23 新調
あれから一か月。
大丈夫、俺は強くなった。
いける、いける、いける、いける、いける!
目を見開き、俺はミスリルの杖を掲げ、魔法を唱えた。
「ファイヤーフィールド!」
叫ぶと、突如、部屋全体が炎に包まれた。
炎の上級魔法、ファイヤーフィールドが成功した瞬間だった。
部屋の中にいたオオトカゲの群が一掃され、多くのカードが残った。
「ふぅ……使えた……ただ、精神的な疲れはファイヤーウォールの比じゃないなぁ」
「おめでとう、タクト」
「おめでとうございます、スメラギさん」
「本当に呆れたわ。もう上級魔法まで使えるようになったなんて」
俺たちはコモルの町の東五百キロメートルにある砂漠の洞窟にまでやってきていた。
初級の迷宮の魔物退治をいくつかして、そろそろ強いところに行ってみよう、ということで装備を整え、昨日からこの迷宮にやってきた。
かつて、地の精霊王の怒りをかい砂に飲まれた王宮がある。その王宮の盗掘をしていた冒険者が三十年前に発見した迷宮らしい。
ところ変われば、という言葉があるが、井戸の洞窟と同じく魔力鉱に照らされた通路の光景は変わり映えしない。淡い橙色の光を放っている。
砂漠の真ん中という立地条件のせいで人気のない迷宮らしく、迷宮の周りにも魔物がいて、入る前に一掃することになった。
敵のレベルは中。
オオトカゲだけでなく、死霊系の魔物のホラゴーストが出るため厄介な場所といわれている。
ホラゴーストは通常の物理攻撃が無効であるという特性を持っているからだ。
そのため、サーシャはシミターを売り、代わりに退魔性能のあるミスリルの剣を購入して装備。
ミーナもまた炎属性のある火竜の牙という名の短剣を装備している。どうも短剣では牙シリーズに縁があるらしい。ただ、炎耐性のある敵がいたら困るということで、百獣の牙は売らずに持っている。
あと、服装も、サーシャはミスリルの軽鎧、ミーナは皮のドレスから魔蜘蛛糸のドレスに変わった。蜘蛛の糸のドレスって聞いて変なイメージがあったが、きっちりと加工されたそれは絹にも劣らぬ上品な肌触りの服へと仕上がっていた。
マリアも研究所に一度戻り、銀の弾丸の作成と予備の拳銃を二丁依頼。
よく研究所に帰って許してもらえたな、とか思ったが、彼女が旅にでた成果だといつわり提出したレポート(化学の本から一部抜粋)を見て、研究所員はしぶしぶマリアの身勝手を黙認することにしてくれた。
早ければ明後日にも銀の弾丸が百ダースできあがるらしい。
装備が大幅に変わったみんなだが、一番変わったのは俺だ。
武器としてミスリルステッキを新調、さらに服も変わった。
コモルの町の服屋に特注で注文していた服ができたのだ。
着心地は最高。しかも炎属性に対する耐性が大幅に上がった。
俺は満足そうに自分の服を見下ろす。
「タクトくん、本当にその服が気に入ったのね」
「確かに、スメラギさんといえばその服ですもんね」
「少しは服装に気を使ったほうがいいと思うんだけどね」
「本当よね……まさか……」
マリアが半分あきれたように言った。
「火鼠の皮衣からジャージを作ってもらうなんて」
そう、俺のジャージは生まれ変わった。
ニュータイプのジャージといっても過言ではない。
火鼠の皮衣を繊維の糸にし、そこからジャージー編みで編み上げる。
伝説のアイテムを扱うということと、はじめての編み方で、服屋のおばちゃんもだいぶと無理をさせてしまったみたいだが(もちろん、料金はその分高くついた)、編み上がった上下の服をみたときの俺の感動は最高潮だった。
色が赤色に変わったが、これはこれでなかなかいい。女子用ジャージみたいだけれども、ある意味では体育教師みたいだ。
「本当はオリハルコン繊維のジャージでもできないかな? とか思ったんだけど、金属を糸にする技術がないって言うからさ」
「……うすうす気が付いていたんだけど、もしかしてタクトくんってジャージバカなの?」
マリアが失礼なことを言ってくる。
ただ、俺はジャージこそが人類の産みだした最高の発明だと思っているにすぎないのに。
きっとアダムとイブが禁断の果実を口にしたのも、ジャージを産みだすプロセスにすぎないのだ。
この世界に来て、ジャージは破れるわ、泥だらけになるわ、コモルの宿で洗濯を頼んだら他の服の色落ちが混ざってしまうわで、俺のジャージ生活は散々だった。
だが、おそらく、今日、このジャージを手に入れるために俺は異世界に来たのだと確信したね。
「ドワーフならオリハルコンを繊維に変えることができるそうだし、北の大陸にいってみないか?」
「やめて、頭が痛くなるわ」
サーシャが頭をおさえる。風邪だろうか。
「ジャージーっていうのが本当は正しいと思うんだけどさ、やっぱりそれだと牛みたいだしなぁ」
「あの、本当に服の話はもういいですから」
「私たちの最大のライバルが服になりそうで怖いから」
「早く先に進みましょ」
女性三人はジャージのすばらしさにあまり共感してくれなかった。
なので仕方なく俺は先へと進む。
「あ、ホラゴーストの気配ね」
「だな」
