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届かぬ高みへ伸ばした腕は

 英雄リチャード。

 人型術式であるオルタナの魔法によってこの黄金の城の中に再現されたかつての英雄。己が倒した男の着ていた鎧を身にまとい、人間には扱えぬルーン結晶の剣を持った伝説は、体の内側から剣によって貫かれた。しかしその後、まったく動くこともないリチャードをクロードは不審に思ったのだが、なんてことはなかった。彼は立ったまま死んでいたのだ。膝をつくこともなく、絶命した。

「…………」

 その様子にクロードもモネも、息を呑む思いだった。例え魔法によって作られた仮初の命だとしても、例え中身の空っぽな形だけの伝説だったとしても、それでもやはりリチャード・リオン・オードランという男は英雄だったのだ。

 獣の顔をした大男は死してなお、その圧倒的な気迫を保っていた。倒れることなく死んだのは存在することも許されず、王の影として歴史の下に埋もれていった彼なりの誇りだったのかもしれない。

 英雄の体が身に着けた鎧ごと流動するルーンとなって消滅していく。

 その様子はまるで、霧に溶けていくようだった。

「嘘よ……」

 リチャードが完全に消え去ってしまった後、ようやくオルタナは口を開いた。わなわなと拳を震わせながら、信じられないとでも言うように叫んだ。

「嘘よ! あたんたちみたいなのが、どうやって、あのリチャードに勝ったっていうの!? あの鎧は……《カルナ》は!? どうやってあの絶対の守りを貫いたっていうの!?」

 オルタナは答えをクロードに求めた。

「教えてよ。どうやって《カルナ》を貫いたの!?」

「……別に、カルナそのものを貫いたわけじゃないよ。だろう、姉さん?」

 クロードはその答えをモネへと任せた。確かに、この結果はクロードがあの時モネへと耳打ちした通りのことだが、実際に働いたのは殆どがモネだからだ。先程と同じように、クロードは時間稼ぎしかできていない。

「ええ、そうですわ。わたくしは《カルナ》そのものを傷つけてはいない。そもそも、あの剣の切っ先はリチャードから見て外側に付きだしていたでしょう? これがどういうことかわかりますの?」

「……あいつは、リチャードは体の内側から貫かれたってこと……?」

「その通り。わたくしがやったのは、かの英雄の体内に剣を生成すること。そうすることによって彼を体内から串刺しにしたんですの。《カルナ》は確かに絶対の鎧かもしれませんわ。しかし、その防御力はあくまで外に向けられたもの。内側から生成される攻撃には反応できない。そう考えるとなるほど確かに《カルナ》は大仰な力のわりには隙の多い鎧かもしれませんわね」

「……それで《カルナ》を無効化できるとしても、一体どうやって体内に剣を生成するってのよ! 剣を生成するためのルーンを相手の体内に流し込むことは《カルナ》にとって害意と見なされるはずよ。そうなったらその時点でルーンは弾かれて、体内での剣の生成は不可能になる!」

「何もわざわざ、わたくしが律儀にルーンを流し込む必要なんてなかったんですのよ」

 言って、モネは一瞬だけ背後で城に刺さったままのオリジナルの封剣に目を向けた。

「その役目は彼が持っていた封剣が果たしてくれましたわ」

「なんですって?」

「彼が封剣で自ら、わたくしが放った魔法をルーンに変換してその体内に収めてくれたではありませんの。わたくしはそれを再利用させてもらっただけですわ。たださすがにいつもの術式のまま行う訳にはいかず、少し見直しの時間が必要になってしまったんですけれど……その時間はクロが稼いでくれましたものね」

 モネがクロードの方を向いて微笑んだ。その笑顔がなんだかこそばゆくて、クロードは咄嗟に目を逸らしてしまった。

「一度魔法として発動させたルーンを再び魔法へと利用した? それも、他人の体に流れたあとになんて、そんなことが本当にできるの!?」

「……わたくしも、まさかできるとは思っていませんでしたわ」

 だけど、とそこでモネは言葉を切った。

「クロが言ってくれましたの。『姉さんならきっとできる』って。あの子ができると言ってくれたのなら、わたくしにできないはずがない。姉は弟の支持があればなんだってできる生き物なんですのよ!」

「ふざけた理屈を……!」

 モネの言葉が気に食わなかったのか、それともただ単純にリチャードを倒されたことを焦っているのか、オルタナは殆ど激昂寸前だった。そんな彼女にクロードはあくまで落ち着いた様子で告げる。

「確かに姉さんの理屈はふざけているけれど……」

 モネが『クロまでそんなことを!?』と驚いた様子だったが、それは無視して続けた。

「ただ不可能ではないよ。そういう前例を僕は知っている」

「また、お得意の大図書館かしら?」

 頷く。確かにその通りだったからだ。

「自分が収束させ、他人の体に入り込んだルーンを操作する技術はあるんだ。ただ、難易度はとてつもなく高い。それでも世界から愛された姉さんならなんとかできると思った。殆ど賭けみたいなものだったけれど、どうにかなってよかった」

