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咽び泣く美少女


 あっれれー? ウィスプどうしてここにいるのかしら。わたくしの記憶と登場の仕方が少し違う気がするのだけれど。

 まだわたくしも混乱していて記憶が曖昧なのかもしれないわね。気にしない事に致しましょう。


「え、あの、この子は……!?」

「貴女の半身、ウィスプですわ」

「はいっ!?」


 おいおいと咽び泣く美少女に困惑しきっているトモヨさんに、ぱちんと手を合わせて笑いかける。そして、有無も言わせず彼女の腕を掴みました。


「ちょうどようございました。トモヨさん、ウィスプの力を使ってババーンと死霊を倒してくださいまし」

「ええぇっ!?」

「いけますいけます。余裕ですわ」


 トモヨさんの腕を掴んでいるのとは逆の手の親指をグッと立てながら笑みを絶やさないわたくしに、彼女は戦慄き、ウィスプはぽやんと口を開けて見上げてきます。


「ウィスプ、彼女に力を貸していただけるかしら」

「いいよー」

「軽っ!!」


 ウィスプの視線は既に死霊に向いています。状況把握が早くて助かるわ。すぐにでもあれをどうにかしませんと、アルの時間稼ぎにも限界がありますもの。


「先程剣を向けた非礼はお詫びいたしますし、勝手は重々承知で申し上げます。ご説明は後からさせていただきますので、とにかく今はわたくし達を助けては下さいませんでしょうか」

「……わか、りました」

「ありがとうございます」

 

 トモヨに向かって深々と頭を下げてから、アルへと振り向きました。


「アル!」


 それだけで弟は死霊からさっと退く。


「何も考えず、ウィスプの言う通りになさって下さい」


 巫女とは、精霊の力を使って戦うもの。

 わたくしにも小難しい事は分からないのだけれど、精霊はその身に多大な力を有しているのですが、直接それで魔族を倒すというような真似は出来ないようなのです。

 だから人を媒介として魔力に変換して、その力を行使する。


 なので基本的に精霊の言葉通りにすれば、自然に魔術が使えてしまうのです。とても便利ですわよ。


 なんて説明している間に、死霊達が青い炎に包まれました。見事ウィスプの力が使えたようですわね。

 ふぅ何とかなりました。もしトモヨさんが無理そうなら、やはり奥の手を出さなければならない所でした。


「おいルル、何だよさっきの」

「さてトモヨさん」


 文句を言う弟をさらっと無視して新たな光の巫女として、いきなり実戦投入させてしまったトモヨさんに話かけます。

 遠くに退避していた皆さんも、彼女に注目しています。死霊の出現に途中まですっかりと皆さんの頭から抜けていた侵入者のトモヨさんの存在。最も忘れてはいけない人物なんですけれどもね。


 再び全員の視線が集中して、またもや挙動不審になっているのがなんとも可哀そうですわね。


「ここではなんですから、屋敷の中でお話いたしましょう」


 ワンクッション置いて、皆さんが冷静になってからの方が良いでしょう。



 はい、というわけで一同は屋敷の広間に移動してまいりましたー。

 一番奥の大きなソファにはレオナルド様とユーフェミナ様。その両サイドのふかふかの椅子にはわたくしとアルが座る。周囲にはがっちりと護衛の方々がガードしてくれています。


 そこからずどーんと長いテーブルを挟んで入口の方にある椅子に座っているのはトモヨさんとウィスプ。両脇には騎士が控えていますわね。念の為の措置です。


「そこの女の子が光の精霊ウィスプに間違いないというのは、死霊を倒した事からも明らかですし、トモヨさんがウィスプに選ばれた巫女だというもの疑いようがありませんわね」


 突如として現れた二人組に、皆さんが不信感を持ってしまうのは仕方がありませんが、ここを認めていただかないと話が先に進みません。

 私の言葉にトモヨさん以外が、それぞれ頷いた。面白そうに笑っている方もいれば、未だ信じ切れずに難しい顔をしている方もいますが。


「ではトモヨさん、まずは貴女が何処から来たのかをお聞かせ願えます?」

「……はい。あの、信じてもらえないとは思うんですが――」


 弱々しい声でたどたどしく話し始めた事には。


 ――あ、ごめんなさいね。話が長いのでわたくしがざっくり要点を纏めさせてもらいます。 ちょっとさっきわたくしが思いつくままに話しこんだ中にもほぼ同じ内容が入っちゃってますし。ざっと原稿用紙一枚程度で終わらせますからね!

