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10 契約

 一角ネズミ狩りは思わぬ方法で順調にいくようになった。

 きっかけは、一角ネズミを倒したときに落した一角ネズミのカードだった。

 俺はそれを見たときに思い付いた、閃いた。

 すぐに具現化し、一角ネズミを召喚。そして、こう言ったんだ。


「他の一角ネズミをここに連れてこい。できるだけ多くだ」


 すると、一角ネズミは頷いて、口を大きく開いた。

 何か叫んでいるのだろうか、しかし音は全く聞こえない。

 だが――


「風……?」


 森全体が揺れている……? 違う、そうじゃない、そうじゃない、森全体が揺れるほどに――

 来やがった、一角ネズミの群れだ!

 その数、100や200ではない。


「ファイヤーウォール」


 炎が壁を作って、ネズミの群れを飲み込んだ。っと、やばい、消えろ!

 そう胸中で叫び、炎の壁を消す。

 危うく木に燃え移るところだった。

 ファイヤーウォールはキケンだ。ならば、一匹一匹やってやる。

 俺は短剣を構えた。

 足元にいるペットの一角ネズミに、仲間はもう呼ばないように注意した。



 数を数えるのもばからしいネズミを倒したところで、群れはおさまった。

 代わりにカードが大量に落ちていた。その数は1000を超えているだろう。


「よし、お前もカードを集めるの手伝ってくれ」


 足元の一角ネズミにカード拾いを命じながら、自分もカードを集めて回る。

 ほとんどはネズミ肉だが、ネズミの牙もたまにあった。

 一角ネズミのカードも3枚見つけたところで、俺はそれを見つけた。


「あった、ユニコーンの角のカードだ!」


 レアドロップ率UPのおかげだろう。さらに探して回ると、結果、3枚のユニコーンの角が見つかった。

 あとは繰り返しだ。

 再び一角ネズミに仲間を呼ぶように命令した。

 だが、回数を重ねるごとに効率がさがっていく。森のネズミの量が減ったのだろう。

 朝日が昇ったころには、

 2000枚近くのネズミ肉と、500枚近くのネズミの牙、25枚の一角ネズミと7枚のユニコーンの角。

 それと、もう一枚。よくわからないカードだった。


「とりあえず、これを担保に金を貸してもらおう」


 俺はそういい、念のため一目の少ないカード買取所の裏路地に瞬間移動した。

 そして、店に入ると、フルアーマーを着たおっちゃんが剣を持っていた。

 よかった、瞬間移動して戻らなくて。危うく見つかるところだった。


「戻った」


 おっちゃんを横目にそう告げると、店主は笑顔で迎えてくれた。


「どうでしたか? ユニコーンの角はとれましたか?」


 俺は首を二回左右に振った。残念ながら、既定の枚数に達しなかった。


「どうやら駄目だったようだな」


 フルアーマーのおっちゃんは剣を抜いた。何がダメなんだ? もしかして、こいつ、ミーナとサーシャを買いにきた人買いか?


「勇者様、この手紙をミーナにお渡しください。私からだと言って」


 渡されたのは一通の封筒だった。

 なんだろうか? 別れの手紙?

 別れなんてさせてたまるか。


「兄ちゃん……俺からも頼みがあるんだ」

「はい、なんなりとおっしゃってください」


 兄ちゃんが笑顔で言う。


「お金貸してくれないか、かならず返すから!」

 兄ちゃんは首を横に振った。待ってくれ、話を聞いてくれ。


「ユニコーンの角のカード、今夜は7枚しか取れなかったんだけどさ、あと22枚、必ず今週中にそろえるからさ!」


 すると、なんでだろう、兄ちゃんも横のおっちゃんも時間が止まったように動かなくなった。


「……イマ……ナントオッシャイマシタ?」


 聞こえてなかったのか? 俺はポケットからユニコーンのカードを7枚取り出した。


「だから、ユニコーンのカードが7枚しか手に入らなかったんだけどさ、これでも100万ドルグは超えるんだろ?」

「7枚、7枚と言ったか、貴様、見せてみろ」


 フルアーマーのおっちゃんが俺からカードを奪い取る。

 何しやがるんだ。


「確かに、どれもユニコーンの角、本物だ」


 おっちゃんは冷や汗を流して革袋とカードを6枚置いた。

 革袋の中はおそらく貨幣だ。ジャラっと音がした。


「店主、全て買い取らせてもらう。最初の1枚を500万ドルグ、残りをそれぞれ、100万ドルグ」

 そういい、男は100万ドルグのカードを11枚出す。


 1100万ドルグ? なんだよ、それ、兄ちゃん、話が違うじゃないか。

 買値と売値は違うってのはしってるけど、8倍はないだろ。

 俺が文句を言おうとしたら、


「相場よりも幾分高くなりますが」

「かまわん、疑った謝礼も含めてあるし、ある分全て買い占めろと命令をうけている。なにより、めったに出ないレアものだ。価格などあってないようなものだろう。これが預かり受けた金額の全てだが、いいな?」