 ルーンの扱いに長けているモネだからこそ、例え未知の技術でもなんとかなると、クロードは踏んだのだ。それは彼女の才能に頼った他力本願な作戦だったが、それでも成功したことにクロードは安堵した。

「結局僕は時間稼ぎしかできなかったから、これは姉さんの勝利かもね」

 そう自嘲するように言ったクロードの手にモネの手が重ねられた。みると、モネはいつの間にかこちらの横にきて、手を取って微笑んでいるのだ。

「いいえ、そんなことはありませんわ。クロがいなかったらわたくしは、他人の体内のルーン操作なんて思いつきもしませんし、できるとさえも思わなかったはずですわ。あなたがいなければ勝てなかった」

 だから、とそう言いながらこちらの手を握る力をモネは強くする。それが信頼の証とでも言うように。

「だから、これはわたくしたちの勝利ですわ」

 自分たちの勝ちだと、モネはそう宣言する。クロードもまた強い視線でオルタナにそのことを告げる。

 かつての英雄に、自分たち姉弟が勝ったのだと。

「そんな……」

 対するオルタナの反応はクロードが予想していなかった意外なものだった。もっと怒りをまき散らすか、すぐにでも次の行動に移るものかと思っていたが、彼女は顔を青くして酷く狼狽してしまっている。

「嘘、よ。だからってリチャードが負けるなんて」

 ……オルタナはあの英雄の力を信じていたのか。

 彼が生きていた頃、オルタナとどんな関係だったのか、二人の間に何があったのか。それをクロードが知ることはできない。ただ彼女の様子からリチャードの〝力〟に対して絶対的な信頼を置いていたことはわかった。あの英雄の強さはオルタナにとっての『最強』に他ならなかったのだ。

 自分が最も強いと信じていたものが破れた。それは彼女に少なくないショックを与えたようだった。

「確かにリチャードは強かった」

 狼狽する彼女を見て、クロードはわざわざ言う必要はないと思っていたことを口にした。

「だけど僕らが相手にしたリチャードは完全じゃなかった。彼はただの空っぽの英雄だった」

「どういう、ことよ?」

 落ち着きを失くしているオルタナだったが、クロードたちに弱みを見せたくはないのか、こちらと話すときはなんとか気丈を保っていた。

「この城の力は言わば、現実に対する再現能力だろう? あらゆる伝承、現実を再現するのが《エルドラド》という魔法の能力だ。君はそれを使って竜の軍勢や、その他様々なものを再現して見せた。だけどその再現は必ずしも完璧じゃない。《エルドラド》の再現はその外見や戦闘力などの見せかけの力だけで、その個人に宿っていた意識までは再現できない」

 個人に宿っていた意識。それはつまり、

「〝心〟。オルタナ、君の魔法は心までは再現できないんだ」

 竜の軍勢が死を恐れずに戦う機械のような兵隊になったのは偶然や、防衛機能が意図した結果ではない。ただそうとしかできなかったのだ。

「エンシェントドラゴンの〝速さ〟や英雄リチャードの〝膂力〟は完璧に再現されていた。だけど、それ以外の細かな反応が緩慢だったのは、彼らに心が宿っていなかったからだろう? 防衛機能によって操られるままだったからこそ、機械的な戦闘、機械的な反応しかできなかったんだ」

 オルタナは何も言わない。たいした反論も嘲りの表情も見せないということは真実で間違いないのだろう。彼女は自分の内の混乱を抑えるためにわざと表情や言葉を消しているのだ。

「英雄っていうのは、生まれてすぐになるものじゃない。あの魔人だって最初は人より少し体が強いだけの凡人でしかなかったはずだ。数多の戦場を駆け、あらゆる敵を退けた戦士としての経験。彼が積み重ねてきた記憶や心。それらが伴って初めてリチャードは英雄と呼ばれるほど強くなる。それがない英雄なんて、形だけを真似た、ただそれっぽい人形にしか過ぎない」

「…………」

「そんなやつに姉さんが――――いや、僕らが負けるはずがない!」

 オルタナは何も言わない。狼狽は怯えに変わり、隠しようのない震えを全身に浮かばせながら、こちらを見るだけだった。その反応を怪訝に思っていると、不意に隣のモネが呟いた。

「……どうして反撃がありませんの?」

 モネの言葉にクロードはハッとする。

 リチャードは倒した。オルタナというこの城の核を守るべき守護者が消えた。にもかかわらず、防衛機能が次の行動を起こす気配がまるでない。クロードたちを排除するためのアクションを起こさないのだ。

