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4 余裕

 竜は魔物であって魔物ではない。

 なぜなら、竜は死んでもカードに変わることがないから。

 それは、俺もその目でみた。

 王都の手前の草原で俺たちに襲いかかり、マリアの巨大兵器バリスタによってその息を止めたあとも、まるでここが自分の居場所であるかのように飛竜は悠然と大地に横たわっていた。

 人間、ドワーフ、エルフ、魔族といった人類種以外に唯一魔物ではない生物。

 それは大地を駆け回るランニングドラゴン。

 それは空を悠然と飛ぶ飛竜。

 それは全てが伝説であるはずの古代竜。

 この世界の神の教えでは、竜は異世界からやってきた存在であるという。

 この世の理から外れた存在である竜を嫌った神が、竜から知識を奪い、人類種へと与えた。

 そう、ミーナから聞いたことがある。


「精霊信仰において、竜は精霊を喰らうものといわれています」


 シルフィーが説明した。

 精霊信仰はこの世界の自然の現象は全てが精霊によるものである、という信仰だ。

 エルフだけではなくドワーフ、また山間部においては人間の間でも広まっている信仰だ。

 全ての現象という項目において、魔法もまたその例外ではないという。

 竜の鱗は魔を防ぐといわれ通常の魔法はほとんど通じない。そのため、竜の鱗はとても貴重なものとされ、防具の材料としても親しまれている。

 それもまた俺が身をもって知ったことだ。


 そういう怪物。

 はたして、今の俺に飛竜を倒すことはできるのだろうか。


 カードから具現化させたミスリルの杖を強く握った。

 倒すことができるのか?

 違うよな、倒すんだよな。


 約束を思い出し、俺は不敵な笑みを浮かべつつ、俺は山を登っていた。

 山登り用の靴とかあったらいいんだが、壮年のエルフの靴もおれのとそう変わらないように見えるのでそこは文句は言えないだろう。

 ただ、服装はジャージなので身体は動かしやすい。やっぱりジャージ万能説は絶対だ。


「もうすぐ森を抜ける。森を抜けたらそこは飛竜の領域だ。いいな」


 俺がジャージのすばらしさを再認識していると、同行していた壮年のエルフが言った。

 彼は俺が逃げないようについてきているだけで戦闘には参加してくれない。


「ああ、わかった」

「そういえば、昨日の夜、ものすごい音が地下倉庫から響いていたが、あれもお前の仕業か?」


 あれも……って、俺の悪行ってそんなにありますかね?


「まぁな」


 俺は自信あり、という感じで答えた。

 俺は再度自分のスキルを確認した。


【魔法技能31 魔法(火炎)35 魔法(雷)29 魔法(氷)22 魔法(治癒)24 魔法(光)16 魔法(特殊)21 伝説魔法1】


 魔法系のスキル。使わない魔法スキルでもスキルに入れておけば知力にボーナスがある。

 知力は魔法の威力を上げてくれる。


【全身防御14 鳥戦闘25 杖21 斧19 索敵30 魔物使い13 毒耐性12 睡眠耐性6 獣戦闘27】


 全身防御は身体防御・頭防御・足防御・腕防御を全て15にしたときに手に入る上位スキルだ。

 四か所の防御スキルの上位互換スキルで、これを装着していたら他の部位防御スキルは装着できなくなる。

 ミーナ、サーシャ、マリアの全員が装備しているスキルだ。

 鳥戦闘は鳥系の魔物ほどではないが空を飛んでいる敵への特効性能がある。


 あと、秘密兵器として急遽用意したスキルがもう二つ。


 それに、一昨日の睡眠耐性のようなことがあったときのために、空きが一つある。 緊急時に必要になるときが来ないとは限らない。本音でいえば、飛竜を倒したときに手に入る竜戦闘スキルのレベルアップにも期待している。


「さて、いきますか」


 大丈夫、索敵スキルで考える限り、敵は強いが俺にでも十分に倒せる相手だ。

 俺はそういい、森から一歩出た。

 森を抜けると、山の頂まで残りわずかな場所だった。

 そして、すぐに見つけた。

 長いしっぽと巨大な翼、藍色の鱗を持つ空の覇者

 飛竜。

 そいつは赤土色の山の頂にある岩の上で、コンドルのような巨大な鳥の魔物を食べていた。

 モーズのときといい、大食いなやつだ。


 食事中邪魔するのはマナー違反だが、怒るんじゃないぞ!


