葵は青井で、青井は葵
いつも通りの日常、のはずだった。
昼休みのことだった。
「あのさ、斉藤さんってどこ?」
教室の扉付近で一人の男子が女子3人に話しかけていた。
紛れもなく柏木智也で、女子3人の声はいつもよりトーンが一オクターブ程度高い。
「えっと、あっちの席で座ってる子だけど・・えっ?どうしたの!?」
「ああ、ちょっと祐のことで話が・・・」
「あ!そうだよね!柏木君、斉藤君と仲いいもんね!」
智也はその女子3人の間をすり抜けて私の席に近づいてくる。
どうしよう・・・
一応葵にとってはこれが智也君との初対面ってことよね・・?
それらしく振舞わなくちゃ。
「えっと・・・私に何か用・・?」
私が声を出すと智也はニッと笑った。
「ああ!はじめまして。俺、祐と同じクラスの柏木智也!実は昨日家にいったんだけど斉藤さんいなかったから!お邪魔してました!」
「うん・・・祐君に詳しい話は聞いたわ。さくらちゃんとも会ったのよね?」
「そう!!すっげぇ美人さんだった!斉藤さんとも幼馴染なんだよな!」
よし、ばれてない。
だが、一向に目的が見えない。
なぜわざわざ私に会いに来たのだろう。
「それで・・・どうしてわざわざ私のところに来たの?」
智也は顔の前に手を合わせて懇願してきた。
「なぁ!斉藤さんって青井さんのメアド知ってる!?よかったら教えてくれないか!?」
私は呆れた。
「な、なんで私が!?」
というよりそもそも青井さんも葵さんも同一人物だし。
私のメアドを教えるようなものなのだが。
「祐に頼んだんだけど教えてくれなかったんだよ~!」
私は大きくため息をつく。
「祐君が教えなかったことを私が教えると思う?それにメアドってプライバシーの問題だし、簡単に教えられないわ」
「正論、だな・・・はぁ~」
智也は手を戻してポケットに入れる。
「青井さんって岐阜に住んでるんだよな?いつ帰っちゃうの?」
そこまでは想定していなかった。
だがこれ以上彼女が家にいることになったら色々面倒だ。
「4日後の夜に夜行バスで帰るわ」
「えぇ!?マジか!?うわぁ・・・まだあんまり話できてねぇのに・・・」
なんか、わかりやすいというか、バカというか・・・
「・・・あんた、さくらちゃんのこと好きなの?」
正直言いたくて仕方がなかった。
昨日の時点で言葉の節々からその意思が伺えたのだ。
智也は一瞬目を丸くして、再びニッと笑った。
「ああ!かなり好きになっちゃってな~だから連絡取りたいんだよ!」
「・・・・・な、な、な、何言ってんのよっ!!」
私は思わずうろたえた。
まさかそこまでストレートに好きなんて言うとは思わなく、こっちの心の準備が万全でなかった。
むしろはぐらかしてくれたほうが幾分か気が楽だった。
「すっげぇ可愛いしさ!しかも昨日話して結構面白いな~って!あ、一目ぼれってやつ?」
なぜそんな堂々と話していられるのだろうか。
いや、落ち着け私。
私は一回咳払いした。
「と、とにかく!そういうことだから!ほら、あと5分でチャイム鳴るよ!」
「お、やべぇ!!わかったよ!!じゃ、またな!!!」
智也はすばやくクラスを出て行った。
私は机に突っ伏した。
顔が熱い。
机の冷たさが頬をゆっくり冷やす。
中学のとき、告白は何回も受けた。
何回も受けたからこそ、むしろ嫌だった。
だが、今回のはひどい不意打ちだ。
智也は知らないだろうが、今のはれっきとした告白だ。
かなり好きとか言われてドキドキしないはずないでしょ。
いやいや!冷静になれ私!!
今のは驚いただけ!!
別に智也君に気があるとかそんなんじゃない!!絶対ない!!
どこか遠くでチャイムの音が鳴り響く。
その日はなぜか授業どころではなかった。
やはり心がびっくりしてたんだ。
高校になってまともに男子とも話さなかったのに、告白を受けるなんて・・・
でも本人にとっては告白じゃないんだよね?
これってどうすればいいの・・?
家に帰ると私はベッドにダイブした。
友紀と話したい。
でも今彼女は部活中。
少なくとも8時以降じゃないと電話できない。
あと3時間どうしよう・・・
いやいや!料理を作らないと・・・!
