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「何も知らないくせに」

 たいした考えがあったわけではない。これ以上は、アルフレッドに任せておこうと、そう思っていたはずだった。

 だけどモネは我慢ができなくなって、黙っていることができなくなって、声を上げてしまう。

「…………勝手ですわ」

 勝手なのは、どっちだろう。国の都合の前に、オルタナの想いを優先させた自分の方こそ勝手な騎士だ。

「何も知らないくせに……」

 知っていたら、何か変わったのだろうか。少なくとも、彼女の想いを知りながら今日まで何もできなかった自分は本物だ。

 勝手なのは自分だ。何もわかっていなかったのも自分だ。

 だけど、それでも――――

「勝手な言葉で、あの子のことを語らないでください!」

 言わずにはいれなかった。怒らずにはいられない。

 だって、二人とも正しいとか、正しくないとか、そんなことばっかりですわ。

 正しければ、それでいいのか。

 間違っていたら、それは悪なのか。

 オルタナの願いは、そんな風に語られていいものなのか。

 それにモネは『いいえ』と答える。

「人の願いなんですわよ? あの子が望んだ、たった一つの儚い願い。それを、そんな言い訳のように語って欲しくありませんわ」

 アルフレッドは固まったように動かない。

 クロードはじっとこちらを見ている。

 その視線に少しだけ居心地の悪さのようなものを感じながらモネは続けた。

「それに、二人ともオルタナから直接願いを聞いたわけじゃないじゃありませんの。あの子の願いの重さを、目の当たりにしたわけじゃない…………」

 目を瞑れば、鮮明に思い出せる。城の中、閉じ込められた少女の激情がありありと。

 殺して。殺して。

 オルタナの存在を知ってから、モネは何度も彼女に会いに行った。自由のない彼女とすることと言えば、他愛もない会話くらい。その中でオルタナは時折、叫びだす。私を殺せ、と叫ぶのだ。

 殺して、殺して、殺しなさいよ。私を殺しなさい。

 普段の彼女の様子からは考えられないような金切声で、あらんかぎりの大声で叫ぶ。

 癇癪か、それとも発作と言った方が適切かもしれない。彼女のもとへ訪れた瞬間に、なんてことない話の途中に、自分が弟の自慢をしている時に――――彼女は本当に突然、なんの脈絡もなく叫びだした。

 殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。

 もうこれ以上は耐えられないと言っているようだった。きっともう彼女にとっては生きることすら、強制される責め苦でしかなかったのだろう。

 殺してください。お願い、お願い。なんでもするから、なんでもしますから。お願いだから私を殺してください。

 最後はいつも懇願だった。何も言うことのできなくなっているモネに縋りついて、オルタナは涙を流して頼むのだ。

 私を殺してください。

 その声は掠れるような小ささだった。疲れたからそうなっているのではない、本人は大声を出しているつもりなのだ。しかし度重なる絶叫に喉を傷つけそうなり、防衛機能が発動。大きく声を発することを制限されているのだ。次第に声は小さくなり、最後には聞こえなくなる。普通に話すことすら、防衛機能が制限してしまう。

 いつも、いつも、懇願のあとに訪れるのは少女のすすり泣く音だけ。

「わかるんですの? 自分から殺してくれと懇願する女の子の気持ちが――」

 もう生きることすら苦しみに変わってしまった人の気持ちが。

「わかるんですの? 自ら舌を噛んで、死ぬこともできない女の子の気持ちが――」

 あらかじめ定められた機能によって、無理やりに生かされている人の気持ちが。

「どんなに暴れても、その体に傷をつくることすらできないあの子の気持ちが、二人にはわかりますの!?」

 わかるはずがない。だって、何も見ていないのだから。

 彼女の叫びを聞いたのは自分だけなのだから。

 オルタナが、殺してくれと頼んだのは自分だけだったのだから。

「わたくしにはわかりません。あの子の苦しみをきっとわかってあげられませんわ。だけど、そんなオルタナを見て『殺してあげなくちゃ』と思いましたのよ。この気持ちは、正しさや偽りで語れることですの? わたくしの中で渦巻くわけのわからない感情は、言葉で語って、それでどうにかなるものなんですの!?」

