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17 井戸

 王都から北東に三百キロメートル。

 そこに、古い井戸がある。民家も何もない場所だが、なぜか井戸だけがある。

 古い井戸だ。滑車もなにもない。水を汲むはずの桶もロープもない。

 そもそも、底には水がない。


「この下にダンジョンがあるのか?」

「ええ、難易度は弱。修行場として数十年前までは多くの冒険者が訪れたそうだけどね、王都の南東三キロメートルの森の中に別のダンジョンが見つかってからは忘れられた場所よ」

「なんでそっちにいかないんだ?」

「予約制、ボブゴブリン一匹狩るのに三時間待ち、そんなダンジョンに行きたい?」

「……行きたくないな」


 どこのネズミのテーマパークだよ、それ。


「その点、こっちはタクトくんの瞬間移動があれば一瞬だったでしょ」


 俺たちは王都から脱出後、マリアの案内により瞬間移動を繰り返してこの井戸までやってきた。ミルの町から王都に行くときは瞬間移動を誰かにみられたらまずいと思って使うことのない移動法だったが、放浪の民が三人同じスキルを持っていることをマリアが告げたので、大丈夫だろうという判断だった。

 魔物は地上にも多くいるが、魔力のたまりやすい迷宮では魔物の数はその比ではないため、冒険者や戦士など戦うスキルを鍛えるものは迷宮でスキルを鍛えるという。


「でも、よかったのか? 勝手に所長を辞めて、怒られるんじゃないか?」

「給金分の成果は十分に残したわよ。それでも怒るようなら、知識を小出しに研究所に送るわ。旅で得た知識だといったら、私の旅を許してくれるわよ。ところで、お願いがあるんだけど、この本、カード化できるかしら?」