 クロードは察した。防衛機能は迷っているのだろうと。英雄リチャードと黄金の鎧の組み合わせは彼女にとっても、また防衛機能にとっても最強の守護者だったのだ。その守り手が破られた。だから防衛機能は狼狽しているのだ。最強を破ったクロードたちを倒すための策を見つけられず、機械のように淡々としているはずの行動にラグが発生した。

「オルタナ……!」

 彼女の名前を叫んだ。防衛機能が逡巡している今なら、話ができると思ったのだ。

「嫌、やめて! 聞きたくない!」

 だがオルタナは耳を塞ぎ、俯いて顔を隠してしまう。そうして大声で嫌だ嫌だと叫ぶ姿は、まるで駄々をこねる子供のようだった。

「駄目だ。聞いてくれオルタナ!」

「嫌ぁ! うるさい、黙ってよ!」

「…………オルタナ」

「なんで、なんでこんなことに……完璧だったじゃない。たった一度のチャンスを、私は完璧に生かしたはずなのに、なんでなんでなんでなんで――――」

 クロードの声は届かない。オルタナは耳をふさいだままぶつぶつと何事かを呟くばかりで、こちらのことを見ようともしなかった。

 どうしたらいい。どうすれば、僕の思いは彼女に伝わるんだ。

「まったく、クロは女心をわかってしませんのね」

「姉さん、こんな時に何を……」

「こんな時だからこそ、ですわ」

 悩んでいたクロードからモネは手を放す。手の平から遠ざかったその温かさは、今度は背中へと当てられた。

「遠くから、叫んでいるだけじゃあ伝わらない。ちゃんと手を取って、眼を見て、そうして話さなければ届かないものだってあるはずですわ」

 手を取って、眼を見て、ちゃんと話す。

 それこそまるで子供を相手にしているようだとクロードは思った。だけど、それでいいのだとモネは言った。

「クロもわたくしも、オルタナだって、ただの子供じゃないですの」

「……オルタナは三百歳を超えてるよ」

「なら、三百歳の子供ですわ」

 背中に置かれた手に力がいれられる。背を押されたのだ。進め、というように。

「行ってらっしゃい」

 そう言われた。振り返ることはしなかった。行ってきますと、そう言って。そのあとはただ前を見て、オルタナだけを真っ直ぐに見つめた。

「今行くよ、オルタナ」

 そうして、一歩前へと踏み出す。彼女との距離を着実に進めるための一歩を。

 そう遠くない距離。ゆっくりと歩を進めるクロード。その様子に気づいたオルタナが悲鳴にも似た叫びをあげる。

「やだ、来ないでよ! 私に近づかないで!」

 クロードが更に一歩を踏み出した――――その瞬間。部屋の景色が一変する。

「……これは!?」

 いや、部屋自体の装飾や黄金に輝く色が変わったわけではない。オルタナの後ろにある煌びやかなステンドグラスも健在だ。ただ、距離が遠ざかった。

 来ないで、近づかないで。

 そんな彼女の言葉に呼応して、クロードとオルタナの距離が一気に遠ざかったのだ。まるで部屋が横に伸びたかのような感覚。実際、その通りなのかもしれなかった。

 これも防衛機能の力か……?

 術式の核に近づこうとする侵入者を遠ざけようと、防衛機能が働いた。この現象はきっと空間制御の魔法の一種だろう。オルタナとクロードの間の空間を魔法によって無理矢理に開かせたのだ。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、クロードの体は遠ざかった距離を埋めるかのようにオルタナに向かって真っすぐに走り出していた。特別に何か考えがあったわけではない。怖かったのだ。彼女の姿が遠ざかっていくのが、まるで遠くに行って消えてしまうようで、二度と会えないような気さえしてしまって、その恐怖に駆られて考え無しに走り出したのだ。

「ああああああああああああああああああああああああああ!」

 オルタナが叫ぶ。それが泣いているようにも聞こえたのは、錯覚だろうか。

 風を切る音。何かが高速で動く音。それがクロードの耳に届く。

 自分が走っているからだろうかと、一瞬考えたがそうではない。その音はクロードの頭上から聞こえてきたのだから。

 瞬間、飛来してきたのは一本の荒削りの大剣だった。それがクロードに向かって落とされた。頭上からの音に気づいていたクロードは紙一重でその大剣の飛来を避ける。大剣はクロードが走っていた床に突き刺さるとルーンの発光体となって消えていった。

 天井を見上げる。そこには浮遊城が再現したいくつもの武具があり――――それが雨のようにクロードに向かって降り注いできていた。

 これもまた防衛機能の反応だろう。だがこの行動は、とにかく今ある武器でなんとかしようとしているようで、機械的な反応でしかない防衛機能にクロードは焦りのようなものを感じた。