しかし立ち上がる気力もなかった。
うん、今日は冷蔵庫の残り物でいいや。
時計を見るたびにあまり針が変化しないことに憤りを感じながら、なんとか8時を迎えた。
早速電話をする。
『ん?葵?どうしたの?』
「え、えっとね・・・その・・前言ったじゃん!柏木智也君のこと報告しろって・・・」
『まさか!もう告白されたの!?』
私の顔がぶわっと熱くなる。
いやいや。あれは私に向けてじゃない!あれは青井さくらに向けてなの!
・・・それって私じゃん・・・
『・・・マジ?』
長い沈黙で不審に思ったのだろう。友紀は続けて聞いてくる。
私は事の次第を細かく説明した。
親友である彼女には偽りなくすべて真実を語った。
しばらく聞くだけだった友紀は、私が話し終えるとくすくすと笑った。
『それで?青井さくらとしての返答は?』
「いや、だから告白じゃないんだって!ただ、聞いちゃったというか・・・」
『本人が計らずとも想いは伝わったってことね。でも少しは智也のことも考えてみれば?かなりいいやつだし!』
「ま、まあ・・・いいやつだとは思うけど・・・」
しばらく友紀と相談した後、通話は終わった。
うん、とりあえず彼の気持ちは聞かなかったことにしよう。
次の日の昼休みも彼は教室に訪れた。
しかもかなり早く、私はまだ一人机でご飯を食べてる最中だった。
彼は現在空席の前の椅子に腰掛け、私のほうに向き直る。
一方の私は昨日のことがあってか直視できず、お弁当に視線を向けていた。
そして彼は携帯をいじっていた。
携帯を私の机の上に置くと、胸ポケットから一枚の紙を差し出してきた。
「これ、俺の携番とメアド。青井さんにこれを伝えといてくれない?」
そうきたか・・・
私はまたため息をつく。
「伝えたところでメールくれるわけないじゃない」
「やってみなきゃわからねぇじゃん!!ほら!偉大な名言だってあるぜ!『諦めたらそこで試合終了』ってやつ!」
名言というか漫画の台詞だし・・・
まあ、一理あるけど。
「というより・・・なんでわざわざ私に?祐君に頼むほうが早いんじゃないの?」
「いやいや!祐じゃだめだ!あいつ恋愛に興味ねぇんだもん!まだ斉藤さんのほうが祐よりいいかなって!」
私も随分軽く見られたものね・・・
私も恋愛に興味はないのだけど。実際彼氏いたことないし。
私は智也の顔を見た。
真剣に私を見つめていた。
私はすぐに弁当のほうに視線を落とした。
「わ、わかったわよ・・・伝えてはおく!でもメール来なくても私のせいにしないで!」
「マジ!?サンキュー!!!」
彼は紙を私に握らせた。
「あ、わりぃ!俺この後バスケだから!じゃ、それよろしく頼むよ!」
置いていた携帯を掴んで、メールチェックだろうか、操作していた。
彼は手を振って、またもや走ってクラスを出た。
私は心の底からため息をついた。
平凡な日常がまさかこんな形になるなんて・・・
幸いお昼時間に人はあまりいないから嫉妬とか受けたりはしないだろうけど。
でも、彼と話しているところを見られたら、それこそ日常が崩壊する。
なんとかしないと・・・
あと、一応約束は守っておこう。
ほら、青井さん!智也君がメアド教えてくれたよ。
了解、一応見ておいたよ。でも送らなくていんだよね。
うん、そうよ。はいこれで終了!
頭の中で自分に話しかける奇妙さ。
声を出さずにうっすら笑った。
私が家に帰る道中。
私のバッグの中には一応彼からもらった紙がまだ入っている。
一応個人情報だし、学校で捨てるのはさすがに申し訳ないと思った。
いや、今はそんなことよりどうやって日常を守るか考えないと・・・
青井としてメールを送れば私に関わってくることはなくなるだろうけど、それは論外。
じゃあ、どうしよう・・・あまり話しかけないでとでもメールで伝えようかな。
私は携帯を取り出した。
〔件名:斉藤葵です 本文:一応メールで伝えておきました。それと、学校ではあまり話しかけないでください〕
私は送信ボタンを押した。
送信完了が出ると、私は一種の開放感を覚えていた。
メールの返信はすぐに来た。
〔件名:智也です。 本文:メールありがとう!あと伝えてくれてありがとう!えぇ!?どうして!?〕
あなたと話しているところを見られると注目されるの!!
〔件名:とにかく! 本文:学校で話しかけるのはやめて!何かあればメールで対応するから!〕
送信をした瞬間、私はしまったと思った。
メールを容認すればメールがきてしまう!平和な日常に支障が・・!!
