08
やっと新キャラだせました。
ただしこれから数話説明回です。
あれからというもの、毎日お茶の時間には養母様へ送るプレゼントについてお話しているがいまだこれといったものが決まっていない。それでも養母様のお話をするのが嬉しいのかアリィ様はずっとご機嫌だ。まぁ、あの翌日に夜に抜け出し地べたに座っていたことを私が先生に伝えてアリィ様が怒られたときは涙目だったが…
そんなこんなで時間は過ぎ、今日からついに魔術と精霊術の勉強が始まります。
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「ティア。彼が今日から君の先生となる宮廷魔術師のエジット・ビュンレ殿だよ。」
「お初にお目にかかります。宮廷魔術師のエジット・ビュンレと申します。」
「はじめまして。レイティア・アディンゼルですわ。この度はわざわざありがとうございます。」
お互いに挨拶をする。
エジット様は切れ長の金色の瞳に暗めの藍色の長髪を一つにくくり右に流している。魔術師の制服である金色の刺繍が襟首や手首に施され、腰あたりに2本のベルトがあり後ろに本がくくりつけらるようになっている裾の長い黒の軍服がとても似合う美青年だ。
挨拶をしたとき手首に金色の石がはめ込まれたブレスレットがみえた。デザインは違うが私が身に着けているのと同じ魔道具なのだろう。
この間もらった紙によると、彼はビュンレ公爵家に生まれてすぐ保護された。歳は20歳で、幼少時から魔術の才覚が抜きん出ておりトラウィス学園を異例中の異例として12歳で入学し16歳で卒業。その後宮廷魔術師団に入りたった2年たらずでトップにまで上り詰めた天才。いまだ婚約者はいないがその容姿と公爵家子息、そして皆に優しく物腰柔らかい雰囲気から『理想の魔術師様』と言われ人気だそうだ。…この情報はいらない気がする。
……なんと言うか、攻略対象に居そうなスペックだ。しかし彼の記憶なんてない。アリィ様をはじめて見たとき彼女が誰かわかったし何となくだが思い出すような感覚がした…彼はゲームとは無関係なのだろう。
「レイティア嬢?」
彼は動かない私を不審に思ったのか顔を傾けている。そんな姿も様になる。まさに『理想の魔術師様』といった感じだ。
私はそんなことを考えながらも微笑み謝罪をする。
「申し訳ありません。少し考え事をしてしまいました。」
「いいえ。ではさっそく授業の方をはじめていきましょう。安全面を考えて屋敷の庭の一角を使うことになっていると伺ったのですか…。」
「はい。では、庭の方までご案内いたします。」
「ありがとうございます。では、アディンゼル公爵これにて失礼を。」
「ああ、娘のことを頼んだよエジット殿。」
養父様と別れ私とエジット様は庭園の方に歩いて行く。
案内した場所は、普段お茶会をしている所から随分離れた場所で、あまり家の者たちも通らないような所に位置している所だ。だが、さすが公爵家である。ほとんど通らないのに手入れはちゃんとしている。
「では、ここに結界を張りますので少々お待ちいただけますか?」
「結界をはるのですか?」
彼は私と目線を合わせるように前かがみになり微笑んでいる。
「ええ、安全面を考えて、それと授業内容を聞かれたりみられたりしたら拙いですからね。」
確かに精霊術を習うならそういった面も心配しなくてはならないが…
私は目を見開いて彼をみた。
「…結界に防音効果や視界を遮断する効果があるなど聞いたことありませんが…」
「私の場合は魔術と精霊術を組み合わせたものを使いますので可能なのですよ。」
何てことないように微笑みさらっと凄いことを言うエジット様。
―――すごい。エジット様チート!!
私が驚き固まっていると彼はクスクスと笑いながら右腕を伸ばす。
「それに、結界を貼って居たほうが私も都合がいい…」
「え?」
何と言ったか分からず聞き返そうとしたが、エジット様が呪文らしきものを唱えた瞬間私たちを中心に円状に広がり直径10mほどの円が出来上がる。不思議だ。円が出来てるのが分かるのに風景はみえている。
「す、すごいですね…これが結界…」
私が驚きと感心でほうっとつぶやく。
そうして結界をみていたら頭上から声がかかった。
「ふぅ、これで楽に出来る。…レイティア嬢、貴方ならこれくらい簡単にできるようになる。というか出来なくては私が困る。惚けてないでさっそく授業を開始するぞ。」
……はて?私とエジット様以外にも人がいたのだろうか?いやしかしこの声はエジット様の声だ。
ゆっくりとした動作でエジット様の顔を見上げれば先程の優しい雰囲気から一変し眉間にシワを寄せ機嫌が悪そうな顔をしている。
あ な た は 誰 だ ! !
