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17 裏話

「ナビに相談もせずに勝手なことをするのは結構ですが、名称:ミラーが行っていることはこどはすでにキーシステムに勘付かれていますよ」

「だろうな。でも、手を出しては来ないんだろ?」


 自分の手……間接部分に隙間があるのに崩れ落ちない自分の身体の不可解さを感じながら、俺は確認するように尋ねた。

 キーシステムのことを100%信用していないからこそ、ミラーに依頼を出した。下手したら、自分に火の粉が降りかかるかもしれないミラーへの依頼だったが。


 俺たちは今、王宮の地下の食糧庫にいた。誰にも話を聞かれない場所を探したら、ここが一番となった。


「で、お前の計算だとどうだ?」

「3日で出航できると思います。2日目の確率12%、3日目の確率88%です」


 例の島。邪神が居ると、これからナビが嘘をついて皆を誘導する島。

 神と俺達の最後の決戦の地。

 そこ以外で戦うことはできない。なぜなら、その島が、キーシステムの領域らしいから。

 キーシステムには、権限の強い場所が世界に数ヵ所あるらしい。例えば、ナビが眠っていた部屋もその一つ。

 あそこでキーシステムはナビを作り出したらしい。

 俺達がこれから向かう始祖の島の手前の島。

 そこもキーシステムの領域であり、ある程度融通がきくらしい。

 例えば、神が最終的に使うであろう、全てのスキル及び恩恵を消去、その対処など。

 ちなみに、俺の恩恵やスキルはキーシステムがコピーして貼り付けたものなので、神のシステム外になっているらしい。


「勝負はその島で、だな」

「決戦直前に、神に気付かれないように事実を伝えます。ただし、マスターが骸骨将軍だということは伏せておきます」

「どうしてだ?」

「神がたとえ神の力を使えなくても、マスターの力は強大です。そのマスターの力を止めることができるのはマスターしかいません。ぎりぎりまで隠しておきます」

「ええと、俺ってそんなに強いのか?」

「はい。異常なほどに」


 ……ただ経験値64倍で半年近く頑張っただけなのに?

 32年頑張ったら同じくらい強くなれるんじゃないの?


「スキルスロットの数もそうですが、成長速度の低下があまり見られません。進化細胞によるものです。本来ならレベル30を越えたらたとえ経験値64倍を持っていてもなかなかスキルレベルは上がりません」

「……進化細胞ってそういうボーナス特典だったのか」


 大器晩成型のボーナス特典というわけだ。

 確かに、生物の限界を超えての成長は、進化といえなくもないな。


「ナビ、とりあえず、兄貴には今すぐ俺の存在を知らせておいた方がいいと思うんだ」

「理由をお聞かせください」

「兄貴はきっと、自分の記憶継承のボーナス特典を俺に、いや、俺の偽物に渡そうとする。それだけは止めないと」

「……マスターがそう言うのなら、きっと名称:スメラギ・テイトはそのような行動に出るのでしょうね。ですが、勘付かれたらどうするつもりですか? 物事には優先順位が存在します。マスターは……」


 ナビが言いかけて、俺の口に手を当てた。

 そして、小声で囁くように言った。


「名称:スメラギ・テイトの行動は見張ります。ギリギリまで待ちましょう。それより、誰かの気配がします。ナビが対処しますからマスターはここにいてください」


 俺が無言で頷く。

 そして、ナビは階段を上がっていく。

 すると、ナビの言った通り誰かがいたようだ。

 声が聞こえてきた。


「もしかして、ナビ……さんか?」


 俺の声だ。俺の偽物が階段の上にいたのか。

 危なかった。


「そうですよ。ナビはナビです。そんなこともわからないのですか?」

「そうか、ナビであってたか。ずっと探してたんだぞ。あと、ナビは知らないかもしれないけど、俺、こう見えて記憶喪失で」

「はい、話は聞いています。では――ナビはこれで失礼します」


 ナビが歩き去る音が聞こえた。


「……あ、ちょっと!」


 俺の偽物が呼び止めるが、ナビの足音は止まらない。

 数秒の後、走り去る音が聞こえた。

 ナビを追いかけたのだろう。


 暫くの間食糧庫の中で身を隠し、厨房へと避難した。

 そこで、ゴウに、「いつまで油売ってるんだ」と怒られた。



 それからは、何事もなく、全てが順調に行くはず、だと思ってた。

 だが、邪神を倒すというウソの計画をナビが説明している時、ミーナが怒りだした。

 怒って謁見の間を飛び出した。

 彼女を、マリアが、サーシャが、シルフィーが追いかける。

 俺の偽物も追いかけようとしたが、マリアに止められた。

 そして、俺はみんなの隙を見て、4人を追いかけた。


 後でナビに怒られるだろうなと思いながら。

 そして、ミーナの部屋の前で俺は聞き耳を立てた。

 ミーナが、俺の記憶がなくて戸惑っていること、そしてシルフィーもサーシャも同じ気持ちであること。

 俺への違和感に気付いてくれていることが嬉しい反面、大事な4人が苦しんでいることが辛かった。


「……みんなにも話しておかないといけないわね。ミラー先生に聞いたのは、邪神の居場所だけじゃないの」


 マリアが突然にそう切り出した。


「今いるタクトくんは本当のタクトくんじゃない。肉体はタクトくんのものに間違いないものらしいんだけど、中身は神らしいの……この世界の」


 え!? えっ!? それ、ここで言うのかっ!

 なら、俺もここで名乗り出た方がよくないかっ!?


「マスター、見つけました。行きますよ」


 ナビが部屋の中に聞こえない程度の小声で囁いてきた。


「ナ、ナビ、マリアが俺が俺じゃないと知っているらしくて俺が俺だと説明したほうがよく――」

「だから骸骨将軍がマスターだと知られることが最悪なんです。行きますよ……ゴウさんが厨房の仕事があるから来てほしいと言っていました」

「また料理かよぉぉ」


 名乗り出たい思いを抱えたまま、俺は厨房へと戻って行った。

 無駄に料理技術レベルが上がって行った。 


 そして、3日後。

 舞台は整った。

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