 そういって、男はカードを11枚置いていった。

 なるほど、あのおっちゃんは金持ちからユニコーンの角を買い占めるように言われてるのか。

 おっちゃんは去ろうとすると、俺を一瞥し、


「貴君の名前を伺いたい」

「スメラギ・タクトだ」

「そうか、私は帝国第一近衛隊長のコウタロウだ。貴君の働きに感謝する」


 へ? なんで和名?

 と尋ねようと思ったが、おっちゃんはそのまま去ってしまった。

 残された俺はそこからカードを6枚取り、


「兄ちゃん、1100万ドルグが入ったんだしさ、じゃあ、そこから600万ドルグ借りていく、残りは必ず返すから」


 返事はなかった。

 兄ちゃんは黙って突っ立っていると、まるで石化したかのようにその場で仰向けに倒れてしまった。


「兄ちゃん、どうした? 兄ちゃん」

「そのお金は差し上げます。ミーナさんとサーシャさんをよろしくお願いします」


 そう言った兄ちゃんに、俺は親指を立てて、6枚の100万ドルグカードを持っていく。


「おう、任せとけ」


 店を出ていく俺の後ろで、「勇者様、いや、神の使いか」と意味の分からないことが聞こえたが、かまっている暇はなかった。



 もう太陽は完全に顔を出し、教会の鐘も鳴った。

 やばい、時間がない。間に合ってくれ。


「ミーナ、サーシャ!」


 教会の扉を開いて名前を呼ぶと、多くの村人がこちらを見た。

 どうやら、ミサの邪魔をしたようだ。


「おぉ、これは勇者様!」


 神父様がそう言ってきた。勇者様? 俺のことか?

 住民も感謝の声をかけてくれる。よくサーシャを助けてくれたとか、盗賊を退治してくれてありがとうとか。

 とてもこそばゆい言葉だ。だが、今はそれどころじゃない。


「ミーナとサーシャは?」

「部屋で最後の祈りをささげております」

「二階か」


 教会の脇にある階段から二階に駆け上がる。

 そこは神父様の居室と客間があった。

 そして、開かれた客間の中に、


「ミーナ! サーシャ!」

「おや、タクトじゃん。昨日はどこ行ってたのさ、礼をしようと思ったらいないから、心配したじゃないか」

「スメラギさん、よかった、最後にお礼を言えて」

「最後になんてさせない。ほら、これ」


 俺はカードを6枚ミーナに渡す。


「これ……うそ、100万ドルグのカード?」

「あぁ、ユニコーンの角が高く売れたんだ。これで大丈夫だ」

「でも、そんな、一昨日あったばかりなのに……」

「頼む、もらってくれ。信じてくれないかもしれないが、このお金は一晩で稼いだんだよ。カード買取所の兄ちゃんも協力してくれてさ」

「へぇ、あのルークがねぇ」


 サーシャはそういい、カードを六枚ミーナから取る。


「でも、これはもらえない」

「なんで」

「私たちは二人で生きてきた。助けてくれたことはうれしいが、施しを受けるつもりはない」

「なんでだよ」


 俺が言うと、サーシャは少し怒って、


「例え奴隷に落ちようともね、私たちは誇りを持っていきたい。ここであんたの助けを受けられない」

「ミーナも奴隷になるんだぞ!」

「……それは」


 サーシャが言い澱む。


「平気だよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんが平気なら私も平気。そうでしょ?」

「……ミーナ」

「宿屋はどうするんだよ、お前たちの両親が残してくれたんじゃないのかよ」

「神父さんに相談したら、町で建て直してもらえることになったよ。町営宿舎にすることで話が纏まった。宿屋ギルドのやつら、きっとそれを聞いて泡吹いてるだろうね」


 サーシャが静かに笑った。そして語った。

 宿屋ギルドの幹部の一人がこの町に宿を作ろうとしているが、宿屋ギルドの規則の一つ(幹部でも絶対に変えようのないもの)により、この町では宿屋は一軒しか構えることができない。

