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22 釣果

今回は休憩回です。

ストーリーは進展しません。

 コモルの町に滞在して一週間が過ぎた。

 朝から夕方までは迷宮に行き、スキルを鍛え、夜に戻るを繰り返す日々。

 正直、持っているカードの数やドルグに関しては把握できないほどになっていた。

 ちなみに、部屋は三人が交代で俺の部屋にやってくる状態。サーシャと一緒の部屋になったときは秘密の修行を隠れて行っている。

 現在は三回連続、ミーナとマリアに見つかり怒られているが、二人ともそこは諦めてくれている様子だ。


 今日は昼間で迷宮探索を終え、休憩にしようと俺が提案した。

 三人とも二つ返事で了承してくれた。

 正直、寝不足な日々が続いており、今日は昼から寝ようと思っていたのだが――


「釣り?」

「はい、釣りです」

「釣り……ってあの、とても興味深い動画のタイトルをみていたら、突如変な動画が流れるっていう?」

「え?」

「すみません、冗談です。釣り乙です」

「え?」

「うん、釣りに行きたいの?」

「はい」


 満面の笑みで答えるミーナ。うん、やっぱりかわいい。

 そうか、釣りか。


「じゃあ、行ってみるか」

「はい」


 ま、そういう休みも悪くない。


「ミーナも短剣レベル40か……あ、料理スキル二つとも外すぞ」

「はい、お願いします……そうですね、私もレベル40の短剣使いになれるなんて思っていませんでした」


 釣り具屋の場所は、以前買い物をしたときに知っていた。ミーナも同様みたいで、俺たちは迷うことなく釣り具屋にたどり着く。

 釣り具一式を買い揃え、釣りの権利を購入。

 釣りの権利がないのに釣りをしているのがばれたら「漁業ギルドの下位組織の漁業組合の屈強な男達から袋叩きにあう」という素晴らしい特典があるらしい。

 と店主が教えてくれたので素直に購入した。

 そして、それらを持って俺とミーナは埠頭に向かった。

 先客がいたようで、何人かが釣り糸をつるしている。


「なぁ、釣りってさ、釣れるのも当然魔物なんだよな?」

「そうですよ」

「それって危なくないのか?」

「大丈夫です、ほとんどの魚の魔物は釣りあげて陸にあがると力のほとんどを失って死んでしまいます」

「あぁ、なんとなくわかる。完全に安全ってことはなさそうだけど、まぁ大丈夫か」


 凶暴なサメが陸上にあがった姿を想像して俺は呟いた。


「そのかわり、陸に上がった魚を倒しても、魚戦闘スキルが覚えられることはないそうですし、取得ドルグもほとんどないそうです」

「あぁ、条件によって取得経験値や取得金額が変わるのか……。でもまぁ、趣味だと思えば悪くないだろう」


 俺たちが釣りを始めようかと思っていたら、先客の大きな帽子をかぶっている細い体つきの40歳くらいの男がこちらを向き、


「君たち、釣りははじめてか?」

「はい」

「釣りの権利は持ってるかね?」

「はい、釣り具屋で買いました」

「なら結構、最近は密漁を行う輩が多くてね。自分たちは魔物狩りをしているのだから全く悪くないとか言って。まぁ、そんなことを言ったやつらも、今では従順なものさ」


 一体何があったんですか? いえ、知りたくないです。何も言わないでください。


「釣りはいいよ。嫌なことを全て忘れられる」

「はぁ……お隣よろしいですか?」

「ははは、もちろんだ、僕の反対側でやってくれたまえ」


 当然のように断られた。

 まぁ、そっちのほうがすいてるし、ちょうどいいや。


「じゃあ、はじめましょうか」

「そうだな」


【釣りスキルを覚えた】


 メッセージが浮かび上がる。

 飛竜に襲われたときにナビゲーション機能をオフにしていたが、レベルが上がりにくくなった一昨日から、ナビゲーションをONにした効果だ。

 ミーナも同じように釣りスキルを覚えたと思う。


「いいか? 釣りは焦ってはダメだ」


 俺らが釣りを始めたとき、おっちゃんが声をかけてくる。


「釣りの全ては辛抱だ。半年も釣りをしたら釣りスキルを手に入れられる」

「そうですね、頑張ります」


 もう覚えてました、なんて言っても信じてもらえないだろうな。

 しばらくすると、ミーナの浮きが沈んだ。


「スメラギさん、来ました!」

「慌ててはダメだ。これは全ての武術に通ずるものがあってね、釣りあげるタイミングをマスターできるものがいるとすれば、何かの武術においてレベル40になった天才くらいなものだろう」