 しかし、それでもクロードにとってこの攻撃は充分以上の脅威になり得た。天井から降り注ぐ武器たちはおそらく、何の変哲もないただの武器ではないだろう。エンシェントドラゴンや、英雄リチャードのように、伝説や伝承として語り継がれた魔法を帯びた特別な武器のはずだ。その証拠に、武器たちが飛来する速度は異様に早く、また細く脆そうに見えた短剣が床に激突すると同時に爆発的な衝撃を生み出したのだ。刀身に込められた魔法を単純なエネルギーとして発散させているだろう。たった一本でさえ直撃すれば、クロードの体は無残にもはじけ飛んでしまうだろう。

 そんな致命傷を与える攻撃が、雨のように大量に降り注ぐ。刃の豪雨に、クロードは思わずその足を止めてしまうそうになる。

「立ち止まらないで、走りなさい!」

 背中から声が聞こえた。自分がだれよりも信頼する強さをもった人の声が背中を押した。だから、止まらなかった。立ち止まって、背中を向けて、逃げ出したくなる思いを叩き潰し、クロードは速度を緩めず前へと走る。

 刃がクロードを刺し貫こうと飛来する。だが、その刃に後ろから飛び出した別の刃がぶつけられた。

 金属と金属が叩きあう音。それが耳元で響く中、クロードは今しがた起こった現象を理解した。

 あれはモネの剣だ。熱を帯びた細身の長剣は飛来する刃に衝突すると同時に炎へと姿を変えて周囲にある刃をいくつも巻き込んで吹き飛ばす。その剣が豪雨に匹敵するだけの量となって、クロードを襲おうとする刃を迎撃していく。

「背中はわたくしに任せなさい! だからクロはオルタナを……!」

 モネが叫ぶ。英雄を倒した最強は、残りの力を振り絞り弟が走る道をつくる。

「オルタナを、救ってあげて!」

 返事はしなかった。振り返らずに走ることでそれを答えとし、クロードはただオルタナに向かって走る。

 オルタナにとっての救い。それは死ぬこと。死んで、全てを終わらせること。

 だがそれをクロードは否定した。モネは彼女の想いを認めながらも、それは嫌だと涙を流した。だから止まるわけにはいかなかった。彼女にとって、死ぬこと以外の救いがなんなのかはわからない。しかしだからこそ、手を取らなければいけないと思ったのだ。

 ちゃんと、話さなきゃいけない。そうしないと、わからない……!

 心などないと言った彼女の心を理解するため、クロードはその思いだけを胸に走り続けた。

 刃の豪雨はいつまでたっても止まない。剣、槍、鎌、杖、針、鎧、楯。いくつもの武具たちがその身にこめられた魔法を消費して襲いくる。モネのサポートによって殆どの攻撃はクロードに到達する前にはじかれるが、しかしそれでも相当数がこちらに降り注いできた。モネが疲労しているというのもあるだろうし、なにより彼女の魔法の特性上、あまりクロードの近くで刃を迎撃するわけにはいかないのだ。そんなことをすれば、クロードの体まで炎によって焼かれてしまう。

 だが数が減っているのも確かだ。降り注ぐ刃の一つ一つを慎重に観察し、紙一重でかわしていく。問題なのは見た目の大きさや重量によって威力や速度が決まっているわけではないことだった。それぞれの武器が持つ魔法の強さによって飛来する力も決まってしまっているため、形状からではその予測がつきにくい。

 だからクロードは比較することにした。大きさや形状は殆ど度外視して、一緒になって飛来する他の武器に比べて、その武器がどれくらい速く落ちてきているのかを測る。そうして、相対的な速度を予測、飛来する順番を予知し、その通りに避けていく。しかしその予測は完璧ではない。相対的な速度しか測れないため、どうしてもズレが生じた。その度にクロードは着弾の衝撃によって吹き飛ばされ、切っ先を体にかすめてしまったりした。だがその度に、クロードは体勢を立て直した。

 吹き飛ばされた。だが、すぐにまた立ち上がった。

 皮膚を大きく裂かれる。鋭い痛み。だが、立ち止まりはしなかった。

 倒れる度に立ち上がり、傷つく度に速度を上げ、クロードはオルタナのもとへと走った。

 凄い……!