 

 トモヨさんは、ニホンというこの世界にはない国から来たという。

 ここへやって来た理由は彼女にも分らないらしい。

 テレビゲームという、此方にはない概念のない遊びをしている途中で飛ばされてしまったとか。


 それにしてもテレビゲームというのはとても興味深いわ。

 物語を読み進めていくのは書物と変わらないのだけれど、話が進むにつれ主人公が幾つもの人生の分岐点に立たされ、その都度読み手が幾つか提示される選択肢の中から一つを選び取っていき、選んだものによってその後の物語がどんどん変化していくらしい。

 

 これはいただきだと思ったわ。とても面白そうよね。今度魔術師に似たようなものが作れないか相談しようかしら。

 実際作るには世界がもっと平和になる必要があるけれど。


 少し話が逸れたけど、そのテレビゲームとやらをしている途中に


「世界を救って」


 という謎の声がして目の前が光ったかと思うと、気が付いたらここの庭園にいたらしい。はい、説明終了。


「異世界だなんだと、またまた信憑性に欠ける話だね。ルルはどう思う?」


 ソファに肘をついて優雅に座るレオナルド王子十五歳。なんだこの貫禄。流石生まれながらにして王族は違いますわね。などと考えているとは匂わせる事もなくニッコリと笑って頷いた。


「彼女の言葉に嘘偽りはないかと。ただ……」


 言いよどむとトモヨさんが不安げにこちらを見詰めてくる。

 

「トモヨさんは状況を何も把握されていない様子。慣れるまで彼女の身柄は暫くわたくしが預からせていただいても宜しいでしょうか?」

 

 キッと睨んでくるアルの方は見ないようにする。知らなーい、わたくしは気づいてなーい。

 我が家の護衛騎士達は天井を仰ぎやれやれといった様子。あらわたくしったらあまり敬われてなくない?

 おかしいわね、どうしてかしら。


 けれどわたくしが適任だというのは確かです。元巫女として彼女のお力になれる事も多くあると思いますし。理由も分らず突然異世界に飛ばされたなど、不安も大きい筈。しかも着いて早々剣を突き付けられ、死霊と戦わされたのです。

 この世界に恐怖しか抱いておられずとも仕方がない状況。


 ここは王宮で多くの人目に晒されるよりは、公爵家の別邸でわたくしとゆるりとこちらの世界に慣れていただいた方がよろしいのではないかと。

 

 王子は顎に手を当てて「うーん」と悩んでいる。レオナルド様はとっても頭の回転が早くて有能な方なのだけれど、ちょーっとばかり性格が捻じ曲がっているから今も何考えているか分かったものではありません。


 ユーフェミナ様は自分が口を出すべきではないと思っているのか、先ほどから静観の態度を崩さない。まだ五歳であらせられるのになんと聡い方か。将来が楽しみよね。

 

「公爵家に預けるというのに問題はない。しかし一度父上達に話を通さなければならない」


 ごもっともな意見。それで構いませんとわたくしは頷いた。

 彼女がこの世界にどれだけ重要な人物であるかは追々分かって来る事です。わたくしはトモヨさんの良き理解者であり導き手になれればそれでいい。


 トモヨさんの出現と死霊に襲われたのもあり、この屋敷から離れて明日には首都に戻る事になった。


 夜自室に戻るとすぐさまアルがやって来て、何勝手に決めやがってんだこのクソ姉貴! と貴族とは思えない暴言を叩きつけられこってりと説教を食らう羽目になったのだけど、まぁその辺りはわたくしの胸の内にしまっておきましょう。

 思い出すと心の傷が広がっちゃいそうで……。


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