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発覚した事実

千葉で遊園地といえば世界的に有名なテーマパークのイメージが強いかもしれないが、決してそればかりではない。

私たちの行く遊園地はそれには及ばなくともかなり広く、地元では有名だ。

大小さまざまなアトラクションで、飽きることはない。


友紀は絶叫系が大好き。お化け屋敷は大ッ嫌い。

私は絶叫系が嫌いじゃないけど好きではない。お化け屋敷は好き。

祐君は何でも大丈夫。

最初のほうはジェットコースターに無理やり乗せられたので、しかえしとして無理やりお化け屋敷に連れて行く。

祐君の協力のもと、並ばせる。

「祐ぅ・・・帰ろうよぉ・・・」

並んでいる最中祐に助けを求め続ける友紀。

もちろん私は笑って、逃げようとする友紀の手をがっちりホールド。

普段とは立場が完全に逆転していた。

祐君もきっと遊園地を楽しんでいるのだろう。表情が明るい。

いざお化け屋敷入場。

友紀は私と祐君の間に入って必死に手を掴んでくる。

「ダメ・・・ここ絶対ダメ・・・ダメったらダメ・・・・きゃあああああああああああああああああーーーーっ!」

お化けが出るたびに友紀は叫びまくった。

最後のほうは祐君に体を支えられながら何とか出ることが出来た。

私は珍しく声を出して笑った。


友紀が休みたいと言ったので、私と友紀はベンチに腰掛ける。

祐君は飲み物を買ってくると言って、売店に向かった。

友紀は私にもたれかかってぐったりしている。

「・・・もう・・・許して・・・」と繰り返す彼女。

私は苦笑して、背中をさすっていた。


「君たち二人?えーもったいない!どうせなら俺たちと一緒に遊ばない?大勢のほうが楽しいじゃん」

またか、と思いながら私は顔を上げる。

4人の男性、おそらく大学生。

少し、怖い。

やはり集団に囲まれて見下ろされるのはだめだ。

けれど友紀はこんな状態で、彼女じゃとても追い払えない。

私は勇気を振り絞って言った。

「・・私たち・・・彼氏を待って、いるので、ごめん・・なさい・・・」

よく使う言い訳だ。大抵は無視するが、万一無視し切れなかったときに使う。

もちろん彼氏などいないが、大抵の人はこの言葉で退けることができる。

残念がる4人は謝罪して去っていく。

私は大きく息を吐いた。

待っていたかのように体が震え始める。

よかった。大人しく引き下がってくれる人たちで・・・

やはり大の男に囲まれるのは、正直怖い。

口がうまく動かなかった。

「今ナンパにあってなかったか?」

祐君が3人分のドリンクを持ちながら近づいてくる。

その姿を見て、私の体の震えが治まった。

私はほっと一息つき、小さく頷いた。

「ごめん。俺が目を離した隙に」

「ううん・・・大丈夫」

少し身だしなみに気合を入れすぎたからだろう。

これからは気をつけないといけないかも。


友紀が回復すると私たちは再びアトラクションに乗り始めた。

メリーゴーランド、コーヒーカップ、ゲームセンター。

そして何より私が楽しみにしていた観覧車。

私は夕日が好き。

どこか切なくて悲しい気持ちにさせられる。それが好き。

夕日が沈む中、私たちは観覧車に乗り込んだ。

私は一人で赤く染まる町を座席に足を乗せて眺めていた。

子供っぽい?いいじゃん。こっちの方が見やすいの。

隣の友紀は呆れていた。そして私を放っておいて、祐君と降りた後の予定を話し合っている。

そんな会話を、ガラスを前にして聞いていた。ガラスにうっすら談笑する二人が映る。改めて見ていると、二人の装いはどこか似ている。

ジャケットもシャツの色もほとんどそっくり。

友紀の顔が川崎さんとどこか重なる。

いつか、祐君も彼女と遊園地に来て、観覧車に乗るのだろう。

そしたらきっと今の二人みたいに会話を楽しむのだろうか。

盛り上がって、笑い合って。ひょっとしたらいい雰囲気になって、ハグとかキスとかもするのだろうか。

私は地平線の向こうの夕日を見つめる。

紅く染まる家々の陰はいつもより寂しげだった。

夕日が沈むのが惜しくさえ思う。


私たちは遊園地を出て、ファミレスで夕食を済ませた。

そして混雑した電車に乗って帰る。

私と祐君は友紀を家まで送った。

「悪いから大丈夫だよ!」と言っていたが、夜道に女の子一人は危険極まりない。

友紀も私も中学ですでに黒帯だったが、それでも男である祐君がいることに越したことはない。

そして、何より楽しい会話を少しでも長く続けたかった。


「じゃ、明日学校でね。もう私が話かけてもいいんじゃない?」

「えっと・・・もう少ししたら、ね」

今はこう言うしかなかった。友紀は口を引き締めるも、頷いてくれた。

「祐もまたね。今日たくさん遊べてすっごく楽しかった!」

「ああ、俺も。今度また遊ぼう」

私たちは手を振って別れた。



「祐君、遊園地楽しかった?」

夜道を歩きながら聞く。

「ああ。なんだか昔みたいだった」

「そうね。昔もよく3人で遊んだものね・・・私も今日はすごく楽しかった」

何の嫉妬も争いもなかった昔。

あれからもうすぐ10年。

戻れるはずないのに、戻れたらいいなと思う自分がいる。

何も悩んでいなかったあの頃へ。

「葵」

祐君が突然私の手を握ってきた。

何事かと思ったが、道の向こうから酔っ払った男性数人が歩いてくるのが見えた。

