色付く世界
クロードは殆ど何が起こったのかを理解できないまま、怪我を負うこともなく地面へと着地した。
覚えているのは空気の壁にぶつかるような落下の勢いと、眼前に見えた城の屋根部分だ。減速魔法によって速度は抑えられていたものの、それでは殺しきれない勢いで自分達は落下していた。なるべく体を開いて空気抵抗による減速も試みたがスズメの涙にもならなかっただろう。
眼前にまでオードラン城の屋根が迫ってきた瞬間、その屋根は十番隊の戦艦に砕かれ、更地になった地面にはメイドがシーツを広げていて、広げたシーツにぶつかると横方向に吹っ飛ばされた。吹き飛ばされた先では執事に受け止められてくるくる回転したかと思うとぽすん、と地面に静かに座らせられた。
正直、何が起こったのか理解できない。ただどくんどくんと跳ねるように鼓動する心臓の音が自身の生存を知らせてくれていた。
呆気にとられた状態で座ったままでいると、メイド長がこちらに近づいてきた。
「クロード様。身だしなみが崩れておいでですよ」
言いながら、濡れたタオルで顔をぐりぐり拭かれ櫛で髪をとかされもした。いよいよ本当に意味が分からない。もしかして今の状況は落下中の自分が見ている幻想かとも思ったが、やはりそれは心臓の音が否定してくれた。
とにかく現状を受け入れることができたのはクロードの身だしなみを整え終えたメイド長がアルフレッドの後ろまで下がってからだった。そこに至ってようやくクロードは声を出すことが出来た。
「あの、姉さんは!?」
先に内庭に落ちたのは見ていた。だが、どうなったかまではわからなかった。疑問にはアルフレッドが答えてくれた。
「無事だよ、生きている。死ぬほど疲れてるみたいだから、気を失ったままだがな」
そういう彼の膝の上に、モネは横になっていた。ぴくりとも動かないが、血色もいい。死んでいる訳ではない。本当に限界まで戦ったせいで、体が強制的な休息に入ったのだろう。
腕に抱いたオルタナも生きている。全員、あの状態から生き残ったのだ。そのことに心底安堵すると、ようやく周りを見る余裕も生まれた。内庭に集まっていた全員がこちらをじっと注視しているのだ。
一番隊の面々とジャン・ジャック。
十番隊の男衆と、仰向けに倒れて寝ているリリィ。
メイドたちとメイド長。
そして執事長と、アルフレッド。
全員がこちらを静かに見つめているのだ。どうして助かったのかはよく覚えていない。だが、それでも彼らが自分達の命を救ってくれたのは確かだった。最後まで諦めず、絶体絶命の状況の中から自分達を救い出してくれたのだ。
それを自覚すると、体は勝手に動いた。オルタナを抱いたままだったが、頭を地面に擦りつけるようにして下げて叫んだ。
「あり…………ありがとうございましたぁ!」
助けてくれて、ありがとう。
「みなさんが諦めなかったおかげで、僕たちは助かりました。だから、だから本当にありがとうございました!」
瞬間、歓声があがった。
男たちの震えるような声と、女たちの甲高い声が一緒になって一帯を埋め尽くす。手を叩く音、指笛を拭く音、鎧が擦れ、ぶつかりあう音が一緒になって耳に飛び込んできた。その凄まじい音の波にクロードは身体が心から震えるような感触を得た。
ただ、震わされているだけではないだろう。興奮に自ら震えているのだ。
生きていた。助かった。助けることができた。そのことが実感となってようやく体に響いてきたのだ。誰も彼もが喜びの声をあげて、手を叩きあい。一番隊も十番隊も、男も女も、その垣根の全てを超えて抱き合い、肩を叩きあった。