「あ、あの…エジット様…ですか?」
「何を言っているんですか貴女は。」
呆れたような声でみてくるエジット様。
誰だってここまでかわればそう聞く思う。
「いえ、だって…先程とあまりに違いまして…」
「こちらが素ですよ。先程のは外ようの顔です。優しげな顔と口調をしておけば警戒心を削ぐことができますから。」
そっけなく答える彼に私は引くの通り越して尊敬の眼差しを向けた。
「素晴らしい猫の被り方ですわね。引くのを通り越して尊敬してしまいました!でも猫を解いていいのですか?」
いやはや本当に凄い。
そう言うと彼はさらに眉間にシワを寄せた。この表情をみるとよくさっきのように微笑みをうかべることが出来たなと思う。彼に不可能なことはないのだろうか。ぜひ今度その猫かぶりの方法を教えていただきたい。
彼はため息を一つはき、呆れたような目で私をみて疑問に答えてくれた。
「これからレイティア嬢とは長い付き合いになるし、私が教える立場になるからな。本性を伝えといたほうがあとあと楽だと判断した。」
「なるほど、確かにそっちのほうが私も気楽に接することが出来そうです。」
「ではレイティア嬢…授業をはじめるぞ。」
「はい師匠!」
彼は眉間にシワをよせあり得ないものをみるような目でみてきた。対して私は尊敬の眼差しを彼に向けている。
「…師匠?」
「エジット様の今の性格でしたら「師匠」呼びのほうがいい気がしまして。それに、あの猫かぶりは尊敬に値するものです!」
「なんだそれは…」
「ふふっ、私のこともどうぞティアとお呼び下さい。」
「もうなんでも良いからはじめるぞレイティア嬢。」
「ティアですわ師匠」
「……ティア。」
エジット様改め、師匠は呆れながらも承諾してくれたようだ。
「それにしてもこの結界は本当に凄いですね。私が聞いていた結界とは攻撃を跳ね返す程度のものでしたが…」
改めて結界をみる。私たちを囲む結界は透明なのに目で捉えることが出来る。そして、通常ならばこんな広範囲に結界をはることなどできないと言われている。せいぜい1〜2m範囲だと聞いていた。
「結界とは言っているが君の知るのとはだいぶ違うだろうな。」
「先程説明していたように防音効果と視界の遮断…ですか?」
「すこし違うな。通常の結界は張った範囲に入ることは出来ないがそこに誰が居るのかは確認できる。しかし、これは対象者に対して悪意がない者は結界内に入れる、ただし対象者を認識できない、そこに誰もいないと思ってしまう。故に声も聞こえなければ見ることもできない。それから、敵意がある者はこの結界付近に近づくことも出来なくなる。」
「それは、結界…ですか?」
師匠の説明に疑問が浮かぶ。それは結界とはまた違うものな気がする。幻覚系のものではないのか…と思ったが、これは前世の知識が混じっているからそう思うのだろうか。
この世界は現在人を欺くような術は存在しないと言われている。そういった言葉や認識がないのかもしれない。
「もちろん攻撃を跳ね返す効果もある。結界の中にいる間攻撃を受けても対象者に攻撃は当たらないようにしてある。魔術の基本的な結界に精霊術を付属させたものだ。」
つまり、結界に色々な精霊術をくっつけつくりあげたものだと…
淡々と説明しているが中々難しいのではないのだろうか…というか…私は右手を顎に乗せエジット様をみる。
「……それは、簡単に出来るものなのでしょうか?」
師匠はさっき『これくらい出来なくては困る』的なことを言っていた気がするが、そんな簡単なことではないような気がする。
師匠は肩を竦めなんてことないように言う。
「精霊との契約がうまくいけば簡単だ。術式は既に私がつくってあるからな。」
「精霊術とは本当に凄いのですね。後師匠も…」
私は口を開けて唖然とした
―――精霊術と師匠はチートのようだ…