いっそのこと迷惑メールに設定してしまおうか。
私はメールボックスをチェックする。
目新しい2通のメッセージ。
そしてその下には友紀や祐君からのメール。
よくよく考えてみれば、高校生で携帯を新しくしてから祐君以外初めて男子とメールしたのだ。
それもごくごく自然に。
まあ、自然なら別に問題はないか。
もし内容がアレだったら即刻迷惑メール設定する。
当分の間は様子を見よう。
再び受信ボックスに新しいメッセージが表示される。
陽気な文字調のメッセージが来ることは決して嫌ではなかった。
しかし次の日の昼休みに性懲りもなく彼はまた訪れた。
私は深くため息をつき、前で座る彼を見た。
「昨日のメールガン無視・・・今度は何よ・・?」
「あ、今日はちゃんと用事があってきたんだぜ!メールじゃ聞きにくいからな」
まあそういうことならわからなくもないか。
ただ私への特別な用事なんて想像できない。
祐君のことだろうか。でも、メールで聞けないって・・・
「あのさ、前好きなタイプは誠実で優しい人って言ってたじゃん?それでさ・・・嘘をよくつく人ってどう思う?」
私はがっくりうなだれた。
「なんで私にそんなこと聞くのよ・・・嘘をよくつく人にでも告白されたの?」
「いや~そうなんだよ。まあ、噂で嘘つくって聞いてさ。もちろん振るつもりなんだけど、やっぱ周りの意見も聞きたいじゃん!祐とかすっげぇ冷たくて、何も答えてくれねぇの!」
これだからイケメンは・・・
私はクラスの周りを見た。
今いるのは男子の少数組や一人ぼっち、女子は私のような一人ぼっちだけだった。
別にこっちを見たりはしてないから大丈夫だろう。
私は声を潜める。
「・・・噂なんて当てにしないほうがいい。ちゃんとその人を見て、いい人かどうか確かめなさい。それと、もう教室には来ないで」
噂なんてひどいものばかりだ。大抵は大げさになっている。体験した者だからこそわかることだ。
智也はしばらく考えるそぶりをした後、何回か頷いた。
「そっか・・そうだよな。ちゃんとその人のこと見ないと、だよな。わかった!サンキューな!」
「まさかそれを聞くためだけに私のところに来たの?」
「そうだけど・・・ダメか?」
こいつ・・・そんなことメールで聞けるじゃないの!!何がメールじゃ聞きにくいよ!!
「というより、なんで私にそんなこと聞くのよ。私なんて恋愛さっぱりだし、智也君なら他に仲いい女子いるでしょ」
「・・・他のやつじゃだめだ。あいつら噂を信じ込んで疑わないからさ。やっぱ第3者の目って大事!」
まあ、頷けるところもあるが、わざわざ私に聞かなくても・・・
「とにかく、それだけなら帰ってよね!あと、次教室に来たら3階からダイビングさせるから」
「おぉ、恐ろしい。了解!今度はパラシュート持ってくるぜ!」
「わ、私が言いたいのは・・!」
私の言葉が終わらないうちに彼は「じゃあな!」と言って去っていく。
バカかもしれない。
それにまともに対応する私もバカだ。
あからさまに距離を置けばよかった。
でも、ここは私の机だし、離れても行く場所がない。
トイレとかに逃げ込んだらなんか負けた気がする。
ここは私の居場所。私が去る必要なんてない!
その日の夜だった。
「な、なんでそんなことになってるの!?」
私は自分の携帯に向かって叫んでいた。
電話の向こうの友紀が、てへへっと笑いながら、ごめんごめんと続ける。
『だーかーら、この間サッカー部で口を滑らせちゃって・・・明後日葵と映画行くって言ったら、智也も行きたいって言って・・・けど、なんか智也勘違いしてたみたいで・・・「青井ちゃんに会える!」って喜んでたわ』
友紀の話を聞く限り、智也は青井さくらと友紀が映画に行くと勘違いして、そこに行きたがっているのだ。そしてそれを、承諾してしまった友紀。
『大丈夫大丈夫!!祐も一緒に行くって言ってたしさ!!もう話は伝えてあるから!』
そんなに用意周到なの!?
そこまで来ると、なんだか怪しい気がする・・・
何か裏があるような・・・
けれどまあ、友紀の誘いを断ることはできず。
結局そのまま電話を切り、ため息をつく。
これで明日の放課後、映画を見ることに・・・ってアレ!?
私メイクと服装ってどうするの!?
更新が遅れてしまい本当にごめんなさい!!自分の所属するサークルで作っているノベルゲームの方に時間をとられ、こちらになかなか時間がさけず・・・ これからも時間があれば更新しようと思うので、よろしくお願いします!