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冷え切ったコーヒー

読んでいただき、ありがとうございます!皆さんが評価してくれることがとても励みになっています!今まで、更新が遅くご迷惑をおかけしました。これからもよろしくお願いします!

そこは商店街の端にある小さなカフェだった。

以前散歩に来たとき、私も見たことがあった。

柏木の話だと、よく来るらしい。祐君も部活帰りに来たことがあるとか。

人はまばらだった。

私と柏木はテーブルを挟んで向かい合っていた。

柏木は注文を終えたあと、携帯をいじっている。

しかし私の精神状態はそんな柏木とは正反対。

さっきからこめかみ辺りに冷たい汗が浮かんでいる。

イケメンと一緒にいるところを見られたら、という恐怖感ももちろんあっただろう。

だが今はばれたショックとこれから何をされるかを考えると恐ろしかった。

「それじゃ、早速変装を解いてもらおうか。そもそも斉藤さんが俺と一緒にいるところを他の生徒に見られたらまずいんじゃない?」

私は震え上がった。

彼の言っていることは図星だった。

斉藤葵がこのイケメン様と一緒だということになったら、いじめの標的にされ、また中学のやり直しだ。

それなら顔がまだ割れていない青井さくらでいるほうがまだマシだ。

「・・・わかった・・・わよ」

かすれた声で私は言い、席を立った。

「あ、これ使っていいよ!」

彼が差し出したのはメイクを落とす用のシートだ。

「・・・どうして持ってるのよ?」

「昨日買ったんだよ」

昨日・・・そうか、用事っていうのはそういうことだったのね。

私は化粧室に入った。

もらったシートで化粧を落とし、顔を洗った。

一応メガネは今のをかけておこう。予備もないわけだし。

私は黙って化粧室を出て席に座った。

「すっげぇ・・・まさか本当に同一人物とは・・・」

私は思わず吹き出した。

「気付いてなかったのっ!?」

「いや、ただ自分でも正直信じられなかっただけさ」

それほど私の変装が見事だったということだろう。

だがそれを看破された今はなんの自慢にもならない。

それに、私のうかつなミスでばれた以上、無意味だ。

「・・・まず教えて。いつから気付いてたの」

かなり自信のあった変装だ。

彼はニヤリとしたあと、携帯を取り出した。

「まず最初に疑問に思ったのは声だよ。結構似てる声だなって思った。それで録音した青井さんの声と斉藤さんの声を比較してみた」

「ちょ、ちょっと待って!録音ってどういうことよ!」

彼は携帯を操作する。

『やっぱそうなんですかー。え、じゃあ好みのタイプってどんな感じですか?』

『え、えっと・・・うーん・・・誠実で優しい人、かな・・・あんまり考えたことなかったけど・・・』

『へー了解です!参考にします!!』

このやり取りは記憶に新しかった。

彼が家に来たときタイプの男性を聞いたときだ。

「いや~本当は参考にするつもりで録音してたんだけどまさかこういう形で役に立つなんてね!」

彼はほわんほわんと笑っていたが、私は騙されない。

この人!!いい人でイケメンだけど、間違いなく変態だ!!!!

「斉藤さんの声も録音したよ~」

彼は再び携帯を操作する。

『というより・・・なんでわざわざ私に?祐君に頼むほうが早いんじゃないの?』

『いやいや!祐じゃだめだ!あいつ恋愛に興味ねぇんだもん!まだ斉藤さんのほうが祐よりいいかなって!』

つい昨日のやり取りだった。

「ほら似てる。でも疑いが明確になったのは3日前だな。ほら、好きなタイプは誠実で優しい人って言ったやつ!青井さんに話した内容だから斉藤さんが知っているわけないよね?あと斉藤さん、俺のこと智也君って呼んでたし!」

次々と明らかになる真実が胸に突き刺さる。

「そして昨日でほぼ確信に至った。だって昨日来るのだって、斎藤葵ちゃんだと思っていたからさ。そして、今が100パーセント」

「ああ・・・」

ああ、私はなんてことをしてしまったんだ・・・

うっかりしていた。だがもう遅い。

ばれてしまったのだ。

これからどんなことをされるか・・・

「話はよくわかったわ・・・それで、私にどうしろと・・?」

私は恐る恐る聞く。

「とりあえず理由を教えてよ。どうしてそんな変装してまで学校通ってたの?かわいいのに、わざわざそんなメイクまでして・・・」

やはり一番核を聞いてくるだろう。当然だ

正体がばれてしまったなら、もう後には引けない。


「・・・本当に知りたい?」

「ああ、知りたい」

「本当に、本当?」

「ああ」

柏木の表情は真剣そのものだった。

私は迷った。

本当に言ったところで、理解してもらえるわけがない。

けれど、もう正体がばれている以上、隠したって意味がない。

言うしかないか。


私は自分の過去を彼に話した。

男子に言うのも初めてだし、改めて人に話すこと自体過去になかった。

私の家族、モデル経験、ストーカー、中学のいじめ、千葉への逃亡。

全てを話した。

本当話しすぎた。少し後悔している。ストーカーやいじめのことも言う必要なかった。

話を終えたときにはすでにコーヒーは冷え切っていた。

「それで、ストーカーや中学のトラウマから変装を始めるようになり、今に至る、ということか・・・」

私はしばらく黙ったが、こくりと頷き、顔を上げなかった。

彼は冷めきったコーヒーを一気に飲み干すと、一言言った。


「すまなかった」


深々と頭を下げる彼に、私はどう対応すればいいかわからなかった。


「軽々しく、いやそういうわけじゃない、本気で聞きたかった・・・けど、悪い。あんまり聞いていい話じゃなかったな・・・どれだけお前が怖い思いをしたのか、俺には想像できない。1年以上も本当の自分を隠してまで自分自身を守ろうとしたなんてさ・・・」

