21 秘密
目が覚めると友達と思っていた美少女が裸でベッドの横にいました。
と言われたら、俺は必ずこういうだろう。
「それ、なんてエロゲー?」
もちろん、俺は17歳、成人指定のゲームになど買ったことはない。
いや、うそです、一度買いました。ごめんなさい、許してください。
そこの人、「通報しました」って、どこかの巨大掲示板のテンプレみたいなこと言わないでください。
話を元に戻そう。
つまり裸の美女が目の前にいた。
据え膳食わぬは男の恥、なんて昔の人は言った。
俺はごくりと生唾を飲み込む。
だが――泣いている好きな女の子を放っておくのは男失格だ。
「サーシャ……何があったか話してくれないか?」
そう言うと、彼女の右の頬に涙が流れた。
「…………私……もう自信なくしちゃったよ」
「……座ろうか」
俺は彼女を自分のベッドに座らせ、上から布団をかぶせる。
「私、お父さんとお母さんが死んだときにね、二人の墓前に誓ったの。ミーナは絶対に私が守るからって。だから、ミーナが宿屋で働けるようになったら、自警団に入ったの」
ため息をついて、彼女は窓の外を見上げる。
きれいな三日月がそこにはあった。
「でも……ダメだった」
サーシャは言う。
「宿は燃えちゃって、私は盗賊につかまって、変態男の奴隷になって」
「おい、変態男って俺のことか」
「ははは。でもそいつが凄いいいやつで、しかもすごい能力を持っててさ」
自嘲気味にサーシャは言葉を紡いだ。
「奴隷になったときにさ、こうなったらあんたのこと利用してやろうと思ったんだ。ミーナを守るための力を手に入れようって」
「……マリアもそう言ってたよ。俺の力を利用したいって」
「でも、今度はミーナが私よりも強くなって」
短剣レベル39になったことだ。
「そのうえ、ミーナは料理も得意で家事もそつなくこなせるし、私に似てかわいいし、胸はちょっと足りないけどさ。そしたらさ――」
今度はサーシャの左の頬にも涙が流れ、
「そしたら、ふと思っちゃったんだよね。ミーナには私はもう必要ないんじゃないかって。私の価値はもうないんじゃないかって」
「だからってなんで裸に」
「必要と……してほしかったの。あんたに……タクトに……」
「そんな、俺は……」
「でも、ダメね。女としての魅力もないみたいだし」
「そんなことは――」
「そんなことはないって言える! じゃあどうして私を抱いてくれないの? 女としての魅力がないからでしょ! それとも紳士のつもり?
あんたのその優しさが、今は辛いの。だから――――」
彼女はその続きを言わなかった。
俺が、俺の両腕が彼女を包み込んだから。
「タクト……」
目を閉じるサーシャに俺は声をかける。
「今のサーシャは好きじゃない」
俺は言った。
彼女が辛そうに目を細める。
「俺の抱きたいサーシャは、俺が好きなサーシャは、元気なお姉さんのサーシャだからさ」
盗賊から助けたときにサーシャにかけた言葉を、俺は同じ思いで告げた。
「そんなの、私、なれないよ」
「なればいい。俺の能力を利用すればいい。だから、服を着ろ。すぐに出る」
「え? どこに?」
「夜ってさ、秘密の特訓にはもってこいだと思わないか?」
俺はにっと彼女に笑いかけた。
「あぁ、身体をうごかしたらすっきりしたわ」
「だろ?」
「うん。あぁ、本当に私って単純な性格ね」
最後のコウバットが姿を消し、カードが残る。
俺たちは井戸の迷宮の中にいた。
迷宮を去るとき、俺はレベル21にまであがった索敵のスキルの力で隠し部屋の奥にいるであろう大量の魔物の気配に気付いていた。
みんなに教えようかとも思ったが、疲れていたのもあり、それをやめて脱出していた。
その隠し部屋の前に二人でやってきたというわけだ。
隠し部屋のコウバットを殲滅し、今度は少し離れたところにいる魔物を狩り、またコウバットのいる隠し部屋を発見して殲滅。
はは、蝙蝠傘が大量だ。
俺は、自分の小指につけられた赤い宝石の指輪を見て、マリアから聞いたことをサーシャに伝える。
「この指輪ってさ、あまり離れていると経験値の分配がないらしいぞ」
「そっか、ちょっとはミーナに追いついたかな」
「まだまだだと思うけどな、少しずつ追いついて、ミーナが困ったら助けてやろうな」
「そうだね。ミーナはいい子だけど恋愛には奥手だから相談にも乗ってやらないとね」
ミーナに好きな人ができたら……か、やばいな、想像したら泣きそうだ。
もちろん、サーシャも好きな人ができたらいやだな。
これって、あれかな、娘を嫁にある父親の気持ちなのかな。
違うか、ねとられってやつか?
今回の戦いで、ついでに、俺も覚えたばかりの魔法のスキルがだいぶと上がった。
壁によりかかり、俺とサーシャは座り込んだ。
「そろそろ戻るか。少しは寝ないと朝がきついぞ」
「タクト、私は今、元気なお姉さんでしょうか?」
「そうだな、俺の好きなサーシャだ」
「なら、私のことを抱ける?」
「え?」
サーシャは妖艶な笑みでその顔を俺に近づけ――
ミルの町の宿屋で初めて会ったときみたいに頬に口づけをした。
「よく考えたら私のはじめてをタクトなんかにあげるのなんてもったいないわ」
「「なんか」はないだろ、「なんか」は」
「あはは、じゃあ帰ろうか」
「そうだな、みんなにばれないうちに」
俺は瞬間移動を唱えて戻る。
みんなの場所に。
「ありがとうね」
瞬間移動で景色が変わっているとき、サーシャがそう言った。
一緒に来てよかった。
少ない時間にはなったが、気持ちよく眠れそうなきがする。
部屋に帰ると、すでに朝日がのぼりかけていた。
その光に照らされていたのは――
「おかえりなさい、お姉ちゃん、スメラギさん。朝帰り? どこにいってたの?」
「お姉さんは未成年者の不純異性交遊を認めた覚えはないわよ」
鎮座している、顔は笑っているがその目は絶対に笑っていない仲間を見て、俺たちは悟った。
まともに眠れるとは思わない方がいいだろうと。
窓は開けっ放しになっていた。