「あ、釣れました」


 ミーナがいとも簡単に釣りあげる。


「ビ、ビギナーズラックだね。すばらしいよ。うん。それはソードフィッシュと呼ばれている。とても固いから絶命するのを待って――」

「えい」


 ミーナがかわいい声で百獣の牙を振り下ろした。

 ソードフィッシュは絶命し、カード五枚に変わる。


【魚戦闘スキルをおぼえた 釣りレベルがあがった】


 あ、覚えられないと聞いていたけど、しっかりと魚戦闘スキルが手に入っている。


「サンマのカード……秋刀魚か。確かにソードフィッシュだな」

「そんな簡単に? カードが……5枚? そんな、私でも一度に出たカードは2枚だけだというのに」

「ははは、偶然ですよ、偶然」


 俺はそういい、冷や汗をぬぐった。やりにくいなぁ。

 しばらくして、今度は俺の釣り竿の浮きが沈んだ。


「よし、来た!」

「タイミングだ、タイミングだぞ、坊主! まぁ、ビギナーズラックはそう簡単に続くとは思えないが」

「よっと」


 俺は釣竿を勢いよくあげると、そこにはウツボのような魔物がかかっていた。

 陸にあがると釣り糸にからみつき、こちらに牙を剥けてくる。

 弱っている様子がまるでない。

 俺が釣り上げた魚を見て、おっちゃんは叫んだ。


「な、そいつはまさか、三年ぶりに現れたか! 坊主、そいつは海のギャングという魔物だ! 気を付けろ、そいつは物理防御が高く、そのうえ、陸に上がってもすぐには死なない。

 さらに猛毒を持っていて、雷魔法使いでないと倒すのがやっかいな」

「そうか、雷魔法なら倒せるのか。じゃあ“サンダーポイント”!」


 雷の下級魔法。

 虚空から雷が出てきて、海のギャングの脳天一か所に直撃、絶命してカードになった。


【釣りレベルがあがった 釣りレベルがあがった 釣りレベルがあがった

 魚戦闘レベルがあがった 魚戦闘レベルがあがった】


 三年ぶりに釣れた魚だからか、経験値も高かったらしい。


「お、ウツボとおもったらウナギじゃないか。大好物なんだよ」

「……雷の魔法使い……しかも、またカードが五枚出てるし……」

「あ、ええ、偶然ですよ偶然」

「そうか……偶然ね……そうだよね、偶然だよね」


 まるで悟りを開いた僧侶のような目になって自分の釣りを再開した。


「おっと、ほら、私も来たようだよ……あはは……まぁ、あはは、このくらい朝飯前だよ」


 おっちゃんが釣り上げたのは一匹の青いカメだった。

 陸にあがると今にもおっちゃんにかみつこうとしてゆっくり歩き出す。


「こいつは固くて陸上に上がっても弱らないから、俺たち釣り人の間ではハズレと呼ばれているんだけど、ソードフィッシュほどじゃないから嬢ちゃんの短剣なら倒せるだろ? やってくれないか?」

「いいんですか?」

「ああ、頼むよ。こいつを倒したときに稀に手に入るスッポンってのが絶品でね、まぁ、基本は亀の甲羅しか手に入らないんだけどさ」

「はい、わかりました」


 スッポンと亀は別の種類だと思うんだが。

 ミーナがおっちゃんに言われた通り百獣の牙を振り下ろすと、亀はいとも簡単に絶命した。


「あははは、本当に簡単に絶命しやがった。本当に、すごいや……あははは、しかも今度はカードが七枚も出やがった」


 おっさんはやけくそ気味に笑った。


「あ、よかったですね、スッポン出ましたよ」


 五枚はおっちゃんのいうとおり亀の甲羅だった。

 そして、一枚はおっちゃんの望んでいたスッポンのカード。


「いや、それより、嬢ちゃん、それは?」

「あ、虹鼈甲ですね。ブローチに加工して奥さんにプレゼントなさってはどうですか?」

「それ……ロトドロップだってわかってるのか? 俺は生まれてから一度も見たことがないぞ」

「そうなんですか? おじさん、運がいいんですね」

「運? そう? 運? そうだよね、あはは、こりゃ仲間に一生自慢できるや。ははは……あははは」


 おっちゃんはそう言って大笑いした。




 その日の晩、俺たちは宿に帰っておっちゃんからもらったスッポンを食べていた。


「スッポン鍋なんて食べるのはじめてだわ。お肌がつるつるになるかしら」

「それにしてもあんたたちも水臭いねぇ、私たちも誘ってくれたら一緒にいったのに」

「いいじゃない、お姉ちゃんだっていっつもスメラギさんと一緒に夜にでかけてるじゃない」


 そう言ったら、サーシャはもう文句を言うことができない。


「スメラギさん、また釣りにいきましょうね」

「あ、ああ」


 今度釣りをするときは誰もいないときがいい、そう心から思った。



   ※※※


 後に伝説の釣り師と呼ばれる男ザルマーク。

 彼は二十年後、釣りスキルを極め、幻と言われていたビッグシードラゴンを齢60にして釣りあげたことでその名を世界中に知られることになる。

 だが、彼はその釣果を以っても、


「私はまだ……彼女たちには遠く及ばない。私の心の師匠には」


 と言って、周囲を驚かせた。

 彼の胸には幻の素材――虹鼈甲で作られたペンダントが輝いていたという。

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