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19 鍛錬

『『『『『ぴぎゃぁぁぁぁ』』』』』


 幾重にも重なる断末魔が迷宮に響き渡る。

 部屋に入ったとき、俺たちはジェリーの群れにでくわした。それらが一つになって合体したときは、ド○クエシリーズに登場するスライムを思い出し、キ○グスライムにでもなったのかと思った。

 マリア曰く、核の数が変わっていないからくっついただけだとのことらしい。

 ただ、数が数なだけに銃では対応できないと言われたので、俺がファイヤーウォールを連呼したらジェリースライムは全てカードに化した。


「魔法って本当は一度使ったらクールタイムが必要なのよ……本当にチートね」


 マリアが言い、マリアの説明にミーナ、サーシャが感嘆の声をあげる。

 よかった、俺の尊厳も少しは取り戻せたらしい。

 ドラゴンに対してもファイヤーボールを三連続打つことができたが、そうか、そういえばあったな。

 ボーナス特典の一つ【トリプル魔法】

 三連続までは使えるらしい。

 それと、ファイヤーウォールに対する疲労は少しだけあるが、一発撃って疲れた一昨日と違い、だいぶ楽になっている。

 スキルレベルがあがった恩恵だろう。


「あ、またありました、レアアイテムです」


 ジェリーが落とすアイテムは三種類。

・ジェリーゼリー[通常アイテム]

・ジェリーの粘液[通常アイテム]

・ジェリーの核[レアアイテム]


 ジェリーゼリーは子供のおやつ、ジェリー粘液は接着剤などに使われ、高くはないが売りすぎても値崩れのすることのないアイテムだという。

 ジェリーの核は珍味として有名だという。マリアも食べたことがあり、イクラのような触感らしい。

 魔物のジェリーの核は大きいが、カード化したらそれは小さくなり、数も多くなる。見た目もイクラに近い。

 味もそうだが、食べると肌がつるつるになるということで貴婦人の間では美人薬として親しまれている。


「ジェリーの核は一枚3000ドルグ。それが――」


 サーシャは今日拾ったカードを見てため息をついた。


「もう24枚、72000ドルグ……はは、宿の一か月分の売り上げか」

「それだけじゃないわ、コウバットのレアアイテムもあるわよ」


 コウバットの落とすアイテムも三種類

・コウモリの牙[通常アイテム]

・コウモリの翼[通常アイテム]

・コウモリ傘[レアアイテム]


 コウモリ傘を見たときの俺の表情を見て、マリアはため息をついた。


「いいたいことはわかるわ。私もこれを見たときはおかしいと思ったもの。でも、貴族の間では一種のステータスなのよ。コウモリ傘って名前だけど、真っ黒な傘じゃないのよ。基本は黒だけど柄はカードを具現化するまでわからなくて、全て一点もの。骨組は木製だったわ」


 コウモリ傘は一枚1万ドルク。ジェリーの核よりは数が少ないが、それでも7枚はある。


「タクトくん、お願い」

「わかった」


 マリアがこういったときは、俺にスキルを確認してほしい合図だ。


「今ので無形戦闘レベルが12にあがってる」

「本当? やった……」


 マリアはとてもうれしそうだ。


「なぁ、マリア、その銃があれば一人でも戦闘ができたんじゃないのか?」

「できたけど、悔しいじゃない。他のみんなって、経験値2倍とかで私よりも断然に強くなったりしてるのに、一人だけ普通にレベル上げなんて。どんな縛りプレイって話よ。

 こっちから頭を下げてそんなずるい人のパーティーになんて入りたくないわ」

「俺はいいのか? 絶対俺のほうがチートだと思うが」

「まぁ、そこは利用させてもらいたいっていうか、他の流浪の民を見返したいっていうか」


 そういうものだろうか?

 と思っていたら


「かぐや姫って、本当に頼まれた財宝を持ってきてくれる人がいたらどうしたと思う?」

「あれって自分のことを知りもしないのに求婚してくる相手がうっとうしいから絶対にかなえられないものを要求したって話だろ?」

「でも、自分のために本当に伝説の秘宝を持ってきてくれた人がいたら、それって運命だと思うのよね」

「運命だと思って冒険に出るふんぎりがついたということか」


 俺がそう言うと、マリアは「そういうことにしておくわ」と微笑した。

 そのあとも俺たちは探索を続けた。

 ある程度迷宮を進んだころには、サーシャがシミターで蝙蝠の翼だけを切り倒しとどめをミーナがさして、ミーナが短剣レベルをあげるというズル技を思いついた。武器スキルは倒した人しか経験値がもらえない。

 マリアは銃の弾がもったいないと、銃身でジェリーを殴り倒せるくらいに銃のレベルが上がった。銃身で殴り倒して銃レベルが上がるっていうのはどうなのか。


「ふぅ、このあたりもあらかた探索は終わったわ」

「うん、最初は怖かったけど」


 サーシャが汗をぬぐい、ミーナは持っていたナイフを鞘に戻した。

 二人も、無形戦闘レベルは11と12、鳥戦闘レベルは10にまで上がっている。

 この○○戦闘レベルだが、その種族の魔物に対してのダメージ特効があるほか、基礎腕力や基礎命中力補正、基礎体力にも補正があるらしく、他の種族に対しても強くなるという。