「“ダイヤモンドダスト!”」


 氷の上級魔法が巻き起こる。

 僅か数ミリメートルの氷の刃が無数に現れ飛竜めがけて吹き荒れた。


「うまい! あのような細かな氷なら鱗の隙間にダメージを与えられる!」


 壮年のエルフが見えない位置からなんか言ってくる。

 あぁ、確かに無傷じゃないだろうな、でも、あんたはわかってない。飛竜はそんなもんじゃ倒せない。

 そもそも、俺の氷の魔法はそんなに強力じゃない。


「きついよな、クリア条件はノーダメージクリアなんだよな。まったくムリゲーにもほどがあるだろ」


 俺はそういいながらその場で駆け足を始めた。

 歩くたびにMP回復。

 上級魔法の連続において、この行動は必須だ。


「来ますぞ!」


 吹き荒れる吹雪が止んだとき、飛竜は口を開いて浮かび上がる。死して食糧となっていた鳥の魔物が捨て置かれ、二枚のカードへと姿を変える。


「ったく、もう来やがった! ダイヤモンドダスト!」


 再度氷の吹雪、吹き荒れる風に滑空してきた飛竜は大きく旋回を余儀なくされるが、以前として俺に距離をつめてきた。

 だが、その速度はやはり先ほどより遅い。氷によって体温が冷やされている証拠だ。

 そして、俺は三番目の魔法を唱えた。

 MP回復のためのその場駆け足を続けながら、


「ファイヤーボール!」


 力を込め、俺は特大の炎の弾をうちだした。


【決死の一撃スキル本日使用回数残り0回】


 ナビゲーションが流れた。


「ばかな、そんな、あれがファイヤーボールだと! 俺の十倍、いや、それ以上はあるぞ!」


 後ろにいる壮年のエルフが声を上げた。

 あたりまえだ、マリアが言うには決死の一撃スキルは検証によって、消費MP10倍、威力10倍とわかっている。

 MPが足りない場合はその力は減少するが、それでも通常時の魔法の威力よりは高い。

 残念ながら、今の俺では中級以上の魔法で決死の一撃を用いた魔法を使うともれなくMPが0になって倒れてしまう。

 中級魔法10発でだいたい上級魔法4発分だ。

 だから、今はこれで手いっぱい。

 それでも今回のファイヤーボールは王都の時の倍以上の大きさだ。


 命中した火炎球はそのまま飛竜を飲み込むとそのまま爆発。飛竜はその場に落下する。


 倒したか――とも思われたが、


「まぁ、魔を防ぐ竜の鱗ってのは名ばかりじゃないよな」


 竜はこちらを見据えて立ち上がる。


「あぁ、やっぱり俺一人じゃかなわないのか……わかっていたけどショックだぞ、これ」


 もうあれから二か月は修行したっていうのに。

 通常では6年分の修行だっていうのに、まだまだ飛竜を倒すには至っていない。

 いや、わずか6年分の修行でよくここまでやったというべきか。


「またあいつに助けられるとか、今度会ったらなんて顔して礼をいえばいいんだよ」


 そういい、一枚のカードを取り出す。


「具現化!」


 そして、その武器は姿を現した。


「なぁ、飛竜さん、あいつは本を買うときすら俺にカード化させて荷物持ちさせる女だぞ」


 飛び上がろうとする飛竜に対し、俺はその武器をかまえる。


「予備の武器とか弾丸とか絶対に自分で持つ女じゃないってことはわかってるよな!」


 マリアの予備の拳銃を構え、俺は引き金を引いた。

 大丈夫、昨日夜に散々撃ちまくったから、スキルレベルは多少上がってる。 そして覚えた【銃】と【狙撃】のスキルもしっかり装備している。

 しかも獲物は――特大だ!



 竜の鱗は魔法の威力をほぼ無効化する。だが、温度はそうはいかない。

 冷凍庫で冷やしたコップに熱湯を注げば割れてしまうように、竜の鱗はもはや――マリアの銀の弾丸を受け止めるにはもろすぎた。


 鱗が砕かれ、弾丸が六発全て竜の体にめり込む。

 ようやくその身体から血飛沫があがった。


「あと、こっちは化学……いや、物理か、物理の話だ。知ってるか?」


 大丈夫、MPはまだ残ってる、最初のダイヤモンドダストのクールタイムはもう終わった。

 いける。


「銀って金属の中で一番電気を通しやすいんだぜ!」 


 そして、チェックメイトとばかりに俺はミスリルの杖をかかげた。


「サンダーストーム」


 雷の上級魔法、たとえ鱗には弾かれても、その雷は銀の弾丸のあるであろう竜の体内へと流れていく。

 飛竜の断末魔の咆哮が頂に響いた瞬間、森の中にいた鳥が一斉に羽ばたいた。


【竜戦闘スキルを覚えた 竜戦闘レベルがあがった 竜戦闘レベルが――】


 っと、一気に竜戦闘のスキルレベルは25まで上がった。魔法(雷)レベルも4上がった。

 スチールジェリーほどではないが、経験値の高い怪物なんだな、やっぱり。

 戦いの終わりを告げるファンファーレにしては事務的すぎるよな。


「まぁ、一人で飛竜相手にノーダメージクリアなんてできないっていうだろうな。でもさ、誰もができないと思うことをやってこその――」

「うぉぉぉぉぉ、やった! 飛竜を倒した! みんなに知らせるぞ! あ、勇者様、すぐに若い衆を来させますんで、竜はそのままにしておいてくださって結構ですよ」

「ちょ、待てよ、決め台詞くらい言わせてくれよ……って、まぁ、俺も今日は調子に乗りすぎたし、まぁいいや」


 少なくとも、あの先に集落に帰ったエルフには、俺の武勇伝は大げさに伝えてもらったほうがいい。

 その方が、少なくともシルフィーは安心するからな。

 飛竜の死骸を見て俺は顔を引き締めた。


「許してくれとは思わない。あの子も、俺自身も生かしていたいんだ」


 自分勝手な理由で奪った命を見ながら、俺は集落へと戻っていった。

余裕と書いていますが、やはり工夫をしないと倒せないレベルの敵です。

それでも、山賊の三つ子のときといい、タクトの成長を見せるいい話になったと思います。

エルフの話はまだ当分続きます。

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