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24 戦後

「「「「タクト(さん)(くん)(お兄ちゃん)!!!」」」」


 ミーナが、サーシャが、マリアが、シルフィーが、俺に駆け寄ってきた。


「ただいま……あ、ちょっと待って」


 俺はそう言うとカード化して収納していたオリハルコンのジャージを具現化して羽織る。

 やっぱり、俺はこれがないとな。


「タクトさん、そのジャージどうしたんですか?」

「あぁ、前に作ってもらったのは外出用だったからさ。一緒に、室内用も作ってもらってたんだよ……まさか外出用になるとは思いもしなかったけどね」


 と、俺は当たり前のことを当たり前のように言う。

 それを聞いたみんなは、何故か一瞬呆気にとられた後、


――大爆笑だった。


 ミーナ達も、魔族も――そして兄貴やシファまで笑っている。

 何がそんなにおかしいのか……うーん、唯一笑顔が理解できるのは、シルフィーだな。

 あいつは笑いながらも俺のジャージを羨ましそうに見ている。勝利への喜びとともに、ジャージを欲しいと思っているのだろう。

 だが、悪いな、このジャージはもう予備はないんだ。


 俺は自分の手に握られた、オリハルコンの鎧――その欠片を強く握る。


「相変わらずだな、タクトは……でも、どうやって助かったんだ?」

「ナビも知りたいです。マスターはセルフボムを使われたのでは?」


 兄貴とナビに訊ねられ、俺は空を見上げて言った。


「俺は死ぬはずだった。助けられたんだよ」


 そう、あの時、セルフボムで俺は自らの死を覚悟した。

 できることなら生きていたかった。生きて、ミーナと結婚したかった。


 それでも、ミーナを……みんなを守るために死ねるなら本望だとさえ思ったんだ。


「誰に助けられたの?」

「んー、あいつはきっと……俺自身さ」



   ※※※


 セルフボムの魔法を使った直後だった。

 俺は、真っ白な世界に囚われていた。


 死んだんだと思った。今度こそ、本当に。


 それなら、ここは天国か。


 神の世界が真っ黒で、あの世が真っ白だとするのなら、俺達のいた世界はなんて楽しい世界だったのだろう。

 そう思ってしまう。


 自分の服装を見る――ズボンはジャージだが、シャツはTシャツか……死後の世界にまで服が影響されるんだとしたら、オリハルコンのジャージは脱がなかったらよかったな……いや、あれを着たままだとセルフボムが最大の威力を発揮しなかったおそれがあるし、仕方ないか。


「よう! おめでとう、タクト!」


 そう声をかけてきたのは――俺自身だった。

 ただし、着ている服はオリハルコンの鎧だったが。


 その直後――そのオリハルコンの鎧が砕け散り、今の俺と同じ、Tシャツ姿になる。


 まるで鏡を見ているようだと思った。


「お前は……神じゃないよな」

「ああ、俺は――タクトだと思っていた何かだ。タクト、お前の複製らしい。つまりは真っ赤な偽物さ」


 と、目の前にいる俺と同じ姿のそいつは――タクトは自嘲気味に笑って、そう告げた。

 つまりは神に作られ、この世界を救う宿命を背負わされたはずの、神の依代となったプレイヤーキャラクター。


「お前のセルフボムに抗おうと神は全ての力を使ったんだ。でも、お前の力が強くてな、それでも防ぎきれず、肉体を放棄して魔法を相殺したんだ。おかげで俺は神の呪縛から解き放たれて、こうして本物の俺――お前と話す時間を貰えたってわけさ」

「ちょっとだけ?」

「あぁ、俺はもうすぐ消えるからな……」

「消える? どういうことだ?」

「だから……お前は……ミーナを、みんなを……俺の大切な人を守ってくれ、本物さん」


 そして、目の前のタクトが消え、俺は――気付けば闇の中に戻っていた。


 いや、違う……ただ戻ったんじゃない。

 俺は自分のシャツについたオリハルコンの鎧の欠片をつまむ。


 これ……やっぱり、俺の身体だ。

 神が肉体を放棄したから、元の身体に戻ったってことか?


 てことは、さっきの場所は――俺の頭の中?


 そう思うと、妙に納得がいった。

 そして、俺はみんなの待っている場所に戻るべく、瞬間移動を使った。



   ※※※


「ということで、神がどこにいるのかはわからない、俺のセルフボムで死んだのか、それとも、どこかに移動したのか」


 そもそも、神をこの島におびき寄せたのは、ここがキーシステムの領域であり、俺の肉体の中に神を封じて動かさないためだった。

 俺はてっきりあいつのいる闇の世界もキーシステムの領域内だと思っていたんだが、もう一人の俺の話を聞くとどうもそうではなかったらしい。

 失敗した。


「それにしても、よくみんな、あの俺が偽物だって気付いたな。どうしてだ?」


 俺の質問に、サーシャ、マリア、シルフィーの3人が顔を見合わせて、苦笑した。

 そして、3人を代表して、マリアが告げる。


「あのタクトくん、私達に言ったのよ。ただ、三人とも俺にとってはとても大切な人だったはずだってね。ミーナと同じくらい」

「え? 何言ってるんだ?」


 それでなんで俺が偽物だと思うんだ?

 正しいじゃないか。


「俺も同じ思いだよ。三人を、ミーナと同じくらい、とても大切な仲間だって思ってるぞ」


 俺がそう告げると、三人は笑った。


「ああ、それでこそタクトだ」とサーシャ。

「本当に、天然な人相手だと苦労するわね」とマリア。

「これだと偽物のお兄ちゃんのほうが何倍も素直でした」とシルフィー。


 三人が嘆息して呟く。とても楽しそうに。

 そして、ミーナは、「今のままのタクトさんでいてくださいね」ととても嬉しそうに言った。


 その時だった。


「余を倒したと思ったのか? ……ずいぶん楽しそうにしておるな……タクトよ!」


 その声は、まさに神。


 神の再臨に、俺達の緊張が一気に高まり、そして一気に冷めた。


 なぜなら、神が縄で簀巻きにされていたから。

 そして、その縄を握っている少年を見て、俺はほくそ笑む。


「よう、キーシステム、仕事は終わったみたいだな」


 その少年こそが、俺達をこの世界に連れて来て、今回の騒ぎを画策した張本人。

 キーシステムだった。


「ああ、タクト叔父さん、ありがとうね。おかげでこの世界は救われたよ。僕の役目もほぼ終わりだ。後は――君に最後の力を授けるだけ」


 キーシステムは告げる。


「君に、この世界の人間を日本へと送る力を授けるよ」

次回、31日更新は文章大増量で最終回となります。

その後も後日談として話は続きますが、一応そこで全て終わる予定。

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