全てが終わった。勝利した。誰に勝ったのかは全員がわかっていないだろう。だけどそれでも確かに、自分達は勝ったのだと、そう示すように歓声は続いた。
盛大な音の中、アルフレッドが苦笑と共にクロードに言った。
「頭なんか下げんじゃねぇよ」
「でも……」
「俺様たちが諦めなかったから助かった? 違ぇよ。お前たちが諦めなかったから、俺様たちは諦めず戦えたんだ。だから別に、俺様たちが偉いわけじゃねぇ。それに……なんだ。みんな助かった。みんな生きてた。だったらそれでいいじゃねぇか」
王は次第にその顔に軽薄さを取り戻しながら言う。
「野暮なことはするなよ、クロード。お前はもう英雄なんだからな」
英雄…………。
さすがにそこまでの実感はない。ただクロードは誰も死ななかったことに、腕の中の少女を救えたことが嬉しかった。それだけでよかった。最初から自分はそれだけのために戦っていたのだから。
「……あ」
腕の中から、声が漏れた。少女が目を覚ましたのだ。
+
滅茶苦茶な騒がしさが耳を打つ。夜明けを告げるかのような喧騒に、オルタナは自然と目を覚ました。開いた視界の中、最初に飛び込んできたのは目と、鼻と、口を持った生き物。それがなんなのか一瞬だけ記憶が錯綜したが、オルタナの中にある知識が視界の中の生き物を人間だと教えてくれた。
あの黒く、ぼやけた輪郭ではなく、はっきりと人間の姿を見るのはオルタナにとって初めてのことだった。
これが、人間……?
だとすると、目の前の彼は誰なのだろう。
「目が覚めた?」
そう、優しく語りかけられた。その声は良く知っている。何度も何度も聞いたのだ。何度も、話した人の声。何度も拒絶し、最後には望んだ想い人の声。
「クロ……?」
首を傾げる先、彼は頷いた。その表情は柔らかで、なんだかとても落ち着いた。自分が彼に抱かれていることを知って、そのまま脱力してしまおうかとさえ思った。だがオルタナは、
「ひゃっ!?」
すぐに彼の腕を離れて飛び起きる。全身を覆う〝感覚〟にびっくりしてしまったのだ。なにせそれも、彼女にとっては初めてのことだ。
なにこれ、服? これが服の感触なの?
もっと言えば、布の感触。ざらざらとか、さらさらとか、言葉にすればそんなところか。その二つの違いがオルタナにははっきりとはわからないが、とにかくそんな感じだった。肩から足元まで、すべてに感覚があるというのが異常なことのように思えてしまう。殆どの人にとってはそれが普通のことだというのに、全身から送られる多大な情報量に眩暈がしてきそうだ。
その身を抱くようにして震えるこちらの不安に気づいたのだろう。クロードは一層優しい言葉で、語りかける。
「大丈夫。怖いことも、痛いこともない。ちょっと座ってごらん」
「座る、の?」
「そ、僕の前に。地面に座ってみなよ」
言われるがまま、クロードの前に腰を下ろした。途端、スカートを通じて〝冷たい〟という感覚がお尻を攻撃してきた。
「ひゃう!?」
思わず飛び跳ねそうになるオルタナを見て、クロードはおかしそうに笑った。他人事だと思って、と口を尖らせながらも完璧に座り込む。
「ふふん。これくらいどうってことないわね」
「座るだけで得意げなんだなぁ……」
にやにやと楽しそうなクロードは不快なので放っておく。オルタナは興味深そうに地面を触り、手近に生えていた物体を手に取る。
「なにこれ?」
「草、だよ」
「これが草!? へぇー、こんなに細くて小さいのね……」
恐る恐るといった風に触って、害がないことを確かめてから一気に引きちぎった。指でくちゃくちゃとこねると謎の液体が漏れてくる。指を鼻に近づけて臭いを確かめると、何か鼻の奥を刺激するような香りがした。