 降り注ぐ刃の豪雨の中で走り続ける自分の弟の姿を見ながら、モネは場違いにも感動を覚えてしまった。

 口では言語化した術式を呟き、手はせわしなく動かし空間に図形を描きいくつもの剣を炎によって生成し、射出していく。飛んでいく剣は豪雨の一つに当たると再び炎へと姿を変えて周囲のいくつもの雨を同時に吹き飛ばす。そうすることで弟の走る道を作るが、しかし残念ながらそれは完璧な道ではなかった。刃の数が大きすぎる。そしてそれ以上に密着しすぎている。本気を出せばあの程度の豪雨はすぐにでも全てを一瞬で蹴散らせてしまえるが、そんなことをしたらクロードまでも巻き込んでしまう。

 歯がゆいですわね。

 今の自分にできるのはあくまでも手助け。クロードが自ら走る道を作りだすための手助けしかできない。そのことに多少の悔しさを感じながらも、しかし思考は視界の中で駆けまわる弟の動きに徐々に奪われていく。

 吹き飛ばされても立ち上がり、傷を受けても止まらない。その鬼気迫る覚悟こそを最初モネは凄いと思っていた。それだけの精神力が今の彼の動きを支えているのだと思っていた。だが、それは少し違かった。クロードを見ていれば、その違いはすぐにわかった。

 段々と、クロードは吹き飛ばされる回数も、攻撃をかすめてしまう頻度も明らかに減っていっているのだ。滅茶苦茶に飛来する刃の豪雨。勢いを増すばかりのその攻撃をクロードは確実に避けられるようになってきているのだ。

 まるで雨の方がクロのことを避けているよう……。

 そう思う程にクロードの動きは洗練されていくのだ。徐々に、防衛機能の動きに対応していっている。

 この時のモネにはクロードが段々と豪雨を避けられるようになっていった理由まではわからなかった。わかるはずもないだろう。クロードが取った手段は普通に考えて常軌を逸したものだったのだ。しかしその手段事態は何も複雑なことはない。ただクロードは全て覚えたのだ。飛来する武器の速度、一緒になって落ちてくる他の武器と比較して出した相対的なその〝速さ〟を一つ一つ、確実に全て記憶した。そうすることでクロードの頭の中には様々な比較によって生まれたいくつもの〝速さ〟のデータが蓄積されていく。それらを統合し参照し、クロードは更に細かな比較を作りあげた。結果、刃の豪雨に対するクロードの予測は、攻撃を受ければ受けるほどに正確になっていった。

 だからこそクロードの動きは徐々に洗練されていく。一撃を貰うごとに、データは増え、その後の行動から一切の無駄が省かれる。

 機械よりも正確に、機能よりも確実に、クロードは己の肉体や思考を制御し動きを作った。

 モネが感動すら覚えた彼の動きは、そんな果てしない記憶の果てにあったものだったのだ。

 だがしかし、正確だったはずのクロードの動きに一瞬だけ乱れが起こる。ともすればただの偶然かと思うような、ほんの一瞬だけの乱れだった。しかしすぐにそれが偶然ではないとモネは気づく。一瞬の乱れは連続し、徐々に徐々に豪雨がクロードの動きを捕らえていく。その雨の動きは少し妙であった。今までのようにただクロードを殺そうと降り注ぐようなものではなくなっているのだ。正確無慈悲な攻撃の中に、時々どうしてだか意味や理屈の通らない動きが混ざるようになってきているのだ。

 まるで、クロの動きを邪魔するような……命よりも傷をつけるよりも先に、動きを乱そうとするような感じではありませんの。

 防衛機能が学習をしたのだろうか。いや、それにしても雨の動きはおかしいとモネは感じた。そして少しだけ視線を上げれば、その違和感の正体に目を奪われる。

 オルタナがクロードを見ていたのだ。自分に向かって走ってきている彼の姿をオルタナは真っ直ぐに見つめていた。敵意と、憎悪と、それ以上の恐怖を孕んで目で。

 まさか、防衛機能にオルタナが介入していますの!?

 先程、防衛機能はあくまでもオルタナの意思をは関係なく働くものだが、しかし場合によってはある程度の制御は聞くのだと彼女自身が語っていた。事実、この部屋にきた自分達がすぐに防衛機能によって襲われることのないように彼女は少しだけ我慢をしていた。きっと今はそれと逆のことをしているのだ。

 防衛機能を止めるのではなく、むしろその背中を押すような行為。自ら忌むべき機能に対してオルタナが手助けを始めたのだ。機械的な反応しか示さないはずの機能に人の手が加わった。裏を読み、思考を読み、心を傷つけんとする意志が加わったのだ。

 またクロードが吹き飛ばされた。今度は今までよりもさらに強く、大きく彼の体が宙を舞った。クロードの瞬間的な記憶によってなされていた動きは、オルタナの介入によって完全に意味を失くしていた。

 このままじゃ、クロは負けてしまいます!

