25 終焉(完)
「タクト叔父さん、裏メニューに追加されたはずだよ。見てみてよ」
簀巻きにされた神の上に座りほくそ笑んだ。
さらに、神が文句を言ったら、今度は猿ぐつわを噛ませる始末。
完全に機械プログラムが神の上に立っていた。
「裏メニューに追加項目……か」
これまで、裏メニューには【取得伝説魔法一覧】と【オートマター状況】があった。
だけど、今は【クリア後特典】が表示されている。
「……クリア後特典」
本当に、ゲームみたいな名前だ。
もっといい名前はなかったのだろうか?
「てか、俺が裏メニューを持ってなかったらどうなってたんだ?」
「それはその時、特別に裏メニューを追加してあげたよ。ただし、伝説魔法一覧やオートマタ―状況、まだ解放されていない他の裏メニューは使えないけどね」
キーシステムがスラスラと説明をした。他にもまだ解放されていない裏メニューがあったのか。
「クリア後特典を選択して。そうだね、クリア後メニューを読み上げてよ、タクト叔父さん」
クリア後メニューを選択して、現れた項目を見た俺は……ぎょっとなった。
そして、それらを読み上げる
「記憶継承1人につき100ポイント、帰還1人につき100ポイント、裏迷宮開放300ポイント、精霊の目300ポイント、封印されし島の王1000ポイント、シリアルコード入力項目追加100ポイント、異世界への旅3泊4日1000ポイント」
理解できるのは最初の1つだけ。後半の5つがよくわからない。特に最後はふざけているとしか思えない。多重トリップとか?
兄貴を見ると、彼は思案顔で告げた。
「裏迷宮はアナザーキーのゲーム内にもあった設定だ。ラスボスを越える裏ボス出現の面だった。あと、シリアルコードは、ゲームクリア後ユーザーを対象にして実は飲料メーカーとコラボをしてシリアルコードを入力することで様々なアイテムを貰える設定にしていたからその設定が生きているんだと思う。精霊の目、封印されし島の王はわからないよ。僕が作った設定にはそんなものなかった。帰還と記憶継承もクリア後特典にはなかったが――」
「そう。記憶継承は日本に置いて来た記憶を持ち主に戻す特典、帰還は日本に戻れる特典だよ」
「ちょっと待って――!」
マリアが何かに気付き、声を上げた。
「ポイントって何?」
「ゲームクリアでもらえるポイントは1000ポイントだけだよ。これもルールなんだよ」
「じゃあ、日本に戻れるのは最大で10人ってこと?」
マリアがそう言った時だった。
「いや、日本に戻るのにはポイントなど必要ないぞ」
そう言って現れたのは――ミラーだった。
「て、お前! 神と戦っている間姿を見せずにどこに行ってたんだ? この島にいるときまでは確かにいただろ!」
「相変わらずテンションが高いな、坊主。私はこれを貰ってきてやったんだ」
ミラーは一枚の封筒を取り出した。
……ってあれ?
その封筒――外務省って書かれてるぞ!?
変なマ―クの下に、「外務省」と書かれていて、その下に「Ministry of Foreign Affairs」と書かれている。
ミラーはその封筒から一枚の紙を取り出して、
「皇帝人。日本国政府は君を異世界との交易担当責任者に任命することを決めた。ただし、異世界交易による収益は全て今回の事件に巻き込まれた日本人への賠償金として宛がわれることになる。日本に帰ってきた者も政府が全ての生活を保障する。もちろん、諸外国に秘密裏に進める裏プロジェクトとしてな」
と言った。
…………!?
え?
何を言っているんだ?
「待ってくれ、ミラー! お前が日本に行っていたのは100歩譲って信じる。俺が行かせたんだから。でも、早すぎる! お前はさっきまで、戦いが始まるまでこの島にいただろ! なのに、なんで僅か数時間で政府に異世界の説明をしてここまで事を運ぶんだ!?」
「何、私について信じさせるのは時間がかからなかった。この世界の植物の種を多く持っていたこと、魔法や瞬間移動を見せたこと、何より、私の本当の姿を見たら信じざるを得ないだろう」
本当の姿――骸骨か。日本だったらよかったようなものの、国の中枢機関で骨の姿で動いたら銃でハチの巣になってたぞ。
それでも、異世界を信じるよりは、精巧なロボットと言われた方が信じてしまいそうだが。
魔法や瞬間移動は手品と言われそうだし。
「とはいえ、いやはや、日本人の頭はとても固い。各界の教授達と議論を酌み交わし、完全に信じてもらえるまで5年、ここに戻るまで6年かかったがな」
「……は?」
今、なんて言った?
「6年? 日本で6年の時間が経過したっていうのか?」
「あぁ、快く応じてくれたよ――そこの邪神様がね。このまま皇帝人が日本に戻ったら無事では済まない。私が解決に導いてやると言ったら、快く応じてくれた」
おいおい、そんなことできるのかよ。
過去に戻るのはできないらしいが。
「それと、一番気がかりな件は日本の軍事介入だろうが――」
「日本には軍隊はないだろ?」
第二次世界大戦が終わり、日本軍は解体された。
現在、日本にあるのは自衛隊だけだ。
「何も軍隊だけが軍事介入ではないだろう。例えば、この世界の特定の国に兵器の知識を授けたら、それだけでこの世界のパワーバランスが大きく変わる。日本は軍隊は持たないが、軍事技術は世界に輸出するだけの機能を持っている。そうだろう?」
……そうなのか?
