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14 面会

 堀と城壁に囲まれた巨大都市、サマエッジ王都。

 入口は西と東の二か所の城門のみで、俺たちの馬車は西の城門に入場することになった。

 王都に入るのに、来訪した目的を聞かれ、「宮廷魔術師であるマリア様にお目通り願いたく来ました」とどこかで聞いたようなセリフを使いまわして言ってみた。

 門番の男は俺の姿を見て何かに納得したのか、通行の許可を与えられた。

 城門をくぐるとそこは別世界だった。

 石畳の幅の広い道がまっすぐのびており、その先には東の門が見える。

 道の左右にはレンガ造りの家々が建ち並び、その光景はまるでヨーロッパの大都市のようだ。


「じゃあ、私はここで。いやぁ、お客さんがいなかったら、ドラゴンに見つかって食べられているかもしれないところでした」


 と御者さんは褒めてくれたが、しっかりと馬車代はとっていった。3人分で150ドルグだった。

 飛竜は巨大な槍三本によって絶命していた。聞いた通り、ドラゴンの遺体はカードには変わらずに草原に倒れていた。

 そこに馬に乗った騎士のような男が三人現れ、あとは自分たちが処理をしておくから、馬車にのって王都に入るようにと言ってくれた。

 あと、モーズを倒したときに手に入れたカードは自由にしていいそうだ。

 

「王都に来るのも久しぶりです」

「そうだね、二年ぶりになるか」

「そうか、ミーナもサーシャも、スキル変更は王都でしたんだっけ?」


 スキルを変更するには、教会の本堂にある地下の特殊な魔法陣の中でスキル変更が可能になるらしい。

 そのような魔法陣はこの大陸には他に四か所あり、うち二か所は教会の管理下、一か所は国の管理下、もう一か所は自治都市の中にあって都市の管理下にあるという。

 どこも予約が必要であり、この王都の魔法陣だと二年は待たないといけないらしい。


「マリア様って人はどこにいるのかな」

「国立研究所はあっちだよ。王城の手前さ」


 サーシャが指さしたのは、北東の方角だ。


「三年前、見学させてもらおうと思って行ったんだけどさ、門前払いされたよ」

「国立研究所っていったら国の最高機関だろうからな。機密データとか盗まれたら大変だ」

「そうだよ、お姉ちゃん。そもそも、お姉ちゃんって研究とかそういうのあまり興味ないんじゃなかったっけ?」

「まぁね。でもさ、反逆のマリアの顔を拝みたくなったんだよ。二年前に来た時はすでに奇跡のマリアって呼ばれてたから、その時は興味無くしたけどね」

「逆じゃないのか? 奇跡を起こす人なら顔を見たくなるけど、罪人と関わったらあまりよくないだろ」

「そうだけどさ……面白いじゃない? 教会や信者を敵に回してまで、真実を語ろうとした勇者ってことだろ?」


 サーシャはそんなことを言った。

 そういうものだろうか?