 弟の力を信じていないわけではない。ただ、さっきまでが上手くいきすぎていた。現状のクロードとモネの動きでは、オルタナの意思という不確定要素を受け止められない。

 倒れたクロードにいくつもの刃の雨が降る。それらを何とか排除しようと剣の数を増やし応戦するが――――

「ああ!」

 思わず叫ぶ。失敗したのだ。刃を退けられたのはよかったが、爆発の勢いが強すぎて倒れていたクロードまで巻き込んでしまったのだ。直撃ではないものの、爆風の衝撃でさらにクロードは転がった。しかし彼はその勢いを利用して立ちあがる。まだ、諦めていないのだ。クロードはオルタナから視線を外さない。

 すると、再び走り出したクロードが妙な格好を取った。両手を思いっきり後ろへ回し、手のひらをこちらへ向けて開いているのだ。その状態で、先程までと変わらぬ速度で走っている。どう考えてもおかしい。あんなに走りづらそうな格好は他にない。しかしクロードはその姿のまま、前へと進む。

 ――――直感はすぐにやってきた。クロードが無駄な行動をとるはずがないという信頼。そして何より彼が諦めていないという現実が、まだ何か策があるのだということをモネに理解させた。そしてこちらへと突きだされた手のひら。まるで何かを待っているかのようなその腕を見ればすぐに理解できた。それでも、クロードが赤の他人であったならこの直感は訪れなかっただろう。戦術に疎い自分がこうして勘づけたのはクロードが自分の弟であったから。

 この信頼も、以心伝心も、姉弟だったからこそできたこと。

 ああ、本当にクロの姉でよかった……!

 この状況に似つかわしくない優しげな笑みを浮かべならが、モネはクロードに向かって生成した剣を発射した。

 走るクロードは、その妙な格好はそのまま、速度もそのまま落とすことなくちらりと視線だけで後ろを見る。そこにはモネが生成した剣が二振り、自分の体目がけて飛んできていた。それは自分が期待した通りの光景だった。ただ両手を後ろに伸ばす、それだけの合図でモネはクロードの想いを完璧にくみ取り実行してくれたのだ。それはきっと、姉弟でなければできなかったこと。

 ああ、本当に姉さんの弟でよかった……!

 後ろへと伸ばされたクロードの両腕、その手のひらにモネの剣が到達する。飛来する二振りのそれをクロードはぐっと握る。剣の柄がクロードの手にすっぽりと収まった。剣は切っ先からではない、柄の方をクロードに向けて発射されていたのだ。それでも少しでもタイミングを間違えれば刃を握り込んでしまわないとも限らない。しかしクロードは飛来する剣を見ることもなく握った。そのタイミングにモネが合わせてくれることを信じていたのだ。

 信頼は現実となった。クロードは手にした二振りの剣をそのまま前へと突きだす。鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が響く。モネから受け取った剣でクロードが飛来する刃の雨の一粒を叩き落としたのだ。

「…………!」

 決して外さない視線の先、オルタナが驚愕の表情を浮かべる。刃の雨の一つ一つは魔術的な強化をされた一撃だ。それをモネによって生成された剣を使ったとはいえ、強化魔法を使えないクロードが叩き落としたことに驚いているのだ。

 正確に言えば、クロードは刃を叩き落としたのではなく、その進行方向を変えただけだ。魔術的強化のされた一撃と真正面から戦って勝てるだけの埒外な筋力は魔人でもないクロードにはない。しかし、防衛機能によって発射される刃の攻撃はとても単調だ。それはつまり、その力の方向も単一であり、対処がしやすいということでもある。今はオルタナの介入によって飛来のタイミングは単調さを失くしているが、力の方向まではオルタナも介入できていないようだった。というよりは、それをやろうという発想さえ浮かばないのだろう。彼女は魔法であり、武器であり、城でしかない。彼女自身は決して兵士でも戦士もないのだ。今まで、防衛機能のおかげで矢面に立って自分で戦うことだってできなかったはずだ。だから彼女にはクロードが何をしたのか、その本当の動きを理解することが出来ない。下手をしたら、刃を叩き落とすだけの筋力がこちらにはあるのだと勘違いをしているかもしれない。

 どちらにせよ、好都合だ……!

 こちらの手が読まれない内に、彼女のもとへ到達するべくクロードはさらに速度をあげる。当然、刃の雨は途切れることなくこちらに降り注ぐ。オルタナによってタイミングのずらされたそれらをクロードは持ち前のデータを持ってしても完璧に避けることはできなかったが、避けきれない分はモネが魔法によって弾いていくれる。それでも漏れてしまったものはクロード自身がモネから受け取った剣を持って迎撃した。

 剣の腹を飛来する武具に横薙ぎに叩きつけ、弾く。両の腕を何度も何度も振り回し、飛来する刃の雨をいくつもやり過ごす。その間も決して足を止めることはなく、オルタナに向かって走り続ける。

 走る。走る。

 降り注ぐ雨の間をすり抜ける。

 降り注ぐ雨をはじき、走る。

 走る。走る。

 だけど、オルタナには届かない。

 気が遠くなるような距離を走っているようにも思える。

 それでも、オルタナには届かない。

 そこでクロードは確信する。

 間違いない、今こうして走っている間にも僕とオルタナの距離は遠ざかっている。

 クロードが走るよりも速く、オルタナとクロードの距離は遠くなる。それはまるで自分とオルタナの心の距離を暗示しているようで、クロードはキュッと心が痛くなる。走れば走るほど、近づけば近づくほど、距離は遠ざかる。彼女の心が遠くなる。