なんて聞いたら、10年以上日本に住んでいた俺より、ミラーのほうが日本に詳しいことがばれてしまうから黙っておく。
「まぁ、それも今のところはあり得ない。同じ知識を我々が得たら、魔法という技術が存在する以上我々が圧倒的に有利になる。日本国政府はそれを恐れているようだ。だから、過剰な技術供給はない」
「……それは助かるわね。ここで日本の技術が大量に流れ込んで来たら、私の知識の優位性が失われるもの」
マリアが呟くように言った。そういえば、彼女は元々研究所の所長として出世したんだもんな。
「で、話を戻すが、日本人を日本に戻すのは私が可能だ。ただし、日本国政府が受け入れを許可しているのは、今回の事件で巻き込まれた日本人のみ。この世界の人の受け入れを許可をしないそうだ。私を除いてな。もっとも、これから研究員がこの世界に来るだろうから、百年、いや、数十年後には相互交流が可能になることになると思うがな」
ミラーの見解に、マリアと兄貴が頷いた。
そして、兄貴はシファと向かい合い、
「……そうか。シファ、一緒に日本に行くのは無理そうだ」
「妾を置いていくのか? テイトよ」
「瞬間移動があればいつでも帰ってこられるらしい。僕の家は君の傍だけだよ」
抱き合うテイトとシファ。
その二人を、ミーナ、サーシャ、マリアの三人がうっとりとした表情で、シルフィーとナビも無表情だがその光景に見入っている。
弟の立場からしたら、兄貴のラブラブの光景を見るのはかなり恥ずかしいんだが。
「ああ、言い忘れていた。この私は分身だが、本体は麻布十番で花屋を営んでいる。もしも君たちが来ることがあればぜひ寄ってくれたまえ」
「……花屋って」
ミラーが、「花というのもなかなか奥が深い。この世界と君たちの世界、双方に通じるものがあるからな。この世界の薬用成分のある花が地球に普及したら地球の薬学会が大きく変わることだろうな」と自慢げに言った。
「ナビが命令した甲斐がありました」
何故か自慢げに語るナビ。
そして――ミラーは言った。
「では行くか、皇帝人よ。坊主、分身である私は彼奴を送り届けたら、魔王城で花の手入れをしている。用事があればいつでも来い」
「シファ、必ずすぐに魔王城に戻るよ。君を待たせない」
兄貴の台詞に、シファは笑って言った。「それは無理じゃ、テイトよ」と。
「何故なら、妾は主がいなくなったその瞬間から、主のことを待ち続けるからの」
再度抱き合う二人に、女性陣はそれを見入っていた。
そして、兄貴は俺を見て、「タクト、お前はこの世界に骨を埋めるのか?」と聞いてきた。
「そのつもりだったんだけどさ、もしもこっちの世界の人が自由に行ける日が来たら、父さんと母さんの墓に報告に行くよ。俺の大切な人達を連れて」
「そうか。そんな日が来れるように、僕も最大限努力させてもらうよ。シファに日本を案内する約束もあるしな」
兄貴はそう言うと、もう一度シファを見て微笑み、ミラーの瞬間移動により、消えた。
「じゃあ、俺達も帰るか……アイリンさんの記憶も戻してあげないとな」
「そうですね。結婚式の準備もありますし、宿屋の再建もしないといけませんね」
ミーナが笑顔で俺の右腕に自分の腕を絡めてきた。
そして、左腕にサーシャが腕を絡めてくる。
「宿屋の再建をするってことは、私も一緒に住むってことかぁ。いやぁ、同じ家に住むとなったら過ちが起こったらこまるわね」
「シルフィーはもう戻る家がありません。タクトお兄ちゃんは責任をとってシルフィーの住む場所になってくださいね」
とシルフィーが背中から飛びついてきた。
と同時に、指に妙な感触が――
「マスター、申し訳ありません、先ほどの戦いでMPを消費し過ぎました。早急に補給をさせていただきます」
って、このタイミングで指を吸うな!
頼む!
「モテモテだね、タクト叔父さんは。じゃあ、僕はもう帰るね」
そう言って、キーシステムの姿が一瞬で消えた。
モテモテって、からかわれているだけだよ。
って、ちょっと待て!
クリア後特典の意味不明の特典の説明、まだ聞いていないぞ!
そう思ったら、マリアが俺達に注意をした。
「私も混ぜ……じゃなくて、肝心の話がまだ終わってないでしょ!」
「肝心の話?」
「そうよ。タクトくん、ボーナスポイントは1000ポイントしかないのよ。日本に戻るのにポイントが要らないとしても、記憶喪失を戻せる人は10人しかいないってことじゃない」
あぁ、そのことか。
確かに、普通だとそうなんだろうな。
「いや、大丈夫だぞ?」
「え?」
マリアが疑問の声を上げた。
「だって、俺のクリアボーナスのポイント……なぜか99999ポイントあるんだよ」
うん、これ、明らかにあれが原因だ。
最初に入れたデバッグ用のチートコード。あれが、ここで反映されていた。
多分だけど、これ、いくら使ってもしばらくすると99999に戻る設定になっていると思う。
「まぁ、あれだな。10人しか記憶を戻すことができないだって?」
俺はジャージの襟を正し、笑顔で言った。
「できないっていわれたことをやってみせるのがチートってもんだろ!」
御愛読ありがとうございました。
3月開始から、これまで、多くの皆さんの声援に支えられ、完結を迎えました。
この作品は私の処女作であり、本当に多くの人に読んでもらえてとてもありがたいです。
短い挨拶ですが、これからも
「チートコードで俺TUEEEな異世界旅」をご覧になってくだされば、作者として僥倖でございます。