これが自然の驚異かと、鼻をひくひくさせる。すると不意に自分の鼻の上に妙な感触を感じた。
「ぴゃん!?」
自分でも馬鹿かと思うくらい恥ずかしい悲鳴と共に後ろにすっ転んだ。背中と頭を強かにぶつけ、地面を転げまわる。
「い、痛い! 痛いわ! これが痛みね!? そうなのね!?」
「う、うん。そうなんだけど、痛いって言ってるのにはしゃいでいると事情を知らない人たちが凄い勘違いをしそうだから落ち着いて」
一体何がどう勘違いされるというのだろうか。彼の言うことはたまに意味がわからない。
ともかく体を起こすと、彼がその手に何か小さな薄っぺらいものを持っていた。不思議そうに首を傾げるこちらに気づいたクロードはその薄っぺらいものを手の平に置いてこちらに見せながら、言った。
「花びら、だよ」
「知ってるわ! 花の最小単位でしょ!? これがそうなの!?」
「合っているような間違っているような……。とにかくこれがオルタナの鼻に降ってきたんだよ」
さっきの鼻に感じた妙な感触はそのせいか、とオルタナは納得。
そりゃ、こんなわけわかんない薄っぺらが鼻に落ちてきたら驚くわね。
一人頷いていると、クロードが一瞬だけ上を確認してからこちらに問いを投げかけた。
「オルタナ、今の君には世界が見えてる?」
それは創造魔法がきちんと作用したかどうかの確認だろうとオルタナは判断。興奮する気持ちを抑えながら大きく頷いた。
「ええ、もちろん。ちゃんと見えているわ」
だから、ありがとう――――そう続けようとしたオルタナをクロードは手をかざすことで制止した。動きを止めるオルタナに、目の前の彼は微笑みながら告げる。
「じゃあ、上を向いてごらん?」
言われるままに顔を上げて上を見た。
「…………え?」
まるで、呆けたような声が出てしまう。
上、視線を上げた先にあったのは空一面に広がる数えきれないほどの色の群れだった。
どれがどんな色なのか、その名前を自分は判別することができない。だけど、だけど、そんな自分にすら綺麗だとわかる様々な色の集合が空には広がっていた。
それは少年が作り出した希望の光景。
クロードがオルタナを望んだからこそできた。世界規模の創造だった。
「凄い……! 凄い! 凄いわ!」
視界いっぱいに飛び込んでくる色の群れを見て、オルタナは目を輝かせて叫んだ。
だって、本当に凄い。
空いっぱいの色はオルタナに感動を与えた。そしてそれだけじゃない。空の色は徐々に剥がれ落ち、小さくなってひらひらと地上へと落ちてきているのだ。自分の周りにも既に沢山の色の欠片が降り注いでいる。
その内の一つを手に取る。そして初めてそれが花びらであることがわかった。
「花びら……じゃああれは花なの!? もしかしてあれ全部!?」
空を指さし、興奮で大きくなった声で問うと、クロードは笑いながら頷いた。
「そうだよ。全部花だ。空一面の花畑、ってところだね」
「凄い。凄いわ、クロ! あれ、全部クロが作ったの!?」
子供のようにはしゃぐオルタナにクロは少しだけ恥ずかしそうに頬を掻きながら頷いた。
花が地面に咲くことくらいはオルタナも知っていた。だからあれはきっと、本当は見ることができないはずの光景で、それをクロードは作り出したのだ。
ひらひらと空から落ちる色とりどりの花びらたち。
それはまるでたくさんの色の雨のようだ。
目を輝かせる、というのはきっと今の自分のようなことを言うのだろうと、オルタナは思った。
だって、見るもの全部輝いて見えるんだもの!
