ』

『あぁ、決まってるわけないよな。こんな傷だらけの木が……な。傷口を見るとまるでナイフで切られたような……』


 男たちが笑って、木をばんばん叩くと、木は寿命を迎えたかのように倒れてしまった。



  ※※※


【伐採レベルがあがった 伐採レベルがあがった 伐採レベルがあがった 伐採レベルがあがった 伐採レベルがあがった】


「何が起きたんだ」


 ウサギを探しているとき、急に上がった伐採レベル。一気に8にまで上がっていた。

 理由はわからない。

 ただ、わかるのは――


「また武器レベルよりも生活スキルが上になったのか」

 

 なんともかっこ悪い。

 そう思った。

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