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精霊樹の守り人  作者: Anzu
第0章 小さな村の大きな悲劇
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村に潜む悪意②

(ああ、私は何をしているの……?)


 翌朝。早朝の祈りを捧げているにも関わらず、ローラの思考は昨日のレオとの会話で犯した過ちについての自己嫌悪で一杯一杯だった。


(折角余所者がこの村に来たんだから、祭り立てて“貢ぎ物”にしなきゃいけないのに! どうして……どうして私はあんな事を言っちゃったの!?)


 一夜経った今でも一語一句きっかりしっかりと思い出せる。


(『全てを失う前に、どうぞこの村をお立ち下さい』? 『さもなければ、私達は貴方様から全てを頂きます』? そんな事を言ったら、誰だって何か裏が在るって思って警戒しちゃって、誰にも気付かれないように消えちゃうじゃない! あ~、私の馬鹿!)


 流石に表情には出さなかったが、それでもローラは傍目から見れば明らかに集中を欠いていると思われる態度で、最早何を祈っているのかすら分からない祈りを捧げ、


(……どうして、何だろう……。いつも、そう……いつもそうだった。村長様から聞いて凄く嬉しかった筈なのに、いざ本人を目の前にすると、どうしても“巫女”らしくない他人行儀になっちゃって……何故か、罪悪感で胸がいっぱいになっちゃって……それで、忠告しちゃうんだよね……)


 ローラは思わず溜息を吐いて、これ以上の祈りは冒涜に繋がると思い組んでいた手を放し、もう一度溜息を吐いて立ち上がった。

 もう、今日一日“巫女”の職務はどうやっても身が入らないだろう。自分でも良く分からない感情を持て余しながらぶらぶらと祠から出ようと歩き、しかし相反する心と得体の知れない葛藤との間で足元が覚束無くなり、


「きゃあっ!」


 祠との境目を示す跨がなければいけない神木に躓き、そのまま顔面から地面に衝突しそうになって、間一髪で誰かの手がローラの体を支えた。


「ご、ごめんなさい……ありがとう、ございます」


 こんな時間に珍しい来客だと思いながらも、ローラは助けてくれた人物にお礼を言いながら相手の顔を見上げて、


「どういたしまして。この村の若い“巫女”様?」


 ローラの目に映ったのは、目下の悩みと直結する自称傭兵のレオだった。

 昨日浮かべていた白々しいと思わせない愛想笑いに心配そうな表情を浮かべて、人当たりが良さそう

にレオはローラの手を取って立ち上がるのを助け、


「こんな時間から職務ですか?」

「……貴方様は、こんな朝早くに一体何をなさっていたんですか?」


 レオの質問は綺麗さっぱり無視して、ローラは端的に疑問をぶつけた。

 対するレオの反応は、


「さぁ、何だと思う?」


 表情には一切表さずに、人を馬鹿にしている暴言を吐く。

 無表情で居なければいけないと思いながらも、我慢が足りずにむっとした表情で僅かに目を細め、それでは満足出来ずに唇まで尖らせてから、


「私を馬鹿にしているのですか?」

「いや。ただ、この村の“巫女”様は随分と若いな、と……そう思っただけだよ」

「……馬鹿にしていますね」


 握ったままのレオの手から振り払うように自分の手を離し、ローラは真正面からレオを睨み付けた。

 身長差さ故、ローラはどうしても上目遣いになりながらも自分なりの精一杯で睨み、


「傭兵様? 確かに私は若いですが、それでも村長様や村人の皆様に認められて“巫女”の職に就かせて頂いています。私が“巫女”である事を侮辱するという事は、村長様達を侮蔑しているという事になりますが?」