それはきっと自分の目が輝いているからなのだと、オルタナはそう思ったのだ。
「ほら、オルタナ」
空の光景を目に焼き付けようとじっと見つめていると、クロードが自分の方を見るように促した。本当はずっとそのまま空を見ていたかったけれど、彼が呼んでくれたことがなんだか嬉しくて、すぐにクロードの方を見た。
彼はその手に何枚かの花びらを持っていた。どれも、違う色だ。それを一枚、こちらの手に平に置いて言葉を重ねた。
「これは緑。緑色の花びらだよ」
「みど、り……?」
聞いたことはある。そして当然、見たことは始めた。緑の花びらは地面に生えていた草と同じ色だったけれど、花びらの緑の方が薄くて可愛い。
「で、これが黄色」
クロードは次々と違う色の花びらをこちらの手の平に乗せていき、それにその色の名前を重ねていく。正直、この場ですぐにそれを覚えることは難しかった。思った以上に、色には種類というものがあって、すぐに混乱してしまう。だけど、たくさんの色を見れることと、彼がそれを教えてくれることがとても嬉しかったので、黙って聞いていた。
「そして、これが青だよ」
最後に乗せられた花びら。その色が青だと知って、オルタナは思わず声を上げた。
「同じ、色ね」
「え?」
「クロの目と、同じ色してる」
クロードの瞳もこの花と同じ青の色をしていた。だけど、クロの瞳の青のほうがずっと濃くて、なんだかきらきらしているようにも見えた。
「モネが言っていたわ。自分達は姉弟で髪の色も違うけれど、瞳の色だけは同じなんだって。だから、青色が一番好きな色なんだって、言ってたわ」
「そっか、姉さんがそんなことを……」
「ええ、本当。惜しい人を失くしたわ」
「いや、姉さん生きてるよ! ほらそこで寝てるから!」
さすがにそれくらいははしゃぎながらも確認している。今のは気の利いた冗談のつもりだったのだ。
いけないわ。ちょっと興奮が変な方向を向いているわね。
それもこれもきっとクロが悪いのよ。あんな凄いの見せられて、普通でいられるわけないじゃない。
それ以前から興奮はしていたがとどめはそれだと言い聞かせた。というか、責任転嫁だ。
笑うオルタナに、クロードも笑顔を返しながら、自分の髪を引っ張って見せた。
「これは〝くろ〟」
「いや、知ってるわよ。今更自己紹介とかどうしたのよクロ」
「いやいやそうじゃなくて……〝黒色〟のこと。僕の髪は黒色なんだよ」
ああ、なんだそういうことかと納得しながら、咄嗟に彼の髪に手を伸ばす。嫌がられるのではないかと思い、途中で引っ込めたが、彼は何も言わずむしろその頭を差し出してきてくれたので、撫でるように髪に触れる。彼の髪は思ったよりも硬かった。温かな体温と、わしゃわしゃした感触が手の平に広がって面白い。
「黒って、闇とか、夜空とかの色よね?」
「うーん。夜空はどっちかっていうと紫じゃないかな?」
「そうなの? でも、前に私は夜空は黒色だって聞いたわよ」
「まあその辺の感覚は人によっても違うからね」
「…………色って奥が深いのね」
人によって、感じ方が違うのでは困らないのだろうかと思ったが、それはそんなものなのかもしれない。一通り髪に触れ、堪能してから手を放す。彼は少しだけ名残惜しそうな顔をしてから、今度はこちらに向かって手を伸ばした。その行為に少しだけ驚いてしまうが、抵抗はしなかった。
クロードはオルタナの二つに結んだおさげの内の一つを撫でるように手に取って言った。
「これが、金色。君の、凄く綺麗な色」
彼が焦がれたというその金色をオルタナは初めて見る。凄く綺麗だと、クロードは繰り返し言うけれど、本当にそうなのかオルタナにはわからなかった。自分の髪だからだろうか。それよりも彼の艶のある黒髪の方がよっぽど綺麗だと思った。
それこそ、クロの髪だからかもしれないけれど。
なんだかようやく、興奮が収まってきたように感じる。色や感覚や、様々な今まで感じられなかったもの、見ることすらできなかったことが、感じ、見ることができるようになった。そのことがようやく実感として感じられるようになってきた頃、クロードが不意にこちらの手を取った。
そのことに驚き、でもやっぱり抵抗はせずに握り返す。彼の手の感触や、温度が伝わってくる。まるで体の熱を交換しているようだった。
でもいったい、どうして?