「あぁ……薬学書に化学の本か」

「ええ、日本製よ。持ってきたわいいけど重いのよ」

「わかった、“カード化”」


 唱えると、書物はみるみる縮んでいき、二枚のカードに変わった。

 薬学書の本か、教皇を治した薬を作って奇跡のマリアと呼ばれたらしいが、これを読んで作ったのかもしれない。


「いつみても便利だな、タクトのカードは。これで魔物をカード化したら大儲けできるんじゃないか?」

「無理よ。カード化できるのは物と自分のペットだけ。野生の魔物はカード化できないわ。あと大きすぎるものもカード化できないみたい」

「そうなのか?」

「ええ、ボーナス特典については研究したもの。よけいに悔しい思いをしたけどね」


 流浪の民について研究していたマリア。それは自分と同じ日本の記憶を持つものを探すだけではなく、そんな研究もしていたのか。

 井戸の脇に金具の輪っかがついていたので、マリアの用意していた荒縄を括り付け、井戸の中に落す。


「俺が先に行って様子を見てくる」

「気を付けてください、スメラギさん」


 腰にある短剣を確認し、俺はゆっくりと降りていく。

 暗視スキルが役に立つ。

 井戸はそれほど深くはなく、五メートルほど降りると、底についた。壁に穴があいておりそこから淡い光がもれている。

 索敵スキルによると、その穴の奥から魔物の気配がする。あまり強い敵ではないようだ。どうやら、ここが迷宮の入り口なのだろう。


「大丈夫だ、ここには敵はいない! 迷宮の入り口らしいものもある!」


 俺がそう叫ぶと、真っ黒なものが見えた。


「ふひひ、冒険がうちを待ってるんや」


 興奮しながら降りてくるマリアはまた地が出てる。

 ていうか、興奮していて俺がいることを忘れているのか、無防備すぎる。

 スカートからのびたきれいな太ももが荒縄をはさみこみ、体を揺らしながら降りてくる。

 動くたびに、胸が揺れ、そして紺のスカートの下からは男にとって未知の領域となる神秘が――


 思わず見とれそうになったが、俺は我に返り視線を落とした。

 その後に続くのはミーナ。おそるおそる慎重におりてくる。

 彼女もスカートだが、その下に黒いタイツを着ているので問題はない――はずなのに。

 タイツは彼女の足からまっすぐスカートの中まで包み込み、下着はおろか素肌すら全く見えない。なのに、きついタイツは彼女の足のシルエットを完全に照らし出していた。

 暗視の力ってすごすぎる。


「男の子って、やっぱりタイツでもスカートの中を見たら興奮するものなの?」

「……はい、自分でもそんなフェチがあると思っていませんでしたが」


 またもや視線をずらして地面の小石を数える俺に、マリアは飽きれた口調で言った。

 最後に降りてきたのはサーシャだ。

 壁をけって大きく身体全体を揺らしながら降りてくる。四人の中で一番早く底までたどり着いた彼女は、


「タクト、どうだった? 私の揺れる胸は」

「ああ、よかったんじゃないでしょうか?」

「……え、なに? そのつれない態度? いつものタクトらしくない」


 と言われても、先に見た二人の衝撃がすごすぎた。

 おりるのに疲れたミーナは困ったように井戸の入口を見上げ、


「帰りはここを登るんですか?」

「いえ、帰りは瞬間移動を使うわ。そのほうが楽でしょ?」

「なるほど、理にはかなっているが……」


 サーシャは気付いたように言った。


「それなら、瞬間移動で井戸の底にいったらよかったんじゃないか? 底は見えていただろ?」


 あ、そうでした。

 マリアが手際よく荒縄を用意していたからつい忘れていた。 


「でも、瞬間移動が使えるかな、使えない場所なら困るんだが」


 瞬間移動には、いざというときに使えなかった苦い思い出がある。


「え? 瞬間移動は戦闘中以外ならどこでも使えるはずよ」

「戦闘中は使えないのか?」

「ええ、逃走スキルをあげたら、弱い敵相手なら使えるって聞いたけど、基本戦闘中は使えないらしいわよ。瞬間移動を使える流浪の民が言ってたから間違いないわ」


 そうか、今まで瞬間移動が使えなかったのはそういう理由だったのか。考えてみればそうだ。戦闘を問答無用で離脱できるような魔法は確かにチートすぎるな。

 いや、俺はチート使ってるけどさ。


「この迷宮の魔物は全部雑魚だから危険なことはないわ」

「あの……」

「ああ、索敵スキルで確認したが脅威になるような気配は感じないな」

「あの……」

「いるのは、ジェリーとコウバットよ。スライムと蝙蝠の魔物ね。あとレアモンスターでスチールジェリーが出るわ」

「スチールジェリー、まるでメタルスラ○ムみたいだな」

「あの……」

「スチールジェリーか、倒すと多くの経験がもらえると聞いたな」

「あの……そろそろ入りませんか?」


 ミーナが言った。


「狭いです……」

「あ、そうだな」


 迷宮の入り口とはいえ井戸の底にはかわりない。四人がそこにいたらまるで満員電車の中だ。

 本当はもうちょっとここにいたい願望もあったんだけど。


「じゃあ、俺から入るな」


 狭い穴だ。

 俺が入るので精一杯という感じだ。

 まぁ、女の子は三人ともスタイルがいいから大丈夫だろう。


 迷宮に入ると、そこは思ったより明るかった。暗視がいらないくらいだ。

 左右に通路が伸びており、淡い光が通路に広がっている。


「ん……胸がひっかかるわね」


 後ろからそんな声が聞こえた。

 ふりむくと、マリアが穴から上半身だけをだしている。


「タクトくん、ひっぱって」

「あ、ああ、わかった」


 俺はマリアの腕を引っ張ると、ようやく穴から抜け出した。

 抜け出せた勢いで、俺が倒れてしまい、彼女がその上に乗りかかる。

 顔のうえにやわらかい何かがのっかっており、

 なんだ、これ――もしかしてこれが天国か?


「ごめん、大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫です」


 恥ずかしそうにマリアが謝り、俺は心の中で感謝した。


「すまない、タクト、私もひっぱってくれ。やはり胸がひっかかる」


 次はサーシャがひっかかっていた。迷宮ということで妹よりも先に安全の確認をしたかったのだろう。

 俺はそういいサーシャの手をひっぱった。まさか、天国に再び行くことになるとはこの時は思いませんでした。


 最後にミーナが穴から出てくる。

 前の二人とは違って、すんなりと迷宮に入った彼女は自分の胸のあたりを軽くこすり、

 まるで仁王像のような形相でミーナが立っていた。


「…………行きますよ、三人とも」

「「「はい! ボス!」」」


 盗賊の頭や巨竜の比ではない覇気を纏った彼女の言葉に、俺たち三人は敬礼していた。

 一体何を怒っているのか、俺は最後までわからなかった。

メンバーも増えたのでやっと魔物退治の話です。

ミーナちゃんも馬車の中で言っていますが、彼女は貧乳ではありません。

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