 モネは叫んだ。殺してくださいと、自分に縋った友達のために。その代わりを果たすかのように。

「もう、殺してあげましょうよ! これ以上、あの子を傷つけないように、殺してあげて……それでいいじゃありませんの! まだ何かあるんですの!? まだあの子を苦しめるつもりなんですの!?」

 それでいいじゃないか。もういいじゃないか。

「――――終わりに、しましょうよ」

 殺して、終わり。それで全てが終わる。

 彼女が過ごした三百年が、この国が背負ったものが。

 オルタナの苦しみが、終わる。

 それは何より、モネの苦しみの終わりも意味するのだ。

「…………」

 モネとオルタナ。二人の間にだけあった真実を知り、そのことにモネが苦しんでいたことを知り――――クロードの決意はむしろ強くなった。

 殺してあげなくちゃ。

 モネがそう思ったように、クロードもまた思うのだ。

 助けてあげなくちゃ。救ってあげなくちゃ。

 二人を守ってげなくてはと、クロードは思ったのだ。そんな力が自分のどこにもないことを知りながら、しかし強く思いを決める。

 自分はまだ、退いてはならない。

「……聞いたかよ、クロード」

 アルフレッドはしばらく放心したようにモネを見つめていたが、なんとか自分を取り戻したようだった。やはりそこは一国の王。今やるべきことが見えている。

「これで本当に、話は終わりだ。モネの言う通り、俺様たちはオルタナを……殺してあげるんだ」

 アルフレッドの声はどこか絞り出すようで、クロードはそれに違和感を覚える。その言葉の裏には何かが隠されているような気がした。だがそれを気にしているだけの余裕は今の自分にはない。退かないと決めたのだ。だからクロードは契合することなく、アルフレッドに睨みつけるかのような視線を送った。

「…………納得できないか? まずそもそもお前の意見には具体性がないんだぜ。オルタナを助けるっつったって、お前はどうするつもりなんだ?」

 そこまで言って、アルフレッドは首を横に振った。

「いや、そうじゃねぇな。そうじゃなくて、お前は自分の姉がここまで主張しているのに、それに応えてやろうって気は起きないのかよ。モネの気持ちは置き去りか? オルタナの気持ちも、誰の願いも無視して、てめぇだけの目的が叶えばそれでいいってのかよ」

 王の言葉には少なからぬ怒気が含まれている。都合の良い理屈を並び立てるクロードにうんざりしているのか、それとも彼もまた殺してあげなくちゃと、そう思うようになったのか。

「終わりだよ、クロード。もう終わりだ。終わりにしよう」

 いや、終わらせない。

 言葉は自然と溢れた。

「まだですよ、国王様。僕はまだ、三つ目の疑問を提示していない!」

「てめぇ! この期に及んでまだ続ける気か!」

 今にも飛び上がりそうなほどアルフレッドは体に力を込めて前のめる。その気迫に圧されそうになりながらも、クロードははっきりと宣言した。

「続けますよ! 諦めてたまるもんか。いくらでもあがき続けます。もがいてみせます」

 救いたい人がいる。守りたい人がいる。例えその人の持つ大事な何かを踏みにじったとしても、一緒にいたい人がいる。

 だからクロードは諦めない。己の欲のため、望んだ結末へ至るためにクロードは戦うのだ。

「それに、僕が守りたいのはオルタナだけじゃない。姉さんもなんだ」

「わたくし、ですの……」

 なんのことだがわからず、モネは怪訝な表情を見せる。

「そうだよ、姉さん。さっきも言ったじゃないか。姉さんはオルタナを殺して、それでいいの?って」

 答えは簡単だった。そんなことは聞かなくてもわかった。

「いいわけない。姉さんはオルタナを殺して、それでオルタナは救われるかもしれないけど、だけど姉さんが救われない。自分の手で友達を殺したら、姉さんは傷ついちゃうよ」

「あ、あなたにどうして、そんなことがわかるんですの!?」

「わかるよ。だって僕らは姉弟じゃないか」

 その言葉にモネはどうしてか、クロードから視線をそらした。

「オルタナのことはわからなくても、姉さんのことはわかる。姉さんはオルタナを殺しちゃ駄目だ。そんなことをしたら、明日から笑えなくなってしまう。――姉さんがそんな顔をしている限り、僕は絶対に諦めたりなんかしないんだよ」