「……傭兵様・・・、ね。昨日は、僕の事を旅人様・・・って言っていたよね? 呼び方を変えたって事は……」


 こちらの質問には一切答えず、レオは目を細めて、


「……僕の事を“脅威”だと感じたって事かな?」


 そこに表れた確かな敵意にローラは恐怖を感じ、


「っ……た、たかが傭兵なんかに村長様や私達が怯える訳が在りません! 何なら、今ここで証明して差し上げましょうか!?」

「……出来るのなら、ね」

「調子に乗らないで下さい!!」


 簡単に挑発に乗ったローラは、素早く後ろに下がって頭から簪を抜き、


「轟く地盤の悲鳴、隆起する礫に無尽蔵の力を! 『アースクラッシャー』!!」


 簪に予め込められていた魔法陣によって通常よりも早い段階で魔術が発動した。

 ローラとレオの間の地面が地割れを起こし、出来た亀裂の間から幾つもの礫が浮かび上がる。礫は他の礫と集まり、融合していきながら徐々に大きさを増し、三つの礫というよりも岩というべき塊が上空に生まれた。


「いっけええええぇぇぇぇっ!」


 ローラが発動する事の出来る限界数まで岩を完成させて、簪を振り下ろしながらローラは攻撃した。

 真っ直ぐ、何の小細工も無しに一直線にレオへと向かう岩達に、


「……成程ね。確かに、君の言っていた通り……一筋縄じゃいかない場所だね――この村は!」


 穏やかな笑みの中に獰猛さを混ぜ、レオは腰に提げていた二刀を抜き放った。

 ローラが見た事も無い二刀流を慣れた手付きで構え、


「行くよ……『二刀・紅蓮剣』!」


 刀に炎を纏わせて、一振りで三つの岩を完全に砕ききった。その背後では、砕かれた岩が破片となって舞い散り、全てが完璧な斬撃によって粉々にされていたのだ。


「う、そ……私の、魔術が……たった一振りで……!?」


 圧倒的な力によってあっさりと自身の最高威力の魔術を打ち砕かれた事実にローラは呆然とし、しかしレオが余裕を見せ付けるように浮かべた笑みに、


「ッ、なら……!」


 ローラは完全に激昂し、ただ目の前の脅威を排除する為だけに、まだ練習中の奥の手を発動させる魔術の詠唱をしようと口を開き、


「――遅いよ」


 刹那、ローラの首元に刀の切っ先が当てられた。まるで、最初からそこにあったかのように。


(……残像すら、見えなかった……)


 瞬きすら出来ないほど素早くローラに肉迫したレオの実力に内心で慄き、それでも意地から抵抗しようと体を動かそうとして、


「君じゃ、僕は止められないと思うよ」


 もう一方の刀で簪を持つ右手を捉え、完全に動きを封じられてしまった。

 村の中では村長の次に腕が立つ自分が余所者の前では全く通用しなかった事に、ローラは悔しさで顔を歪め、必死に涙が浮かばないように堪えながら、


「……あ、貴方は一体……何を……」

「もちろん、目的が在ってこの村に来たんだよ。だけど、それは君達に危害を加える類の物ではない。少なくとも、今はね」

「……それは、気が変わったら危害を加えるという脅しですか?」

「心外だな……脅しているつもりは無いし、僕は恐怖や力で人を従わせるつもりも無いよ。信じられないかもしれないけどね。それに……僕が言う“今”は、随分と長い年月単位だから。この村に滞在している期間は、君達が僕に危害を加えない限りは、僕も君達に危害は加えない」


 例えば、と彼は面白そうに笑い、


「酔い潰れた隙に殺そうとする、とかしなければ、ね」

「っ……!」

「後は、料理に仕込まれていた毒かな……あれは危なかったよ。最も、村人達が口にしなかったからすぐに気付いたけどね」


 相手を責めるのではなく、相手の隙を付け込むようなやり方で、レオは確実にローラを追い詰めていき、しかし唐突に首元と右手に突き付けていた刀を放して鞘に収めた。

 解放された事実に驚きながらも、よろけながら遠ざかるように二、三歩後ろに下がったローラに、


「一つ聞いてもいいかな、ローラ?」

「……何でしょうか」


 最早敬意を払うに値しないと態度で示したレオに、ローラは自分の名前を気安く呼ばれた事と途中から敬語で話さなったという事実の両方に嫌悪感を露にしながら嫌々返事を返し、