 それでもクロード・ルルーは諦めない。

 走ることを止めない。手を伸ばすことを止めない。彼女を見つめることを止めない。

 驚きと、怒りと、憎しみと、それらを覆い尽くす悲しみとでいっぱいになった彼女の顔から目を逸らさない。もう忘れないように、もう逃げないように、走る。走る。

 手にした剣が折れた。度重なる衝撃に耐えきれなくなってしまったのだ。刃の折れた剣の柄をクロードは躊躇なく捨てた。すると、柄を捨てるために開いた手の平にまたすっぽりと別の剣の柄が握られた。モネの仕業だ。剣が壊れた瞬間、また新しい剣をクロードに向かって射出したのだ。たった一瞬で折れた剣を新しい剣に持ち替えたクロードは再び降り注ぐ刃の雨を手持ちの剣で迎撃する。

 また剣が折れた。すぐに新しい剣が届けられるが、その剣もまたすぐに折れてしまった。刃の雨の攻撃の頻度が増えている。それだけじゃない、一撃一撃の威力までもにわかに上がっているように感じる。モネから受け取った剣は殆どたった一振り、一度豪雨をはじくだけで壊れてしまった。しかし戻す腕で二の剣を振るう頃にはすでに新しい剣がクロードの手には握られている。

 剣は振るう度に砕け、刃の破片でクロードはその体にいくつもの傷をつけた。

 だがクロードは止まらない。

 走る。走る。

 前へ。前へ。

 降り注ぐ刃も砕ける刃もものともせず、その歩みは決して止まらない。

 だけど、オルタナには届かない。

 激しさを増す攻撃にクロードは確実に対応し、進んでいく。

 その歩みは決して止まらない

 それでも、オルタナには届かない。

「やめ、てよ……」

 オルタナが呟く。今までで一番、悲しそうな顔をしている。

「やめてよ! もうやめてよ!」

 嫌だ。

「来ないでよ、諦めてよ!」

 絶対に嫌だ。

「もう、もういいじゃない!」

 よくない。

「あんたがそんなになって、そんなに傷ついてまで戦う必要なんてないじゃない!」

 あるよ。あるはずだ。

「……なんで、なんでよ。なんでそこまでして――――」

「――――君が好きだから! 僕はオルタナが好きだから!」

 たまらず、叫ぶ。声を上げてしまったせいで、少しだけ反応が鈍くなって刃が頬をかすめたけれど、構わなかった。

「オルタナが大好きだから、死んでほしくないから、僕がここまでする理由はそれだけだ! これで全部で、これが全てだ!」

 見つめる。手を伸ばす。届かないけれど、必死になって伸ばした。

「好きだ、オルタナ。帰ろう。一緒に帰ろう!」

 オルタナの表情から悲しみが消えた。変わりに現れたのは、絶望にも似た自己嫌悪の色だった。その色をクロードはよく知っている。自分がいつも、抱えているものだからだ。

「違う……私にはそんな風に思われる資格なんてない。私は、あんたが思っているような奴じゃない。あんたが好きになった活発で、皮肉屋で、小悪魔じみたオルタナなんてどこにもいない! 本当の私は人が嫌いで、世界が嫌いで、何にも好きなれないつまんない奴なの! 自分のことも好きになれない。嫌いなものしか持っていない、小さくて卑しい生き物なのよ!」

 だからそんな風に想ってもらえる資格はない、と彼女は叫ぶ。

 それに応えるかのように、クロードも叫ぶ。

「うるっっっっっせぇなああああああああ!」

 心の底から、叫んだ。

 うるさい。うるさい。

 そんなことは、どうでもいい。

「僕は言ったぞ!? 何度も言った! 君が好きだって、何度も言った! それはつまり全部好きってことなんだ! その悲しみも、絶望も、自己嫌悪も、何もかも全て君が持つ全部が好きなんだよ! つまんないオルタナも小さくて卑しいオルタナも、君の嫌いも全部好きなんだって、さっきから僕はずっとそう言ってるじゃないか! いい加減聞き分けろよ! いい加減答えてくれ!」

 オルタナはもう何も言わない。ただその二つの目で必死にこちらを見ている。何かを測るように見ている。他の人間と区別すらつかないはずのクロードの姿を、きちんと見ていた。

「もう一度だけ言うぞ、オルタナぁ!」

 喉が枯れるほど、あらんかぎりの声でクロードは何度も繰り返してきた言葉をまた叫ぶ。

「僕はオルタナが好きだ! クロード・ルルーはオルタナのことが大好きだ!」

 ――――距離が、近づいた。

 今まで、近づけど近づけど、遠ざかっていくばかりだったオルタナとの距離が、目に見えて縮まった。あんなに遠くに見えていたオルタナの姿が、あとほんの少しの距離まで近づいていた。クロードの想いが、心が、彼女へとようやく届こうとしていた。