サーシャの索敵レベルも24まで上がっており、敵に遅れをとることはほとんどなくなった。隠形スキルの高いらしいレアモンスターを見つけるまでには俺もサーシャも至っていないが、敵に先制されるようなことはなくなった。
サーシャの言った通り、ホラゴーストは現れた。布を頭までかぶり、暗闇から光る眼でこちらをにらみつけてくる死霊系魔物だ。
まずはサーシャが切りかかったあとに、ミーナがわきから回り込み素早く火竜の牙で切りつける。
最後に――
「ライトっ!」
光系下級魔法のライトを使うと、光る球が現れ、ホラゴーストはその姿を虚空へと消し去った。
このライト、普通の敵には全く効果がないが、悪魔系、死霊系の魔物にのみ、弱っていることを前提条件として一撃死させる。
しかも――
「タクト、なんか剣が軽くなった気がするんだけど見てくれないか?」
「本当か? お、片手剣レベルが30にあがってるぞ」
ライトで倒した場合、その武器経験値はダメージを与えた二人にも行く。
本来武器での経験値はとどめをさした人にしかもらえない。対魔物戦闘経験値のみが分配されるはずなのだが。
弱っていることを前提条件とする魔法、というところがその理由だろう。
「タクトのおかげだ。ありがとうな」
「いや、サーシャの頑張りの成果だって」
経験値64倍とはいえ、まだ冒険をはじめて1ヵ月。
つまり、5年分の経験値を得ている。生半可な5年で訓練くらいで師範レベルの強さが身に付くとは思えない。それは、この一か月サーシャの修行につきあってきた俺が一番よくわかっている。
ちなみにだが、マリアはホラゴースト戦は不参加を決めている。
なにしろ、普通の銃弾が一切通用しないのだから。
「暇やわ……」
ふてくされていた。
あとでオオトカゲが出てきたときに拳銃を連射していた。
このレベルの魔物でも十分に対処できるようになったことに満足し、俺はそろそろコモルの町に帰ろうと提案。
だが、すぐに却下された。
理由は――
「……またサービス回だ」
視線のやり場にこまりながら、俺はサボテンの影にいた。
砂漠のオアシス。
砂漠の迷宮に来る前に見つけた穴場だ。
そこに行ってほしいと頼まれ、どうしてだろう? と思いながらも俺はオアシスに瞬間移動した。
そして――
「泳ぐぞぉぉ」
「「おぉぉぉ」」
マリアの掛け声にあわせてミーナ、サーシャが拳を天にあげ、三人は服を脱いだ。
「な、こんなところで!」
と叫んだが、三人はなんとそれぞれ服のしたに水着を着用済み。
最初から遊ぶつもり満々だったのか。
「てか、なんで俺に黙ってたんだよ」
「それは、タクトに私たちの水着姿を堪能してもらうためさ」
上下黒のビキニ姿のサーシャがポーズをとる。
肩紐のない、背中に回っている紐と前方を隠す水着、下も最低限の場所さえ隠れたらOKいう、布地を節約するためだけに生まれたような水着だ。
褐色の肌に長い茶髪の彼女。それはさながら渚の日焼け美人のような色気を出していた。
胸を強調するように両腕で自分の胸を抱え上げて俺を挑発してくる。
「お姉ちゃんの言ってることはウソですよ。本当はスメラギさんにも声をかけたんだけど、ジャージがどうとかでまったく話をきいていなかったんです」
ミーナの水着は一般的な肩紐と背中にまわす上水着とスカート付きの下水着にわかれたセパレートタイプだ。
スカートの下からのびた長い脚は、普段黒いタイツを履いているために見ることのできないという希少性もあり、まるで芸術作品のようなきれいなもので……足フェチになりそうで怖い。
こうしてみるとミーナも胸は決して小さくはない。ただ、それ以上にウエストの細さと、恥ずかしそうに俯くしぐさがとてもかわいらしい。
「これはお灸をすえないといけないって思ってね。罰としてタクトくんは荷物番、よろしくね」
そう言うマリアの水着は赤いワンピース型の水着だ。両肩からそれぞれの胸のあたりまで伸びた布地を一本の紐で結んでいる。
今にもこぼれおちそうな巨大な球体、もしもあの紐がはずれたら何が起こるのか、それは想像するだけで悶絶ものだ。
――これは罰ではありません、ご褒美です!
とはいったが、やっぱり罰ゲームだよな。
これを眺めているだけだなんて。
しかも、砂漠なんでとても暑い。
「スメラギさん! ジャージを濡らしてもいいならそんまま入ったらどうですか?」
「断固として断る!」
「冗談です! そこの袋の中にスメラギさんの水着が入っているんで、一緒に入りましょ!」
「え? 本当? 待ってて、すぐに着替える!」
サボテンの影で用意されたブリーフタイプの水着をはき、ジャージとはしばしの別れを告げ、俺は三人と一緒にオアシスでの水泳大会を楽しんだ。
ぽろりはなかったが、とても楽しかった。
ただ、同時に不安でもあった。
この平和がいつまで続くのだろうか?
もうすぐこの中の誰かがいなくなるのではないか?
まるで未来予知ともいえる出来事は、すぐそこまで迫っていた。
そう、パーティーの中の一人が突如として姿を消すことになる。
この時はまだ漠然とした予感でしかないため、俺はその不安を胸の奥に閉じ込めて笑顔で遊んだ。
もう少し俺が注意したら防げたというのに。
第一章は次話で終わる予定です。