 それだけ言って、クロードは視線をアルフレッドに戻した。言うべきことは言った。伝えられるだけのことは伝えたと思う。あとは彼女次第であり、また自分次第でもある。

 そう、ここまでは予想通り。クロードが最初に予期した通りの展開だった。

 ここからだった。ここからが、クロードの本当の戦いだ。

「三つ目の疑問を提示させていただきます」

 三本の指をたて、己に注目を集めさせながらクロードは告げた。

「これもまた単純な疑問です。どうしてオルタナは、己の意思で自らの術式を発動させることができたのか。それが三つ目の疑問です」

 アルマ=カルマの発動には厳しい制限がつけられている。それは天才魔術師ファウストによって施された逃れられない枷だ。だがオルタナはその枷に縛られていない。彼女は自分の意思で魔法を発動させている。

「このことについて、国王様はどうお考えですか?」

 アルフレッドに尋ねるが、しかし答えはすぐには帰ってこなかった。アルフレッドのクロードに対する警戒はさらに強められたようだった。足を取られぬよう、慎重になっているのだろう。アルフレッドはしばらく黙っていたが、そのままというわけにはいかない。変則的だが、この論争はクロードとアルフレッドの名乗りから始まった決闘だ。自らの誇りにかけて、アルフレッドはクロードに応えなければならない。

「どうだろうな……。実際、アルマ=カルマにはわからないことの方が多いんだ。ここで明確な判断はできないだろう。現時点の情報では、矛盾してはいる」

「はい。その通りです。アルマ=カルマの制約、それにオルタナは矛盾している。いや、矛盾できていると言った方がいいでしょう。彼女は今、僕らの知らない理で動いている」

 だが、とここでクロードは一層強い口調で告げた。

「一つだけ、確かなことがあります。絶対に確信の持てることが一つだけ」

「絶対? 確信? この状況でそう言い切れるものがあるってのか」

「あります。僕とオルタナの契約はまだ切れていない。それが絶対に確信を持って言えることです」

 そう言って、クロードは自分の服をはだけさせ、その胸元を空気に晒す。そこにあったのは見たこともない図形の刻まれた胸だ。その性質から術式だということはわかるが、それが一体どんな法則に基づき作られたものなのかは全く見当がつかない。円卓の誰もが驚きの表情を見せている。ここにいる隊長格ですら、どんな術式なのかわからないのだ。

 それは理解の及ばぬもの。しかしクロードにとっては、自分とオルタナを繋ぐ、唯一の道しるべだ。

「これはアルマ=カルマとの契約の証です。僕とオルタナが契約した時についたものだ。これがまだ失われていない。つまり、僕とオルタナの契約はまだなくなったわけじゃない。今もあの子は契約に縛られていなくちゃいけないはずだ」

「だけど、その理由はわからないんだろ?」

「わからないだけで、理由はあるはずなんです。契約に縛られない方法を彼女は知っていた。そして縛られない方法があるのなら、もう一度縛る方法もあるはずだ」

「待てよクロード。まだお前とオルタナの間に契約が生きているというのなら、その契約をこちらから終わらせることもできるんじゃないのか? そうすれば、魔術の発動に契約を必要とするアルマ=カルマの制約によって、浮遊城は消えるんじゃないのか?」

「それはできません」

 クロードはすぐさま否定する。嘘ではなかったが、それを簡単に信じるつもりはアルフレッドにはないようで、彼は視線をすぐにモネへと移した。王の意図を察したモネは答える。

「クロの言うことに嘘はありませんわ。二人の契約は血液の交換と相互詠唱による返し歌で行われましたの。血液の交換は魂の交換、心臓の交換に次ぐほどの強い契約方式。それに相互詠唱も織り交ぜています。ただでさえ難解なファウストの術式によって行われていますわ。そこいらの契約を解除するようにはいかないかと。契約の途中破棄による代償を無視したところで大聖堂に魔法師を百人単位で集めないことには――」