クロードの行動の真意がわからなかった。彼はただ握った手に力を込めたり。緩めたりを繰り返す。その真似をオルタナもしてみた。お互いの感触を確かめあうように、ぎゅーっと。握ったり、握られたり。それを繰り返すうちに思い出した。この行為がかつて自分が憧れた、恋い焦がれたものだったことに。
好きな人とこうすることが夢なのだと、そんな風に思っていた自分を思い出す。
今までの自分の歴史を。色も、感触も、何もなかった世界を思い出す。今ならわかる。きっと、自分は苦しかった。悲しかった。ずっとずっと、それを感じて、だけどそんなことも知らなかったから、平気な顔をして生きてきたのだ。
悲しくて苦しくて、だけど今この手に感じる彼の体温は、その感触は――――。
「あ…………」
頬に熱が伝ったのを感じた。何かと思い、触れてみれば濡れている。熱を持った水が滴っているのだ。それが涙なのだと気付くまでに少し時間がかかった。そして自分が泣いているのだということに気づくにはもっとかかった。そして、そして、自分が泣いているのだと気付いたオルタナは声を漏らした。
「う……あ…………」
そして、思いっきり泣いた。
「う、うわああああああああああああああん!」
子供のように声を上げ、何もかも抑えることもせず大声で泣いた。
その声があまりにも大きかったからか、周囲の喧騒は一瞬で止み、みんながこちらを見ていることがわかった。
だけど声は止まらない。
涙はもっと止まらない。
とめどなく、溢れて出てきてしまうのだ。それに合わせて、感情を垂れ流すように、声も止まることなく続けられた。その大声に声帯が震え、痛みを訴えた。だけど、それを止める機能はもう自分には存在しないのだ。今まで自分を守ってくれていたあの機能はもう消えてなくなった。生みの親が望んでつけた生きることの強制はもうなくなってしまった。
これから私は自分の意志で生きなければならない。
そのことが途端に不安に感じられて、悲しくて怖くて泣いた。だけどそれ以上に嬉しくて、喜びと安堵とそのほかのきらきらした何かが押し寄せてきて、もっと泣いた。
まるで今まさにこの世に産まれた赤子のように。
少女は声を上げて泣き続けた。
突然、泣きだしたオルタナにクロードは驚いたものの、すぐにまた優しい笑顔に戻って、今度はこちらの背に腕を回して抱きしめてくれた。ぽんぽん、と背中を撫でるように叩いてくれた。彼に抱きしめられている。彼の体温を全身で感じている。そのことに安心して、また泣いた。自分が落ち着くまで、彼はずーっと背中を優しく叩いていてくれた。
クロードは何も言わない。だけどそれでも、彼の優しさや愛情はたくさん伝わってきた。自分一人では抱えきれないほど、たくさんだ。
ただ熱を感じて、触られていることを知れる。それだけで、こんなにも色んなものが伝わってくるのだ。
この愛も、熱も、感触も、色も、この心さえも、全ては彼がくれたもの。
クロが私を望んでくれたから、得ることができたもの。
オルタナは痛くて苦しくて辛くて、悲しいことばかりだった三百年を思い出して言う。
まだ涙は止まらないけれど。
声は掠れて、震えているけれど。
これだけは彼に伝えないといけないと思った。
「クロ、クロぉ……」
「うん。どうしたの?」
うん。うん。
私ね、私ね、
「わたし……生きててよかったよぉ…………!」
三百年を耐えてきた。
防衛機能が、自分の死を許さないでいてくれた。
だからあなたに会えた。
だから、こうしてあなたの熱を感じられる。
そのことは何よりの幸いで、何よりの救いであり――――同時に少女にとっての救いは少年にとっての救いに他ならない。
「ああ、僕もだよ。僕も生きててよかった」
だからありがとう、と彼が言った。
「――オルタナ、生きててくれて、ありがとう」
その言葉が嬉しくて、少女はまた泣いた。
いつまでもいつまでも、少女は少年の腕の中で泣き続けた。
泣き疲れて、眠ってしまうまで。
少女は少年の腕に抱かれて、
少年は少女を腕に抱いて、
二人はお互いを救い続けた。
いつまでも、いつまでも――――――――




