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16 仮説

 俺の言葉に、ミラーは押し黙った。

 そして、カウンターにあった赤ワインの瓶を一本手に取り、グラスを置き、注いでいく。

 グラスに半分くらい注がれたワインをミラーは回しながら見つめた。

 香りを味わっている、というよりその行為をしなければいけない、そんな感じだ。

 そして、ワインを一気に飲む。


「坊主、お前も飲め」

「断る……というか俺の話を――」

「聞いている。だが、私の気持ちを少しは考えろ。私は長年かけて召喚魔法、異世界に行く方法を模索していた」


 ミラーはそう言って、今度は無造作にワインの瓶を持ち上げ、グラスに溢れんばかりに注いだ。

 そして、それを一気に飲む干す。


「こんな身になってまで――酒の味はわかっても酒に酔うことすらできなくなったこんな体になってまで生きながらえているのは、異世界に――こことは別の世界に行くためだと言っても過言ではないのだ」

「だから――」

「なのに、貴様が――日本に行く方法を見つけた……か。学者でも、邪神に仕えてもいない貴様が……くくっ」


 ……本当に酔っていないのか?

 素面とは思えぬ表情で、ミラーは俺の肩に手を置いた。

 正面から俺を見つめる。


「……今、私の中に、君の異世界へいく手段が真実であってほしいという探求欲と、その手段がでたらめであってほしいという学者としての誇りが混ざり合っている」

「お前って一応学者なんだな。最近ネタキャラっぽかったから忘れてたよ」

「まぁ、それでもかまわない。話せ。お前の言う異世界に行く手段を」


 あぁ。

 俺が異世界に行く方法に関して、不思議に思ったのは、世界の狭間と呼ばれる世界。

 その中でのことだった。


 目を覚まし、ナビの案内でキーシステムの住む家に歩いて行った。

 

 そこで説明を受け、魂の形を魔物――骸骨兵に変えられた。

 そして、歩いて元の場所に戻っていき、元の世界に戻された。


「待て、もう十分だ」

「ちょっと待て、俺の予想はここから――」

「坊主の言いたいことはそれで十分に理解できた」


 ミラーはワインを注ごうとし、瓶の中が空であることに気付いたのか、別のワインの瓶を持ってきた。

 コルク抜きでコルクを抜く。


「あまり勝手に飲むと、ルーシアさんに怒られるぞ」

「彼女は森にアイアンと山菜を採りに行っている。それに、ここのワインは全て私が用意したものだ」

「マジか?」

「ああ。ここは飯屋だからワインは置いていないと言われたのでな」


 なら問題ない……のか?

 でも、酔うことができないのになんでワインを飲むんだろうな。

 ……運転中に寄ったレストランで、酒好きがノンアルコールビールを飲むようなものか?

 酒があまり好きではない俺にはわからない感覚だ。未成年だしな。


「ミラーの考えを聞かせてくれよ。間違えていたら笑ってやるからな」

「ふん、貴様は瞬間移動の可能性について話しているんだろ」


 ぐっ、本当にあれだけでわかったのか?


「当たり前だ。空間を移動する瞬間移動については真っ先に研究しているからな」


 そうだ。俺が言っているのは、瞬間移動で世界の間を移動できないか? というものだ。

 ここから直接日本に瞬間移動できないのは最初から確認している。


 ここで、俺が気になったのは、どうしてナビと一緒に世界のはざまにいったとき、直接、キーシステムの家に移動し、そこから直接この世界に戻れなかったのか? というものだ。

 わざわざ元の場所に戻らないといけない、その理由。


 そこが、南の大陸に繋がる地点だったから、ではないのか?


 そう思った俺は、地上に戻り、ミーナに料理を運んだ後で、こっそり分身魔法を使い、俺の分身に瞬間移動させた。

 すると、俺の分身の姿は消えたが、それだけだ。


 分身は1キロ以上離れたら消えてしまう。

 なので、本当に分身が世界の狭間に瞬間移動できたのかどうかはわからない。

 でも、可能性は高い。

 本当は俺自身が試せばいいのだが、日本とこの世界の時間の流れは大きく異なる。

 しかも、日本に戻った時に瞬間移動が使えるかわからない。


 ミーナ達を見捨てて日本に帰る、なんて選択肢はない。

 というか、まぁ、俺の身体は骸骨だから、こんな状態で日本に戻ったらそれこそ大混乱だ。


「なるほどな、魔法ではなく実体の分身を出せる私が最適かと思ったわけか」


 2本目のワインも既に半分まで減っていた。

 酔わないから、本当のザルだな。

 でも、胃の中がいっぱいにならないのだろうか?