 契約の解除は不可能だと、モネはそう宣言した。二人の契約の瞬間を間近で見ていたモネの言葉だ。アルフレッドもそれを疑うことはなかった。

「わかった。契約の解除は不可能。そしてクロード、お前は縛られない方法があるのなら、縛る方法もあるはずだと言うんだな? なら、その方法とはなんだ?」

「それはわかりません」

「随分と無責任だな」

「ですが、だからこそ確かめる必要があるのだと考えます。オルタナを救う可能性があるかもしれないのなら、それを確認しないわけにはいきません。可能性を無視して捨てることは価値ある命を殺すことに他ならない」

「そもそもオルタナが死にたがっているんだということを覗けば、筋の通る弁ではあるな。なら、その確認とやらはどうするつもりだ?」

「僕が直接、オルタナに会う。現状、それしか方法はないでしょう」

 さらりと述べられたクロードの言葉にアルフレッドは一人だけ大きく反応した。そのことに他の面々も驚いていたが、それすら気にならないほど彼は焦りを見せていた。

「直接、お前がか……?」

「はい。それしかないと、そう思うのですが……それとも国王様は他に何か妙案がおありなのでしょか?」

 頬が少しだけ緩んだ。それはクロードにしては珍しい、得意げな笑みというやつだった。

 よかった、辿りついた。

 まだ目的に至ったわけじゃない。だがそれでも、目標は達した。この位置こそ、この到着点こそクロードが目指していた論争の果てだったのだ。

「は、はははははは!」

 王が笑う。どこか乾いた笑いだ。声をあげて笑っているのに、その表情は全く笑みを浮かべていない。むしろ悔しそうに眉間にしわを寄せている。

「アルフレッド……?」

 モネが心配そうに名を呼んだ。そこでようやくアルフレッドは笑うのをやめ、その表情と同じ重苦しい響きを持った声を発する。

「やってくれたなクロード。つまり、そういうことか」

「あの、アルフレッド? いったいどういうことですの? わたくしにもわかるよう説明してください」

「何、簡単なことさ。クロードははなからこの場で白黒つけるつもりなんてなかった。ただそれだけのことだ」

「えっと、すみません何が何やら……」

 困惑するモネ。自らを落ち着かせるという意味も込めてアルフレッドは深く息を吸って、それから語った。

「今、あいつが望んだことはモネと一緒に、オルタナのもとへ行くこと、それだけだ。この意味がわかるか? オルタナを殺す殺さないの結論は置いておいて、とにかく自分を連れて行って、オルタナを救えるのかどうか試そうってことだ」

 言って、アルフレッドは視線をクロードに移す。

「はなから勝つつもりも、まともな勝負をするつもりもなかった。クロード、お前はとにかくモネと同じ位置に上がってくることを目標にしていた。とにかく同じ壇上へ上がろうと、それだけが目的だったんだな」

「それだけってわけではなかったんですけどね。状況によってはそれ以上も望むつもりでした」

 ただ、それがクロードが譲れる最低ラインだっというだけの話だ。

 自分が圧倒的に不利なことはわかっていた。だから正面から勝負をしているようで、クロードは見当違いな主張を並べて会議を混乱させた。疑問の提示も最後の一つ以外に大した意味はない。場を荒らし主張を荒らし、最後にここに辿りつくための布石だ。勝ち負けではなく、己をオルタナの生殺与奪の場にねじ込むこと。オルタナの殺害、または救済の場に、手の届く位置まで近づくこと。

