0 卑怯
プロローグ【卑怯】
「これ、発売日前のゲーム機とゲームソフトじゃないか」
それを見つけたときの俺は歓喜していいのやら後悔していいのやらでどうしたものかと思ったよ。
今日はごみの回収の日らしく、朝からカラスが飛び回っていた。
彼らにとってはごちそうの日といっても過言ではないというわけか。
普段歩かない時間にあるいていると新鮮な気持ちだ。
高校二年から三年にかけての春休み。
先生からは「長期休暇だからといって浮かれるな!」と念を押されていたが、受験に乗り気のない俺からしたら長期休暇は本当に普段できないものをするべきだと思う。それを言い訳にするわけではないが、高校の悪友と一緒につるんでMMORPG耐久一週間レース! とかバカなことをやってしまった。
つまり、俺は朝帰りどころの騒ぎではなく、家に帰るのは一週間ぶりになる。
寝不足で頭があまり回らない。
ジャージは二着用意して毎日洗って使いまわしをする念の入れようだが、食事はおざなりなもの、睡眠に関しては一日平均2時間というブラック企業顔負けのスケジュールだった。
「あぁ、くそっ、チートコード使えたらレベリングも楽なんだが――」
「オンラインゲームでそんなの使えるわけないって、お、そっちにいったぞ! 晩飯は昨日の食パンでいいよな、明日の朝に食べようぜ」
「ああ、まだ耳の部分が残っていたよな」
なんて会話をしていた。将来は若気の至りどころか黒歴史にもなりそうな極貧生活だった。
それで家に帰った。ちなみに、俺の両親はすでに他界、今はゲーム会社勤めの兄のマンションに住んでおり、ゲーム機のマスターアップ前はほとんど家にいないことが多い。
俺が一週間友達の家に泊まっても問題はなかった。
はずだったのに――
家に帰り、郵便物を家の中に入れる。新聞はとっていないが、ダイレクトメールの類が後を絶つことはない。
「出頭要請? 兄貴、スピード違反でもしたのかな」
珍しい手紙に首をかしげながら、なんとなく兄貴のラジオを付けた。テレビはいつもゲーム機で占領してしまうため、情報源はラジオに頼っている兄貴のためのラジオだ。
『ラジオ体操だいいちぃぃ』
朝のラジオ体操がちょうど始まったところだった。なつかしいな、子供のころはよく夏休みに公園でやってスタンプをもらったっけ。
その音を聞きながら俺は見慣れぬ物体に気付いた。
「これ、発売日前のゲーム機とゲームソフトじゃないか」
そういえば、会社の目玉企画として機種本体とゲームソフトを無料進呈するテストプレイヤーを募集していたのに思ったより募集が集まらなくて困ったよ。
と兄はぼやいていたことを思い出した。
会社関係者の身内には応募する権利がないため関係ないと思っていたのだが……
すると、その箱の横に手紙が置いてあった。
『余ったゲーム機とソフトだ。社長に特別に許可をもらって持って帰らせてもらっている。
やってもいいが壊すなよ』
な、なんて素晴らしいお兄様だ。と歓喜するとともに、
『すでに昨日の○月×日にテストプレイヤーへの送付も完了しているから、ネットで情報共有してもいいぞ』
と書いてある。昨日の○月×日って、これ、六日前から家にあったのか。
テストプレイヤーもすでに六日前にはゲーム機を手に入れて遊んでいるということだ。
出遅れた。なんでMMO耐久一週間チャレンジなんてしてしまったんだ。
とりあえず眠い目をこすりながら、ゲーム機をセッティングする。
据置型のゲーム機本体。プ○イステーシ○ンやセ○サターンあたりを思い出すが、一番近い形はスリー○ィーオーだろうな。
そこにブルーレイディスクを挿入すると、最初に壮大なオープニングムービーのあとで、キャラ作成画面が現れる。
キャラの名前は、ファーストネームのみ、ファーストネームとファミリーネームの二つに別れた項目、さらにミドルネームを追加した三つに別れた項目、どれか好きなものを選択できる。
二つに分かれたタイプを選択、あれ? 先にファーストネームだっけ、ファミリーネームだっけ? まぁそのまま入力したらいいや。
『スメラギ・タクト』
あれ? 性別の入力画面はないのか。性別固定なのかな。
男なのに女キャラ固定はあんまり好きじゃないんだよな。悪友はむしろ好んで女キャラをつかうやつだが。
次にボーナス特典選択画面が現れた。
ボーナス特典に使うためのポイントは100ポイント固定のようだ。
それを使って、取得経験値1,2倍(20ポイント)や、男運小UP(12Pt)といったものや、記憶継続(100Pt)や進化細胞(100Pt)など、効果がわからないのにポイントの高いボーナス、取得経験値64倍(1000Pt)、伝説魔法取得可能(5000Pt)など絶対に入手できないようなボーナスもある。おそらく、二周目特典だろう。ならば一周目は流す程度にプレイしたほうがいいのかもしれないな。
だが、兄貴には悪いが、二周する価値のあるゲームとはかぎらない。
だけれども、他のボーナスは気になる。そう悩んでいた時、手紙の横にもう一通の手紙とUSBメモリがあるのを見つけた。
俺はそれを拾って黙読する。
『追伸。
めんどくさがりのお前のために、
デバッグ用に作成したチートコードを使えるプログラムを入れたUSBメモリを置いておくぞ。
初期のボーナス数値が最大になるコードが入ってるから使いたければ使え。
使い方は――』
お兄様。俺はお兄様の弟で本当によかった。
感謝に涙を流しながら、俺は一度ゲームソフトを終了させ、手順通りにUSBデータをゲーム機へと送る。
そして、再びゲームを起動して、オープニングをスキップ。
名前を入力し、ボーナス画面へ。
『おはようございます、ラジオニュースの時間です。今日もニュースをお伝えするのはCBAアナウンサーの長崎と、』『同じくCBAアナウンサーの熊本です』
ラジオ体操が終わり、ニュースが流れだした。九州か、と心の中で最低限の礼儀のツッコミをいれながら、俺は興奮した。
初期ボーナスポイントが最初から99999になっていた。
俺は選べるだけのボーナス特典を選択。
そして――
【ゲームを開始します。準備はいいですか?】
そこで俺は「ばっちり」と口に出して言って、重い瞼を押し上げながら、【はい】を選択。
『今日はまず、連日お知らせしている、ゲーム『アナザーキー』で遊んでいる人が次々に謎の失踪を遂げている事件の続報です』
え? ラジオのニュースに耳を疑った。だって、そのゲームの名前って。
と同時に、テレビ画面からもメッセージが流れる。
【ようこそ、アナザーキーの世界へ。あなたを今から異世界『アナザーキー』に転送いたします】
転送? 案内じゃないの? とか思ったら、――世界は暗転した。
『アナザーキーのゲーム開始ボタンを押した直後、プレイヤーがゲーム機本体ともに消えたという報告が多数あがっている謎の事件です。
ゲーム制作会社のスタッフも全員が行方不明になっており、警察は関連を調べ……ま……』
ラジオの声が聞こえなくなり、波の音が聞こえた。
あ、ラジオ壊れた。
あ、そうか、壊れたのは俺の方か。
ははは、寝不足だったからなぁ。
あぁ、波の音が心地よい。
さて、起きたらゲーム始めるか。
楽しみだなぁ