 しばらく通りを歩いていると、カード換金所のマークがあった。

 モーズを倒したときに手に入れたカードが山のようにある。

 ロース30枚、カルビ9枚、バラ23枚、霜降り7枚、タン14枚、サーロイン3枚、牛革19枚、牛角9枚、牛骨8枚、牛乳30枚、モーズ2枚。

 やたらと部位が多い。焼肉パーティーができそうだ。できれば「ミノ」とか「てっちゃん」あたりがあったらうれしいのだが。

 一昨日の夜に手に入れたネズミ肉やネズミの牙、一角ネズミ、そしてもう一枚も換金せずにとってある。


 門と門を結ぶ通りのちょうど真ん中にさしかかったところで、南北に通じる大きな道と交わった。

 南にはモンサンミシェルのような巨大な教会が、北にはヴェルサイユ宮殿のような王城があった。


「すごいでかいな」


 観光地に来たおのぼりさんのような感想を言いながら、俺たちは北へと歩を進める。

 王城の前に巨大な金属の門があった。

 その奥には王城や大きな住居がある。

 俺がその門を見ていると、ミーナが説明してくれた。


「あそこからは貴族様や王族様の住居だから、私たちは入れないんです。でも研究所はその手前にありますから」

「そうなのか?」

「研究所は貴族以外の人がほとんどですから」


 なるほど、確かに貴族というとドレスを着てお茶会をしている貴婦人のイメージだが、研究者は地下室でフラスコを片手に笑っているイメージだ。

 真逆の存在といってもいい。

 そのまま歩くと、門の手前にそれはあった。

 横浜のみなとみらいにいったときに見た赤レンガ倉庫を思い出す造りのたてもので、煙突からは煙が上がっている。

 そして、入口には騎士が一人立っていた。


「すみません、マリア様にお目通りを願いたいのですが」

「今日は誰も面会の予定がない」


 騎士がぶっきらぼうに答える。

 だが、そこは予想の範囲内だ。


「流浪の民について調べてるんですよね、俺、流浪の民なんです」

「ふむ……その出で立ち、ウソではなさそうだが……ちょっと待っていろ」


 騎士は建物の中に入っていった。よし、これでうまくいきそうだ。

 暫く待つと、騎士が戻ってきた。


「マリア様に話したところ、流浪の民の研究はもう十分だ、と仰られた。だから面会はまかりならん」

「そ、そんな、なんとかなりませんか? 金なら払います!」

「貴様、それは我への侮辱ととってよいか?」

「め、めっそうもない。俺はただ――」

「ならば下がれ。下がらぬならこの場で首をはねる」


 そう言われたら引き下がるしかない。


「残念でしたね」

「まぁ、落ち込むなって。マリアもさ、一日中研究所に篭っているってわけじゃないだろ? 帰るときを見計らって話せばいいんじゃない?」

「いや、それもあの騎士がいるから難しいだろ、少なくともあの騎士の視界の中で待っていたら、本当に首をはねられる」


 とりあえず、今日は宿をとるか。

 男運や女運はあるほうだと思ったんだがな(ボーナス特典的な意味で)、どうしてこううまくいかないんだろ。


「ん? おぉ、お前はあのときの坊主じゃないか」


 そういって声をかけてきたのは、見間違うはずもない髭面のおじさん。

 あの時は狩人の服装だったが、今日はなんか立派な服をきている。

 俺が狼に襲われたときに助けてくれた人だ。 


「おぉ、可愛い嬢ちゃんたちを連れてるな。お前のこれか?」


 おじさんが耳元でささやき、小指を立ててくる。

 そんなんじゃない、とは言わなかった。


「で、おじさんは何してるんですか?」

「あぁ、部下の目を盗んで逃げ……じゃない、毛皮を売りにな。ミルの町より王都のほうが高く売れるからな。さすがに王都に入るのに狩人の姿はいけないだろうとか思ったが、お前は相変わらずの格好だな」

「いや、おっさんの服も趣味悪いって。派手すぎて、まるで貴族か王族みたいだぜ?」

「そ、そうか? ははは」


 二人で盛り上がっていては悪いと、俺はミーナとサーシャにおっさんのことを紹介し、俺はおっさんにマリアに会いに来たことを告げた。


「あぁ、あの嬢ちゃんか……ワシも何度か会ったことがあるぞ。もしよかったら、アポをとってやろうか?」

「本当か?」

「男に二言はない」

「ふむ、ならあそこにレストランがある。金はグラマンが払うと言えばただで飯をくわせてくれるぞ。その間に俺はマリア嬢ちゃんのところに行ってきてやる」

「金ならあるから自分で払うって」

「ははは、気にするな」


 そう言って、おっさんは去って行った。


「その、なんていうかすごいお方ですね」

「いい人だろ?」

「そんなことよりご飯にしようぜ、ご飯に」


 レストランはオープンテラスのような造りになっていた。

 昼過ぎであったので、多少込み合っていたが、グラマンからの紹介だというと、店主は予約席をあけて席を用意してくれた。


「グラマン様は私の恩人でもあります。だからこの席はいつもグラマン様の予約席であり、代金はいただいておりません」


 と説明してくれた。おっさん、何気にすごいやつなのか?

 そして、出てきた料理も見たこともない料理ばかりだった。

 フランス料理のフルコースのような料理で、どれも絶品だ。ただ、飲み物として出された葡萄酒には困った。いや、高いんだろうがとても苦い。その上酔っぱらう。


「アンチポイズン」


 俺はたまらずにそうつぶやくと、体内のアルコールは分解された。

 やっぱりあれだ、お酒は二十歳になってから。


 その後もデザートまで料理を楽しみ、少し休憩をしたころ、おっさんが戻ってきた。

 なぜか覇気がない。


「すまん……」


 無理なようだった。


「俺が頼んだのに断るとは……」

「どうしても無理そうですか?」

「いや、あいつはお前らにあうのに条件を出してきた」

「条件?」

「一角ネズミが落とすという伝説のアイテムの入手だ」

「ユニコーンの角か、わかった、それをとってくればいいんだな」


 それなら一晩で七本手に入れた。入手は不可能ではない。

 と思ったが、それは早合点だった。


「ユニコーンの角はロトドロップだな。マリアの望むのはレジェンドドロップのほうだ」


 めったに出ることのないアイテムをレアアイテムというが、おっさんがいうにはレアアイテムの中にも種類があるらしい。

 ドロップ率1/100~1/100000がレアアイテム

 ドロップ率1/100000以下がロトアイテム。宝くじ道具という名のとおり、宝くじに当選するような確率でしか入手できないことからその名がついたらしい。

 もう一つ。ドロップ報告が過去の書物や物語の中にしかないアイテムのことをレジェンドアイテムという。


「決して燃えることのない革布。そんなもの、わしでも見たことがないぞ」


 持っている。

 俺はそのアイテムを持っている。そう言おうとしたときだった。


「奴はいつでもこうだ。竜のレジェンドアイテムを持ってこいとか、巨大貝のレジェンドアイテムを持ってこいだとか、シャーマンゴブリンの落とすレジェンドアイテムに、ゴールデンツリーが落とすレジェンドアイテム。どれもこれも見たことのないアイテムばかりだ」


 おっさんは言った。

 待ってくれ、そのアイテムって……

 俺はおっさんからアイテムの名前を聞いて愕然とした。


 間違いない……マリアは日本人だ。

 しかも……日本人としての記憶を持っている。


 俺は自分の持つカードを見てその確信を深めた。

次回は再び視点が変わります。


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