 決闘は難航を示していた。今、流れはどちらにも来ていない。圧倒的に不利な条件を抱え込むクロードが勝負できるのはここだけだったのだ。

「モネにくっついてオルタナのところまで行って、そのあとどうするかも考えてあったりするのかよ」

「さすがにそこは出たとこ勝負ですよ。ただ僕が行かなければ、オルタナを救い、姉さんを救い、この国をも救う可能性はないということです」

 何もかも全てを救う。一見夢物語のようなその可能性はクロードがオルタナと邂逅しなければないのだと、そう主張する。それに対して、アルフレッドは首を横に振った。

「見事だよ。お前の論争に対する姿勢、正直負けを認めてもいいくらいだ。だが、お前がついてくることを認めるわけにはいかないな」

「救えるかもしれないと知りながら、見捨てるんですか?」

「メリット、デメリット。利害の強弱だよ」

 利益と害悪。そのバランスだとアルフレッドは語る。

「国ってのは結局のところ組織でしかない。大のために小を捨てなくちゃならない時もある。それくらいはわかっているだろ? 勿論、救えるものは救うべきだ。そのための可能性の模索もしなくちゃならねぇ。だが、その模索を行うために抱えてしまうデメリットが大きすぎるんだ」

 二つだ、と王は言う。

「クロードを戦場へと連れ出すデメリットは二つある。一つはクロード、お前が完全な国の味方ではないという事実だ。今のところ、国の意向とお前の意向は真正面から対立している。そうじゃないとお前は言うが、だが実際お前は俺様に意を唱える立場だ。それ自体は構わないぜ。不平不満を口にするのも民の仕事だ。だが正面から対立する相手を国の命運を左右する場に連れていくわけにはいかない。お前がオルタナのために行動する分にはいい。だがその過程に国を脅かす行為が発生しない保証はない」

 アルフレッドの言にクロードは反論をしない。ただ黙って聞いていた。

 今ここで声を出すのは得策じゃない……。

 アルフレッドの口調は穏やかでこちらを諭すような言葉でもある。それに強く反抗してしまえば、ますます国の敵対者である印象を強めてしまう。それはクロードの立場を危うくする。

「もう一つは単純な問題。クロード、お前の弱さだよ。お前はロウを倒し、この場に力を示した。だがそれだけじゃああの浮遊城に対抗するにはあまりにも心もとないっていうのは、わかるよな。それにロウとだって、お前はもう一度戦って勝てるのか? お前はロウを倒したが、だけどそいつはロウよりも実力があることの証明じゃない。たまたまだとは言わねぇさ。あの戦いはお前の計算、そして努力を積んだ結果の勝利だ。それ自体は誇っていい。だがそれじゃあ足りないんだ。例えたまたまがあったとしても、お前はここにいる隊長格には勝てないんだからな」

 有無を言わせぬその断言はアルフレッドの部下に対する正当な評価の表れだろう。それに対しても反論はしなかった。副隊長格には勝てても、隊長格には決して勝てない。その事実はクロードこそよく知っていた。

「お前の弱さはモネの枷にしかならない。足を引っ張ってしまう。そのためにモネが傷ついたらどうする? 相手は青騎士でして勝てないと言わせた竜の軍勢だ。もしもモネが死んでしまったら、この国の損害は計り知れない。――――お前を連れていくことによって発生するデメリットは以上だ。他にも上げられないこともないが、今のところ大きなものはこの二つ。二つだけだが、決して無視はできない大きさだ」

 クロードの立ち位置。そして弱さ。その二つがクロードをモネと一緒に行動させることを阻害する要因だった。

「オルタナを助けるのか助けないのか。その問題は棚上げし、とりあえずオルタナを救えるかどうかを試すっていうお前の案は……完璧ではないがまあ及第点だ。だがそれを実行するためには少なくともこの二つのデメリットを打ち消すか、それを超えるだけのメリットを持ってこい。利害の強弱を逆転させて見せろ。そうでなければ、俺様も折れるわけにはいかねぇよ」

 メリットを提示しろ。俺様を納得させてみせろ。

 アルフレッドはクロードの相対に正面から受けて立つつもりのようだった。その姿勢はむしろクロードにとって都合が悪い。圧倒的に不利なこの状況を打破するだけの利益をクロードは挙げることができなかった。いや、全く浮かんでいないわけではないのだ。だがそれはクロード自身が主張しても効果は薄れる。

 まず何を言うべきか。次をどう切り出すか。必死に思考するクロード。だがその横で思わぬ人物が声を上げる。

「そのメリットとやら、あたしに主張させてくれないかね」

 そう言って――――リリアーヌ・ローランは手にした煙管でカツンと机を叩いた。


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