私は手を握る力を強めた。

祐君が男性たちから私の姿が見えないように体を動かしてくれた。

幸い何事もなく、ホッと息をついた。

「守ってくれてありがとう。祐君は優しいね」

私はそう洩らしていた。

ここ1ヶ月で何度も感じさせられた。

昔は私が祐君の手を引いて守っていたのに、今は逆。

嬉しくもあり、悲しくもあった。

自分の弱さが明らかだった。

「気にしなくていい。昔は葵のほうが、俺を守ってた」

祐君も私と同じことを考えていたらしく、私は苦笑した。

「葵と戦ったら今でも俺が負けるかも知れない」

「何よ、それ!祐君が勝つに決まってるじゃない!絶対」

空手が黒帯とかそういうのは関係なく、私は絶対祐君には勝てない。

敵と立ち向かう勇気が、私にはないのだから。

それからも私たちは夜道を歩き続ける。手はつないだままだった。


家に帰ってシャワーを浴び、私はベッドに横たわる。

久しぶりに遊んで歩き回ったせいで、すぐにでも寝つきそうだった。

でも、数学の宿題をまだやっていない。ああ、億劫。けど、やるしかないのはわかっている。

数学は苦手だし、祐君に助けを求めよう。

部屋をノックする。しばらくして暗い廊下に光が差し込む。

お願いしたら「いいよ」とだけ言って、部屋に入れてくれた。


祐君の部屋には色々なものがある。

サッカー部関連はもちろん。野球のグローブやテニスラケットなど。

そして漫画も多数。私も暇なときに借りることがある。

彼女が出来ても、部屋の様子はさほど変化はない。


机を借りて宿題に取り掛かり、祐君はベッドで携帯をいじっている。

彼女にメールを送っているのだろうか。

「祐君、この問題なんだけど。ここの角度をαと置くと、∠BACってcosαになるんだっけ?・・・祐君?」

「ああ、すまん。そうだよ。ついでにここ、∠OABはsinαって表せる」

勘違いだろうか。祐君がどこか遠くを見つめているように見えた。

「もしかして眠い?」

押しかけて宿題を手伝ってもらったのは悪かったかもしれない。

「いや、大丈夫。少し疲れたのはあるけど」

本当にそうだろうか。

表情に憂いが垣間見えなかっただろうか。

けれど再びベッドに戻る背中を眺めるだけで、それ以上尋ねなかった。


宿題は無事に終わり、私は祐君の部屋を去ろうとした。

去り際に見えた祐君。

ベッドに横たわりながら、なおも携帯を眺めていた。



翌日。

また同じ日々の繰り返し。いつものようにグロメイクで登校、普通に授業を受けた。

そして授業終了。あとはいつも通り帰るだけだった。


「斉藤さんいる?」

私の名前が呼ばれた。

教室の出口からだった。

あれは確か、川崎さん。祐君の彼女。

私はゆっくり出口まで歩いた。

「このあと、少し時間いいかしら?」

状況がよくわからない私は頷くことしか出来なかった。

そして「ついてきて」と言われ、私はかばんを胸に抱きながら歩く。

私が一体何をしたっていうのだろう。

やはり祐君関係で何か聞かれるのだろうか。

祐君の趣味を聞かれたり?けれど川崎さんの表情は固い。

おそらく深刻な話なんだろう。

せっかくメイクで自分を偽ってまでして得た平穏なのに・・・

また中学のときのように巻き込まれるのだろうか。

私の気は重かった。


連れてこられたのは屋上に続く階段。

屋上は立ち入り禁止で、生徒はめったなことでは訪れない。

暗がりがなおさら恐怖心を掻き立てる。


「昨日、祐は何してたの?」

その第一声が私を凍らせる。まるで川崎さんが私を睨んでいるようにも感じられた。

下手に嘘はつけない。

「昨日、祐君は、私と、友達と、遊園地に―――」

言葉の末尾が消え入るように暗がりに吸い込まれた。

川崎さんの表情は暗く、その中には濃縮された怒りが詰まっている。

「その友達っていうのは―――女なの?」

「そ、そうだけど・・・」

川崎さんの表情がより一層険しくなる。


「おい、杏。何で葵と一緒なんだよ」

馴染み深い声。しかしその言動に含まれる鋭さは姉の私でさえ身震いするものだった。

階下から駆け上がってくる祐君。

すぐさま私と川崎さんの間に割り込む。

「私は昨日のことを確かめようとしているのっ!祐は何か隠してるから‼」

川崎さんの声が静けさの中で響いた。


川崎さんは携帯を取り出し、一枚の写真を見せてきた。

「斉藤さん、この祐と手をつないでいる子知らない?」

私は青ざめた。

それは昨日の夜、祐君と手をつないで家に帰っている私だった。

後ろから撮っていて、顔まではわからないが見間違えるはずもない。

なにより、友紀と一緒に買ったデニムも写真に写り込んでいるから。

川崎さんはもちろん私が写真の女性とは思っていないのだろう。


話を聞くと、昨日の夜、川崎さんは夜のランニングをしていたところ祐君と手をつないでいる綺麗な女性を見たと。そして気になって後を追いかけると、夜なのに家に入っていったのだと。川崎さんは祐君が浮気をしているのだと思って、何通もメールを送ったらしい。何本も電話を送ったらしい。けれど、祐君は話をはぐらかすと。

「斉藤さん、家の中でこの人と会ったはずよね、絶対。友達って誰?本当に友達?どういう関係?答えて‼この人誰なの‼」

川崎さんは私に写真をかざす。

鬼気迫る形相に、私は戦慄した。


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