私は何も言えなかった。

怖い?確かに怖いとも思っただろう。

・・・

どんなに泣いても、不登校にはならなかった。

どんなに学校でいじめられても、決して屋上から飛び降りなかった。

どんなにカッターで手首を切っても、決して腕をお湯につけなかった。

色々思い出していると、目元が潤ってくる。

私は強くあろうとした。

空手を習っていたこともあり、どんなことでも折れない心を目指していた中学時代。

ストレスの発散のためがむしゃらに練習した。

力が強くなると同時に心も強くなると思っていた。

だが、私の心は強くならなかった。家では常に泣いていた。

今思えば、自殺しなかっただけ私の心はまだ強かったのかもしれない。


「私は・・・」


ああ・・・怖い・・・本当に怖かった。


もし、中学時代のことが高校で起こったらどうだろう。

考えるだけで恐怖する。

空手をやめてしまった今では、もう私は・・・


彼は私の考えをくみ取ってか、


「一つ、解決策がある。もう、変装しなくてすむ方法が・・・」


私は思わず彼を二度見した。

有り得ない。

変装を解けば、注目されることはもはや必然だった。

変装をして平和に生きるか。

変装を解いて中学と同じ苦しみを味わい続けるか。

その二択しかありえないのだ。


「・・・言っていい嘘と悪い嘘があるのよ」

私は冷ややかに彼を見た。

だが彼は表情を変えない。

「嘘じゃないよ。俺は本気で言ってる」

彼は一呼吸置いてあの言葉を言った。


「俺と付き合っちゃおうよ」


一瞬、私はぽかんと口をあけた。

徐々に言葉の意味が脳に伝わって・・・


「ば・・・バカじゃないのっ!!!!!」

閑静なカフェで一層響き渡る私の声。

頬が熱くなる。

今のは確実に告白だ。

けどいくらなんでもこんな唐突に。

「そもそもっ!私が変装してるのはそういう世界から離れるためであってっ!!!そういうの迷惑なの!!!冗談やめてよ!!!!バカ!!!!!!」

外で、こんな大声で何か言うのも初だ。

それも、喫茶店と言う閑静な場所で・・

「声を荒げるとこ初めて見たな~」

私は一気に冷静になり、周りの視線に痛みを感じながら腰掛ける。

「ま、それは置いといて・・・俺はバカでも本気だよ。もし俺と付き合ったら、俺が青井さん・・いや葵さんをずっと守るよ。いじめられることもない。中学のときのようなことを繰り返すこともない」

何をバカなことを・・・

そのセリフが口から出てくる寸前にまできた。

だが、思いとどまった。

言っていることは無茶苦茶だが、それは事実かもしれないと思える節があるからだ。

もしも・・・付き合っている人がいたとして。

付き合っている人がいれば中学のときのような喧嘩に巻き込まれることはない。

本当に守ってくれるかもしれない。

それはこそこそ隠れて生きるよりも、ずっといいものなのかもしれない。

彼は、私にとって救世主なのかもしれない。

でも・・・

「だからって・・・あんたと付き合うつもりないわ!!」

どんなに今の私が惨めでも、どんなに私が助けを欲していても、私には選ぶ権利がある。

私が今まで誰とも付き合わなかったのは、本当にいい人を選ぶためだった。

その判断で数々の恨みや憎しみを買ったが、私は決して間違っていなかったはずだ。


私は彼を振ったのだ。

だが彼の表情は意外にもさっぱりしていた。

「そっか。やっぱダメか~」

彼はしばらく繰り返し言った後、追加のコーヒーを注文した。


「けど、俺諦めないからな!」

彼は笑ってそう言った。

その笑顔が、腑に落ちなかった。

なぜだろう、と思った。

私は何人もの人に告白され、何人も振ってきた。

無表情だった者、泣きそうだった者、怒った者、様々いる。

だが、笑った人は初めてだった。

しかも無理に作った笑顔ではない。朗らかに笑ったのだ。

「・・・なんで?なんで諦めてくれないの?私たち、まだ会ってから少ししか経ってないじゃない。あんたなら、誰とだって付き合えるじゃない」

みんなそうだった。

どんなに対応が違っても、みんな私を簡単に諦めてくれなかった。何回か告白を繰り返されたり、やけに親しげにされたり、ストーカーまがいなことをされたり・・・

どれも結局は苦痛に収束する。


けれど、

「どうして・・・あんたは笑顔なのよ」

彼は笑顔のまま、つづけた。

「だって、終わりじゃないだろ?これからいくらでもチャンスはあるはずだ。それに一目ぼれした以上、諦めるわけにはいかねぇんだ!ま、急ぐのもあれだしな。まずは友達からでどうだ?」

彼の表情は相変わらず変わらなかった。

それがどうも居心地悪かった。

でも彼の反応がどうであれ、私の言うことは決まっている。

「私、男友達の募集はしてないの。祐君いれば満足だし、さよなら」

「まったくつれないな~けど、今度また祐に彼女ができたら、そうはいかないんじゃないかな」

私の背後で、彼をそう言った。

私は振り返らず、「でも、あんたには関係ない」とだけ言い、構わず歩いていった。

そして受付で、自分の飲み物代だけを払うと逃げるようにカフェを離れていった。


読んでいただきありがとうございます!結構、私は柏木智也君と葵ちゃんのやり取りが好きで、書いているこっちもドキドキしながら物語の展開を見守っています!

もしも面白いと思ってくださった方は是非評価していただきたいです!感想も頂けると幸いです!評価がいただける限り、今後も執筆をつづけていきたいと思いますので、よろしくお願いします!

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