 しかし、オルタナに近づいた分だけ豪雨の勢いも増していた。それはまるで圧倒的な質量を持った鉄の津波のようだ。一つ一つが用意にクロードの体を引き裂いてしまう威力を持った武具が壁となって迫りくる。

 近づけば近づくだけ、拒絶は強くなる。

 ああ、まるでオルタナの心のようだとクロードは思った。三百年を生きた彼女の、とても小さな、弱い心のようだと思った。

 拒絶へ、クロードは立ち向かう。

 歩みは止めない。

 手にした二振りの剣を前方へと投擲。それは圧倒的な武具たちの壁に簡単に弾かれてしまう。

しかし、防衛機能らしい規則的に並べられた武具の壁に、今の一撃のおかげで〝揺らぎ〟が生じた。突くべき隙を作り出したのだ。

 手を伸ばす。掴んだのはオルタナではない。彼女へはまだあと少しだけ、届かない。クロードが掴んだのはこちらを殺そうと降り注ぐ刃の豪雨のうちの一滴。この城が作り出した剣をクロードは手に取ったのだ。当然それは飛来する勢いを持つ武具だ。正面からは受け止められない。剣の柄を手に取ると、クロードは大きく円を描く動きを持って、後ろへと流れていく力を自身の前方へと流した。先程、モネの剣を使ってやっていたよりも優しく、精密な動きを持って力の方向を変えたのだ。

 前へと向けられた力はそのまま、クロードに飛来する他の刃を砕く結果を生んだ。その衝撃で、手にした剣も壊れてしまう。だが恐れることはない。剣を振った手とは別の、もう片方の腕にはすでに他の武器が握られているのだから。

 その武器もまた、飛来する刃と一緒に砕けてしまう。

 砕けた武器は捨て、すぐにまた新たな武器を手にした。

 振るう武具に困ることはない。何故なら、今彼に飛来する刃の豪雨、その一粒一粒が彼の武器足りえるからだ。

 次々と武器を持ちかえ、迫る刃を砕いて進む。

 気づけばすでにモネのサポートは無くなっていた。ここまでの質量を持った鉄の壁相手では、彼女の魔法はクロードを傷つけずに対処することができないだろう。それをわかっているから退いたのだ、とクロードは自らの動きを制御する頭の片隅で考える。本当はそれ以上に、クロードのあまりに正確無比な動きに魅せられて手を出すことが出来なかったというのが、モネが動きを止めた大きな理由だった。

 密集する鉄の中、クロードは己の力だけで前へと進んでいた。襲いくる武具をそのまま自分の力に変えるという、とんでもない方法で。

 剣を持ち、槍を持ち、斧を持ち、槌を持ち、楯を持ち、あらゆる武具をめまぐるしく持ち替えて飛来する刃を砕く。

 進む。進む。

 前へ。前へ。

 全身が悲鳴を上げている。もうしばらく呼吸をしていないように思える。

 腕を振るう。鉄が砕ける。心は砕けない。

 粉々になった刃のシャワーをその身に浴び、いくつもの小さな傷をつくり全身から血を流しながら、進む。

 前へ。前へ。

 距離が、さらに近づいた。

 踏み出す一歩は確実にオルタナとの距離を縮めている。

 もう遠く、離れていくことはなかった。

 一歩を踏み出す度、豪雨は勢いを増す。

 それに合わせて、クロードの動きも激しさを増していった。

 身体が酷く熱い。胃袋の中から、熱した鉄が生まれてきそうな感覚を覚えた。

 止まらない。止まらない。

 前へ。

 豪雨が、途切れた。

 天井を埋め尽くしていた武具たちは、既にもう一つとして残っていない。全て砕かれ、無残な姿で床に落ちている。

 雨は止んだ。すでにクロードとオルタナを遮るものは何もない。

 ――――前、へ――――

 小さな階段を駆け上がる。三歩もあれば充分なその距離がどうしてだか、今までで一番遠いように感じられた。

 彼女の姿が、いっそう近づく。彼女をまっすぐに見つめるけれど、その表情を見ることはできなかった。ぼやけてしまって、よく見えないのだ。

 雨は止んだ。しかし今度はクロードの瞳にだけ滝のような雨が流れる。

 全てが繊細な光のようになった視界の中で、オルタナの鮮やかな金色だけが綺麗に輝いていた。狂おしいほど渇望したその光に手を伸ばす。彼女を想い続けて、彼女を見つめ続けて、ようやく彼女に手が届くところにまで来れて――――少年は金色の少女をその両腕で抱き寄せた。


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