「まぁ、これが俺の考えだ。協力してほしい」

「無理だ」


 ミラーは即答した。


「協力しないと言っているのではない、坊主、貴様の案はとても面白い。だが、及第点も与えられない」

「なんでだよ!」

「貴様は瞬間移動の致命的であり決定的な欠点を忘れている」

「致命的と決定的な欠点って、どう違うんだ?」

「黙って聞け。瞬間移動は、同じ大陸ならどこにでも行ける、そう勘違いしていないか? まぁ、坊主の考えならそう思っても仕方ないが」


 そりゃ、北大陸でもこの南大陸でも、瞬間移動を連続で使うことで一瞬で――ってあああぁぁぁっ!


「ようやく気付いたか……そうだ。瞬間移動はあくまでも行ったことのある場所、もしくは目に見える場所にしか行けない。私は世界のはざまも日本も行ったことがないからな」


 だから、瞬間移動で行けない。

 ……何か方法はないか?


「世界のはざまに行くだけなら、坊主の分身とともに行くことはできる可能性がある。それだけでも試してみるか?」


 確かに、それだけでもしてもらって、世界の狭間の別の場所から、北大陸に瞬間移動できるか試してもらう、そういう手段もあるが。


「んー、それだけだと俺的には別に実験してもらう必要がないんだよな」


 嘆息を漏らす。


「そうはいうが、私にとっては狭間の世界に行くことが研究に繋がるからな。坊主に声の出し方を教えたのも、邪神様の世界について詳しく聞くためだったからな」

「そんな打算塗れだったのかよ。はぁ、まぁ、おかげで魔力変換を――」


「「――っ!!」」


 俺が言った時、俺とミラーがはっとなった。

 可能か? 本当に可能なのか?


「ミラー……可能だと思うか?」

「理論上は可能だ。いや、不可能な理由がない。試してみる分には問題ない」


 そう、俺は魔力を音にしてミラーに伝えている。

 なら、俺の記憶の景色――世界の狭間の――そして日本の光景をミラーに伝えることで可能じゃないのか?


「試してみる。ミラー、受け取ってくれ」

「わかった。坊主、日本という貴様の故郷の情報は多くの場所を伝えろ。あと、できたら、他の大陸の情報もほしい」


 ……そうだな。アメリカ大陸、アフリカ大陸、南極大陸、オーストラリア大陸、それぞれの大陸のイメージ画像を一緒に送っておこう。

 他の大陸に瞬間移動できないのは確かだからな。


 俺はさっきの魔力を声に変換するイメージを変えて、魔力を光にしてミラーに伝える。


「……なるほど、これが……これが坊主の世界の景色なのか。面白い、面白いぞ! なんだ、この巨大な建物は」

「あぁ、ピラミッドか? オペラハウスか? それとも自由の女神か?」


 悪いな、イメージできる場所の選択が乏しくて。

 観光名所しか想像できないよ。

 でも、南極は大丈夫だろうか?

 たぶん、あれで合っていたと思うんだが。


「氷塗れの大地か。こちらの世界にもあったな。極地点か?」

「ああ……次に、狭間の世界のイメージを送るぞ」

「わかった――なんだ? ただの闇ではないか」


 あぁ、闇だよ。本当に何もない。

 ミラーはつまらなそうな顔をしたのち、手を前に出した。

 そこから骨が現れ、肉が付き、服が現れ、もう一人のミラーが現れる。


 そして――、


「瞬間移動」


 そう呟くと――消えた。

 ミラーの姿が。


「うむ、成功だな。おそらく、私の分身は狭間の世界に飛んだはずだ」

「そうか――見つかるかね、日本への道が」

「状況は五分五分といったところか、いやそれ以下だな。世界の数がわからない以上、貴様の世界に飛ぶ場所を見つけるのは苦労するだろう。それこそ、案内係が必要だと思う」

「案内係……ナビ……か」


 確かにあいつならわかるだろうな。

 でも、あいつに頼れない。

 あいつに迷惑を掛けられないから。


「ナビには、まだ言えない」

「マスター、誰に、何を、まだ言えないのでしょうか?」


 ……振り向くと、無表情にもかかわらず、鬼の形相を思わせる気迫を持ったナビが店の入り口にいた。


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