 だから、この宿を宿屋ギルドから退会させ、それだけには飽きたらず、店をつぶそうとしたのだろうと。

 彼女もやっぱり気付いていたのか、盗賊達と宿屋ギルドがつながっている可能性に。


「わかった……そこまで言うなら、このお金は渡さない」

「ああ、そうしてくれると助かるよ」

「俺がお前たちを買う。600万ドルグで」

「は、あんた、何言ってるのよ!」

「そこにいるんだろ、出てきてくれ」


 俺は後ろにいる人物に向かって言う。


「気付いていましたか」


 わかっていたことだが、出てきたのは神父さんだった。


「俺の索敵レベルは昨日の一晩でレベル20まで上がったからな」


 探しているものを見つけたら上がるであろう索敵レベルの増加量が半端なかった。獣戦闘レベルは15、短剣レベルは13まで上がっていた。さらにナイフを振り回しながら拳でも攻撃をしていたので、拳スキルは7だ。


「こいつらを買いたい。可能か?」


 俺は神父さんに尋ねる。


「はい、私が認めたら」


 神父さんがいうには、賠償金の支払いなどによる業務は町長が行う。この町は町長がいないため、神父さんが代理で行うらしい。


「600万ドルグで足りるか?」

「はい、二人の賠償額は587万ドルグです。13万ドルグ残ります」


 どうやら可能なようだ。


「認めないよ、そんなの!」

「そうです!」


 二人が怒るが、俺は二人を睨みつけた。


「うるさい、奴隷なら人に買われる。誰が買おうが問題ない」

「釣りはいらない。町営宿場の再建費の足しにしてくれ」

「わかりました。手続きを行います。こちらにお越しください」


 俺が部屋を出るとき、振り返ると二人は涙を流していた。畜生。

 神父さんの部屋に入り、勧められるがままに椅子に座る。


「どうして、こんなことになったんだろうな、あの二人のためと思ったのに」

「あなたが優しすぎるんですよ」


 神父様はまるで懺悔を聞くかのように答えた。


「あの二人の気持ちは、これからゆっくりと聞いていってください。あなたも本当に二人を奴隷として扱うわけじゃないんでしょ?」

「もちろんだ」

「だから、私は何も言いません。あとは二人の気持ち次第です」


 そう言って、一枚の紙を出した。

 契約書のようだ。

 奴隷所有契約書と書かれていて、税金などについても書かれている。


「ここに名前を書いてください」

「はい」


 俺は一通り読み、サインをした。


「ところで、スメラギさんは流浪の民を知っていますか?」

「いえ」


 正直の応えた。

 流浪の民どころか、この世界にいる民族なんて何もしらない。


「彼らはどこから来たのかわからない、どこに行くのかもわからない民です」

「へぇ……」


 どこから来たのかわからない。遊牧民とかいうものだろうか?

 そう思ったが、どうやら違うようだ。


「彼らが目を覚ましたときには、この世界のどの国にもないような服を着ていて、靴を履いていない人が多く」


 神父さんは一拍間をおいて、続けた。


「そして、特殊な力を持っているそうです」


 それって、もしかして、俺の瞬間移動とかカード化などのボーナス項目のことでは?


「私も、流浪の民の一人です。スキルを確認したり、スキルを5つ装着できたり、不思議な力をいくつか持っています」


 もしかして、神父さんも日本人なのか。そんなわけないとは思うが、神父さんは黒髪で、黄色人種。

 服装を除けば日本人そのものだ。

 可能性はあったんだ。

『アナザーキー』

 この世界をするきっかけになったゲーム。

 このゲームの製作スタッフと、テストユーザーが行方不明になっているという事件。

 あの時、俺が聞いたラジオの話だと、ゲームを始めた人が消えたという。

 消えたんじゃなくて、この世界にやってきたのではないのだろうか?


「神父さん、名前を聞かせてもらっていいですか?」


 俺は恐る恐る尋ねた。

 すると神父様は己の名前を告げた。


「タクミ・スズキ、と申します」


 間違いない、日本人だ。俺と違って名前と名字が逆だけど。

 まさか、こんなところで日本人に出会っていたなんて。

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