「先代の“巫女”は金髪に赤目だった?」

「……そのように、村長様からは聞いていますが、それが一体何か?」

「うーん、やっぱりか……」


 レオは思案顔で遠くを見詰め、ローラの質問には答えを返さなかった。

 屈辱のあまり再び怒りが沸騰しそうになったローラだが、レオには勝てないという確固たる事実の前に何とか溜飲を飲み、暫く待ってみる事にした。

 彼は遠くを見詰めた後、祠を振り返ってからローラではなく周囲に向かって、


「……僕の考えは、合っていると思う?」


 傍から見れば独り言に聞こえるが、ローラにはそこに居ない人物に向かって問い掛けているように聞こえた。

 そして、それは正しかった。

 突如としてレオの周囲に灯った淡くも極微量の光の大群に、ローラは二重の驚きから腰を抜かして倒れ込んだ。

 一つは、いきなり何もない空間に光が灯った事と、


「び、微精霊が……人間に、反応を示した……!?」


 そこに存在しながら見る事も聞く事も出来ず、しかし普段の生活に貢献している欠かせない存在である微精霊が、たかが一人の人間に反応を示した事の二つに。


(も、もしかして……彼は“精霊の寵愛者”なの……!?)


 精霊を心から愛し、そして精霊から愛される対等な存在が“精霊の寵愛者”と言われている。文献の中だけに登場する御伽噺のような人物はどうやら実在し、目の前に居たらしかった。

 “精霊樹の巫女”であるローラだからこそ感じられる微精霊達は、楽しそうにレオの周囲を飛び交いながら彼だけに聞こえる囁き声を返した。


「うん、そっか……そうだね、皆。ありがとう、助かったよ」


 レオの礼に微精霊達は一際大きな光を灯してから忽然と姿を消し、くるりとローラの方を向いた。


「えっと……何だったっけ?」

「……先代の“巫女”が金髪に赤目だった事を聞いた理由です」


 色んな意味で敵わないと思い知らされたローラは、どこか拗ねたように言葉を返した。

 レオはそんなローラの様子に怪訝そうな表情をしながらも、


「ああ……それはね、西方の民の特徴の一つが赤目で、淡い金髪は北方に隠れ住む一族の特徴なんだよ

……だから、もしかしてローラは――」


 そこまで言葉を紡いだレオは、唐突にぐらりと体を揺らして地面に倒れ込んだ。

 そんな彼の突然の異変に、ローラが驚く事は無かった。

 規則正しく聞こえてくる呼吸音に、ローラは安堵から大きく息を吐き、


「流石に、お酒と料理に混ぜた睡眠薬には気付かなかったんだね……良かったぁ……」


 度数の高い酒と毒を仕込んだ料理だけでは、察しのいい余所者なら対策を取られる可能性があると、村長は酒と料理の両方に極々微量の睡眠薬を混ぜ込んでから持て成すようにと指示を出していたのだ。

 そこまでする必要が在るのかと思った事もあったが、今回は酒と料理の対策をされていた。意外と賢く隙の無いレオには睡眠薬も効かないのかと肝を冷やしたが、どうやら完全に予想外だったようだ。

 しかも、睡眠薬は即効性ではなく遅延性で、余所者を泥酔で深く眠りにつかせ、朝方になった時に睡眠薬が効果を表してそのまま眠り続ける、といった目的があったりする。

 そして、それはレオを殺して“貢ぎ物”として捧げるには十分な時間を生み出す。


「……この人、用心深そうだけど……でも、村長様のお陰で何とか捕らえる事が出来た」


 ローラは立ち上がってレオの所まで歩き、左手でレオの頬に触れた。


「“精霊の寵愛者”……“貢ぎ物”には最適だけど、手駒に出来たら心強いよね、きっと」


 そんな事は出来ない事を承知の上で戯言を述べ、ローラはレオの目を見詰めて呟く。


「……認めるよ、レオ……貴方は、強い。でもね……私達の勝ち」


 年に見合わない笑みを浮かべ、ローラは言う。


「貴方は、私達の為に“貢ぎ物”となる……。レオが言いかけた私の話は気になるけど、でも……関係の無い事だよ。だから……」


 左手に確かな温もりを感じながら、“巫女”として宣告した。


「――死んでね、レオ」

『村に潜む悪意』、後、1~2話を予想しています。

 結局、ローラと西方の民の関連性とレオサイドの話は書きませんでしたね……ですが、次回こそはそこ等辺の謎をちゃんと書きます!

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