19 開戦
シファの力を借りて、瞬間移動を使い北大陸まで移動した。
ちなみに、移動方法は俺の予想通り、シファが瞬間移動を使って西大陸と南大陸の境目まで移動し、空を飛んで西大陸へ。さらに瞬間移動で北大陸と西大陸の境目に移動し、空を飛んで北大陸に行った。
そこから瞬間移動で、ドワーフの町に飛んだ訳だが、ドワーフ達は俺を見てひどく驚いていた、というか魔物と間違われて襲われそうになった。
シファが一緒にいなかったら危なかっただろう。
でも、まぁ俺の声と、あとジャージを見て長老はようやく話を聞いてくれた。
そして、用事を済ませて南大陸に戻ったわけだが、シファの機嫌が悪かった。
「言っておくが、これは絶対に必要だからな」
「テイトも人間にしては変わっていた方だと思ったが、テイトの弟はそのうえを行くの」
「……まぁ、この姿じゃ人間かどうか怪しいもんだけどな」
骨だけとなった自分の姿を見てそう言う。嘆息を漏らすことすらもできない。
ジャージの温かさを感じることもできないのが一番辛い。ただ、もしもこのままなら? とか思うと、一番辛いのはミーナの温もりを感じられないことだろうな。
なんて話をシファにしたところ、
「うむ、確かに妾もテイトの温もりが感じられなくなったら辛いの」
「惚気話を聞かせたつもりが逆に惚気話を聞かされた!?」
兄貴とのラブラブ話を聞かされるって結構苦痛なんだけど。
「それにしても、テイトの弟は本当に軽いのぉ。しっかりごはんを食べんといかんぞ」
「いや、食べれないって」
骨だし。胃もないし。歯はあるけど、味わう舌がないからなぁ。
「じゃあ、人間に戻れたら、妾特性のシチューを食わせてやろう」
「……この戦いが終わったら、日本に行くんだろ?」
「……おぉ、そうじゃった。すっかり忘れておったわ」
「不安じゃないのか? 知らない世界に行くのは」
俺は不安だった。はじめてこの世界に来たとき。
一人だった時は不安で不安で仕方なかった。
まぁ、その後は狼に襲われて、おっさんに助けられて、ミーナやサーシャと出会った。
それからは、結構気楽にやれたが、それでも不安に思う時がなかったことはない。
山賊に殺されそうになったときは流石にダメかと思ったな。
そういえば、あの時、俺を励ましてくれたのは兄貴の言葉だったっけ。
「まぁ、不安じゃないといえばウソになるがの、それでも、妾にとってはテイトと離れるほうが不安なのじゃ」
「あぁ、そうだよな。俺も、仲間がいたからここまでやってこれた」
「その仲間には言わなくていいのか? タクト、主がこうして生きていることを」
「……あぁ、偽物の俺に、今の俺の状況は絶対に悟られたら不味いそうだ。罠をしかけるのには――」
「……辛いのぉ」
「あぁ、辛い」
本当なら、今すぐミーナの前に出て、俺は生きてるぞーと叫びたい。
あ、でもこの見た目じゃ生きているとは言い難いが。
「主じゃない。ミーナ達の方が、じゃ」
だよな。俺の事を死んだと思ってるんだよな。俺以上に辛いだろう。
でも、それも今日までだ。
「とりあえず、予定通り、船を分け、徐々にだが、今の主が偽物であり、邪神が憑りついていると説明する」
そして、最後の瞬間移動で、俺とシファは船が建造されている港へとついた。
もう多くの魔族が乗船を開始している。
ミーナ達は全てを知っているナビ以外、偽タクトとは別の船だ。
そして、俺は偽タクトと同じ船に乗る。
偽タクトと、ナビが何か話しているが、あまり近付きすぎたら怪しまれるので、俺は雑用業務をすることに。
雑用と言っても、荷物の整理くらいしかないけど。
船は北上を続ける。
風が強いらしく、予定より早く到着するそうだ。
船が到着したら、小船で上陸。
先に待っているシファが、偽タクトを残して森の奥に進み、あのタクトが偽物であることを告げる。
ちなみに、この船以外では既に兄貴やミーナ達が説明をしているそうだ。
俄かには信じられない話だろうが。
そして、全員で情報を共有したら、広場で偽タクトを一気に殺す。
そんな作戦は、予想以上にうまくいった。
上陸してから、全員で準備を整え、何も知らない偽タクトを殺すための準備が整った。
ここにはミーナもサーシャもマリアもシルフィーも兄貴もいない。
全員がそれぞれの持ち場についている。
このままだと、キーシステムの力を借りなくても全てを終わらせることができる、そう思うほどに。
島の森を抜けた場所にある、石床が敷かれた広場。
そこに置かれた木箱に、何も知らない偽タクトが挨拶をするために上がる。
「挨拶は必要ありません」
ナビが告げる。
「必要ない?」
偽タクトが首を傾げると、ナビは淡々と、
「予定が変更になりました。ナビが号令します。全員、武器を構えてください」
予定通りのセリフを告げた。
魔族全員が弓を、槍を、剣を、杖を構えた。
「これより、スメラギ・タクトを討ち滅ぼします! ファイヤーボール」
そして、いよいよ始まる。
偽タクトを――俺を倒すためのラストミッションが。
ラスト6話です。
変なところからカウントダウンしてすみません。




