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18 別離

「ショーグン、さっきさ、アイリンが来てなぁ、子供ができたそうなんだよ」


 厨房で、戦闘に行く全員分の弁当を作りながら俺達は雑談をしていた。

 というより、俺が話を聞くだけなんだけどね。

 ゴウがデレデレになって、本当に嬉しそうに言う。

 ゴウとアイリンの子供ということは、マリアにとっては甥か姪になるわけか。

 まぁ、兄貴とシファの様子をみているとあっちもいつ子供ができてもおかしくないくらいのラブラブっぷりだからなぁ。

 俺も他人事じゃいられない。


 ちなみに、ゴウとの料理のコンビネーションは最高で、もはや阿吽の呼吸でできる。

 まぁ、骸骨なんで呼吸してないんだけど。


「皆には黙っておいてくれよな。子供ができたなんてテイトのやつに知られたら、置いてけぼりくらっちまう」


 ……そうか。

 確かに、相手は神だ。ゴウも無事で帰れるとは限らない。


「おいおい、生きて帰るって決まってるんだから、辛気臭い顔をするなよ……って、辛気臭い顔はショーグンの場合生まれつきか」


「ハハハ、死亡フラグなんかじゃないさ」とゴウは笑った。まだ何も言っていないのに。

 何もいうつもりはないのに。

 まぁ、死亡フラグみたいだと思ったのは事実だけど。


「逆さ。子供が生まれると聞いて、俺は安心して戦いに行けると思ったよ。だってそうだろ? 子供が生まれるってわかってたら、例えどんな絶望的な状況でも生きようと思える。それなら、死ぬような場面でも死なないさ」


 ……そうだな。俺も死ねない理由がある。

 少なくとも、今はまだ死ねない。

 玉ねぎを刻んでも涙も出ない、こんな体だけど……心臓もないこんな体だけど、やっぱりこの思いは変わらないな。


「さて、弁当を運ぶのを手伝ってくれ。午前中はほとんど作業をお前に任せちまったからな」


 ああ、と俺は心で返事し、弁当を運ぼうとしたのだが、そこにナビがやってきた。


「ゴウさんお疲れ様です。骸骨将軍をお借りしてよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。行ってきな、ショーグン」


 言われて、俺はナビと一緒に厨房を出た。

 そして、再び誰も入ってこない地下倉庫に行く。


「マスター、もう大丈夫ですよ」

「ああ、そうか。なぁ、ナビ、料理って奥が深いな」

「え?」


 ナビが聞き返す。


「いや、玉ねぎ1個にしても、選び方から切り方、炒める時間で全然味が変わるみたいなんだよな。味見できないのは残念なんだけどさ」

「マスターはここ数日、料理しかしていなかったからおかしくなったんですか」

「おかしくなったって。まぁ、昨日の昼から下ごしらえして、夜も眠れなかったから、料理のことばかり考えてたけど。こんな体じゃ寝ることはできないんだけど」


 おかげで料理技術レベルはもう25を超えている。

 玄人レベルだ。

 ただ、下ごしらえしかしていないせいか、料理知識レベルはまだ8だったりする。


「……マスターは緊張感がないんですか」

「いや……正直緊張してるよ。でもさ、ゴウさんが言ってたんだ。帰る理由があるのなら、俺は勝てるさ。俺はそれを知っただけでも強くなれたよ」


 俺は骨の拳を握り、その手を見つめる。

 本来ならはめられているはずの仲間の証、繋がりの指輪。

 今はここにはないけれど、きっとまだ繋がっているはず。


「ん……いいこと思いついた」

「何をです?」

「いや、それより、ナビはなんで俺をここに?」


 まぁ、いまからの打ち合わせだろう。

 その時、正午を知らせる鐘がなった。


「ナビ、謁見の間に行かなくて――え?」


 そこにいたのは……兄貴とシファだった。


「な……」

「なんではこっちのセリフじゃ。昨日、そこのちっこい魔王から全部聞かされたわ。このうつけめ」


 シファが悪態をついて俺を責める。


「……タクトは骨になってまでジャージを着ているとはな……本当にバカだろ」

「まぁ、ジャージは俺のアイデンティティーだからな」


 むしろ、俺の全てと言ってもよかった。ミーナやみんなと出会うまでは。


「まぁ、そういうことだから」

「すまない……」

「兄貴が謝ることじゃないだろ。少なくとも、骸骨将軍になることを決めたのは俺だし」

「そうじゃない。親父とおふくろのことだ」


 それこそ済んだ話だろ。

 少なくとも、兄貴もあの時は小学生だったんだ。


「あの時兄貴が俺にジャージをかけてくれたおかげで、俺はジャージ好きになったんだぞ。むしろ兄貴には感謝してるさ」

「……全く……」


 俺がそう言うと、兄貴はふっと笑った。

 もしかしたら、俺が俺であることは、兄貴にとっては半信半疑だったのかもしれない。

 もしくは、俺が俺であっても、何かが変わっているのかと思っていたが、俺が何も変わっていないことに気付き微笑んだのか。


「あぁ、兄貴。シファをちょっと借りていいかな。俺だけで行くよりたぶん早いと思うから」

「ん? 何をするんだ?」

「ちょっと最終兵器を貰いにさ。出航までには帰れるよ。それと……皆には俺が生きていることは……」

「誰にも言っていない。シファ、協力してくれるか?」

「うむ、主様の頼みとあらば」


 そして、俺はふと思い出したことを兄貴に伝えた。


「そういえば、キーシステムにさ、例の言葉言ったんだ」

「例の……あぁ、あれか。あいつ、なんて言ってた?」


 あの時、俺はキーシステムに言った。


『兄貴が言ってたぞ、「俺達が求めていたゲームはこんなものじゃなかったはずだ」って』


 そう言ったら、キーシステムのやつ、笑ってこう言ったんだ。


「お父さんが一番求めていたゲームは、いつでも叔父さんと一緒に遊んでたゲームじゃないかってさ」

「ははは、違いないや」


 兄貴は笑い、


「タクト、この戦いが終わったらどうする?」

「そうだな。とりあえず、世界を見て回りたい。みんなと一緒に」

「そうか。俺は日本に戻る。シファと一緒に」


 それは……修羅の道だな。

 少なくともこのゲームで数百人の死者が出ている。

 開発責任者の兄貴一人で責任を負える問題じゃない。


「だから、下手したらこの戦いが終わったらお前とはもう会えないかもしれない」


 この世界と日本とでは時間の流れが違う。

 こっちの1年が向こうでは1日でしかない。

 兄貴が日本に帰れば最低数ヶ月は自由になれないだろう。

 日本に戻れたら、確かに兄貴とは最後のお別れかもな。


「だから、今のうちに言っておく。愛しているぞ、タクト。兄貴として、お前が弟だったことを誇りに思う」

「俺もだよ、兄貴。少なくとも、兄貴が作ったキーシステムは、この世界を救った。それは紛れもない事実だ」


 そして、俺はシファの瞬間移動により、目的の場所に向かった。

 負けられない戦いを負けないために、俺はまだ止まらない。

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