「こんなに早く強くなれたのは驚きだけどさ、一番驚いたのは、タクトが私たちを迷宮につれてきたことだね」


 サーシャが言う。ミーナも同じことを思っていたようだ。

 確かに、以前の俺なら宿屋で待っていてほしいとか言ったかもしれない。


「悪い、俺はまだ弱いからな」

「え? 何言ってるんですか? スメラギさんは弱くないですよ、さっきだって魔法でジェリーを」

「盗賊頭に対しても俺は死にかけた。ミーナを守れないところだった。飛竜相手に俺はなにもできなかった」


「俺は弱いから、三人をどこまで守ってやれるかわからない。怖いんだよ」


「だから迷宮に連れてきた? 矛盾してない?」


 サーシャが尋ねる。


「いや、もっとひどいことを言う。今の俺は三人を守れない。だから、三人には自分を守るだけの力をできるだけ身に着けてほしい」


 ミーナとサーシャは、もしも俺と別れたとき、盗賊に襲われても自分で対処できるくらいに強くなってほしい。

 マリアもそうだ。


「三人を成長させる力が俺にはあるんだから」


「そりゃひどいわ。男なら、『自分の好きな女は自分で守る』くらい言ってほしいってもんよ」

「そうですよ、私だって怖いんですから、できればスメラギさんには強気でいてほしいです」

「確かに、そんなセリフを言う王子様なんてどの物語でも見たことがないわ」


 幻滅といった感じで三人は俺を見つめてきた後、


「でも、まぁ私は守られてるだけの女ってのはどうも嫌いでね」

「私もスメラギさんの力になれるのなら喜んでついていきます」

「私を守りたい対象と思っていることは高く評価してあげるわ」 


 と笑って応えてくれた。

 あぁ、最低で結構、この笑顔があるのなら、俺は必ず身につけて見せるさ。

 大切なものを全部守って見せる力をな。


「逆に私がタクトを守ってやるさ」

「はい、私も短剣の扱いにはなれてきましたし、今ならこのあたりの魔物は全部倒せそうです」

「銃の弾はまだまだあるから安心しなさい」


 女が強すぎるのも困った気がするが。

 冷や汗を流す俺の後ろにいるのをマリアが見つけた。


「タクト、後ろ! いるぞ」

「え?」


 索敵スキルは通常に作動しているはずだ。

 なのに気配は感じない……だが、マリアの言う通り、そいつはそこにいた。


「スチール……ジェリー」


 普通の半透明のジェリーと違い、全身鉄色の金属でおおわれているようなジェリー。核が見えない。


「どけ!」


 マリアの叫びで俺は横にどいた。

 マリアの拳銃が火を噴く。

 が――


「弾かれたっ!?」


 命中したはずの弾丸はスチールジェリーにあたるとその向きをかえ、天井へと跳弾が飛んでいく。


「ならば、これはどうだ! ファイヤーボール!」


 俺が作り出した火炎球はスチールジェリーをのみこむ。が、まったく無傷だ。


「スチールジェリーには魔法は通じない! 常識だろ」

「そんなドラ○エ常識をこっちにも持ち込むなっ!」


 そう叫んだとき、スチールジェリーが俺にめがけて体当たりをする。

 回避しようとしたが、間に合わない。


「いたっ……くない?」

「この迷宮には危ない魔物はいないといったけど、スチールジェリーはその典型的な例よ! 逃げられる前に倒すわ」

「私に任せな!」


 サーシャがシミターをスチールジェリーに対して片手剣をふるう。

 が、スチールジェリーにまともなダメージが言ったとは思えない。

 スチールジェリーはぷるぷると身体をふるわせた後、一度身を引き、大きく跳躍した。


「きゃぁっ!」


 ミーナのほうめがけて飛んでいく。痛くない、そう聞かされたが、ミーナはその恐怖に目を閉じ、持っていた短剣を大きくふるった。


『ぴきぃぃぃ』


 振るわれた短剣がスチールジェリーの表面をこする……そう、こすっただけのはずなのに。

 スチールジェリーはか細い声をあげて、その場に落ちた。


「え? 倒したの?」

「そうだ、やったな、ミーナ……ちょっといいか?」


 俺は気になることがあって、ミーナに対してスキル技能を確認する。


「あれ……うそだろ?」

「どうした?」


 サーシャが尋ねる。


「ミーナの短剣レベルなんだが……」

「私の短剣レベルがどうしたんですか?」

「39になってる……」


 レベル40で天才レベル。

 詳しく言えば、世界一を競えるレベルとも言われている。

 そこまでもう一歩。

 あと、四人とも無形戦闘レベルも30まで上がっていた。


 スチールジェリー……恐るべし。

 ていうか、本当にミーナに守ってもらうことになるのか?


「スチールジェリーはとてもレアな魔物だし、すぐに逃げるから討伐しただけでも名誉なことなのよ……一年もぐって一匹倒せるかどうかって聞いたわ。このあたりはボーナス特典関係なく私たちの運がよかったわね」


 ボーナス特典にはレア魔物遭遇率UPというものは存在しない。

 マリアの言う通り、本当に運がよかったということか。


「ん、このカード、もしかして――」


 スチールジェリーの落したカードのうちの一枚をサーシャが持ってきた。

 それを俺とマリアが覗き込む。


「なぁ、これって俺の見間違いじゃなければ」

「そうね、ゲーマー憧れの逸品といいっても過言じゃないわ」


 そう、スチールジェリーが落としたカードは、伝説の金属と呼ばれる……


「オリハルコン……こんな簡単に手に入るなんて」


 チートすぎるにもほどがある。

 俺はこの日ほど自分のボーナス特典に驚いたことはなかった。

 スチールジェリーのもとは言わずともしれた例のあれですが、その希少性は作中でもいったとおりその比ではありません。

 しかも、表面のどこかにある核を的確に傷つけないといけないどころか、スチールジェリーの中には核を完全に自分の中に隠して無敵なものもいます。そういう場合はスチールジェリーの強度をうちやぶるような攻撃のできる武器と腕力が必要になるため、一年中迷宮にもぐって一匹倒せるかどうか、と言われています。

 スチールジェリーの強度を打ち破るような冒険者は初級の迷宮には来ませんからね。

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