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21 破邪

 全く、最後の戦いで武器が斧だなんてな。

 さっき神が言っていたことじゃないけれど、普通、こういう時に使う武器といったら剣か槍だろう。


 でも、この斧は、俺の決意の印だ。

 チートな能力によってなんでもできるんじゃないかと思いあがっていた頃、山賊に襲われたサーシャを助けるためにミーナと一緒に山賊の洞窟に行った時、下手したらサーシャを助け出せないどころか、ミーナも危ない目に遭わせてしまうところだった。あれからだ。俺が強くなるのは、自分のためではなく、誰かを守るためだと心に決めたのは。


 それにしても皮肉だよな。

 邪を破る斧、その標的が、邪神ではなく、聖なるものの象徴である神だというのだからな。


 これでも喰らいやがれっ!


 渾身の力を込めて放った斧を神は後ろに跳んで避けた。


「ふん、そんな攻撃が余に効く訳ないだろう」

「嘘をつけ! 効かない攻撃なら、お前は避けない。絶対的な力を見せつけるためにお前はあえて避けない。俺の心を折るために。自分の圧倒的な力を誇示するために」


 俺は不敵に笑みを浮かべた。


「だが、お前は避けた。それは、お前が俺の攻撃を攻撃として認識したからだ。例え蚊の一刺しだろうが、蟻の一噛みだろうが、お前は避ける必要があると判断した。だから、俺は確信した。神は絶対じゃない。神は倒すことができる」

「何をバカなことを言っておる! 蟻が獅子を倒せるはずがない。余とそなたらにはそれほどの差はある」

「一人じゃ無理かもしれない。でも、神なのに知らないのか?」


 俺は斧を神に向けて言った。

 後ろから、立ち上がる音が、武器を構える音が聞こえてくる。

 俺が言った、神を倒す可能性、これはただ神を挑発しただけではない。

 皆を鼓舞した。神は倒せるんだと鼓舞した。


 キーシステムによって、スキルを取り戻すことに成功した皆に向かって。


「軍隊蟻はその数で象ですら倒せるんだぜ!」

「全軍、構え!」


 シファの一声によって、魔族達が武器を構える。


「弓矢隊、魔法隊撃て!」

『ファイヤーボール!』


 弓矢が孤を描き、火の球が真っ直ぐ俺の横を抜けて神へと飛んでいく。 


「ファイヤーウォール!」


 神の唱えた魔法により、ファイヤーウォールが斜めに伸びた。そして、空から降り注ぐ矢を燃やし、火の球を飲み込んだ。

 だが――、複数の銃声が鳴り響き、銃弾が炎の中を突き抜けていく。

 

 落ちる薬莢の音、そして銃弾を詰め直す音が聞こえる。


「全く、タクトくん、生きていたなら生きていたって言いなさいよ。本当に心配したんだから」


 白衣に身を包んだマリアが銃をさらに構えて言う。


「ゴッドブレス!」


 凛とした声により発せられた風の上級魔法が炎の壁を押しつぶした。


「本当です。シルフィーを心配させた罪、万死に値しますよ」


 竜の髭によって作られた緑色のジャージに身を包むシルフィーは、杖を構える。


「でも、お説教は――」

「全部終わってからにしますね」


 軽鎧に身を包んだサーシャの剣が、ローブを着たミーナの二本の短剣が、神に届こうかとしていた。

 が、次の瞬間、神は「アイスニードル!」と再度、氷の槍を作り出してその剣を受け止めようとしたのだが、二人は、ふっと横に跳んだ、流石は二人だ、俺が破邪の斧からミスリルの杖に持ち替えたことに気付いていたんだろうな、俺のやりたいことをよくわかっている。


「ファイヤーフィールド!」


 俺の叫び声とともに、神を中心として、炎の空間が現れた。


「そんなもの効く訳ないだろ! オリハルコンの威力はお前がよくわかってるはずだ」

「バカやろう! 俺がわかってるのは、オリハルコンのジャージの威力だ! オリハルコンのジャージなら、確かにそんな炎も防げただろうが――」


 俺は跳んだ。

 炎が消える前に、炎によって神の視界が奪われている間に、俺は破邪の斧に持ち替えて振り下ろした。


 炎が消える。神は咄嗟に、オリハルコンによって守られている己の腕で斧を受け止めた。


 そして、その瞬間だった。


 ピキっ!


 音が聞こえた。


 オリハルコンの鎧の小手部分にヒビが入ったのだ。


「バカな! 何故だ、何故、この世界で最も強度の高いオリハルコンが、そんな斧などに――」

「わからないか? そのオリハルコンの鎧は、純粋なオリハルコンじゃないからだよ。ドワーフの技術によって、ジャージのためにオリハルコンだけではなく多くの金属を混ぜて作っている。ぶっちゃけオリハルコンは半分程度しか使われていない。そのため、そのオリハルコンは、ジャージには最適だが――ジャージ以外だと使い勝手が悪いんだよ!」


 俺のタネ明かしに、神は唖然とした。自分がどれだけ愚行を犯したのか理解したのだろう。火鼠の皮衣で作られたジャージを捨てただけでも大罪なのに、オリハルコンのジャージを鎧に変えた、そのツケが回ってきたというわけだ。


 オリハルコンを合金にするという案が出て、ドワーフの族長なんて、「本当によいのか?」と何度も聞いてきたが、俺の判断はやはり間違ってなかった。


「サンダーストーム!」


 神が唱えた雷の魔法が周囲に降り注いだ。俺は頭上で、魔を打ち破る斧――破邪の斧を振り回して雷を防ぎ、ミーナの横まで移動した。


「タクトさん――」

「ミーナ、あと少しだ。死亡フラグとか言われるかもしれないし、何よりこんな時に言うのもなんだけど」


 俺はミーナの手を取り、笑って言った。


「この戦いが終わったら、俺と結婚しよう」

「……はい!」


 ミーナが力強く返事をした。


 そして、俺は本来、結婚を申し込む時とは全く逆の動作を行った。

 それが何なのか、されたミーナも気付いていないだろう。でも、今の言葉は俺の完全な本心であり、負けられない、死ぬわけにはいかないという気持ちが一層と強くなる。

 

「何をごちゃごちゃと言っておる。鎧の小手を傷つけた程度でいい気になるな! サンダーストーム!」


 再度放たれるはずの雷の嵐。


 だが――


「何故だ、何故魔法が発動しない! クールタイムは既に過ぎているはず」

「ここは今、キーシステムの空間。お前のスキルはもう発動しない!」


 神が今までで一番慌てて再度魔法を唱える。だが、魔法は発動しない。

 事情は()()()()()()がチャンスだ。

 俺は斧の柄を強く握り、弱体化しているはずの神に向かって飛び出し、


「と、不意打ちのファイヤーフィールド!」


 炎の空間に包まれる神へと斬りかかった。


「蟻の一噛み、しかと受け止めやがれ!」

残り4話。

書籍化決定しました。

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